『FACTA』のオンライン版は1日、朝日新聞が現在4,400円の月ぎめ購読料(朝夕刊セット)を、5月から4,900円に値上げすると報じました。これが事実だとすれば、2年弱で2回目の値上げです。そして、最大手の一角を占める朝日新聞が値上げするということは、こうした動きは恐らく他紙にも及ぶことでしょう。そうなると、新聞部数はどうなるのでしょうか?
目次
紙媒体としての新聞は「滅びゆくメディア」
紙媒体としての新聞は、「滅びゆくメディア」といえるかもしれません。
『新聞朝刊の寿命は13.98年?』や『新聞夕刊は7.68年以内に消滅』などでも議論したとおり、新聞の朝刊は早ければ15年以内に、夕刊に関してはもっと早く数年以内に、紙媒体での発行が絶滅しかねない状況に追い込まれているからです。
ただし、メディアによってはそれよりも早いタイミングで、部数がゼロになってしまうケースもあるでしょう。
実際、『朝日新聞が6年後に消滅?新聞業界に捧げる「処方箋」』などでも議論したとおり、最大手である主要全国紙に関しては、直近の部数減少のペースが続けば、下手をすると10年を待たずに部数がゼロになってしまうという可能性もあるからです。
主要全国紙5紙の2023年1月度の「ABC部数」は、朝日新聞が379.5万部で、62.4万部も減少したそうです。これが事実なら、減少率に換算すれば14.12%、このペースで減少が続けば6.08年後には部数がゼロになってしまう計算です。もちろん、部数の減少速度は新聞社によってまちまちですが、それでも紙媒体の新聞の未来はありません。もし生き残りを図るのならば、新聞社の経営者ならば「いま」決断する必要があります。朝日新聞は「6年後に消滅」?最新ABC部数と「前年比減少数」『MEDIA KOKUSYO』というウェブサイトに昨日付けで、... 朝日新聞が6年後に消滅?新聞業界に捧げる「処方箋」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
固定費を賄えなくなれば、新聞発行はできなくなる
このあたり、例の「損益分岐点分析」の議論を持ち出すまでもなく、もしも経営者が合理的な判断を下すのであれば、部数がゼロになる前の段階で、休刊ないし廃刊を決断するはずです。紙媒体の新聞を製造するためのコストはバカにならないからです。
新聞を生産するためには、①新聞に印刷する「情報」(つまり新聞記事)を作るという工程と、②それを物理的に印刷するという工程、そして③刷り上がった新聞を読者の元に物理的に届けるという工程があります。
たとえば、新聞を1部売れば新聞社の売上が10,000円(購読料4,000円、広告収入6,000円)であり、原価が①~③の部分でそれぞれ2,500円ずつだったと仮定します。この場合、新聞を1部売っても新聞社に残る粗利益は2,500円(=10,000円-7,500円)です。
しかも、新聞は典型的な装置産業であり、新聞を製造するコストは、新聞が売れる部数と比例しない部分も多々あります。たとえば、新聞印刷工場の設備投資は、新聞が売れる部数に関係なく必要ですし、新聞が売れなくなってきても、一定の宅配網を維持する必要があります。
ある新聞社にとって毎月の固定費が20億円(新聞工場にかかる減価償却費、本社管理部門の経費など)、新聞1部にかかる毎月の売上が10,000円、変動費が6,000円だったと仮定すれば、この新聞社は最低でも新聞を50万部売らなければ固定費すら賄えません。
50万部とは、固定費20億円を、新聞1部の粗利益4,000円で割って求めた数値です。
売上高を増やすための値上げ
こうしたなか、部数が減ってくれば、新聞社としてはまずは固定費を削減しようと努力するはずですが、もうひとつ考えられるのが「売上高を増やす努力」であり、具体的には新聞の販売価格の引き上げです。
これに関連し、雑誌『FACTA』のウェブ版に土曜日、気になる速報が出ていました。
朝日が5月1日購読料値上げ/朝夕刊セット月4900円/毎日、産経も追随か/読売は据え置き/by井坂公明
―――2023/04/01 12:00付 FACTA ONLINE『号外速報』より
※情報をご提供くださった「元ジェネラリスト」様、大変ありがとうございました。
FACTAによると朝日新聞が5月1日より、現在の朝夕刊セットの月額購読料を500円引き上げて4,900円に設定するのだそうです。この報道が事実ならば、前回の値上げ(『朝日新聞の購読料値上げ、経営学的にどう考えるべきか』等参照)から2年弱で、再度値上げに踏み切ることになります。
