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値上げしたのに部数当たり売上高が減少した朝日新聞社

日本の新聞社は経営内容がベールに包まれているのですが、そのなかで例外的に財務情報を詳細に開示しているのが株式会社朝日新聞社です。株式会社朝日新聞社の過去17年分(ないし18年分)のデータを使って、新聞等事業のセグメント売上高を分析してみると、見事なほどに右肩下がりであることがわかります。また、広告単価も減少している可能性が濃厚です。最大手である株式会社朝日新聞社ですらこうなのですから、新聞業界全体も推して知るべし、といったところでしょう。

グンゼと対照的な新聞業界

『朝日新聞GLOBE+』というウェブサイト掲載されていた、「新聞社の衰退はネットやスマホの普及が原因ではない」とする非常に秀逸な論考に関する話題については、先日の『「グンゼの経営」に学ぶ「新聞社の衰退は必然」の理由』でも取り上げたとおりです。

『朝日新聞GLOBE+』というウェブサイトに4月4日付で興味深い論考が掲載されていました。グンゼという会社の、「善い人が良い糸をつくり、信用される人が信用される糸をつくる」という理念とともに、時代の変化に適合する卓越した経営を引き合いに、現在の新聞社がなぜ人々から信頼されなくなっているのかについて考察した、秀逸な議論です。理念もなく時代に適合できない新聞社が衰退するのは必然かもしれません。新聞の終焉は時間の問題『朝日新聞の値上げが象徴する現在の新聞業界全体の苦境』でも取り上げたとおり、正直、紙媒体...
「グンゼの経営」に学ぶ「新聞社の衰退は必然」の理由 - 新宿会計士の政治経済評論

ざっくりといえば、グンゼという会社の創業は明治期で、もともとは生糸を取り扱っていたのですが、創業者・波多野鶴吉が生糸の品質向上を巡って打ち立てた「善い人が良い糸をつくり、信用される人が信用される糸をつくる」とする経営哲学が現代にも引き継がれている、と指摘するものです。

ちなみにグンゼの事業内容は時代に合わせて変化しており、現在、プラスチック、塩ビ、特殊フィルムなどの事業領域の拡大が、令和の今ではタッチパネル素材の製造まで手掛ける総合メーカーではありますが、すでに生糸の生産は行っていません。

しかし、波多野鶴吉の編み出した「善い人が良い品を作る」という、いわば「製品に対する信頼」という経営哲学の根幹部分はいっさい変わっていない、というのが該当する記事の論者の指摘であり、けだし名言であると言わざるを得ません。

グンゼは時代が変わり、作る製品が変わっても、「人々から信頼され続けている」という意味ではまったく変わっておらず、私たちの社会において必要とされている優良企業であることは、論をまたないでしょう。

新聞社経営は正しく行われてきたのか

経営理念もなく権力を悪用してきた新聞社

翻って、新聞社です。

新聞社には、いったいどのような経営理念があるのでしょうか?そして、それらの経営理念を、現実の経営においてどう生かしているのでしょうか?波多野鶴吉の「善い人が良い品を作る」とする教えは、新聞社にはどう映っているのでしょうか?

このあたり、当ウェブサイトごときに、「新聞社とはかくあるべきだ」、などと偉そうにご高説を垂れる資格があるとは思えませんが、それでも敢えて指摘するならば、「民主主義社会を支えるうえで必要な情報を社会に供給すること」がその役割のひとつであることは間違いないでしょう。

その意味では、テレビ局とも役割は似ているかもしれません。

実際、新聞社はテレビ局と並び、かつては「第四の権力」とも称されるほど大きな社会的影響力を持っていました。しかし、以前から『椿事件から玉川事件へと連綿と続くテレビ業界の問題点』などでも指摘してきたとおり、新聞社はその社会的影響力を正しい方向に使わず、悪用したことがあります。

とある参議院議員が1993年に発生した「椿事件」を「テレビ局に対する政治介入を許した痛恨事」、などと述べたそうですが、この「玉川事件」は歪んだ事実関係が大々的に報じられたという意味で、椿事件と本質的にはまったく同じです。「椿事件」と比べると、今回の「玉川事件」、正直、大したインパクトがあるとも思えませんが、この問題が連日のように炎上しているという事実は、インターネットとテレビ業界の力関係が完全に逆転しつつあるという状況を示すものでもあるのです。玉川事件と放送法玉川事件のインパクト:テレ朝の処分に...
椿事件から玉川事件へと連綿と続くテレビ業界の問題点 - 新宿会計士の政治経済評論

