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    Categories: 金融

世界最大の債権国・日本はどこにいくら貸しているのか

国際決済銀行(BIS)が四半期に1回公表している『国際与信統計』(CBS)の最新データが揃ってきました。円安のためでしょうか、与信総額は5兆ドルの大台を割り込んでしまいましたが、それでも日本は相変わらず世界最大の債権国です。また、日本の与信相手国のトップは引き続き米国ですが、アジアの与信相手国は中国ではなく、「ある国」がトップだったのです。

日本は今でも世界最大の債権国だが…

日本は世界最大の債権国の地位から転落するのでしょうか。

国際決済銀行(BIS)は四半期に1回、全世界の金融機関の国際与信に関する状況をデータとして公表しています。日本語では『国際与信統計』ですが、英語では “Consolidated Banking Statistics” を略して「CBS」と呼ばれることもあります。

以前の『邦銀対外与信「5兆ドル」大台に』でも取り上げたとおり、2022年3月末時点の日本の国際与信は史上初めて5兆ドルを上回ったのですが(正確には5兆0115億4700万ドル)、円安のためでしょうか、BISが10月末に公表したCBSによれば、これが再び5兆ドルを割り込んでしまった格好です。

ただし、日本は相変わらず世界最大の債権国ではあります。主要国について債権国側から一覧にしたものが、次の図表1です(※ただし、本稿で取り扱うデータは、いずれも「所在地ベース」ではなく「最終リスクベース」のものを使用しています)。

図表1 国際与信統計上の債権国一覧(2022年6月末時点)

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, Consolidated banking statistics データより著者作成)

(※ただし、図表1はテキストデータではなく画像ファイルですので、このままでは数値をコピー・ペーストすることができません。よって、これをテキスト化したものについては、別途、本稿の末尾に収録しておきます)。

ここで、合計欄が「報告国合計」と記載されている理由は、このCBSについては全世界のすべての国がデータを提出しているわけではないからです。たとえば、中国が「債権国」として国際与信をいくら積み上げているのかについては、このデータだけではわかりません。

このあたりについては、CBSのデータの網羅性という観点において、今後の重要な課題のひとつであることは間違いないでしょう。

世界最大の債務国は米国

その一方で、債務国側から見れば、相変わらず米国がトップを占めていますが、上位にはほかにも英国、ドイツといった先進国が名を連ねます。ちなみに日本は6位です(図表2)。

図表2 国際与信統計上の債務国一覧(2022年6月末時点).

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, Consolidated banking statistics データより著者作成)

(※図表2についても図表1と同様、テキスト化したものを本稿末尾に収録しておきます。なお、当然のことですが、当ウェブサイトに掲載している図表・データ類は、引用・転載ポリシーさえ守っていただければ、自由に再利用していただくことが可能です。)

なお、ここで図表1と図表2の合計欄が30兆3732億ドルで一致していることを確認しておきましょう。

また、図表1では登場しなかった中国などの国が図表2で出てくる理由は、BISへの「報告国」が出している債権データに中国が含まれているからです。また、ケイマン諸島が日本を抜いて5位というのも興味深いところです。

日本の与信相手国一覧

さて、世界最大の債権国である日本は、いったいどこの国にいくらおカネを貸しているのでしょうか。

これが次の図表3です。

図表3 日本の与信相手国一覧(2022年6月末時点)
相手国 金額 構成割合
1位:米国 2兆0225億ドル 43.73%
2位:ケイマン諸島 6088億ドル 13.16%
3位:英国 2063億ドル 4.46%
4位:フランス 1840億ドル 3.98%
5位:豪州 1395億ドル 3.02%
6位:ルクセンブルク 1182億ドル 2.56%
7位:ドイツ 1172億ドル 2.53%
8位:タイ 1031億ドル 2.23%
9位:カナダ 907億ドル 1.96%
10位:中国 906億ドル 1.96%
11位:シンガポール 780億ドル 1.69%
12位:オランダ 667億ドル 1.44%
13位:香港 638億ドル 1.38%
14位:アイルランド 576億ドル 1.25%
15位:韓国 502億ドル 1.09%
16位:インドネシア 477億ドル 1.03%
17位:イタリア 468億ドル 1.01%
18位:インド 420億ドル 0.91%
19位:台湾 410億ドル 0.89%
20位:スペイン 394億ドル 0.85%
その他 4106億ドル 8.88%
合計 4兆6248億ドル 100.00%

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, Consolidated banking statistics データより著者作成)

