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辛坊治郎氏「玉川氏が発言する自由は命を懸けて守る」

連日ネットを騒がせている「玉川問題」を巡る論戦に、辛坊治郎氏が参入したようです。辛坊氏はこの問題を巡り、ラジオ番組で玉川氏について「1回も見たことも聞いたこともない」としつつも、「玉川徹さんがテレビで発言する権利は命を懸けても守ります」と発言したのだとか。ただ、辛坊氏の主張に実態とのズレがあるとしたら、この問題は「言論の自由」の話ではなく、「テレビ局の偏向報道」の話だ、という点ではないでしょうか。

辛坊氏「玉川氏が発言する権利は命を懸けても守ります」

テレビ朝日の「玉川問題」――、すなわち、テレビ朝日の玉川徹氏が先月28日、出演した番組で虚偽の事実を決めつけて発言したとして、テレビ朝日が玉川氏本人に10日間の謹慎、関係者に譴責などの処分を下したなどの問題を巡って、興味深い記事がもうひとつありました。

『東スポWeb』によると、キャスターの辛坊治郎氏がパーソナリティを務めるニッポン放送のラジオ番組『辛坊治郎ズーム そこまで言うか!』で、「玉川徹さんがテレビで発言する権利は命を懸けても守ります!」と熱弁をふるったのだそうです。

辛坊治郎氏が熱弁「玉川徹さんがテレビで発言する権利は命を懸けても守ります!」

―――2022/10/17 18:21付 Yahoo!ニュースより【東スポWeb配信】

東スポによると、辛坊氏はこの問題を巡り、ご自身が玉川氏を「1回も見たことも聞いたこともない」、「かなり左側の人」で「『何言ってんだよ』というようなことを毎朝、テレビで行ってらっしゃる方というイメージ」などと前置きしたうえで、こう述べたのだそうです。

そういう発言に対して規制しようとは全く思わない。どんなとんでもないヤツの、どんなとんでもない発言でも、お前が言ってることは間違ってるけれども、お前がそれを言う権利はオレは命を懸けてでも守るっていうのが私の立場」。

…。

そもそも「言論の自由」という話ではない

あくまでも原則論に立てば、辛坊氏のこの発言、言論の自由の本質を示しています。言論の自由とは、反対する意見、気に入らない意見であっても封殺されてはならない、という原則であり、自由民主主義国家の根幹をなす重要な原理です。

辛坊氏はまた、一部の政治家の間で「玉川発言」を国会で取り上げる動きや、BPO(放送倫理・番組向上機構)で審議すべきなどとする意見が相次いでいることを巡っても、次のように指摘したのだそうです。

一部の政治家が国会で取り上げたり、BPOでどうのこうのっていうのを聞いてると、バカだなコイツらってつくづく思いますね」。

国家権力が言論の自由を封殺するというのは、たしかに大きな問題であり、基本的にはあってはならない話でしょう。

では、この辛坊氏の発言、いったいどこがどうおかしいのでしょうか。

そもそも玉川問題の本質は、「言論の自由」という話ではありません。

テレビ局という、本来ならば公共の財産であるはずの電波帯を、非常に安い値段で独占的に使わせてもらっているメディアが、その公共の電波を使ってウソの事実を発信し、それによって弔辞を読んだ菅義偉総理、さらには故・安倍晋三総理の冥福を祈る多くの一般国民を傷つけたことにあります。

あくまでも著者なりの理解に基づけば、「言論の自由」には、「どのような政治的意見を述べても良い」という自由は含まれますが、「ウソを主張する」という自由は含まれません。テレビという社会的影響力の大きい媒体において、堂々とウソをついて特定の政治的立場を攻撃したというのは、大きな問題です。

テレビ局の放送法違反問題

あるいは、玉川氏がやったことの問題点を別の角度から見れば、「特定の政治的な立場を押し付けた」という点にあります。間接的には「安倍総理に弔意を示したい」と考えている国民の「弔意を示す自由」を妨害したという言い方もできるかもしれません。

