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病院の待合室から「消えたもの」

近所のとある病院を訪れると、「とあること」に気づきます。待合室から新聞、雑誌などの紙媒体が消えてしまったのです。きっかけはコロナ・武漢肺炎の流行ですが、おそらくその病院では、「新聞、雑誌自体を撤去してしまってもとくに苦情はない」と判断し、恒常的に撤去したのではないでしょうか。

起業したばかりの事務所に怪しいメールが…

東京の繁華街の片隅で、怪しげな事務所が開設された。山手線の駅名を冠した自称会計士が起業したのだ。すると、それを待っていたかのように、開業したばかりのその事務所の代表宛てに、ある日、こんなメールが届いた。

To: <info@shinjukuacc.com>

From: ▲▲社 山田<yamada@XXXX.jp>

Subject: ホームページを見てお問い合わせ致しました

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XX事務所 代表者様

拝啓 時下、益々ご健勝のこととお喜び申し上げます。▲▲社の記者で山田と申します。

今回、御社代表者様に、弊社の出版する『★★★★』の新設企業特集にご登場いただきたく、ご連絡させていただいた次第でございます。今週末の金・土に10件ほどを訪ねる予定です。その際、ミュージシャンの●●●●氏にインタビュアーになって頂き、一般目線から質問するという形式です。詳細についてはお電話で直接お話できればと思いますので、宜しくご検討いただき、ご一報いただければ幸いです。

「ミュージシャンの●●●●氏」!

●●●●氏といえば、1980年代、全国的に大人気を博したロックバンドのサイドボーカルだ。そんな有名人に会えるというのも、なんとも凄い話である。

実際、この「▲▲社」は確かに毎月、この『★★★★』という雑誌を発行しており、いちおう、全国の有名書店などでも販売されているようだ。ご丁寧なことに無料のウェブ版まである。

起業したばかりの怪しい自称会計士にとっては、渡りに船だ。

そこで、メール末尾に記されていたコンタクト先に電話すると、そこの担当者は、こんなことを言う。

この『★★★★』は、書店で販売されているだけではありませんよ。銀行や病院でも置かれていて、好評を博しているんです。きっと御社の近所の銀行や病院でも、この雑誌を見かけると思いますよ?

そこで自称会計士は喜んで、金曜日の取材を受けることにしたのだが…。

それでは、取材手数料として、当日、税込み5万円を現金で支払ってください」。

自称会計士は少し怪訝に感じたが、それでも「雑誌に紹介されるんだ!」というワクワク感で高揚。

この自称会計士、当日取材にやってきたミュージシャンの●●●●氏と握手し、一緒に写真に納まり、なんとなく納得できない思いをしつつも、それなりに満足するのだった…。

取材商法

上記のエピソードは、あくまでもフィクションですが、著者自身の実体験をもとにしたものでもあります(現実には、著者自身は取材を受けなかったのですが、今になって思えば、「ネタ」のために、取材を受けてみればよかったかな、という気もします)。

わけのわからぬ取材はスルーが吉』などでも指摘しましたが、この手の起業した直後の会社を狙い、落ち目の有名人あたりをインタビュワーに起用し、「取材」と称してカネを集めるようなやり方のことを、一般に「取材商法」と呼びます。

「取材」と聞くと、あまり良い思い出がありません。たいていの場合、取材を受ける側は手間ばかりかかり、宣伝効果もなく、徒労に終わるからです。こうしたなか、本日は「取材」について、いくつか興味深い話を紹介したいと思います。前半ではマスメディアの取材、そして後半では起業するとひっかかることがおおい「取材商法」を取り上げます。本日の教訓は、「わけのわからぬ取材はスルーが吉」、です。テレビ局「謝礼出さないけど取材させて」昨日、ツイッターでこんなつぶやきを発見しました。とあるTV局からいきなり「謝礼も取材費...
わけのわからぬ取材はスルーが吉 - 新宿会計士の政治経済評論

よく「詐欺師は相手に考える時間を与えない」といわれますが、この取材商法、まさにその典型例です。この取材商法を行っている業者は複数存在するようですが、その共通点としては、唐突に電話やメールでコンタクトを取り、数日後を指定して取材を申し込む、というものです。