これで見ると、日本にとって圧倒的に多額の与信を積み上げている相手国は米国であり、これにケイマン諸島が続いている格好です。

想像するに、米国が最大の与信相手国である理由は、日本の金融機関が証券投資や証券金融(債券レポ取引など)で米国に対するエクスポージャーを積み上げているからであり、上位10位以内に欧米諸国や豪州などが入っているのも同じ理由に基づくものではないかと思います。

また、ケイマン諸島はオフショア金融センターとして有名ですが、日本の金融機関がケイマン諸島におカネを貸している(ように見える)理由は、SPCなどを使った投資活動が活発なだけであり、なにもケイマン諸島に何らかのインフラや工場を建設するための資金、というものではないと考えられます。

アジア諸国と日本のつながり:意外な国が「トップ」に!

これに対し、日本の与信相手国をアジア諸国に限定すると、図表4のとおり、意外な国がトップに入ってきていることがわかります。

図表4 日本の与信相手国一覧(2022年6月末時点、アジアに限定)
相手国 金額 構成割合
8位:タイ 1031億ドル 2.23%
10位:中国 906億ドル 1.96%
11位:シンガポール 780億ドル 1.69%
13位:香港 638億ドル 1.38%
15位:韓国 502億ドル 1.09%
18位:インド 420億ドル 0.91%
19位:台湾 410億ドル 0.89%
26位:マレーシア 216億ドル 0.47%
34位:ベトナム 127億ドル 0.28%

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, Consolidated banking statistics データより著者作成)

これで見ると、タイがアジアの中では日本にとっての最大の与信相手国ですが、その理由はおそらく、タイ最大級の銀行を三菱UFJフィナンシャル・グループが連結子会社にしているからでしょう。それにしても、タイが日本にとって、中国を上回る与信相手国であるというのも意外な話でしょう。

また、世界的な金融センターであるシンガポールや香港への与信も、ケイマン諸島に対する与信と比べれば、それぞれ1割前後に過ぎないというのも驚きですし、経済的なつながりが深いとされる韓国、インド、台湾についても、日本の与信にとってはさしたる重要性を持ちません。

いずれにせよ、当ウェブサイトでは今後、いくつかの国をピックアップして、「どの国からどの国におカネが流れているのか」について、シリーズ的に紹介していきたいと思います。もしも「この国を取り上げてほしい」というリクエストなどがあれば、どうか読者コメント欄などに記載してください。

資料集

最後に、先ほどの図表1、図表2をテキスト化したものを掲載しておきます。

図表5 国際与信統計上の債権国一覧(2022年6月末時点)
債権国 金額 構成割合
1位:日本 4兆6248億ドル 15.23%
2位:米国 4兆4204億ドル 14.55%
3位:英国 4兆1110億ドル 13.54%
4位:フランス 3兆3046億ドル 10.88%
5位:カナダ 2兆4124億ドル 7.94%
6位:スペイン 1兆9257億ドル 6.34%
7位:ドイツ 1兆7343億ドル 5.71%
8位:オランダ 1兆3889億ドル 4.57%
9位:スイス 1兆1666億ドル 3.84%
10位:イタリア 9777億ドル 3.22%
11位:豪州 7775億ドル 2.56%
12位:シンガポール 6631億ドル 2.18%
13位:フィンランド 4515億ドル 1.49%
14位:オーストリア 4624億ドル 1.52%
15位:台湾 4152億ドル 1.37%
16位:スウェーデン 4118億ドル 1.36%
17位:ベルギー 2814億ドル 0.93%
18位:韓国 2510億ドル 0.83%
19位:ポルトガル 996億ドル 0.33%
20位:アイルランド 880億ドル 0.29%
21位:インド 743億ドル 0.24%
22位:ギリシャ 741億ドル 0.24%
23位:トルコ 249億ドル 0.08%
24位:チリ 186億ドル 0.06%
その他 2133億ドル 0.70%
報告国合計 30兆3732億ドル 100.00%

(【出所】図表1と同じ)

