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朝日新聞ウェブ会員は30万人:部数減少カバーできず

株式会社朝日新聞社が今年1月、朝刊部数と朝日新聞デジタルの購読者数を公表しています。これによると昨年12月時点のABC部数は383.8万部、朝デジの有料会員数は30.5万人だったそうですが、その一方、同社の有報データと突合してみると、この1年あまりで紙媒体の部数は15%ほど落ち込んだことがわかります。これにはいったいどういう背景があるのか、考察してみましょう。

株式会社朝日新聞社が1月に「メディア指標」を公表

株式会社朝日新聞社が今年1月19日付で、こんな「指標」を公表していました。

「朝日新聞メディア指標」を公表/朝刊部数+朝デジ購読者数は414.3万

―――2023-01-19付 株式会社朝日新聞社HPより

この「朝日新聞メディア指標」とは、朝刊部数と「朝日新聞デジタル」有料会員数を合計したもので、これ以外にも朝日ID会員数や月間ユニークユーザー(UU)数、LINE友だち登録数についても公表されています。

区分 備考
朝日新聞朝刊 383.8万 2022年12月ABC部数
朝デジ有料会員数 30.5万 2022年12月末時点
朝日ID数 580万 2022年12月末時点
朝デジ月間UU数 3981万 22年10月~12月平均
LINE友だち登録数 561万 2022年12月時点

(【出所】2023年1月19日付・株式会社朝日新聞社コーポレートサイト

なかなかに、興味深い指標です。

株式会社朝日新聞社によると、この指数は半年ごと、原則4月と10月に公表されるのだそうです(ということは、今月も公表されるのでしょうか?)。

なかなかに興味深い数値です。

株式会社朝日新聞社の有価証券報告書によると、2007年3月期の朝刊部数は813.2万部でしたが、これが2022年3月期だと、455.7万部にまで激減しました(図表)。

図表 朝日新聞の朝刊部数

(【出所】株式会社朝日新聞社・過年度有価証券報告書をもとに著者作成)

14年で半分近く減ったにもかかわらず、デジタル版有料会員はたった30万件ほどしか増えていない、ということです。ちなみにここ5年間でいえば、朝日新聞は毎年平均して37.1万部減少していますので、30万件といえば1年間で失われている部数よりも少ない数値です。

デジタルシフトがうまく行っているとは言い難いでしょうし、また、最大手である朝日新聞社ですらこういう状況なのですから、同業他社は推して知るべし、といったところでしょうか。

部数の急減:1年で15.78%も!?

さて、もうひとつ気になる数値があるとすれば、「2022年12月末ABC部数383.8万部」です。

2022年3月末時点の株式会社朝日新聞社の有報(P15)によれば、朝日新聞朝刊は455.7万部とありますので、12月末時点で71.9万部も減少している計算です。比較時点が不明であるため、正確ではないものの、減少率は単純計算で15.78%です。

これについては先日の『朝日新聞の値上げが象徴する現在の新聞業界全体の苦境』などでも触れた、「ABC部数で見て朝日新聞がたった1年で14%減少した」とする話題とも整合しています。朝日新聞の部数減少がこの1年で加速していることは、おそらく間違いないのでしょう。

朝日新聞が値上げします。5月以降、月ぎめ購読料は日経新聞と同様、朝・夕刊セットは4,900円に、統合版は4,000円(いずれも500円アップ)です。朝日新聞は部数の急減に拍車がかかるのでしょうか?ただ、他紙がこれに追随するかどうかはまだわかりませんが、今回の値上げも見方を変えれば、「朝日新聞だからこそできた」という言い方もできるかもしれません。朝日新聞が5月から値上げ:日経新聞と同じ値段に先日の『新聞業界逆風のなかで朝日が2年ぶり2回目の値上げか』で「速報」的に取り上げた「朝日新聞の値上げ」に、続報があり...
朝日新聞の値上げが象徴する現在の新聞業界全体の苦境 - 新宿会計士の政治経済評論

このペースで部数の減少が続けば、朝日新聞の部数は、6~7年以内にゼロになる、ということです。他紙と比べても、さすがにこのペースは急すぎます。参考までに、『朝日新聞が6年後に消滅?新聞業界に捧げる「処方箋」』でも取り上げた「ABC部数」についても、再掲しておきましょう。