もしも「その日は都合が悪い」と断ると、それっきり連絡はありません。また、取材を受ける側が数万円の「取材手数料」を支払わなければならない、というのも共通しています。

こうした取材商法自体が違法だというわけではありません。いちおう、雑誌自体は本当に全国の書店で販売されており、「全国の書店で販売されている雑誌に紹介する」という触れ込み自体は、まったく間違っていないからです。

ただし、そんな雑誌、全国で大して売れているというものでもないでしょうし、実際には数万円の手数料に見合った宣伝効果があるとも考えられません。

まったくうまいビジネスを考えたものです。

近所の銀行や病院に行ってみると…?

もっとも、起業した当時、現実に近所の病院の待合室でマガジンラックを眺めてみたところ、その雑誌を見つけることはできませんでしたが、それでも『週刊ダイヤモンド』や『週刊東洋経済』、あるいは女性週刊誌などと並び、微妙な雑誌がいくつか並んでいたのを記憶しています。

銀行や病院などのように顧客を待たせる施設だと、さまざまな客層に合わせ、たとえば小児科に近い待合室には絵本が、高齢者が多い待合室には健康雑誌などが置いてありました。『★★★★』についても、もしかしたらどこかの病院の待合室には置いてあったのかもしれません。

ところが、先日、その近所の病院を再度訪れたところ、驚く変化がありました。

マガジンラック自体が、撤去されていたのです。

新型コロナウィルス感染症の影響なのか――。

これについて、受付のおねいさんに尋ねてみたところ、やはり想像通り、マガジンラックが撤去されたのはコロナ・武漢肺炎の影響だったのだそうです。また、同じ理由で新聞スタンドについても撤去されてしまいました(テレビは大音量で点けっぱなしでしたが…)。

つまり、コロナは病院の待合室で、新聞・雑誌に大打撃を与えたのです。

「無くても困らないなぁ…」

もちろん、マガジンラックが撤去されたことで、不便を感じる人は多いでしょう。

たとえば、小さなお子様連れの方であれば、長時間待たされるのに耐えられない子供をなだめすかすための手段として、アソパソマソだ、ドラエモソだ、あるいは最近流行のプソキュアだのといった絵本があると便利ではあります。

しかし、その待合室を眺めていると、お年寄りが多い病院であるためでしょうか、少なくとも絵本を読みたそうな人は皆無であり、それどころか最近は高齢者も含め、大勢の方がスマートフォンなどのモバイルデバイスを一心不乱に見つめています。

受付のおねいさんいわく、最近だと高齢者の方であっても、モバイルデバイスをお持ちの方が大変に多いのだそうであり、武漢肺炎の影響でマガジンラックを撤去する際にも、ほとんど苦情はなかったのだそうです。病院にとっては経費節減にもつながったことでしょう。

また、注意深く眺めてみると、大音量で点けっぱなしになっているテレビについても、やはり見ている人は皆無に近いようです。テレビについては院長先生の方針もあり、当面撤去する予定はないとのことですが、それでもちなみに受付のおねいさんいわく、「テレビがうるさいので消してほしい」という要望も、最近増えてきたのだそうです。

もっとも、せっかく大型のテレビを設置する場所があるのだから、もしかしたら将来的には業務用の「チューナーなしテレビ」に入れ替えるという可能性はあるでしょう。デジタルサイネージ的にも使えますし、それこそ病院の案内や、病院のオリジナルコンテンツなどを流すこともできるからです。

このように考えたら、この10年弱で、世の中は本当に大きく変わったものだと思う次第です。

…ということは、くだんの「取材商法」も、あり方が大きく変わるのでしょうか?