図表6 国際与信統計上の債務国一覧(2022年6月末時点)
債務国 金額 構成割合
1位:米国 7兆5275億ドル 24.78%
2位:英国 2兆2969億ドル 7.56%
3位:ドイツ 1兆7207億ドル 5.67%
4位:フランス 1兆4469億ドル 4.76%
5位:ケイマン諸島 1兆4081億ドル 4.64%
6位:日本 1兆2198億ドル 4.02%
7位:香港 9406億ドル 3.10%
8位:中国 8667億ドル 2.85%
9位:ルクセンブルク 7856億ドル 2.59%
10位:イタリア 7391億ドル 2.43%
11位:カナダ 6393億ドル 2.10%
12位:豪州 5786億ドル 1.90%
13位:ベルギー 5727億ドル 1.89%
14位:シンガポール 5852億ドル 1.93%
15位:アイルランド 5136億ドル 1.69%
16位:オランダ 4799億ドル 1.58%
17位:スペイン 4397億ドル 1.45%
18位:スイス 3940億ドル 1.30%
19位:ニュージーランド 3685億ドル 1.21%
20位:メキシコ 4017億ドル 1.32%
21位:ブラジル 3636億ドル 1.20%
22位:韓国 3751億ドル 1.24%
23位:国際組織 3203億ドル 1.05%
24位:チェコ 3138億ドル 1.03%
25位:スウェーデン 2916億ドル 0.96%
26位:インド 2807億ドル 0.92%
27位:デンマーク 2599億ドル 0.86%
28位:ポーランド 2613億ドル 0.86%
29位:ノルウェー 2446億ドル 0.81%
30位:台湾 2445億ドル 0.81%
その他 3兆4929億ドル 11.50%
債務国合計 30兆3732億ドル 100.00%

(【出所】図表2と同じ)

新宿会計士:

View Comments (8)

  • 日経が本日10時付記事でこんなことを言いだしています。
    『https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD048H90U2A101C2000000/』
    当該新聞社はちょっと前まで円安恐慌を煽るような記事を出していました。これをして日経新聞マッチポンプ根性の顕れと判断されて仕方ない状況です。未来の読めない日経記者の言い分をいちいち真に受けていれば経営などできないわけです。

    • 見出しを転記するつもりでした
      『5兆円差益、企業どうする 賃上げ・投資へ最後の挑戦
       本社コメンテーター』
      ホンモノの経営企画室は日経など参考にせず高橋洋一さんや新宿会計士の言うことに耳を傾けたほうがよさそうです。

  • 毎度、ばかばかしいお話しを。
    韓国:「債権国より、債務国の方が偉い。韓国だけでなく、○○国(好きな国名を入れてください)も、そう言っている」
    これって、笑い話ですよね。

    • 毎度、ばかばかしいお話しを。
      韓国:「核兵器と国内資源があれば、対外債務を無効化できる」
      これって、笑い話ですよね。

  • 【リクエスト】中国のお金の流れが知りたい
    特に中国が他の国にいくらお金を貸しているのか知りたいのですが可能ですか?

    • 仮に中国が他の国に多額のお金を貸しているとします。
      その場合、中国はお金の力でその貸している国を動かすことは可能なのでしょうか?

  • ここの皆様には釈迦に説法かもですが。

    一般的に「赤字は悪」「黒字は善」のイメージがあります。
    でも金融的には、「赤字は債務」「黒字は債権」というだけです。

    債務は悪じゃん!ではなくて、起きている事象を客観的に観察するなれば、
    「赤字=モノなりサービスなりを提供されて、対価を払ってない」
    「黒字=モノなりサービスなりを提供して、対価をもらってない」

    勿論、取引に際して貨幣なり手形なり「払う意思」を形にはしてますが、そんなもん具体的に石油や小麦に変えてはじめて本質的な取引完了です。

    日本では、貿易黒字の累積が大きくてホクホクしてますが、せっせと残業して作ったトヨタやSONYを何十年も輸出して、その対価を受け取っていない状況な訳です。
    (もちろん「いつでも払うぜ」という意味のドルは受け取っていますが)

    皮肉な言い方をすれば、労働して対価を得ていないのだから、奴隷ですな。(笑)

    ま、特に今すぐ欲しいモノがある訳でもないし、とりあえず貯金しとくか!という選択も、アリなのですが、「払うぜ」と言ってくれている人たちが
    「ある日突然に全額の支払いを求められたらどうしよう?」
    と不安になるほど累積を積み上げてしまうと、かえって迷惑というものです。

    その都度とまでは言いませんが、ほどほどにバランスよくパァ~っと使ってしまうのも大事かと思いますね。

    (でもその使ってしまう支出項目については、個人的に全くノーアイデアです。)

  • >タイ最大級の銀行を三菱UFJフィナンシャル・グループが連結子会社にしている
    各行がブースを構えてるSCなでJPYを両替する時、店頭のレート表示を見比べると明らかにクルンシィ銀行のレートが良いです。