2023年1月度におけるABC部数(カッコ内は前年比)
  • 朝日新聞:3,795,158(▲624,194)
  • 毎日新聞:1,818,225(▲141,883)
  • 読売新聞:6,527,381(▲469,666)
  • 日経新聞:1,621,092(▲174,415)
  • 産経新聞: 989,199(▲54,105)

(【出所】2023/03/22付 MEDIA KOKUSYO『新聞の没落現象に歯止めかからず、2023年1月度のABC部数、年間で朝日新聞が62万部減、読売新聞が47万部減』)

こちらのデータで見ても、さすがに朝日新聞「だけ」、落ち込みが大きすぎます。他の新聞のABC部数もたしかに減少しているのですが、減少率としては朝日新聞が圧倒的に高いのは、やはり不自然です。

朝日新聞が慰安婦報道や福島原発「吉田調書」報道を撤回した2014年ならまだしも、昨今において読者が朝日新聞「だけ」を見放す要因は、見当たりません。よって、朝日新聞の部数があと6~7年でゼロになるに違いない、などと単純に結論付けるには、考察としては少し雑です。

新聞社が倒産を回避する3つの方法とは?

したがって、この朝日新聞の部数減には「なにか別の要因」があると考えるべきでしょう。さすがに1年で15%も減少するのは不自然だからです。

その「なにか別の要因」の正体が何なのかについては、よくわかりません。しかし、朝日新聞「だけ」が1年で15%も減るということを説明するには、やはり「予備紙の整理」など、「何らかの特殊な要因」の存在を疑うのは自然な発想です。

もちろん、朝日新聞の部数が急減する要因がないわけではありません。5月から月額の購読料を500円引き上げるという話題があります(『朝日新聞の値上げが象徴する現在の新聞業界全体の苦境』等参照)。

朝日新聞が値上げします。5月以降、月ぎめ購読料は日経新聞と同様、朝・夕刊セットは4,900円に、統合版は4,000円(いずれも500円アップ)です。朝日新聞は部数の急減に拍車がかかるのでしょうか?ただ、他紙がこれに追随するかどうかはまだわかりませんが、今回の値上げも見方を変えれば、「朝日新聞だからこそできた」という言い方もできるかもしれません。朝日新聞が5月から値上げ:日経新聞と同じ値段に先日の『新聞業界逆風のなかで朝日が2年ぶり2回目の値上げか』で「速報」的に取り上げた「朝日新聞の値上げ」に、続報があり...
朝日新聞の値上げが象徴する現在の新聞業界全体の苦境 - 新宿会計士の政治経済評論

ただ、その値上げはあくまでも2023年5月の話であり、その値上げを要因として部数が急減するとしたら、それは2023年と比較した2024年のデータで判明する話です。2023年において、2022年と比較して部数が急減した理由は、「値上げ」以外の何らかの一時的要因(たとえば販売部数の適正化など)にあると考えるのが自然でしょう。

もっとも、著者自身の見解ですが、『新聞朝刊の寿命は13.98年?』や『新聞夕刊は7.68年以内に消滅』などでも取り上げたとおり、部数の急減は朝日新聞だけの問題ではありません。紙媒体の新聞全体が、おそらく10年以内に消滅ないしそれに近い状態に陥ると考えています。

そうなると結局、新聞「社」の経営として、倒産を回避するためには、①紙媒体の発行を止め、ウェブ版に完全移行すること、②紙媒体の新聞事業を細々と続けながら、新聞以外に収益の柱を作ること、③経営体力があるうちに廃業すること、のいずれかしか考えられません。

新聞社が倒産を回避するためのパターンの例
  1. 紙媒体の新聞発行を思い切ってスパッとやめ、全面的にウェブ媒体に特化する
  2. 儲かっている副業を本業に切り替え、紙媒体の新聞事業を「副次的な事業」に位置付ける
  3. 経営体力があるうちに早期廃業する

(【出所】著者作成)

①については日本経済新聞社が先行しているようですし、産経新聞社も「月額550円プラン」などの野心的な経営戦略を取っています。諸外国だとウォール・ストリート・ジャーナルやフィナンシャル・タイムズなどが記事を有料にしているようです。