その典型例が、2009年8月の衆議院議員総選挙でしょう。

投票を週週間後に控えた同年8月12日には、21世紀臨調が主催する「党首討論会」(※現時点では視聴不可)が開催されたのですが、当時の自民党総裁でもあった麻生太郎総理大臣の理路整然とした主張に、当時の鳩山由紀夫・民主党代表はしどろもどろで支離滅裂な主張に終始しました。

もしもこの党首討論会を大勢の国民がちゃんと視聴していたならば、民主党が480議席中、308議席という圧倒的な議席を獲得して圧勝する、ということは発生していなかったかもしれません。

しかし、現実問題として、この党首討論会をリアルタイムで視聴した人はほとんどいませんでした。NHK、民放を含めた地上波テレビが、この討論会を一斉に無視したからです。新聞各紙もこの話題をスルーしたか、取り上げていたとしてもごく小さな扱いでした。

2009年当時だとニコニコ動画やYouTubeなどの動画サイトがやっと人々に認知され始めたころで、スマートフォンなどが普及する直前のタイミングであり、「まだインターネットにアクセスしたことがない」という人は多かったでしょうし、だいいち当時のネット環境だと、ストリーミング再生も現在ほどスムーズではありませんでした。

人々がこの党首討論会をしらないままで投票をしてしまったことは、まさに日本にとっての不幸だったといえるでしょうし、それはオールドメディアの悪意ある報道によってなされたという意味で、まさに「報道犯罪」だったと呼べるでしょう。

新聞業界にはPL法がない

この党首討論会の無視でもわかるとおり、当時の新聞社は、テレビ局とともに、民主党という政党への政権交代をさんざん煽るような偏向報道を行ったのです。つまり、「公正な報道を歪めることで選挙結果に影響力を行使した」、という言い方もできます。

新聞社がテレビ局とともに、メディアとしての役割を放棄したのが、まさにこの2009年というタイミングだったのです。

もしも企業が粗悪な製品を作り、それにより社会に甚大な損害をもたらした場合、通常のメーカーは社会から糾弾され、最悪の場合、雪印乳業株式会社のように、倒産の憂き目に遭いますし、そこまでいかなくても、粗悪な製品を提供すれば、「製造物責任法」という法律(いわゆる「PL法」)で責任を問われます。

ところが、新聞社やテレビ局には、このPL法に相当する法律が不十分です。

いちおう、テレビ局に対しては放送法第4条第1項で公正な報道が義務付けられてはいますが、そのテレビ局が放送法に違反して偏った番組を製作・報道したとしても、総務省が「停波」などの処分を下すことは、大変に困難です。それこそ新聞社、テレビ局がいっせいにこれを批判するからです。

さらには、新聞社の場合、虚報をしでかしたとしても、それを罰する法律自体が存在しません。

新聞社による虚報としては、過去にはシャレにならないレベルの捏造報道もありましたが、それらの捏造報道を行った新聞社が罰せられた、といった話はありません。いちおう、損賠を求める民事訴訟が行われているくらいのものでしょう。

新聞社は既得権益の塊

いずれにせよ、もしも新聞社の社会的使命が「民主主義社会を支えるうえで必要な情報を社会に供給すること」にあるのだと定義したとして、その社会的使命を果たしていると自信を持って断言できる社が、日本にどれだけあるのか、よくわかりません。

というよりも、歴史的な経緯もあり、新聞社はさまざまな社会的特権を享受してきた「既得権益」の側です。

そのもっとも大きなもののひとつは、「記者クラブ制度」でしょう。

「記者クラブ」は多くの場合、決められた新聞社、テレビ局の関係者が独占的に出入りできるもので、役所や警察などはその記者クラブに「紙」を配るほか、役所内を記者クラブ所属の記者らが歩き回れるようにすることで、「記者クラブ」に所属する記者らが国民に先駆けて情報を独占的に仕入れることができる仕組みです。

