韓国ウォンは中国人民元の「代理通貨」だ――。韓国の中央銀行の李昌鏞(り・しょうよう)総裁が、こんな認識を示したのだそうです。なるほど、たしかに言いえて妙です。韓国経済は中国への依存度が高く、人民元の代わりに売られているという側面もあるかもしれないからです。ただし、やはり韓国ウォンの下落は、資産バブルや不良債権懸念といった同国独自の要因によるものが大きいとは思うのですが…。
目次
BIS為替データ
国際決済銀行(BIS)が公表している主要国の対米ドル為替レートデータは、通貨によっては1940年代、50年代ごろからのデータが収録されているなど、非常に便利なものです。
欠点があるとすれば、世界のすべての通貨を網羅しているわけではない(たとえば発展途上国通貨が軒並み見当たらない)、少し公表のタイミングが遅く速報性に欠ける、といったところですが、こうした点を除けば、じっくりと為替相場の分析をする分には非常に有益です。
さて、昨今のドル高局面を受けて、主要国通貨が米ドルに対してどう動いたのかについては、任意の時点で統計を取ってみることが可能です。たとえば「年初から10月10日までの下落率」でランキング表を作ってみると、デフォルトした通貨・スリランカルピーを筆頭に、上位3位には「やばい通貨」が並びます(図表1)。
図表1 主要通貨の対米ドル相場下落率(2022年1月3日→10月10日の変化)
通貨 | 1ドルあたり | 下落率 |
---|---|---|
1位:スリランカルピー | 202.7500→363.0000 | 79.04% |
2位:アルゼンチンペソ | 103.0400→148.2433 | 43.87% |
3位:トルコリラ | 13.2785→18.5760 | 39.90% |
4位:ハンガリーフォリント | 323.8309→441.5799 | 36.36% |
5位:ウクライナフリブニャ | 27.2782→36.5686 | 34.06% |
6位:日本円 | 114.9802→145.5708 | 26.61% |
7位:スウェーデンクローナ | 9.0672→11.2924 | 24.54% |
8位:ポーランドズローティ | 4.0418→5.0175 | 24.14% |
9位:ニュージーランドドル | 1.4664→1.7912 | 22.15% |
10位:英ポンド | 0.7410→0.9047 | 22.10% |
11位:ノルウェークローネ | 8.8078→10.6608 | 21.04% |
12位:韓国ウォン | 1192.7785→1427.5137 | 19.68% |
13位:クロアチアクーナ | 6.6218→7.7632 | 17.24% |
14位:デンマーククローネ | 6.5506→7.6708 | 17.10% |
15位:ユーロ | 0.8807→1.0312 | 17.10% |
16位:ブルガリアレフ | 1.7224→2.0169 | 17.10% |
17位:ルーマニアレフ | 4.3578→5.0944 | 16.90% |
18位:ボスニアヘルツェゴビナマルク | 1.7269→2.0151 | 16.69% |
19位:コロンビアペソ | 3981.1600→4627.6100 | 16.24% |
20位:セルビアディナール | 103.9262→120.4400 | 15.89% |
(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, US dollar exchange rates データより著者作成。なお、為替相場のデータがない場合は、その直近営業日のものを使用している)
なぜこの3通貨が大きく下落しているのか、日本円が10位圏内に入っていることの意味はなにか、などについては、当ウェブサイトではすでに何度となく話題として取り上げてきたとおりですので、本稿では割愛したいと思います。
この1ヵ月間で大きく下落した通貨
こうしたなか、ふと思い立って8月末時点と9月末時点を比較してみると、意外な通貨が出てきています(図表2)。
図表2 主要通貨の対米ドル相場下落率(2022年8月31日→9月30日の変化)
通貨 | 1ドルあたり | 騰落率 |
---|---|---|
1位:チリペソ | 882.1100→966.0000 | 9.51% |
2位:ノルウェークローネ | 9.9388→10.8574 | 9.24% |