しかし、株式会社朝日新聞社の場合、上記①の選択肢がうまくいっているようには見受けられません。とくにここ数年は、毎年30~40万部という単位で部数が落ち込んでいるからです。朝デジ有料会員が30万人少々という数値を思い出しておくと、有料会員数に相当する部数が毎年失われているのです。

すでに朝日新聞社の収益の柱は新聞事業ではない

もっとも、株式会社朝日新聞社の場合は、②の選択肢がうまくいく可能性があります。なぜなら、すでに同社の収益の柱は、新聞事業ではなくなっているからです。

たとえば株式会社朝日新聞社の2022年3月期有報(P74)のセグメント収益構造で見ると、セグメント利益は「メディア・コンテンツ事業」が44億66百万円、不動産事業が50億75百万円であり、じつは不動産事業の方が、新聞等の事業を上回る利益を株式会社朝日新聞社にもたらしています。

また、同じく2022年3月期有報(P38)の連結損益計算書上、持分法による投資利益が75億06百万円計上されていますが、これはおそらく株式会社テレビ朝日ホールディングス、朝日放送グループホールディングス株式会社の業績が株式会社朝日新聞社の利益に貢献している、ということでしょう。

収益的に見れば、すでに株式会社朝日新聞社は「新聞事業」が本業とは言えなくなってしまっているのです。

株式会社朝日新聞社の利益構造(2022年3月期)
  • 経常利益・189億25百万円のおもな内訳
    • 44億66百万円(「メディア・コンテンツ事業」のセグメント利益)
    • 50億75百万円(「不動産事業」のセグメント利益)
    • 75億06百万円(持分法による投資利益)

(【出所】株式会社朝日新聞社・2022年3月期有報をもとに著者作成)

また、「新聞事業以外の利益」が莫大であるだけではありません。

現実問題として、株式会社朝日新聞社の貸借対照表を眺めてみると、総資産5742億円に対し純資産が3505億円と、自己資本も非常に厚いのに加え、現金預金が1019億円と手元流動性も十分であり、朝日新聞の部数が急減したとしても、「今すぐ資金繰りに窮する」という状況にはないのです。

新聞事業の戦略的縮小が可能

つまり、「朝日新聞グループ」としては、「儲かっているビジネス」(株式会社朝日新聞社の不動産事業、テレビ朝日ホールディングス、朝日放送グループホールディングスからの配当金収入など)で稼ぎながら、新聞事業については戦略的に縮小していくことが可能です。

すなわち新聞の部数がゼロになっても大丈夫なように、今のうちに朝デジの有料会員を増やしておき、今後10年間は紙媒体の新聞と朝デジの並行期間とし、10年目以降は紙媒体の新聞を廃止して朝デジ一本に移行する、という戦略もあり得ます(目標ウェブ会員数は50万人、いや、100万人、といったところでしょうか)。

この点、新聞社が紙媒体の新聞事業から手を引けば、消費税の軽減税率や再販売価格維持制度といったさまざまな特権が失われますし、残された新聞宅配網をどうするか、という問題は残りますし、ウェブ媒体だけでは十分に儲かりません。

しかし、特権喪失の問題さえクリアすれば、ウェブ媒体の低収益については不動産や持分法投資利益で何とかカバーでき、「ウェブ完全移行+副業の本業化」で生存していけます(もっとも、今から10年後はテレビ業界も「左前」になっているのかもしれませんが…)。

業界はメガクラッシュに向かうのか?それとも…

もっとも、これは経営体力がある株式会社朝日新聞社だからこそできる話であり、そうでない会社(地方紙や某中小企業など)には、なかなかマネできる話ではありません。

それに、その朝日新聞にしたって、ウェブ会員がたとえ100万人になったとしても、かつての「部数800万部」だった時代と比べると、社会的影響力の低下は否めません。

また、某新聞社の場合、どこか外国の宣伝冊子を配布したり、宗教団体の機関紙の印刷を請け負ったりするなどの「副業」があるという話は耳にしますが、これも結局、その新聞の部数自体が急減し、社会的影響力を喪失していけば、消滅するビジネスです。

さらには、新聞販売店の問題は悩ましい点です。現在の新聞販売店がヤマト運輸や西濃運輸などと提携するなどして「宅配事業」に乗り出して生き残りを図る、というシナリオもないわけではないのですが、宅配業者と新聞販売店だとノウハウもビジネスモデルもまったく異なりますので、あまり現実的ではありません。

