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「日本が過去のおわびの談話の継承を検討」=共同通信

何とかの考え、休むに似たりと言います。ここ数日、日本政府が韓国に対し、「輸出管理上、ホワイト国に戻す」だの、「謝罪の気持ちを改めて表明する」だのといった報道が相次いでいるのですが、もしこれらの構想が「広島サミット花道論」も出てきた岸田文雄・現首相が「功を焦っている」証拠なのだとしたら、非常に由々しき話です。ただ、それと同時にネット世論はこうした「対韓譲歩」に否定的であるようです。

ちょっとしたお知らせ

最初にお知らせです。

とある理由があって、本日以降しばらくの間、当ウェブサイトの更新頻度が低下する可能性があります。また、同じ事情があって本稿も普段と比べて短めですが、その分、読者の皆さまにて興味深い話題があれば、読者コメント欄や『読者雑談専用記事』の方を盛り上げてくださると幸いです。

共同通信「政府がおわびの継承説明へ」

さて、いい加減、この話題ばかり取り上げるのも困りものだというご指摘が来ることを覚悟のうえで、本日もこんな報道記事を取り上げておきたいと思います。

政府「おわび」継承説明へ 韓国肩代わり案後押し

―――2023/01/28 21:04付 Yahoo!ニュースより【※共同通信配信】

共同通信が土曜日に配信した記事によると、政府は「元徴用工訴訟問題」で「日本企業の賠償を韓国財団に肩代わりさせる解決策」を韓国政府が正式決定すれば、過去の政府談話を継承する立場を改めて説明したうえで、「痛切な反省」、「おわびの気持ち」などを示す方向で「検討に入った」のだそうです。

率直に申し上げて、意味がわかりません。

そもそも論ですが、自称元徴用工問題は韓国が一方的に発生させた日本に対する不法行為(しかもいわゆる「二重の不法行為」)の典型例だからであり、しかもそれを解決させる責任は、全面的に韓国の側にあるからです。

日韓諸懸案に関する韓国の「二重の不法行為」とは?
  • ①韓国側が主張する「被害」の多くが韓国側によるウソ、捏造のたぐいのものであり、最終的には「ウソの罪をでっち上げて日本を貶めている」のと同じである
  • ②韓国側が日本に対して要求している謝罪や賠償の多くは法的根拠がないか、何らかの国際法違反・条約違反・合意違反などを伴っている

(【出所】『【総論】韓国の日本に対する「二重の不法行為」と責任』等参照)

昨年、『旭日旗騒動再び 多くの人々を傷つけた韓国人の罪深い行動』で報告した、米ロサンゼルスの学校の壁画塗り潰し問題に「続報」がありました。米LAタイムズによると、焦点の壁画を巡り、作者のボー・スタントンさんが自身の監修下での修正に合意したとのことです。旭日旗と無関係の壁画に…当ウェブサイトでは昨年、『旭日旗騒動再び 多くの人々を傷つけた韓国人の罪深い行動』のなかで、米ロサンゼルスの学校の壁画を巡る騒動について取り上げました。https://shinjukuacc.com/20181218-04/「事件」のあらましは、壁画家のボー...
LAの学校の壁画が修正へ 被害者でなく加害者としての韓国 - 新宿会計士の政治経済評論

謝罪と賠償を受け取るべきは日本であり、韓国ではない

というよりも、「謝罪と賠償」を受けなければならないのは日本の側であり、韓国の側ではありません。

自称元徴用工問題を含めた多くの日韓諸懸案については、少なくとも韓国が①ウソをつくのを止め、②国際法や条約、約束などをきちんと守り、③これまでに日本に与えた損害を賠償し、謝罪するなどの適切な措置を講じること――の3つの措置が必要なのです。

日韓諸懸案の解決に必要な最低3つの要素
  • ①「韓国が」ウソをつくのをただちに止めること。
  • ②「韓国が」国際法、条約、約束をきちんと守り、誠実に履行すること。
  • ③「韓国が」これまで日本に与えた損害を賠償し、謝罪すること。

(【出所】著者作成)

このような視点に立てば、もしも日本政府が本当にこういうことを考えているのだとしたら、やはり国民を愚弄していると言わざるを得ません。なぜなら、自称元徴用工問題で韓国側が示している解決策には、上記①~③はいっさい含まれていないからです。

産経記事との妙な符合

ちなみに共同通信の記事によると、政府がこのような方向で「検討」しているというのは、「政府関係者が28日に明らかにした」のだそうですが、これが事実ならば、想像するに、この「政府関係者」とやらは、産経新聞の「ホワイト国再追加」というリーク記事を流した者と近いか、または同一人物かもしれません。