マスメディア記者の仕事は、本来、自分自身の力で情報を入手し、解釈することにあるはずなのですが、この「記者クラブ」制度のおかげで、大した努力なしに、それなりの情報を手に入れることができます。記者クラブで役人からもらった紙をそのまま記事にすれば、高い給料を貰える、という仕組みです。

もちろん、世の中の新聞・テレビ記者のなかには、ちゃんと自分の努力で情報を入手しようとしている人もいるのですが、残念ながらそうしたジャーナリストは少数派でしょう。

メディアの特権は、それだけではありません。新聞社に限っても、再販価格維持制度や戸別宅配網、消費税の軽減税率、日刊新聞法による株式の譲渡制限などの特権に恵まれています。

たとえば、新聞には再販売価格の指定が認められており、値引き販売が禁止されています。これにより、新聞社は安定した売上を確保してきたのです(※もっとも、「新聞拡張員」による景品提供などが常態化することで、事実上の「値引き販売」が横行していましたが…)。

また、新聞社は戸別の宅配網を持っていることが多く、この宅配網を使うことができなければ、新聞事業に新規参入することが困難です。某県でとある新聞社が販売店に対し、ライバル会社の新聞を取り扱うことを「禁止」したとする情報が流れたこともありましたが、それが事実なら、これも参入障壁の典型例でしょう。

(※もっとも、2017年ごろの記事を検索すると、某県における新規参入妨害について取り上げた記事がいくつか見つかるのですが、それらについては裏付けがやや不十分であるため、本稿では引用することを控えたいと思います。)

さらには、新聞社には定期購読者に対する消費税等の軽減税率という特典もありますし、通称『日刊新聞法』と呼ばれる法律では、新聞社は定款に株式の譲渡制限条項を設けることができる、といった特権も持っています。

新聞社が持っている特権・利権の例
  • 記者クラブ制度…情報を独占的に入手できる
  • 再販売価格維持制度…新聞の値引き販売を禁止できる
  • 戸別宅配網…新聞を宅配するための仕組み
  • 消費税の軽減税率…日刊紙を定期購読している読者に対し合計8%の軽減税率が適用される
  • 日刊新聞法…日刊紙の株式には譲渡制限条項を設けることができる

「よっぽどのこと」が生じ始めている

これらの特権は、新聞業界に新規参入を難しくすることなどを通じ、既存の新聞社に対しては経営を安定させるという効果をもたらしてきました。どんな酷い紙面づくりをしていたとしても、「よっぽどのこと」がない限り、新聞社は潰れないのです。

ところが、新聞社経営に誤算が生じました。

その「よっぽどのこと」が、現在進行形で発生しているのです。

それが、インターネットの登場とスマホなどの電子デバイスの普及です。

新聞業界は今まで何十年もの間、競合他者に脅かされることなく、記者クラブでもらった紙を記事にするなど、「テキトーに」紙面づくりをしていても潰れることはありませんでした。しかし、インターネットの登場と電子デバイスの普及により、新聞の報道の酷さが人々に意識され始めたのです。

その典型例が、「角度を付けた報道」でしょう。

2009年8月の衆院総選挙は「論外」ですが、新聞社はテレビ局とともに、その後も似たような「酷い報道」を繰り返してきました。2017年ごろから持ち上がった「もりかけ問題」などはその典型例ですが、それだけではありません。

最近でも「小西文書」問題などを巡って、高市早苗氏の発言を切り取り、不当に批判するような「角度のついた報道」が、多くのメディアで散見されたほどです。現実には客観的に見て、高市氏の主張に分がある(『勝負あり:高市氏が小西文書「捏造」を説明してしまう』等参照)にもかかわらず、です。

これで、「勝負あり」でしょう。高市早苗氏が昨日公表した資料によれば、総務省が「あった」と言い張っている2015年2月13日の「大臣レク」についても、捏造という可能性が非常に濃厚になったのです。高市氏の説明は大変に歯切れがよく、かつ、説得力もあります。高市氏は「小西文書」を逆手に取り、その論駁力の高さを示してしまったのかもしれません。すでに結論がついている『小西文書』本稿では「どうせオールドメディアは取り上げないであろう話題」を、じっくりと取り上げておきたいと思います。昨日の『小西文書は国家公務員法...
勝負あり:高市氏が小西文書「捏造」を説明してしまう - 新宿会計士の政治経済評論

