「6月解散」に関する報道も少しずつ増えてきました。自民党は4月の衆参補選で5選挙区中の4つを制し、最近だと主要メディアの世論調査でも支持率が軒並み不支持率を上回るようになりました。岸田文雄首相がサミット直後に解散総選挙に打って出るほどに自信を深めていたとしても不思議ではありません。もっとも、数字の上から見ると、補選で勝利した4選挙区のうち3選挙区は薄氷を踏むがごとき勝利でしたし、日本維新の会が着実に支持を伸ばしているように見えるのも不気味です。こうしたなか、ウェブ評論サイト『現代ビジネス』は、大物議員を含めた自民党現職議員のうち30人が落選の危機にあると報じました。
目次
支持率はすっかり回復:4メディアで「支持>不支持」に
いよいよ6月解散、なのでしょうか。
いくつかのメディアの世論調査では、岸田内閣の支持率が(なぜか)「V字回復」を果たしています。
主要6調査(読売新聞、朝日新聞、共同通信、時事通信の4社の調査、および日経・テレ東、産経・FNNの2つの合同調査)で見ると、岸田内閣に対する4月の支持率は、4つの調査でいずれも不支持率を上回り、全体として支持率は上昇傾向に、不支持率は低下傾向にあります(図表)。
図表 内閣支持率(2023年4月)
メディアと調査日 | 支持率(前回比) | 不支持率(前回比) |
朝日新聞(4/8~9) | 38.0%(▲2.0) | 45.0%(▲5.0) |
時事通信(4/7~10) | 33.5%(+3.6) | 36.3%(▲4.6) |
読売新聞(4/14~16) | 47.0%(+5.0) | 37.0%(▲6.0) |
産経・FNN(4/22~23) | 50.7%(+4.8) | 44.7%(▲3.0) |
共同通信(4/29~30) | 46.6%(+8.5) | 35.5% |
日経・テレ東(4/28~30) | 52.0%(+4.0) | 40.0%(▲10.0) |
(【出所】各社報道)
正直、メディアの世論調査が100%、正確なものであるという保証はありません(とくに一部のメディアの場合、調査結果をそのまま公表するのではなく、何らかの「補正」を行っているという情報もあります)。
広島サミット直後に解散も?
ただ、この調査結果が正しいのだとすれば、岸田首相にとっては自信を深める要因となり得るでしょう。
これに加え、政党支持率で見ても、自民党はコンスタントに他党を圧倒的に上回り続けています。
4月に関して政党支持率を一般向けに公表しているメディアは時事通信と読売新聞ですが、自民党に関しては時事通信で24.9%、読売新聞で34%の支持率を得ており、最大野党であるはずの立憲民主党は時事通信で3.6%、読売新聞で4%に過ぎません。
しかも、4月下旬の衆参補選では、5選挙区のうち自民党が4選挙区を制し、立憲民主党は獲得議席がゼロに留まりました。
これだけを見ると、自民党・岸田首相にとっては、5月の広島サミットの「成功」を演じた直後のタイミングであれば、解散するうえで圧倒的に有利な条件がそろっているようにも見えます。
野党で日本維新の会が伸びる
その一方で、少し気になる材料もあります。
野党第2党である日本維新の会は、時事通信の調査では支持率が3.5%で立憲民主党に0.1ポイント差に迫っており、読売新聞の調査だと6%で、完全に立憲民主党と逆転が生じています。
こうした「維新・立憲の逆転現象」に関しては、日経電子版でも報じられています。
期待する野党、維新51% 立民は27%で支持率も逆転
―――2023年5月1日 1:00付 日本経済新聞電子版より
リンク先は有料記事ですが、無料で閲覧できる部分によれば、日本維新の会が日経・テレ東の合同世論調査で「期待する野党」のトップ(51%)となり、野党第1党であるはずの立憲民主党(27%)を上回ったそうです。ちなみに政党支持率でも維新(13%)が立憲(9%)を上回ったのだそうです。
すなわち、日本維新の会が少しずつ力をつけているのです。
そういえば、『自民党が4議席制するも、うち3議席で「薄氷の勝利」』などでも触れたとおり、補選で唯一自民党が落とした和歌山1区で勝利したのは、立憲民主党ではなく、日本維新の会の公認候補でした(※ただし、立憲民主党は和歌山1区に候補を立てていません)。
自民党は5つの国会議員補選で4議席を獲得しました。見た目は「自民党の圧勝」です。ですが、各選挙区の得票率などを詳細に確認していくと、本当の意味で「自民党の圧勝」と言って良いかは微妙です。というのも、4つのうち3つの選挙区では薄氷の勝利だったからです。また、獲得議席がゼロだった立憲民主党には、やはり「小西問題」の逆風が吹いている一方、日本維新の会や国民民主党が現実的な選択肢として浮上しつつあるのかもしれません。議席だけで見たら自民党の圧勝ふたを開けてみれば、獲得議席のみでいえば、「自民党の圧勝... 自民党が4議席制するも、うち3議席で「薄氷の勝利」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