これについては調べてみてもおもしろいかもしれない、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (17)

  • 素朴な疑問ですけど、もし新型コロナがなかったら、病院の待合室から雑誌類を撤去することは、出来なかったのではないでしょうか。なにしろ、そのことで苦情が来る心配があったのですから。
    (もし、新型コロナが完全に収束した後、「病院の待合室に雑誌を戻せ」という五月蠅いクレーマーが一人でもいたら、雑誌は復活するのでしょうか)

  • かつて通院していた病院では、なぜか決まって国会中継が映っておりました。

  •  自分が子供の頃に読んだ記憶のある絵本なんかあるとテンション上がりますね。

     あ、新聞は結構です。

  • 更新ありがとうございます。

    今回のコロナ禍で様々なものが「無くても困らないもの」と認識された例が多々あると思います。

    多くの人々が「触って」使いまわすマガジンラックの中身などはその一つかと感じます。人件費なども要因としてはあるでしょうが、無人レジや店員が直接硬貨などを触らないコンビニの半自動レジも同じ脈絡で増えたような気がします。

    逆に「役に立つもの」が残ったのでしょう。時代の後押しもありますが携帯端末はその一つかと思います。買い物繋がりだと「買い物カゴ」がまだ多数残っています。

    もっとも通販等の影響で実店舗自体が無くなってしまった場合もありますが。ともかく大勢の人々にとって利便性のないものを認識する機会にもなったと感じました。

    今回の記事の例にならうと、
    公共スペースでの紙媒体のメディア<<<買い物カゴ
    といったところでしょうか(笑)。

    これは一例にすぎません。

    社会にとって「無くても困らないもの」について、あらためて考える機会になったことが大きいと考えます。

    • リモート会議とリモートワークが増えました。職種や会社の規模、会社のポリシーによって程度の差はあると思いますが。
      裁判手続き(弁論等)でもリモート化が導入されつつあります。国会も採決以外はほとんどリモートでもよいような気が。。

      • KN様。コメントありがとうございます。

        >リモート会議とリモートワーク

        ご指摘のように体験した人も増えました。今後は更に増加すると考えています。

        セキュリティさえ整えることができれば、国会の採決すらリモートで構わないようになるかも知れませんね。

        会議そのものは、おっしゃる通りだと思います。。

  • 日本共産党が運営?している民主病院に「赤旗」は有るのかしら?
    それとも撤去されたのかしら?
    売り上げが激減している「赤旗」を撤去できるか民主病院。

  • 病院どころか駅のキオスクからも近所のコンビニからも新聞雑誌類が撤去される日も近いんじゃないでしょうか。先日予約無しで行った大病院の待合室に吊るされていた2台の大モニターには、お揃いのユニフォームを着て野球をやってる高校生らしき人々が映っていたのをおぼろげながら覚えているのですが、音声がミュートされていたこともあって、私以外の主に歳とった待ち人たちも手元のスマホに夢中になっていたように思います。ちなみに私はスマホではなく「組織再編の申告調整ケース50」などというなんだかやけにむづかしい書籍と格闘していましたので、もちろん大モニターを見ている余裕はありませんでした。まあ1時間ほど読んだところで受付の女性に後どれくらい待てば私の受診の順番が回ってきますでしょうかと尋ねたところ、そうですねえ、午後の3時位になるかもしれませんと言われて腕時計を確認すると短針が11のところを指していましたので、その日は諦めて帰ってきました。やっぱり大病院は予約を入れてから行ったほうがいいみたいですね。ところでテレビですが、私は随分前からテレビ受像機はそのうちNHKがタダで配るようになると言って回っていたのですが、そのような気の利いた商売をするケハイはありませんね。未契約者に2倍も3倍も受信料を請求するような悪徳商売をやるくらいなら、ケータイをタダ同然で配って通話料で回収するというスキームをNHKも真似るなりして(受)信者を増やすのが真っ当な放送商売のやり口だと思うんですがねえ。新聞社もキオスクでスマホをタダで配って、そこに有料記事を配信するサービスとかを始めれば、新聞離れを少しは遅らせることができるかもしれませんねえ。もっとも世の新聞紙離れはもう止めようがないとおもいますけどね。毎朝毎夕新聞を配っていた新聞奨学生時代が懐かしいです。