正直、日本の新聞社が人々から見放されているのは、「スマホやネットが普及したから」ではなく、「スマホやネットが普及したことで、日本の新聞の報道の酷さが人々の目にも明らかになったから」、ではないでしょうか。

売上高が激減した朝日新聞

株式会社朝日新聞社の開示から判明する部数

さて、こうしたなかで、当ウェブサイトのセールスポイントのひとつは、「数字を使った分析」にあります。

以前から指摘している通り、新聞社の多くは非公開会社であり、詳細な決算データを公表していません。したがって、新聞社の経営の実情がどうなっているのか、いまひとつ定かではないのが実情です。

ただ、こうしたなかで、例外的に詳細な決算データを開示している社がひとつあります。それが、株式会社朝日新聞社です。

(自称)会計士という専門家にとって、「財務体質」という観点からは、株式会社朝日新聞社は大変に良好な会社です。とくに優良不動産物件を多数抱え、それらの不動産が賃料収入などを生み出していますし、また、関連会社である株式会社テレビ朝日HDの持分法投資利益も、同社の収益源です。

しかし、その株式会社朝日新聞社にとっての本業である新聞の部数に関して言えば、見事に右肩下がりなのです。

以前の『過去17年分の朝日新聞部数推移とその落ち込みの分析』では、株式会社朝日新聞社が公表している有価証券報告書のデータをもとに、17年分の新聞の部数の推移をグラフ化したものを紹介したことがあります。これを再掲しておくと、図表1のとおりです。

図表1 朝日新聞の発行部数の推移(朝刊+夕刊)

(【出所】株式会社朝日新聞社の過年度有報をもとに著者作成)

先日、朝日新聞の部数が400万部を割り込んだとする報道を話題に取り上げたのですが、その後、とある読者の方から株式会社朝日新聞社の2006年度(=2007年3月期)以降の有報データをメールで送っていただきました。有難く使わせていただき、朝日新聞の部数の推移についてもう少し詳細なデータを紹介するとともに、ちょっとした「シミュレーション」も実施してみたいと思います。朝日新聞の部数データ先日の『朝日新聞400万部割れも経営は安泰か:その一方で…』では、株式会社朝日新聞社の有価証券報告書をもとに、朝日新聞の部数の推移...
過去17年分の朝日新聞部数推移とその落ち込みの分析 - 新宿会計士の政治経済評論

なかなか見事な「右肩下がり」です。

朝刊も12.28年後にはゼロになるという計算

もちろん、こうした「右肩下がり」は、べつに朝日新聞だけの話ではありません。『新聞朝刊の寿命は13.98年?』や『新聞夕刊は7.68年以内に消滅』などでも取り上げたとおり、新聞業界全体の話でもあります。

ただ、朝日新聞に関していえば、2022年3月期の部数は朝刊が455.7万部、夕刊が134.2万部でしたが、過去5年間の部数減の平均値は朝刊が37.1万部、夕刊が13.7万部であり、このペースで部数減が続けば、朝刊は12.28年後に、夕刊は9.81年後に、それぞれ部数がゼロになる計算です。

しかも、朝日新聞の購読料は5月から500円値上げされ、セット部数が月額4,900円(※統合版だと月額4,000円)になります(『朝日新聞の値上げが象徴する現在の新聞業界全体の苦境』等参照)。2年弱の間で2回も値上げが行われる格好で、ちなみにこれは日経新聞と同じ価格設定でもあります。

朝日新聞が値上げします。5月以降、月ぎめ購読料は日経新聞と同様、朝・夕刊セットは4,900円に、統合版は4,000円(いずれも500円アップ)です。朝日新聞は部数の急減に拍車がかかるのでしょうか?ただ、他紙がこれに追随するかどうかはまだわかりませんが、今回の値上げも見方を変えれば、「朝日新聞だからこそできた」という言い方もできるかもしれません。朝日新聞が5月から値上げ:日経新聞と同じ値段に先日の『新聞業界逆風のなかで朝日が2年ぶり2回目の値上げか』で「速報」的に取り上げた「朝日新聞の値上げ」に、続報があり...
朝日新聞の値上げが象徴する現在の新聞業界全体の苦境 - 新宿会計士の政治経済評論