自民党一強とは限らない
また、自民党が勝利した選挙区でも、事情は単純ではありません。
自民党が制した千葉5区では、自民党以外にも立憲民主党、日本維新の会、国民民主党がそれぞれ候補者を立てており、立憲民主党候補者はあと2,600票弱のところまで差を詰めましたし、維新・国民の2候補の得票数を足せば、自民・立憲の両候補それぞれの得票数に近づきます。
衆院・千葉5区(2023年4月23日執行分・午前1時時点)
- 自由民主党…48,074票(当)
- 立憲民主党…45,476票
- 国民民主党…22,895票
- 日本維新会…12,296票
(【出所】千葉県選挙管理委員会)
この千葉5区も、仮に維新と国民が候補者調整を行っていたならば、あるいは立憲民主党に「小西問題」で逆風が吹いていなければ、すんなりと自民党候補者が勝てたかどうか、わかったものではありません。
さらには、参院大分選挙区に至っては、自民党が勝利を収めたものの、立憲民主党との得票差はたった341票でした。
参院・大分(2023年4月23日執行分・確定)
- 自由民主党…196,122票
- 立憲民主党…195,781票
(【出所】大分県選挙管理委員会)
これこそ、「自民党一強とは限らない」、という証拠でしょう。
だいいち、選挙区によって情勢は違います。
現在、立憲民主党が日本維新の会から「共闘凍結」を突き付けられている(『小西問題で共闘凍結の維新・立憲、入管法対応で亀裂も』等参照)ことは事実ですが、解散総選挙ともなれば、選挙区によっては野党同士の選挙協力復活もあり得る話です。
大増税解散?自民党苦戦を報じる現代ビジネス
こうしたなかで、ウェブ評論サイト『現代ビジネス』に、こんな記事が掲載されていました。
「6月大増税解散」に向けて全国で異常事態が発生中…!維新大躍進で自民党なのに落ちる議員「30人の名前」
かりそめの勝利に酔い、解散総選挙へと突き進む自民党。だが所詮、この政権は「消極的支持」でかろうじて保っているにすぎない。ここにきて台頭した「第三勢力」が、岸田の目算を一気に狂わせる。<<…続きを読む>>
―――2023.05.02付 現代ビジネスより
記事の冒頭で自民党の勝利を「かりそめの勝利」と決めつけるあたり、普段であれば「違和感」を表明したい気持ちもないではありませんが、現実の数値で見るとたしかに自民党は4選挙区中3選挙区で「薄氷を踏むがごとき勝利」でしたので、この点については否定できません。
そして、現代ビジネスは現在の自民党政権が「消極的支持」で「辛うじて保っているにすぎない」としつつ、大臣経験者や岸田政権の重鎮などの大物を含めた自民党の議員30人が「落選の危機にある」、というのです(具体的な選挙区名と候補者名については、リンク先の記事で直接確認してください)。
つまり、メディアの世論調査や実際の補選の結果だけを見ると、自民党政権は安泰であるかにも見えるのですが、個別に選挙区をチェックしていくと、必ずしもそうではない、というのです。
この点に関しては、じつは当ウェブサイトとしても同じ意見です。現実の「数字」を見ていくと、自民党が圧勝して政権を奪還した2012年12月の時点とは異なり、ちょっとした逆風で獲得議席数は大きく変動する状況が生じ始めているからです。
このあたり、現代ビジネスの記事を信じるとしても、仮に自民党の現職議員が30人落選したくらいで、自民党が下野する恐れはありません。なぜなら衆議院の自民党(会派名は「自由民主党・無所属の会」)の勢力は、現時点で465議席中、263議席であり、30議席減っても辛うじて過半数を維持するからです。
また、立憲民主党には局地的に選挙に強い議員も所属していますが、それも局所的な話であり、立憲民主党が全体として選挙に強いという状況は考え辛いところですので、次回選挙で「自民党が下野し、立憲民主党政権が成立する」という可能性は、極めて低いでしょう。
台風の目となり得る維新
しかし、「非自民の受け皿」として日本維新の会が台風の目になることは間違いありません。
前回、すなわち2021年10月の衆院選のことを思い出しておく必要があります。
自民党は故・安倍晋三総理大臣の時代に行われた2017年10月の総選挙でも大勝していたため、公示前勢力が276議席でしたが、岸田首相に交代して初めて行われた選挙では、勢力が261議席に減りました。261議席でも大したものではありますが、やはり安倍総理の時代からの勢力後退は否めません。
また、立憲民主党は109議席から96議席へと、勢力を10議席以上減らしました。「最大野党」が100議席割れというのも情けない状況ですが、それ以上に「政権交代もあり得る」と息巻いていた枝野幸男代表は、この選挙結果を受けて党代表を退かざるを得なくなったのです。