このインターネット社会において、ビジネスモデルとして破綻しつつあるものの典型例は、新聞でしょう。高い購読料を支払い、ネットと比べて明らかに古い情報が記載された重くてかさばる紙媒体が届くのですから、よっぽどチラシが好き、地元の訃報ネタが知りたい、といった需要でもない限り、わざわざ新聞を購読するメリットがあるのかどうかは疑問でもあります。こうしたなか、ある新聞が購読料を値上げすると発表したようです。生物も経営学も同じようなもの?社会人になって以降、とある理由があって、高校の生物の教科書を読む機会... 朝日新聞の購読料値上げ、経営学的にどう考えるべきか - 新宿会計士の政治経済評論 |
一方、FACTAによれば、読売新聞は購読料を「向こう1年間据え置く方針を明らかにしている」のだそうですが、最大手の一角を占める朝日新聞でさえ値上げを決断するわけです。これまでの新聞業界動きから想像するに、遅かれ早かれ、こうした動きは他紙にも波及するのではないでしょうか。
このあたり、昨今の原料費高騰で、値上げはやむを得ないという側面があることは間違いありません。これに加えて市場が伸びている時期などであれば、こうした「価格の引き上げ」は、「新たな顧客層を開拓すること」、「新しい媒体を創設すること」と並び、売上高向上戦略としては有効です。
逆風下での値上げは何をもたらすのか
しかし、こうした戦略が、現在の局面においても有効であるとは限りません。冒頭でも指摘したとおり、現代ではむしろ新聞業界自体に猛烈な逆風が吹いており、紙媒体の新聞自体が年々、すごい勢いで減っている状態にあるからです。
こんな状態に追い込まれたのであれば、たとえば有料のウェブ媒体を開発し、ウェブ会員を増やそうと努力したとしても、新聞部数自体の減少に打ち勝つことは難しいかもしれません。ウェブ媒体が売上の柱になるまで、時間がかかるでしょう。
したがって、現実に新聞社にとっては「売上を増やす」ためにできる努力は限定的であり、ウェブ戦略も「焼け石に水」状態となるのが関の山です。こうした状態で新聞価格の引き上げを決断することは、短期的には増収となるかもしれませんが、結果的には部数の落ち込みをさらに加速させる可能性が濃厚です。
FACTAの報道が事実なら、月額の購読料をぎりぎり5,000円以内に抑えることにした、という苦渋の決断が透けて見えるのですが、それにしても、毎月4,900円を支払って前日の情報が届くという「サブスク」に、消費者がいつまでもカネを払い続けるとも思えません。
新聞社に必要なのは「紙媒体からの撤退」という「決断」では?
もちろん、新聞社によっては不動産などの優良資産をもとにした不動産事業で儲けているケースや、宗教団体の機関紙、外国政府の宣伝などで稼いでいるケースもあるやに聞きますし、産経新聞のようにウェブ媒体が大きく伸びる可能性がある、というケースもあるでしょう。
しかし、一般論として「新聞社の経営」という観点からは、経営体力が残っているうちに、紙媒体からの撤退を決断するのが正解ではないかと思えてなりません。
もしも経営体力が残っているのならば、自社の印刷工場を閉鎖して整理解雇を行うとともに、全国の宅配網を支えている専売店にも廃業に伴う一定の補償を行うだけの原資も捻出できるでしょうし、経営を大幅にスリム化すれば、ウェブ会員獲得戦略に特化していくのも楽になるはずです。
しかし、決断が遅れれば遅れるほど、こうした経営体力自体が削がれていくことになります。しかも、運が悪いことに、新聞紙の材料となるロール紙を含め、現在、日本全体でさまざまな物価が上がり始めており、その影響からは、新聞社も逃れることが難しいようなのです。
正直、新聞を「製品」として見るならば、新聞をウェブ化すれば、「①情報そのもの」と「②その情報を物理的に印刷する紙」、「③印刷された紙を消費者に送り届ける工程」のうち、②と③の工程を大幅に合理化することができるうえ、新聞用のロール紙の価格上昇など関係なくなります。
もっとも、問題があるとしたら、新聞のウェブ版で有料読者の獲得が難しい、という点かもしれませんが…。
いずれにせよ、FACTAの報道に関しては、とりあえず続報を待ちたいと思う次第です。
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フフフ
楽しみですね
素朴な感想ですけど、(新聞業界以外の)逆風な業界が一斉値上げしたら、朝日新聞は徹底的に批判する記事を書くのではないでしょうか。
オールドメディアが 「悪い円安!悪い円安!」 と連呼していた理由はこれですね。
日本経済全体に対してではなく、自分たちの業界にとって 「悪い円安」 だったと。
自己批判、総括、内ゲバ、集団リンチ。今蘇るまがまがしいサヨクの王道を想起しました。