下手をすると、そこから部数減少のペースはさらに早くなるかもしれません。

いずれにせよ、最大手で最も経営余力があるはずの株式会社朝日新聞社でさえこんな状況なのですから、他社は推して知るべし、といった状況でしょうか。

セグメント売上高、朝刊部数、夕刊部数などの減少ぶり

さて、せっかく株式会社朝日新聞社の有報の話題を取り上げたので、本稿ではもうひとつ、新たな着眼点でちょっとした比率計算を行っておきたいと思います。

有報作成実務に詳しい方ならご存じだと思いますが、有報にはセグメント情報が掲載されています。

年によって呼称が変化することもあるのですが、「新聞出版事業」あるいは「メディア・コンテンツ事業」と称されているものが、おそらくは新聞(朝刊、夕刊など)や雑誌に関する事業であろうと想定されます。

厳密には2016年3月期まで「新聞出版事業」などと呼称され、17年3月期以降「メディア・コンテンツ事業」に名称が変更されたようですが、本稿ではこれらをまとめて「新聞等事業」と呼びたいと思います。そのうえで、その新聞等事業のセグメント売上高をグラフ化したものが、図表2です。

図表2 新聞等事業のセグメント売上高の推移

(【出所】株式会社朝日新聞社の過年度有報をもとに著者作成。なお、「売上高」とは、厳密には「外部顧客への売上高」を意味する)

著者自身が保有しているデータのなかでの「最盛期」は、セグメント売上高、朝刊部数ともに2006年です。セグメント売上高、朝刊、夕刊、週刊朝日の部数のそれぞれについて、2006年と22年の数値を比較してみると、図表3のとおり、いずれも大幅な減少に見舞われていることがわかります。

図表3 株式会社朝日新聞社・新聞等事業に関わる主要な指標の変化
項目 06年→22年の変化 増減と増減率
外部顧客に対する売上高 5687億円→2392億円 ▲3295億円(▲57.93%)
朝刊 813万部→456万部 ▲358万部(▲43.96%)
夕刊 373万部→134万部 ▲239万部(▲64.04%)
週刊朝日 33万部→9万部 ▲25万部(▲74.02%)

(【出所】株式会社朝日新聞社の過年度有報をもとに著者作成)

朝刊の部数こそ減少率は40%少々ですが、売上高については60%近く落ち込んでいますし、夕刊部数は3分の2、週刊朝日に至っては4分の3が失われてしまいました。実際、週刊朝日は6月以降の「休刊」が決まっています(『週刊朝日が5月末で「休刊」へ:新聞業界の今後を示唆』等参照)。

雑誌『週刊朝日』が6月9日号をもって「休刊」になるのだそうです。同誌の発行部数は2006年3月期には33.1万部でしたが、2022年3月期には8.6万部と、17年間で約4分の1に減少してしまったのです。ただ、同誌の休刊は、新聞業界全体の動向を予言しているように思えてなりません。早ければ数年後にも、紙媒体の新聞の休刊ラッシュが生じる可能性は十分にあるからです。2023/01/19 14:15追記図表1が誤っていましたので差し替えています。朝日新聞の部数推移(朝刊、夕刊)『過去17年分の朝日新聞部数推移とその落ち込みの分析』では、...
週刊朝日が5月末で「休刊」へ:新聞業界の今後を示唆 - 新宿会計士の政治経済評論

セグメント売上高を部数で割ってみると…?

さて、そのついでに、せっかくなのでもうひとつ、こんな図表も紹介しておきましょう(図表4)。

図表4 株式会社朝日新聞社・朝刊1部あたりの新聞等事業売上高(月間)

(【出所】株式会社朝日新聞社の過年度有報をもとに著者作成)

ここで「部数あたりセグメント売上高(月割り)」とは、新聞等事業のセグメント売上高を朝刊部数で割った数値を、さらに12ヵ月で割ったものです。

この図表4は、分析としては若干乱暴です。株式会社朝日新聞社の新聞事業には朝刊だけでなく夕刊、週刊朝日などの売上高、広告収入なども含まれているはずだからであり、こうした要因を無視して単純に部数だけで割るのは少しざっくりしすぎているかもしれません。