なにより、放送法では放送番組の編集にあたり、「公安・善良な風俗を害しないこと」、「政治的に公平であること」、「報道は事実を曲げないですること」、「意見が対立している問題についてはできるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」という4つの条件を放送事業者に課しています。

放送法第4条第1項

放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。

一 公安及び善良な風俗を害しないこと。

二 政治的に公平であること。

三 報道は事実をまげないですること。

四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

日本においては放送局の数が非常に少なく、その放送局が「公共の電波」を独占使用する存在である以上、この4つの義務が課されるのは当然のことでもあります。したがって、本件も「言論の自由」の範疇外の話なのであり、辛坊氏の発言もこの問題の本質を正確に理解したものであるとはいえません。

もちろん、言論の自由は非常に大切であり、たとえば誰でも情報発信できるプラットフォーム(ツイッターなど)において、「俺は安倍が嫌いだ!」、「俺は反自民だ!」などと主張する分にはそうすればよいでしょうし、そう主張する自由は保障されなければなりません。

しかし、現在のようにテレビ局の数が非常に限られているという状況のなかで、テレビ局が特定の意見に極端に偏ったコンテンツを垂れ流し続けていることや、今回の「玉川発言」のように、明らかにウソの事実を述べるような事件が発生するのは、やはり構造的な問題だといえるでしょう。

椿事件から玉川事件へと連綿と続くテレビ業界の問題点』でも詳しく議論したとおり、著者自身は結局のところ、今回の発言についても玉川氏個人の問題ではなく、長年、電波を独占してきたテレビ業界全体の弊害が凝縮され、「氷山の一角」として表に出てきたもののひとつに過ぎないとみています。

とある参議院議員が1993年に発生した「椿事件」を「テレビ局に対する政治介入を許した痛恨事」、などと述べたそうですが、この「玉川事件」は歪んだ事実関係が大々的に報じられたという意味で、椿事件と本質的にはまったく同じです。「椿事件」と比べると、今回の「玉川事件」、正直、大したインパクトがあるとも思えませんが、この問題が連日のように炎上しているという事実は、インターネットとテレビ業界の力関係が完全に逆転しつつあるという状況を示すものでもあるのです。玉川事件と放送法玉川事件のインパクト:テレ朝の処分に...
椿事件から玉川事件へと連綿と続くテレビ業界の問題点 - 新宿会計士の政治経済評論

このように考えていくならば、むしろ今回の「玉川発言」を奇貨として、日本の国全体で言論空間そのものについての議論を深めるべきでしょう。

テレビの社会的影響力は失われていく

もっとも、『ついにネット広告費がマスコミ4媒体広告費を追い抜く』などでも取り上げたとおり、すでに広告費の分野においては、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌という「マスコミ4媒体」の地位はネットに追い抜かれてしまっています。

ついに、ネット広告費がマスコミ4媒体広告費を追い抜きました。株式会社電通が先月公表した2021年版の『日本の広告費』によれば、マスコミ4媒体(新聞、雑誌、テレビ、ラジオ)の広告費はコロナ禍で急減した2020年と比べてやや持ち直したものの、成長著しいインターネット広告費に、あっけなく追い抜かれた格好です。本稿ではまず、その事実確認をしておきたいと思います。株式会社電通『日本の広告費』の最新版当ウェブサイトでは例年、株式会社電通が公表している『日本の広告費』というレポートをもとに、インターネット広告費と...
ついにネット広告費がマスコミ4媒体広告費を追い抜く - 新宿会計士の政治経済評論

また、『利用時間数でネットに敗北しつつあるオールドメディア』などでも取り上げたとおり、『令和4年度版情報通信白書』などの調査によれば、人々のテレビ視聴時間(リアルタイム視聴時間+録画視聴時間)がインターネット利用時間に追い抜かされつつあることも明白です。

10代の平日の平均新聞購読時間は0.4分昨年の時点で、全年代のテレビ視聴時間数がネット利用時間数に追い抜かれていました。総務省が公表する『情報通信白書』などに基づけば、若年層ほどネット利用時間が多く、高齢層ほどテレビの視聴時間が長いことが明らかなのですが、それと同時に、年々、ネットの利用時間が延びるという傾向が認められるのです。こうしたなか、今年版のデータは早ければ今月中にも公表されると見られますが、今後、いったいどうなるのでしょうか。総務省データ「主要メディアの平均利用時間」総務省が毎年公表して...
利用時間数でネットに敗北しつつあるオールドメディア - 新宿会計士の政治経済評論