その一方、注目すべきは、11議席だった公示前勢力を、41議席と4倍近くに増やした日本維新の会の躍進ぶりでしょう。
日本維新の会は翌・2022年7月の参院選でも12議席を確保し、非改選の9議席とあわせて21議席に達しました。公示前勢力から6議席伸ばした格好です。これに対し立憲民主党は獲得議席が17議席にとどまり、非改選の22議席とあわせて39議席と、公示前勢力から6議席減らしました。
(※ただし、安倍総理暗殺などの影響もあってか、自民党は参院選では公示前勢力を8議席伸ばしています。)
つまり、この2つの国政選挙で見ると、立憲民主党が減らした議席がそのまま日本維新の会に移っている、という構図が見えてくるのです。もっといえば、日本維新の会は、自民党と立憲民主党から議席を奪うようにして伸びている、という言い方ができるかもしれません。
現代ビジネスがいうとおり、今すぐ解散総選挙がなされた場合に自民党が30議席減らしたとしましょう。
そして、その分が日本維新の会に上積みされるようなことになれば、野党第1党が視野に入ります。立憲民主党の勢力が公示前とまったく変わらなかったと仮定すれば、自民党が233議席に減り、日本維新の会が71議席に増えるからです。
- 自民:263→233
- 立憲:97→97
- 維新:41→71
こうしたシナリオに加え、「立憲民主党が20議席減り、その20議席が日本維新の会にいく」と仮定すれば、今回の総選挙で最大野党の交代が生じることになります。
- 自民:263→233
- 立憲:97→77
- 維新:41→91
維新がむしろ「減税」を掲げて戦えば…!?
もちろん、現実の選挙はこういう単純なものではありませんし、また、とくに安倍政権時代には、メディアが「自民党の大敗」を予言しても、ふたを開けてみれば自民党が圧勝してきたという事例も多いため、こうした「最大野党の逆転」が必ず生じるというものではありません。
しかし、財務省や外務省と敢然と戦った安倍総理や菅義偉総理らと異なり、現在の岸田文雄首相は、財務省の「増税原理主義」や外務省の「韓国大好き主義」、総務省の「NHK大好き主義」にちゃんと抗弁できていない人物でもあります(※このあたりは著者私見です)。
こうした状況で、もしも日本維新の会が「減税」を掲げて選挙を戦えば、どうなるでしょうか。
著者自身は心の底で日本維新の会という政党を信頼できないという気持ちもあるのですが、長年の「自民党一強」で弛緩し、たとえば「韓国のホワイト国戻し」でもちゃんとした説明責任を果たそうとしない自民党に嫌気がさし始めている有権者もいるかもしれません。
「立憲民主党は嫌だけれども自民党も嫌だ」という有権者にとっては、「減税」を大々的に掲げる政党は魅力的に映るかもしれません(同じことは、国民民主党にも同様に当てはまるでしょう)。
新聞、テレビが社会的影響力を徐々に失い、ネットの影響力が高まってくるなかで、岸田首相は「原発再稼働」、「経済安保法制」などの事績を有権者にどこまで訴えることができるかは注目に値する論点のひとつだと思うのですが、いかがでしょうか。
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2009年の総選挙で民主党の子ども手当3万円、予算の大幅な組み替え、無駄の徹底検証に見事に騙された一人です。心地よい公約は眉唾ですが、維新には政権交代するほどの大量の候補者もいないので、大勝しても自民政権のままなら、自民にお灸をすえる意味で、30人ほど落選させるのも良しかもしれません。自民が過半数割れの第一党となって、公明切りの国民党との連立が、緊張感のある政権になるのかなと思います。勿論岸田氏は責任取って辞任、現執行部も全員辞任。高市氏が首相で。
しかし自民が敗北するのは宮澤、麻生、岸田と、いずれも宏池会系ですね。やはり自民党支持者は宏池会の保守の仮面をかぶった左派志向が分かるのでしょうか。
しかし自民が敗北するのは宮澤、麻生、岸田と、いずれも宏池会系ですね。やはり自民党支持者は宏池会の保守の仮面をかぶった左派志向が分かるのでしょうか。・・・そう言われてみるとなるほどです。竹島に韓国議員が上陸しても 友好を深めるために 訪韓する総理こそ 真の売国奴と言われても仕方ない。
もういい加減「自民党」一括りで自民党議員を呼ぶのをやめにしたい今日この頃です。
選挙時は「自民党○○会」もしくは「自民党○○派」と言う言い方にして欲しいし、報道してほしい。
それはさて置き、一度上がった税金は絶対に下がることが無い日本社会において、もし維新が最大野党になれる地位を狙える位置で減税を掲げるならば、支持することもやぶさかではないです。
私も2009年は騙された口ですが、ゴミの中からマシなゴミを拾うならそれもありかと思います。
>薄氷を踏むがごとき勝利
「薄氷の勝利」も間違いではないらしいけど
こっちの方がしっくりくるね。
薄票の勝利?