「韓国をホワイト国に戻してはならない」とする当ウェブサイトの昨日の記事とまったく同時刻に、産経ニュースは「独自」と銘打って、『韓国の「ホワイト国」復帰検討、徴用工見極め判断』と題した記事を配信しました。まさに真逆の内容です。ただ、産経の記事自体、事実誤認も多く、ロジックもかなりお粗末です。これはおそらく「産経記者の不勉強」ではなく、情報源である日本政府関係者あたりが考えている内容を、産経が「確信犯」的に報じたのではないでしょうか。ホワイト国にふさわしくない韓国なぜ韓国をホワイト国に戻してはな...
産経「ホワイト国復帰」記事、ロジックは「穴だらけ」 - 新宿会計士の政治経済評論

じっさい、共同通信の記事によれば、日本政府が「痛切な反省」、「おわび」を表明する狙いを巡って、こんな記述が含まれています。

日本との関係改善に意欲的な尹錫悦政権を後押しする狙い」。

「はて?尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権が日本との関係『改善』に積極的なのかな?」、などと疑問に思われる方は非常に多いと思いますが、もしも読者の皆さまもこうした違和感を抱いたならば、それは非常に正しい感覚でしょう。

参考までに、昨日取り上げた産経の記事についても検討しておきましょう。ここに、妙な符合があるのです。

<独自>韓国の「ホワイト国」復帰検討、徴用工見極め判断

―――2023/1/28 05:00付 産経ニュースより

この記事にも、こんな記述ができます。

日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が関係改善を模索していることを踏まえた」。

最初から間違っている「三段論法」

この産経、共同の2つの記事から透けて見えるのは、「対韓輸出管理緩和」「おわびと反省の意向表明」という2つの案を考えているだろう者の頭の中にある、こんな「三段論法」です。

  • ①現在の日本を取り巻く安全保障環境はとても厳しく、日韓・日米韓連携はとても重要だ
  • ②したがって、日韓関係は改善しなければならず、徴用工問題などを解決しなければならない
  • ③尹錫悦政権が徴用工問題解決策を提示するなら、日本政府はXXXを行うべきだ

この③にある「XXX」の部分を、「対韓輸出管理追加」、「おわびと反省」などに置き換えてやれば、見事に同じ構造です。これが事実だとすれば、正直、今からちょうど30年前に自称元慰安婦問題を巡って「官房長官談話」を発表した宮澤喜一内閣から、宏池会政権はまったく何も学んでいません。

いや、正確にいえば、宏池会政権だけでなく、日韓議連や外務省など、「日韓関係利権」にドップリ浸かった勢力が、自分たちの利権を拡大するために、日本国の利益を韓国に売り渡そうとしている、ということかのかもしれません。

くどいようですが、上記三段論法には、さまざまな点で誤りがあります。

その最たるものは、「日韓・日米韓連携を円滑に進めるために、日本が韓国に譲歩しなければならない」という発想でしょう。

かねてより何度となく指摘してきたとおり、わが国で最も信頼に値する韓国観察者のひとりである鈴置高史氏も、「日本が韓国に譲歩しても意味がない」ということを、懇切丁寧に説明して来た人物のひとりです(『韓国への譲歩が無意味である理由を鈴置論考で確認する』等参照)。

年末に韓国観察者・鈴置高史氏が、「尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権の総集編」ともいうべき記事を公表しています。これがまた大変に面白いのです。鈴置氏といえば、過去に「日本が韓国に譲歩したところで意味がない」という点をわかりやすく説き明かした人物でもありますが、今回の論考もそれとまったく同じ文脈に位置付けることができそうです。課題は解決しなくても良いこともある「課題山積」なら「解決法」は――?「新年から、内外ともに課題は山積している」――。こんなことを述べると、必ず帰ってくる反応のひとつが、「では、そ...
韓国への譲歩が無意味である理由を鈴置論考で確認する - 新宿会計士の政治経済評論

鈴置氏の警鐘を当ウェブサイトなりにかみ砕いて理解すれば、「日本が日米韓連携を理由に日韓諸懸案で韓国に譲歩しようとしたとしても、そもそもそのような譲歩は日米韓連携にとっては無意味であるだけでなく、むしろ有害である」、です。