ただ、それでも株式会社朝日新聞社の収益構造を見るうえでは参考になります。株式会社朝日新聞社の新聞事業にとって、朝刊部数が重要であることは間違いないからです。

ここで気になるのは、2006年3月期に朝刊1部当たり5,828円だった売上高が、直近の22年3月期においては4,375円に下がっていることです。

たしか朝日新聞は21年7月に、朝夕刊セット版を4,037円から4,400円に、統合版を3,093円から3,500円に、それぞれ引き上げていたはずです。それなのに、22年3月期の1部あたり売上高は、前期と比べて上昇していません。むしろ低下しています。

なんとも不思議な現象もあったものです。

結局のところ、考えられるとしたら、「新聞の購読料値上げが新聞の広告単価の下落で相殺された」、といったくらいのものしかありません。

実際、「埼玉県民」様という読者の方が読者コメント欄で、2022年における新聞1部あたりの月間広告費が2000年と比較してほぼ半減したとするデータを書き込んでくださっていますが、このことは、新聞の広告媒体としての魅力が低下していることを数字の上で裏付けている証拠といえるのかもしれません。

なぜ宅配を止めないのか

宅配を止めたら消費税率が上がる

さて、株式会社朝日新聞社ですらこういう状況なのですから、経営体力の弱い新聞社の状況など、推して知るべし、です。

以前からしばしば指摘している通り、「固定費・変動費」分析の観点からは、経営上は固定費が賄えなくなった時点でその事業を休止することが勧告されます。売上高が損益分岐点を割り込んでしまえば、事業を続ければ続けるほど赤字になる、という状況に陥るからです。

新聞業界全体で見れば、朝刊は13.98年以内に、夕刊は7.68年以内に、それぞれ消滅するという計算ですが、現実にはその前の段階で損益分岐点を割り込み、休刊、廃刊ないし「倒産」に追い込まれる新聞社が続出するであろうことが想像できます。

それに、新聞の部数が減り過ぎれば、宅配網すら維持できなくなりそうなものです。

ただ、新聞社は現時点において、あくまでも「紙媒体」の「宅配」に拘っているように見受けられるのですが、その理由はいったいどこにあるのでしょうか。

ヒントのひとつが、消費税の軽減税率かもしれません。

国税庁のQ&Aによると、新聞に対して軽減税率が適用されるためには、その契約が「定期購読契約」――、すなわち「その新聞を購読しようとする者に対して、その新聞を定期的に継続して供給することを約する契約」であることが必要です。コンビニや駅売りの新聞には軽減税率は適用されません。

また、電子版だと軽減税率が適用されません。軽減税率の適用対象となる「新聞の譲渡」に該当しないからです。

Q:インターネットを通じて配信する電子版の新聞は、軽減税率の適用対象となりますか。

A:軽減税率の適用対象となる「新聞の譲渡」とは、一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する新聞(1週に2回以上発行する新聞に限ります。)の定期購読契約に基づく譲渡をいいます(改正法附則 34①二)。

他方、インターネットを通じて配信する電子版の新聞は、電気通信回線を介して行われる役務の提供である「電気通信利用役務の提供」に該当し、「新聞の譲渡」に該当しないことから、軽減税率の適用対象となりません(消法2①八の三)。

だからこそ、「紙媒体」の「宅配」でなければ消費税の軽減税率の恩恵が受けられないのであり、その意味で、新聞社としてはなかなかに「宅配事業を止める」、「紙媒体の発行を止める」という決断がし辛いのだ、と考えるのは、うがちすぎでしょうか?

決断が遅れるほどダメージも大きくなる

もっとも、くどいようですが、紙媒体の新聞に未来はありません。

常識的に考えたら、高価な輪転機を使い、大量のロール紙と労働力を消費して作成した新聞紙を、地球温暖化ガスを撒き散らしながら人力で各家庭・各事業所に配るというビジネスモデル自体が破綻しています。ネットだと通信費以外のコストがほぼかからないうえ、速報性でも敵わないからです。

常識的に決断するならば、まずは紙媒体の新聞事業からの段階的・計画的な撤収と販売網などに対する廃業補償金の支給、新聞社の人員のリストラクチャリング、ウェブ媒体への移行などを進める以外に、新聞社が生き残る手段はほとんどありません。これはわかり切っている話であり、あとは決断の問題です。