増税増税と永遠に続くとどうなるのか?
今でも5公5民、このまま続くと10公0民。
もしかして、目指すは共産主義?
財務省は赤い貴族ノーメンクラツーラが目標?
少子化対策対策で金を出す為に増税て、少子化を言い訳に税金を上げたいだけかも。
無駄な金を使わず、税金や保険料を下げ手取りを増やす方がよっぽど少子化対策。
税金を下げる政党が勢力を伸ばせば自民党も下げざるを得ない。
民主党政権が去って約10年。野党時代を忘れて安倍さんが亡くなり、調子にのってお灸をすえられるかも。
自分はあの時自民党に入れましたが、今回はどうするか?
「現代ビジネス」がソースって、ここ笑う所ですか?
確かに自民は良し宇以上に国政選挙で苦戦するでしょうけど、だからと言って安倍憎しの感情剥き出しのゲンダイグループの関連サイトを当てにするのは如何なものかと。
×良し宇
〇予想
維新は、行政改革に関しては自民党より積極的です。
役人のいいなりの岸田政権に行政改革もへったくれもありませんが。
立憲民主党は自民党より保守的ですのでやる気のない岸田政権よりももっと消極的というかやる気は全く無いと思います。支持基盤が官公労ですので。
自民党に愛想をつかした人は、かっては立憲民主党になど「革新」政党に投票したのでしょうけど、行政改革に積極的な日本維新の会が関西での実績が認知されてきましたので、自民党に愛想をつかした保守の人に新しい選択肢が出てきたということです。
今回の維新の躍進は、無党派層の支持が集まったのではないかと報道番組では言っていましたが、私は都市における自民党支持層がかなり維新に流れたと思っています。
今後自民党の岩盤支持層は、地方のしがらみから逃れられない保守層に、ますます絞られていくと思っています。
このままですと衆議院選挙あと2回くらいで、自民党は追いつめられると予想しています。
維新の会が今一つ信頼できないという方もおられますが、そういう問題ではなく、自民党より右の政党を作ることが今の日本の課題であると思います。
やらせてみて駄目なら選挙で落とせば良いのです。
また、政権交代の可能性がある強い野党の出現は自民党のためにもなるのではないでしょうか?
>維新は、行政改革に関しては自民党より積極的です
え!?
自民党が行政改革・・・って、ありましたっけ?
>やらせてみて駄目なら選挙で落とせば良いのです
2009年はその理屈で政権交代が起きましたが、それで日本は散々な目に遭いましたね。
確かに維新は内政面ではある程度信用できますが、対ロ姿勢を見ると外交面ではとても不安に感じます。
>著者自身は心の底で日本維新の会という政党を信頼できないという気持ちもあるのですが
多分、親中のことだと思う。
私は、親中でも親米でも、そんなのもありだと思う。でもいちばん重要なのは、主権国家
としての国家意識だと思う。私は、具体的にはスパイ防止法や憲法改正にどれだけ真剣に
取り組むか?そこを見極めたい。ここがしっかりしていれば、親中であっても親米で
あっても、はたまた親韓であっても、信頼できるとみて問題ないと思う。
> ちばん重要なのは、主権国家としての国家意識だと思う。
仰る通りです。アメリカの言いなりになる必要性は全くありません。
安全保障とりわけ核抑止力をアメリカに頼っているという弱みもありますが、日本の自衛力の強化はアメリカにとっては日本の対米交渉力の強化につながるのでは無いかという警戒心を持たせる効果があります。
この辺りを対米交渉でうまく使えれば良いのですが。
宏池会政権には無理かもしれませんが。
対中国に関しては、アメリカも中国に依存している企業も多いので硬軟両方だと思います。
中国の対応を見ながら押したり引いたりすれば良いのではないでしょうか?
ただ予測が難しい国ですので、リスクの大きさは覚悟しておく必要はあると思います。
維新と言えば最近はベーシックインカムとかその辺に触れなくなりましたよねえ。
議員定数より霞ヶ関の官僚定数を削減して、早期退職天下りなど許さんって言えばいいのに。やっぱり官僚は聖域なのですかね?
政権が見えてくると、官僚のサボタージュが怖くなるんですよ。