なぜなら、日本が自称元徴用工問題を含めた日韓諸懸案で韓国に譲歩したら、韓国はまたそれに味を占め、「日本は脅せば譲歩する」と勘違いするからです。このことは、日韓・日米韓連携を円滑に進めるうえでも、むしろ障害となり得ます。

ネット世論は対韓譲歩に否定的

ただし、こうした「日本の譲歩」が実現するのかどうかについては、また別の議論でしょう。

現実問題として、宏池会は自民党内の主要5派閥のなかで、二階派と並ぶ4番目の勢力しか持っておらず、また、最近は岸田文雄・現首相の前任者で、党内に隠然たる影響力を持つ菅義偉総理が「発言」を繰り返しているからです(『菅総理の派閥批判自体が「宏池会政権」に対する牽制に』等参照)。

菅義偉総理の「岸田批判」が波紋を広げている、などと時事通信が報じています。現在のところ、菅総理が「岸田おろし」と「自派閥立ち上げ」、「再登板」などを仕掛けようとしているようには見えませんが、菅総理が沈黙を破って発言したことで、岸田文雄首相や宏池会関係者が浮足立っているというのは興味深いところです。菅総理の岸田批判は単なる苦言だが…先日の『「派閥の長」辞めない岸田首相を週刊誌で批判=菅総理』などでも取り上げた、「岸田文雄首相が宏池会(岸田派)の会長ポストにとどまっていることなどを菅義偉総理が批判...
菅総理の派閥批判自体が「宏池会政権」に対する牽制に - 新宿会計士の政治経済評論

あるいは、このインターネット時代において、「うるさいメディアを特ダネで黙らせる」というやり方が通用するとは限りません。

実際、先ほど挙げた産経の記事については、ツイッター上で反応を見ることができるのですが、一昼夜経過したなかで、一般人や国会議員などを中心とする批判的なツッコミが殺到しているのです。

もちろん、これらの議員のなかには「口だけ達者な人たち」がいることは事実ですが、それにしても、現職国会議員から堂々と報道への批判が出て来るというのは興味深い点です。

ここでは取り急ぎ自民党の3議員のツイートを紹介しましたが、ほかにも高い評価を得ているコメントを中心に数十件ほどチェックしてみたものの、火器管制(FC)レーダー照射を含めた他の日韓諸懸案に言及している人も多く、「ホワイト国復帰」を支持するコメントは、見事に皆無です。

また、共同通信の方の記事では、昨日午後10時半時点で読者コメントが500件以上寄せられているのですが、やはり高評価順に10個ほどのコメントを確認してみたところ、韓国に対する譲歩を擁護するコメントは、やはり見事に皆無です。

正直、ネットの力が日々強まっているという事情を踏まえるならば、新聞、テレビを中心とするオールドメディアに記事をリークするかたちで対韓譲歩世論を捏造するという「政府関係者」の意図は、ことごとく失敗に終わっていると見るべきでしょう。

岸田首相は功を焦っている!?

ただし、もちろん政府が韓国に対し、「やってはならない譲歩」を断行する可能性については排除できず、むしろ強まっているというのが著者自身の懸念点です。

昔から、「なんとかの浅知恵、休むに似たり」と言います。もしかすると岸田首相は「故・安倍晋三総理大臣ですら成し遂げられなかった日韓関係改善という『偉業』を達成した」ことを自身の在任中の成果にしようと焦っているのかもしれません。

とくに今年5月に予定されているG7広島サミットで、「日韓関係改善の象徴」として尹錫悦大統領を日本に招き、韓国を再び「日韓・日米韓陣営」に引き戻したとして、米国からも褒めてもらおうとしているのではないでしょうか。

岸田首相を巡っては昨今、「サミット花道論」も取りざたされているなかで、「なんとか宏池会政権のうちに政権を騙し、自身の利益のために国益を売ろうとしている」という者が少なからず存在することを、私たち日本国民は真剣に懸念した方が良いのかもしれません。

(※ただし、これは日韓関係だけでなく、財務省の増税原理主義に関しても同じことがいえるのかもしれませんが…。)

新宿会計士:

View Comments (41)

  • 情報源はまた「政府関係者」ですか。この件、「政府筋」とかばっかりなんですよね。

    はたしてただの「こたつ記事」なのか、いわゆる「観測気球」なのか、それとも
    世論の反発をよーく理解しているからこそコソコソしている「対韓譲歩ガチ勢」なのか……