その意味では、新聞業界は部数の減少による新聞本社の経営難を「他のなにか」でカバーしながら、戦略的に撤退していかなければならないのです。それに失敗すれば、新聞業界を待ち受けるのは「メガクラッシュ」にほかなりません。

新聞業界がどういう道を歩むのかについて、その方向性は、案外近い将来に見えてくるのではないでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (9)

  •  「新聞読まなくなっちゃったし購読やめたいけど、お付き合い長いしカドが立つなぁ……」程度の理由や惰性で購読を続けていた人が「やーデジタル移行しますから配達はもうヤメで。」とか言ってデジタル版も契約しなければ、まーるく新聞解約できちゃいますね。デジタル版契約の証拠見せてって言われても個人端末なんて見せる義務無いですし、デジタル移行で紙を辞める際はアカウント紐づけや証明が必要だとかの約款等もないでしょうし。
     新聞のデジタル移行が、販路拡大のためだったのか部数減少対策だったのかはわかりませんが。下手すると解約促進になるのでは。私は各種SNSを全然やっていないのでこのテを発信できませんが。効果があったら困るからなーおすなよおすなよ絶対おすなよー。

     結局は「新聞自体が必要だ」と思わせられなければ何も……

  • 日経の電子版有料会員数が 2022年7月で 83万人だそうで。
    こちらも苦戦しているようですね。

  • 会社経営は必ずしも経済合理性だけで動いているわけではないので、会社全体としては財務状態が安定しているときに祖業を切ることは難しいのではないかと思います。例:セブンアンドアイがなかなかイトーヨーカドーを整理しきれないなど。
    また、社名に「新聞」とあっても、新聞事業が副業であっても一向にかまわないでしょう。例:紡績事業が祖業であるために社名が「〇〇ボウ」となっているが、既に繊維事業は主力事業ではないという会社が複数あります。
    朝日新聞社の場合、不動産事業を中心とした株式会社で新聞事業は一セグメントに過ぎないと考えれば、経営状態が良好な会社でしょう。
    また、紙媒体の新聞は世の中に残っていても良いと思っています。瓦版由来の伝統文化として。歌舞伎や能と同じ位置づけで。

    • 「権力の監視者」「巨悪と戦う十字軍戦士」なる新聞記者たちの矜持は「カブキモノ」の「シャレ」として「伝統芸能化」して行くと思います。舞台装置は税率8%産業です。

  • 有価証券報告書を出している朝日新聞の数字が正しいとするなら、他の新聞社がどれだけ発行部数があるか、利益は出ているのか等は、てんこ盛りに盛っていると考えられますね。
    朝日新聞朝刊は455.7万部で、12月末時点で71.9万部も減少している計算です。つまり他の大手4紙もそこまで酷くなくても、実数とは離れた数値ではないかと疑いを持ちます。発表しなくても苦しいのは事実だ(笑)。さあ、あと何年持つか、ウェブサイトが副業から主業になるか、見ものです。

  • >朝日新聞が慰安婦報道や福島原発「吉田調書」報道を撤回した2014年ならまだしも、昨今において読者が朝日新聞「だけ」を見放す要因は、見当たりません。

    推論
    『月刊Hanada』では「総力大特集 赤っ恥、朝日新聞!」(2018年4月号)、「総力大特集 朝日新聞の提訴と断固、戦います!」(2018年3月号)、「総力大特集 朝日虚報と全面対決!」(2018年2月号)。

     『月刊WiLL』では「やはり逃げたか、朝日論説主幹」(2018年4月号)、「朝日はなぜ虚に吠えたのか」(2018年3月号)、「朝日新聞と言論犯罪」(2018年2月号別冊)。

    『月刊正論』では、「朝日新聞よ、父がウソをついたというのか!」(2018年4月号)、「冬の特大号 暗黒・韓国を生んだ朝日の罪と罰」(2018年3月号)。

     だいたい上記雑誌は発刊に際し「新聞広告」をうつことが多い(実際に記事を読む方は多くは無いかと思いますがタイトルだけでも朝日は「とんでもない」メディアと印象付けができる)