検索してみますと
https://33.asahi.com/apply/w/order/?cmpn_cd=000000
にあるように現在は4400円と言うことですから、値上げ報道は事実かもしれません。
朝日の将来性が危惧されてますが、値上げによって離れる読者はそう多くはないように思います。朝日以外は嘘を報道することは少ないですが、固定読者としてはそんなことはどうでも良く、ステータスとして新聞を取っているという満足感だけ味わっており、記事の内容まで踏み込んで読んでいるわけではないのかもしれません。
私もかつてはそのような新聞の取り方をしており、親が朝日だけを取っていたので、私自身も物心ついて以来、惰性で朝日以外の新聞を取ったことがありませんでした。
しかし、嘘を何の検証もせずに報道して南朝鮮からの強請り、タカリに日本国をさらしていいるの目の当たりにするに至ってはあきれてものも言えず、インターネットの普及で紙の新聞を見なくても無料で主要なニュースを見ることができ、どうしても紙の新聞が見たいなら図書館に行けばいつでも最新の紙の新聞が見られるし、宅配を止めれば数万円の現金が手に入るので本代に苦労する必要もないことから馬鹿馬鹿しくなって紙の新聞を取ることを止めてしまいました。
しかし、現状で紙の新聞を取っている人々は自分のステータスとして満足しているのでしょうから月に500円程度であれば何も考慮することなく払うでしょう。従って宅配を止める人もいるでしょうがその数はさしたるものではないような気がします。
でも、確実に発行部数は減っていき、いかに固定読者がいても新聞社としての固定経費がまかなえなくなる時点で慈善事業ではない弱みもあることから、その時点で廃刊という流れは変えられないかもしれません。
アメリカを見ても民主党は選挙違反を繰り返し、最高裁も民主党擁護の行動をするようなので共産党政権を打ち立てたいようですが、その風潮に何も感じないで投票する手合いも多く、ニューヨーク州などでは90%近い人が民主党支持で、トランプ元大統領がアメリカに自由を取り戻したいと主張しても見向きもしないようです。
日本もそのように、全体主義に憧れる人が紙の新聞を取って新聞社の命を長らえることに協力している一面があるのかもしれません。
新聞については以上の通りですが、それと同じ現象が日本語ワープロに対しても起きているように感じます。かつてはいろんな日本語ワープロがありましたが、現状では一太郎以外は全て淘汰されてしまったようです。しかし、ジャストシステムの資金繰りが問題だったのか、創業者が追い出され一太郎という商品は毎年新しいものが開発されているようですが、フロントエンドプロセッサーの開発費用をケチっているようで、円滑な日本語を書くことができなくなっています。
ジャストシステム自体は名前だけ存続していますが、現状はよろず屋という状態になっており、主体はものを売って儲ける会社に成り下がっており、日本語を快適に記述すると言うことには開発費を創業者ほど熱意を入れていないようです。
現状のフロントエンドプロセッサーは時に入力した単語が漢字に変換されなくなることが多くなり、そのときはマイクロソフトのフロントエンドプロセッサーに切り替えて用を足す始末です。
もちろんジャストシステムのATOKも現状ではパソコンを買えば無料で付いてくるので使っており、最新のものに致命的な欠点はありませんが、仮名漢字変換が円滑に行かないことが重なるならマイクロソフトのフロントエンドプロセッサーで良いのであり、現状では一太郎という日本語ワープロは買わなくなっています。一太郎が消えると和製日本語ワープロもおしまいと言うことになるようで、新聞の運命と似ているように感じます。
そのような傾向を感じだしたのが、メンテナンス情報が送られてきてその都度更新しているのに令和という文字が変換できず、自分で単語登録をせざるを得なくなったときに違和感を感じました。もちろん現状では新しく買ったパソコンに付いてくるATOKは令和と言う仮名漢字変換はできるようになっていますが、たまたま過渡期には古いバージョンの一太郎は置き去りにされたのでしょう。
一太郎も当分は命が保たれるでしょうが残念ながら和製ワープロはやがて全滅と言うことになるのかもしれません。その臨終時期が新聞の臨終時期と一致するような気がするのは私だけであれば良いのですが。
「しかし、一般論として「新聞社の経営」という観点からは、経営体力が残っているうちに、紙媒体からの撤退を決断するのが正解ではないかと思えてなりません。」とありますが、はたして事業を撤退するような経営体力が残っているのでしょうか?