  • ド田舎のクリニックも全く同じ光景です。
    前期高齢者はスマホで何やらしており、後期高齢者は何もせずじっとしている感じで、だれもテレビを見ていませんね。

  • だいぶ昔の話になりますけど、飲食店に取材の電話をかけると「ウチはそーいう予算ないんで」って断ろうとしてくる時期がしばらくありました。
    ○○ウォー○ーとか東京○週間とかが全盛だったSNS以前の時代です。当時いろいろ裏取っていくと「編プロ」の存在が浮かび上がってきました。雑誌媒体に対して企画を売り込んで、それが通ると取材先から謝礼を受け取る形で取材申し込みをする(もちろん出版社からもページあたりいくらのギャラをいただく)。
    そういうのって長続きしない側面もあるのですが○クルート形の雑誌などはけっこう長いことソレありきで回っている印象でした。
    いまだに「奥渋(東京渋谷の奥のほう)でこんな店が流行っている」などの情報は、だいたい他の店で1発(や2発ほど)当てたオーナーによる新機軸の店という傾向があり、週末には遠くから来た人たちで行列ができます。概ね不味くもないけど安くもありませんw
    みんなインスタやツイッターで情報を得て、インスタやツイッターに上げるために訪れているという印象です。
    おそらく経済系の媒体でも似たようなことがあってしきりに行われていて(というのは裏の取れていない個人的な感想ですが)、まぁこの株を買えとかニーサがどうしたこうしたなんてのは(知ってる人が書いてても)鼻で笑うことにしております。

    • 感覚的にはとても腑に落ちる経済モデルですね。

      暇とか見栄を交換価値にした自転車操業に思われます。

      一般論的になりますが、東京文化圏ではそこそこ盛況ですが関西ではあんまり流行らないような。

      「見た目はアカンけど食ったら美味い」
      系の店を東京で見たことないですから。
      逆に言えば、東京の人たちは自分の舌で判断せず世間体でメシ食ってる訳ですね。

      • レスありがとうございます。
        東京でも「行列しているのは本当に東京の人か?」という命題は常にあるのですが、それは言っても仕方がないですね。
        奥渋で有名になった店が郊外や地方に(例えば出張先の福岡の地下街にも)出店しているというような図式は今でも見受けられますw
        が、少なくとも広告費をむしり取る形での飲食店取材というのは食べログに取って代わられたという印象です。Amazonのレビューもそうですが割り引いて見るという姿勢が大切なのと、割り引かない人々が一定数以上いるというのは如何ともしがたいですねーw

  • 鉄道会社はコロナ前から 「テロ対策」 を口実に、ホームからゴミ箱を撤去してしまったところが多いですね。本当の理由は経費削減でしょうが、ゴミ箱がなくなれば、読み終わった雑誌や新聞を捨てることができなくなるので、それで雑誌や新聞を買うのをやめるサラリーマンも少なからずいたのでは?

    • わたしの通勤経路上の駅ですが、既にコロナ前から、開口部を追加工して一般ゴミ用に改造したもの、新聞雑誌専用を廃止して一般ゴミと共用にするなどの変化がありました。
      さらに、コロナ禍で少なくなった通勤客がゴミ箱跡地を前に「オレは何のために金を払って"数十分で捨ててしまう紙"を買っていたのだ?」と我に返る.....確かにありそうです。

    • オウムの影響が圧倒的でしたね。その後も復活の兆しがあってもすぐまたテロ対策の名の下に撤去されたという印象。911とか。
      ゴミ箱が無くなるたびに、あれ?またテロ情報でも流れたのかな?なーんて思いつつ、実態は経費削減というきらいもあっただろうことは同意します。

      電車の中を見渡すと、東スポも少年ジャンプも見かけなくて多くの人がスマホ。たまに文庫や新書や参考書を開いている人がいて、よく見るとそれが図書館の本だったりしますねー

  • 殆どといってよいほど病院から雑誌・新聞が無くなりましたね。
    病院で見る女性誌の「今月のコーデ」に記載している
    ポエムの愛読者だったのに、残念です。
    あれ、服とか小物の値段も記載しているのですが
    こんな服が〇万円と驚く事が好きでした。
    OLさんて、お金持ちなんですね~。

    自分が普段読まない雑誌を読む事ができて、こういう感性も
    あるのだと認識できる手段でしたが、コロナ騒動の
    影響で無くなったのは残念です。(但し、雑誌だけ)

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