3位:ニュージーランドドル | 1.6322→1.7621 | 7.96% |
4位:ハンガリーフォリント | 402.8000→433.0940 | 7.52% |
5位:韓国ウォン | 1342.7900→1436.8999 | 7.01% |
6位:イスラエルシェケル | 3.3399→3.5658 | 6.76% |
7位:アルゼンチンペソ | 138.7133→147.3150 | 6.20% |
8位:豪ドル | 1.4591→1.5466 | 6.00% |
9位:南アフリカランド | 17.0667→17.9886 | 5.40% |
10位:英ポンド | 0.8604→0.9058 | 5.29% |
11位:ポーランドズローティ | 4.7283→4.9736 | 5.19% |
12位:加ドル | 1.3111→1.3747 | 4.85% |
13位:ブラジルレアル | 5.1482→5.3943 | 4.78% |
14位:スウェーデンクローナ | 10.6788→11.1811 | 4.70% |
15位:フィリピンペソ | 56.1530→58.7567 | 4.64% |
16位:台湾ドル | 30.3800→31.7800 | 4.61% |
17位:ルーマニアレフ | 4.8595→5.0769 | 4.47% |
18位:日本円 | 138.7200→144.6553 | 4.28% |
19位:タイバーツ | 36.4500→37.7749 | 3.63% |
20位:マレーシアリンギット | 4.4755→4.6370 | 3.61% |
(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, US dollar exchange rates データより著者作成。なお、為替相場のデータがない場合は、その直近営業日のものを使用している)
上位10位圏内に南米通貨が2つも入っている(1位のチリペソ、7位のアルゼンチンペソ)ほか、欧州系通貨(2位のノルウェークローネ、4位のハンガリーフォリント、10位の英ポンド)、高金利通貨(3位のニュージーランドドル、8位の豪ドル、9位の南アフリカランド)などの姿が目立ちます。
先月200億ドル弱も外貨準備が減少した韓国
これらのランキングに混じって、韓国ウォンの姿が目に付きます。下落率は1ヵ月間で7%少々、といったところですが、おりしも韓国といえば9月を通じて200億ドル弱の外貨準備を溶かしたとする話題は、『韓国外貨準備が過去2番目の減少』でも取り上げたところです。
韓国の外貨準備が過去2番目の減少幅を記録しました。韓国銀行が本日発表した9月末の外貨準備高は4168億ドルで、前月比196.6億ドルも減少したのです。リーマン直後のような金融危機でもないのに、この外貨準備の減少額は印象的です。しかも、現金預金と有価証券の部分に限っていえば、コロナ禍発生直後の2020年3月の水準に近づきました。コロナ後に蓄えた外貨準備の蓄積を吐き出した格好です。韓国の外貨準備がさらに減少今朝方の『危機の兆候?高金利のカードローン残高が韓国で急増中』などでも取り上げたとおり、韓国の外貨準備の... 韓国外貨準備が過去2番目の減少 - 新宿会計士の政治経済評論 |
(おそらくは過去最大級の為替介入によって)200億ドル弱も外貨準備を減らしたというのも驚きです。
もっとも、先週の『トルコが韓国から通貨スワップで資金を引出し=現地紙』でも取り上げたとおり、トルコの現地メディアによれば、トルコが韓国からスワップを通じてトータルで10億ドルほどの資金を引き出した、などとする報道もあります。
溺れる者がお互いに藁を掴み合うような展開、とでもいえば良いのでしょうか。トルコのメディアの報道によると、トルコは韓国との間での通貨スワップ協定に基づき、韓国から10億ドルほどの資金を引き出したのだそうです。韓国メディアは「スワップは外貨準備の補完」などと大々的に報じていた記憶もあるのですが、現実には当てが外れ、トルコを救済せざるを得なくなった格好です。ただ、弱小国同士のスワップは、さまざまな意味で危険なものでもあります。通貨スワップ概論通貨スワップのもともとの意味通貨当局同士が通貨を交換する協... トルコが韓国から通貨スワップで資金を引出し=現地紙 - 新宿会計士の政治経済評論 |
このため、韓国の外貨準備高の減少要因のすべてが為替介入によるものなのかどうかはよくわかりませんが、少なくとも先月は、韓国から急速な外貨流出が発生したことは間違いないでしょう。