そして、新聞社の経営陣がその「決断」を先送りすればするほどダメージは大きくなります。

あるいは、すでに一部の新聞社はそれを実施するだけの体力すら残っていないのかもしれませんが…。

新宿会計士:

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  • 毎度、ばかばかしいお話しを。
    朝日新聞社長:「新聞記者あがりの自分の役割は、経営することではなく、記者仲間の和を守ることだ。これまでもこれで上手くいっていたので、これからもこれで上手くいくだろう」
    ありそうだな。

    • 朝日新聞に限らず、21世紀に入ってからのマスコミの試行錯誤ぶり
      (と言うか、その欠如)を観察してみると、実際にそういう思考だろうと思います。

      一応ネット上でニュースを配信してはいるものの、それが収益化に繋がらないのに
      なーんにも手を打たない。変更報道や不祥事に対する反応速度はひたすら
      隠蔽と無視の方向にだけ尖らせる。物凄い勢いで売上高も影響力も
      落ちているのに、緘口令の存在を疑いたくなる程ほとんど話題にしない。

      「自分が引退するまで持てば良い、それ以外の事を考えたら自社からも
      同業他社からも潰される、良い事なんて一つもない」
      これが朝日新聞に限らず、今のマスコミ界隈の幹部の基本思考ではないかと。

  • >正直、日本の新聞社が人々から見放されているのは、「スマホやネットが普及したから」ではなく、「スマホやネットが普及したことで、日本の新聞の報道の酷さが人々の目にも明らかになったから」、ではないでしょうか。

    新聞記事の見比べのし易さは、会員登録無しでどの程度記事が読めるかどうかに依存し、特に社説は其の新聞社の価値観を広く知らしめる大事な記事だと考えています。

    各紙の社説を見るとほぼ公開記事なのですが、…

    朝日新聞
    https://www.asahi.com/rensai/list.html

    読売新聞
    https://www.yomiuri.co.jp/editorial/

    毎日新聞
    https://mainichi.jp/editorial/

    日本経済新聞
    https://www.nikkei.com/opinion/editorial/

    産経新聞
    https://www.sankei.com/column/editorial/

    東京新聞
    https://www.tokyo-np.co.jp/n/column/editorial

    個人的にATM+と置いている神奈川新聞(カナロコ)は会員限定記事になっています。

    神奈川新聞
    https://www.kanaloco.jp/special/discourse/editorial

    ちなみに、投票日前にコラボ問題を追及する浅野議員の落選運動的な記事を出す新聞。
    https://twitter.com/asano2370/status/1644502002637107201

    • クロワッサンさま
      いつも興味深い情報ご提供ありがとうございます。

      それにしても
      神奈川新聞の今回の記事はひどすぎますねえ。
      まあ、過去にも、
      特定候補者に過度に肩入れした記事や不祥事など
      検索するとボロボロ出てきて
      アジビラのようだと感じます。

      • >神奈川新聞の今回の記事はひどすぎますねえ。

        今回の記事“も”ですね(-_-;)

        朝鮮学校をまともな学校としてガチで考えていたり、川崎などの被害者コスプレ集団を一方的に擁護したり、色々反社会的報道をしてますから。

  • 宅配制度で思い出しましたが、読売新聞は 「新聞奨学生」 を確保するために、グループに専門学校まで持ってるんですよね。

    学校法人 読売理工学院 | 東京, 専門学校
    https://www.yomiuririkou.ac.jp/gakuin/

    学費・奨学金 | 読売理工医療福祉専門学校
    https://www.yomiuririkou.ac.jp/guide/scholarship.html#yomiuriikuei

    学費・奨学金 | 読売自動車大学校
    https://yccm.ac.jp/enroll/scholarship.html

  • 毎日新聞が、本因坊戦の経費を削減しました。
    タイトル賞金が、おおよそ三分の一になり、
    二日制7番勝負が、一日制5番勝負にないます。
    挑戦者も、リーグ制も廃止し、トーナメント制です。
    序列も3大タイトル(大三冠)から、底辺タイトルへ降格。
    予想されていたとはいえ、寂しい。