このように考えていくならば、テレビ業界のガバナンスを適正化する以前に、テレビ業界そのものが社会的影響力を急速に喪失していくのも時間の問題なのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (39)

  • 辛坊治郎氏は、玉川発言の問題が、テレビ局は面倒な裏付け取材をしているのか、ということを理解していないのでしょうか。

  • ムービングゴールポストですね。
    本当に「命」をかけてくださいね。

  • 辛坊治郎氏は海での遭難以来、おかしくなったという説が、ネット界隈で聞こえます。
    ものの本質が見えない方では無いと思いますが、辛坊氏をもってしてこの意見という事は、ある意味、これがオールドメディア界の現状であり限界かと思う次第です。今後の展開に注視です。

  • 東スポの記事読みましたが、辛坊さんがわざと話をすり替えようとしているのか、本気でこの玉川事件が言論の自由の危機と捉えているか、よくわかりませんでした。
    個人的感想では後者のような気がします。もしそうだとしたら、早々にご隠退いただきたいものだと私は思います。

  • 自由には責任が伴うと思うんですが、長年メディアの世界に浸かってるとそういった感覚が麻痺するんでしょうかね。

    • そうでしょうね。

      業界や組織の中にいると、一般常識とはズレていても長い間に培われた自分たちの「流儀」のほうが優先されていきますからね。
      言論の自由と、公共の電波で出鱈目を言うこととは全く違うのですが・・、おそらくこの業界の人たちは理解できないのでしょうね

  • >「玉川徹さんがテレビで発言する権利は命を懸けても守ります!」

    これって、「玉川徹さんが放送枠を使う特権を」命を懸けて守る、ということになりませんかね。

  • >バカだなコイツらってつくづく思いますね

    完全なる自己投影にしか聞こえません。

  • 「言論の自由」とは「マスコミが嘘の報道をしてもよい」ということなんですか。

    • (追加)すみません。PCが突如ダウンしていまいました。
      現在、ネットを通じて誰でも意見を発信することが自由な日本で言論の自由について危機感を持っているとは何だろうと思えます。
      もしかして、インターネット発達以前のようにマスコミが多少嘘を交えた報道をしてもバレないか問題にならなかった時代の「言ったもん勝ち」が、昨今のインターネット発達により、嘘が混ざっているとたちどころに露見して批判に晒されます。これがマスコミ関係者の「言論の自由」に感じる危機感の正体かもしれません。

  • 辛坊治郎氏の番組は面白いのでよく聞きますが、時々アホだなと思う点も有ります。太陽光発電を本気でやれば殆どの電気を賄えるというのも荘です。また今回のように電波業界のことについて述べる場合も電波利用料のことについては何も言わない、等です。
    まあ、文字通り命を掛けてまで守る覚悟はないと思います。そもそも日本にいる限り、実際にそのようなことが起こる可能性はほぼ0%なのでその嘘が発覚することはありません。
    と、言うより「実際にそのようなことが起こる可能性はほぼ0%」の状態にするためにも、最低限、嘘や印象操作は極力しないようにすべきでしょう。

  • テレビや新聞はずっと日本社会において様々な点で特別待遇を受けて来た(現時点でも受けている)ために,そこで働いてきたメディア関係者の多くは自覚するとしないとに関らず特権意識を持っている.

    辛坊治郎氏も過去の遭難事件直後の発言を見ても強い特権意識を持っていることは明らかで,「自分達のようなテレビで発言する立場にある者は無条件の言論の自由があって当たり前だ」とぐらいに思っていることが今回の的外れな主張(というより放送法を無視した単なる暴言)を吐いた原因だと思われる.

    表現を変えると,辛坊治郎氏は問題の本質が何かを理解できるほど頭が良くないということに過ぎない.

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