こうしたなかで、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に今朝、こんな記事が掲載されているのを発見しました。
韓国ウォン相場6.8%下落、英国ポンド・日本円よりも落ちた
―――2022.10.14 07:09付 中央日報日本語版より
中央日報の記事によると、韓国銀行が13日に公表した『9月以降の国際金融・外国為替市場動向』と題するレポートで、8月末から10月11日にかけてウォンが6.8%下落したとする趣旨の記載があるのだそうです。
ちなみにこの下落率は、主要6ヵ国通貨に対するドルの為替レートを指数化したドルインデックスの上昇率(4.2%)よりも大きいのだそうであり、また、ユーロ(▲3.4%)、英ポンド(▲5.6%)、日本円(▲4.7%)をいずれも上回っているとのことです。
これについて中央日報は、韓国ウォンの下落が「世界の他の通貨と比較しても特に速い」としつつ、「先月には株式と債券ですべての外国人投資資金が回収されてウォン安をあおっている」、「さらなるウォン安で資本流出の懸念も高まった」、などと述べています。
韓国銀行総裁「ウォンは人民元の代理通貨」
ただ、これに関する要因分析のなかで、非常に興味深いのが、韓国銀行の李昌鏞(り・しょうよう)総裁の12日付のこんな発言です。
「9月に入ってウォン安がドル高よりも更に進んだのは事実。ウォンは人民元のプロキシ(proxy・代理)通貨としてもみられており、中国が悪化すれば貿易でこのような問題が発生する」。
これはなかなかに興味深い視点です。
たしかに韓国の輸出高のうち、ほぼ4分の1が中国向けであるという状況(図表3)などが示すとおり、韓国といえば「経済的には中国」です。
図表3 韓国の対中輸出の状況
(【出所】韓国銀行データより著者作成)
このあたり、同じく経済の対中依存度が高いことでも知られる台湾の通貨・台湾ドルと比べて、韓国ウォンの下落率が非常に大きいことを踏まえると、韓国ウォンが下落している要因は「中国リンク」だけで説明がつくものではありません。
おそらくは家計債務の膨張、資産バブルの形成といった「韓国独特のリスク」の影響も大きいのではないでしょうか。
利上げの余地は乏しい:どうする韓国?日本は「注視」すべき
そのうえで、延世大学経済学部の教授のこんな発言にも、注目の価値はあるかもしれません。
「韓銀が金利をもうこれ以上は上げるのは難しいという信号を与え、韓米金利逆転に対する懸念がはるかに大きくなった。金利逆転幅が大きくなり、外国人の資金流出が本格化する場合、衝撃が大きくなるかもしれない」。
この点、韓国ウォンはここ1週間少々の間、小康状態にあることは事実です。
しかし、韓国を巡る不良債権リスクなどの本格的な問題が除去されたわけではない以上、当面、同国の状況については注視が必要といえるかもしれません(※もっとも、日本政府や日本人にとっては、韓国を助けることもできませんので、「注視する」以外に方法はありませんが…)。
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プロキシ―国家、プロキシー企業と言えば
三星とSKが米国から「1年猶予」を得たとの重要記事が出ています。
食い逃げ精神を発揮して、何度も猶予を引き出す腹積もりは、十分にありそうです。
>三星とSKが米国から「1年猶予」
米国企業に対するファウンドリー(製造委託)の足抜け猶予なのかもですね。
「ぅゎぁぁ(声にならない小さな悲鳴)共犯呼ばわりされては適わない、ケツを捲って逃げ出せ」なのか
「一年もあるからまだ大丈夫」なのか
「屁理屈炸裂永遠の1年後」なのか
>人民元の「代理通貨」と認める
相互の影響力を考慮すれば、「追従通貨」とした方が適切なのかもですね。
資本の移動が規制されてるにもかかわらずの人民元安も、米ドルへの換金能力(保有米国債減少)に ”追従” したものなのかもなんですけどね。
もう韓国はウォンを捨てて人民元を導入したらどうですかね。もしくは1元=100ウォンで固定相場にしては?
>先月200億ドル弱も外貨準備が減少した韓国
関係ないとは思いますが、最近クレディスイスの経営が厳しいと聞いた事があります。
この国は投機バブル崩壊と個人債務問題が必ず起こると思います。
そこで一気に手を引いた金融機関があるのではと邪推しましたが…どうなんでしょうか。