  •  新聞が情報源として頼られていたのは事実かと思いますが、信頼されていた、尊敬されていたかというと、かなり疑問があります。捏造事件は昔から枚挙に暇がありませんし、立場の違いによる憎悪犯罪の対象にもなってきました。やたらと煽り立てに奔る性質や、時事の伝達よりも政治的主張が色濃かった証左でもあります。

     まだ実家でTV視聴をしていた頃、NHKの朝ドラ…とと姉ちゃんだったかな、中盤のエピソード。
     人々の暮らしのために雑誌刊行をする主人公が家電レビューをやって好評を得る中、酷評されたメーカー社長に絡まれ、その買収だなんだとの難癖を鵜呑みにした新聞記者が執拗にウザ絡みしてきて正義ヅラの大上段から「お前の悪事を暴いて見せる!」みたいなことをしてくる。結果は誠実なレビューだったと証明され、社長は会心し良いものを作って後に感謝される……という勧善懲悪大団円エピソードですが。新聞記者は「自分の暴走でした申し訳なかった……」などとは言いません。演者は石丸幹二でキザに事実を認め去っていく……みたいな感じにされています。
     フィクションを歴史の証拠とするのはアホですが。とはいえ「新聞記者像」は正義の暴走を好き勝手にやる存在として、製作者は描写して視聴者は納得しちゃう、そしてそれをメディア自身がやっているのだから自覚あるんやな、と呆れた覚えがあります。
     誰も「こんな悪い記者なんているはずない」「記者様はこんな間違いを犯さない」とか思わないわけですから。

     あ、イソコの映画はさすがに観ていませんが、あちらはさぞかし美化されているのでしょうね。

  • 消費税は、顧客からの預かり総額から自身の支払額を差し引いて納付するもの。
    本来は軽減税率対象だからといって企業収支に恩恵のあるものではないのかと。

    軽減税率の導入時に限り、「顧客負担の軽減効果」はあったのかもですが、一度値上げされてしまえば、顧客を引き留める効果(値ごろ感)は消えます。

    よく考えれば、新聞社から新聞販売店への卸にかかる税率は10%。
    軽減税率の適用で生じる税務効果は、『簡易課税適用販売店での納税負担増』くらいなのかもですね・・。

  • 朝日新聞が紙だろうと電子媒体だろうと、その報道姿勢が変わらなければ衰退はしていくと思います。現在のネットでの不評ぶりを見ればわかります。
    記事のいいねは一般人以下です。
    朝日新聞出身者で固められた日本ファクトチェックセンターも、ネットでデビューしたけど惨憺たる状況ですが、それは内容がどうしようもないからと思います。

    • ネットで 「朝日」 の名前を隠してやっている 「ハフポスト」 「バズフィード」 「ウィズニュース」 などのニュースサイトもそうですね。Twitter社がトレンド操作をやめたら、ツイートの表示回数や閲覧数も激減 したし (笑)。

  • 教えてください。
    改正法附則 34①二では、「一般社会的事実を掲載する新聞」のみが
    軽減税率の対象になるようですが、捏造や極端に歪曲した記事を掲載
    する新聞には、軽減税率の適用を行うことができないのではないでしょうか?
    一般国民が声を上げて、税務当局に情報提供あるいは意見を伝えることで、
    13年の予測期間をもっと短縮できれば素晴らしいことだと思います。

    • 新聞社『俺様が一般社会だ!』でおしまいかと。

      もっとも、軽減税率が8%であろうと5%であろうと、はたまた0%でも当該業界の苦境は変わらず、通常税率との差が大きければ大きいほど世間の見る目は冷たくなるでしょうから、別段、何%でもいいのでは?と私は思います。

  • 新聞、テレビ(ラジオ)は詰んでます。
    特に新聞は偏向報道が多く、老人のみの(あるいは一部既得権のある人)読み物です。私は比較的、早く脱却出来て良かったなぁと思います。月に4,000円も他の事に使えるのは嬉しい!

    テレビは世人のおもちゃ箱・クジみたいになってますが(ただし、スカしか入ってない)、10〜30歳代の若い層は見ませんね。当然だと思う。内容無く、何の為にもならず、ただ眼と耳に悪いだけ(笑)。タブレットかスマホを触っている方がしあわせです。

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