    2014年からの(印象)蓄積が2017年末から顕著になって(購読者減)きたのではないかと思います

  • 「朝日新聞社の会社案内」 というサイトに組織再編などの情報が載っています。「朝日新聞デジタル」 とは完全に分かれていて、互いにリンクも張っていないようです。(「価格改定のお知らせ」 は、こっちのサイトにしか載っていなかった。)

    お知らせ | 朝日新聞社の会社案内
    https://www.asahi.com/corporate/info/

    以下は、このサイトに載っていた記事です。

    2022年 新聞およびWeb利用に関する総合調査 - 2023年4月 朝日新聞社 メディア事業本部マーケティング部
    https://public.potaufeu.asahi.com/corporate2/info/2023/2022_research.pdf.pdf

    サンプル数9000の記入式調査だそうですから、カネがかかってますね。おそらくこの調査結果をもとに、今後の経営戦略を立てているのではないでしょうか?

    ビジネス関連部門を統合した 「メディア事業本部」 4月に発足
    https://www.asahi.com/corporate/info/14849197

    「メディア事業本部」 という名前ですが、中身はイベントやコンサル業務を行う部署のようです。今後の事業の柱にするつもりでしょうか? なお、トップの人の経歴も載っていますが、ずっと不動産部門にいた人ですね。

    以前、「新聞社では、記者職とそれ以外の職種は採用の段階から分かれていて、社内で威張っているのは記者職の人間」 という記事を読んだことがありますが、新聞事業が副業になったら力関係が逆転しますね。プライドの高い記者がそれに耐えられるでしょうか?

  • >現在の新聞販売店がヤマト運輸や西濃運輸などと提携するなどして「宅配事業」に乗り出して生き残りを図る

    近所の新聞販売店はAmazonの配送も一部請け負っているので、この動きはすでに始まっているように思います。

  • ビジネスで成功するために肝要なこと。いわゆるコツをずいぶん昔に聞いたことがある。
    今が絶好調と判断できるときにビジネスを止めること、であると。
    どういう意味であるかまでは聞いてないけれど、昨今の新聞社の経営状況を知るにつけ、なるほど、という気もする。
    事業が絶好調ということは事業の価値が最大であり、もし事業を売却するなら最高値で売れるわけだ。売却した事業がその後にさらに好調であったとしても、それは新しい経営者の努力や才覚によるもので、売らなければよかったなどと考えることはない。売却で得た資金を元手にもうかるビジネスを新たに始めればよい。事業売却に限らず、自主的に廃業しても同じことであろう。
    そういうことであれば、モノを持たずともできる身軽なビジネスほど、いつでもやめられるという点で非常に有利だ。流動性の低い資産を多く持つと、そうそう簡単には商売を止められない。負債があればなおさら。たとえ設備が償却済みで、たとえ無借金経営であっても、黒字が出ていても。
    例えばどこの新聞社でもよいけれど、今の日本の新聞業界の業況からして、新聞事業を売却したいと思っても、膨大な設備と従業員込みで欲しがる買手がそうそういるとは思えない。ブログで言及されているが、廃業コストも大きすぎて、やめるにやめられないかもしれない。日本の新聞社はやめ時を完全に逸したのだろう。
    新聞業界人は言うかもしれない。我々はパンのみのために生きているわけではないど。そうであるならば部数減少など気にすることはない。たとえ休刊になろうがぜひ信念を貫いてほしい。
    なお、余談であるが、新聞・出版業界ではポリティカルコレクトネスの観点から、廃刊はややもするとヘイト用語であり、休刊と言わねばならないようだ。

    大手全国紙の知人から直接聞いた話。嘘か本当かの裏取りはしていないことを申し添えておく。
    もう10年近く前。曰く、デジタル化に最も成功した一般紙が産経新聞で、その理由はもともと発行部数が少なかったからデジタル移行に何の柵もなかったということ。朝日新聞も産経のビジネスモデルをまねてデジタル化に移行したいのはやまやまなのだが、そうすると新聞販売店の経営を圧迫することになり、大々的にクレームが寄せられるので簡単にはいかないのだそう。そこで、販売店に金銭補償をして廃業してもらうことをしているのだと。もう一度念を押しておくけれど、新聞記者から聞いた話とはいえ、真偽のほどは保証できない。信じる信じないは読むひとの自己判断で。