    • 観測気球か願望記事だと読んでいます。
      さすがに日本側から真顔で言えることじゃないので……

      理由は単純で「この案件で日本側に譲歩の余地はない」
      譲歩したら日本は条約や協定を気にしないでよい相手と認識されかねませんから。

  • 「事実」
    ではなくて
    「願望」
    を書くのは韓国&韓国人の行動様式と似てますね。
    時事通信とか共同通信とかには多い気がます。

    雨が降りそうなのに、
    「晴れを検討している」
    みたいな記事を書いても仕方ないのにね。

    ポジティブに解釈するならば、世論の反応を確認してるのかもしれないですね。
    「よく聞く」
    のが岸田政権の行動ポリシーなのだそうですから。

    • >「よく聞く」
      >のが岸田政権の行動ポリシーなのだそうですから。

      この状況こそ、検討士の本領を発揮していただきたいですね。

    • 過去にも類似例で、その時は腹立たしくて岸田総理に否定的になったこともありました。
      しかし岸田総理、意外と対韓譲歩ってしていないんですよね。脇は甘いのだけど。。。
      本報道はガセというか、何らかの意図を持った偽情報でないかと思っています。

  • 三段論法の①も変だけど、②がダメダメだと思うのです♪

    >②したがって、日韓関係は改善しなければならず、徴用工問題などを解決しなければならない
    ②改 しかし、韓国は自衛隊艦船の寄港にも否定的である上、レーダ照射についての謝罪も行っておらず、緊急時の日韓連携は困難と思われる♪
    ③改 したがって、日本は韓国の変化を待つだけではなく、FOIPや西側諸国等との連携を深める必要がある♪

    安全保障からはじめるなら、安全保障で論を進めて、変に論点を広げないのが良いと思うのです♪

    • ポンと膝打ちしました、おっしゃるとおりです。
      なんでもマジェマジェするのは彼の国の常套手段かつ得意技であり、
      論点を拡げるのはみすみす土俵に上がりに行くようなものですよね。

  • 安倍さんだったら少なくとも先の産経やこの共同みたいな論理は許さなかっただろうなあ
    安倍さんが戦ってたもの(メディア、議員、官僚)を改めて感じる

  • 対韓譲歩なんて百害あって一利なしです。誰が後ろで糸を引いているか分かりませんが、未来永劫、日本から謝罪とか募金だとか、一切してはならない。「日本が過去のおわびの談話の継承を検討する」コレは見事な真逆の話。逆に日本が貰う立場でしょう。

  • 過去の談話を否定しないのはともかくとして、『改めての謝罪表明』は、安倍総理が下した「過去の談話を踏襲したうえでのケジメ」を台無しにする行為ですね。

    ・・・・・
    (反響に見る潮目)
    一連のリークは、反対世論を集約するための 撒き餌 であって欲しい!
    不作為による否定で、譲歩肯定派を太らせる 餌付け にしてはいけない

    *撒き餌の放ちは「満ち潮時(関心時)が鉄則」・・ではあるのかと。

  • 徴用工に関してですが
    求償権放棄する話、不可逆的に解決させる話も一切出ていません。
    こんな状況でレーダー照射解決、ホワイト国復帰、シャトル外交復活など一括解決て
    まさに日本を馬鹿にしている。

  • わりと本人は真剣に、増税と媚中・媚韓が「功績」になると考えているのかも知れないと思わざるを得ないほど政権の動きが世論と逆行していて乾いた笑いも出ませんね。
    杉田議員をマスコミで追い出しながら自分の息子は内閣総出で守り抜く。これも勘違いの成したものなのでしょうか。

  • 可能性としてはこのような飛ばし報道だけ認めるって日本政府の方針はあるかもしれません。政府関係者はそれを前提に記者に向けて話しているのでしょう。

    このような飛ばしだけ入れて韓国の措置が予定通り行われる。そのあと日本は何もアクションしない。

    そんなシナリオを日本と韓国は想定しているのでしょう。ただ、日本は甘いと思いますね。韓国はごくごく微小な日本の発言を取り上げて「新たな謝罪」みたいに仕立て上げるように思います。

    この問題は、韓国司法が条約に違反した事案であり、条約に従い仲裁手続きで解消すべき問題!とピシャリ指摘することだけが正しい解決法です。

  • 「口だけ達者な人たち」ってまさにヒゲの佐藤ですよね。おととしの年末に韓国に痛みを与える政策を検討し、去年の夏には中間報告するといって放置しているヤルヤル詐欺の議員。でも相変わらず、そんなことは棚に上げてツイートしているのを見ると本当、呆れかえります。所詮は、自民党支持者のガス抜き隊長として岸田政権の後押ししているんでしょうね。

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