わが国の労働法体系では整理解雇の要件は厳しく、職種変換や割増退職金などが必要になりますからその原資が必要です。また、印刷工場を解体して跡地を売却する場合、古い印刷工場では化学物質によって敷地が汚染していることが少なくなく、土壌洗浄の費用も必要です。販売網を整理する場合も、販売店に解約通知1本送るだけでは済みませんから、販売網整理にも相当の費用がかかります。
撤退コストを賄うことができる新聞社がどれほど残っているのでしょうか?
紙媒体の新聞事業を継続している限りこれらの撤退コストは顕在化しないので、経営者としては自分の任期中は事業を継続すると判断することになるのはやむを得ないと思います。
匿名のコメント主様
>はたして事業を撤退するような経営体力が残っているのでしょうか?
>わが国の労働法体系では整理解雇の要件は厳しく、職種変換や割増退職金などが必要になりますからその原資が必要です
…。そ、それを指摘されると…
>また、印刷工場を解体して跡地を売却する場合、古い印刷工場では化学物質によって敷地が汚染していることが少なくなく、土壌洗浄の費用も必要です
いわゆる資産除去債務の論点ですな。
>紙媒体の新聞事業を継続している限りこれらの撤退コストは顕在化しないので、経営者としては自分の任期中は事業を継続すると判断することになるのはやむを得ないと思います。
くっ…事実陳列罪で謝罪と賠(ry
引き続き何卒よろしくお願い申し上げます
新聞の流通システムは存じ上げませんが、購読者への500円値上げ=販売店への同額値上げなのでしょうかね。であれば販売店は購読者の不満の矢面に立たされる上、価格差利益は一切上がらない、契約数が増えることは絶対に無く減らすのが確実、ただでさえも異常な項目である"押し紙"の損害割合が確定で増える……と何重苦なのやら。
卸価格の上昇が何割か安いとしても、販売店が得をするほどであれば朝日本体の経営改善にならないわけですし。
共産主義が猛批判するはずの搾取側にしか見えない……って今更か。
値上げは確実に契約を減らすとおもう。
新聞を購読しないなど考えられない核心層以外に新聞とるのやめようかどうしようか迷っている層がいる。(ネットの普及でこの層増えているはず)こういう人たちの背中を押すことになる。部数の減り方次第で値上げはかえって利益を減らすことになる。
「朝日が値上げ?お知らせしなきゃ」
が昨夜の23時で、今朝の8時には記事になっているという。いつもながら生産性の高さに驚きます。
朝日にこれを求めるのは酷でしょうな・・・
以前の値上げで横一線は崩れたが今回の値上げが事実なら朝日はシェア・部数の減少は必須かと思います
参考
新聞購読料改定表(2023年版)
https://fuwafuwaame.hatenablog.com/entry/2023/03/03/203320#%E5%85%A8%E5%9B%BD%E7%B4%99
朝日新聞の前回値上げ
https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1330548.html
総合的に(紙ベースを)語るなら朝夕刊セット・統合版・朝刊1部売り・夕刊1部売りの価格比較は必要かと思います
読売新聞
朝夕刊セットの月ぎめ購読料4400円 統合版3400円
朝刊1部売り150円 夕刊1部売り50円(いずれも消費税込み)
毎日新聞
朝夕刊セットは4300円 統合版は3400円 朝刊1部売り150円 夕刊1部売り50円(いずれも消費税込み)
その他は略
デジタルコンテンツは各社独自性があり比較は難しい(ほとんど無い)
読売新聞は(宅配購入者には)基本無料(過去一年間の過去記事 それ以前はヨミダス 月額最低330円)
紙ベースとデジタルコンテンツをどのように統合していくか?がみもの
横並びの価格設定は独占禁止法違反のカルテルにあたり、他の業界がやっていたらマスコミは叩きまくるくせに、自分たちは平然とやっていたんですよね。
一昔前は、年末になると書店に 「現代用語の基礎知識」 (自由国民社) と 「イミダス」 (集英社) と 「知恵蔵」 (朝日新聞社) が並んでいましたが、この3つは価格も発売日も同じな上に、発売日が近づいてくると、書店の業界紙には 「同じ場所に並べてください」 という記事が載っていました。