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危機の交通業界の自己変革と「旧態依然」マスメディア

著者自身、コロナ禍で中断していた出張を、徐々に再開しつつあります。こうしたなか、3年ぶりに搭乗した新幹線や飛行機で、なかなかに衝撃的な体験をしました。サービスのIT化が、思った以上の速度で進んでいたからです。これに対し、新聞、テレビなどの業界は相変わらず旧態依然としているのですが、こうした違いはひとえに危機意識の違いに求められるのかもしれません。

ウェブを活用した事例が急増中

著者自身はかつて、頻繁に出張をする人間でしたが、2020年に発生したコロナ禍の影響もあり、最近ではすっかり出張からご無沙汰しています。

また、著者自身が経営する会社でも、最近では顧客訪問や対面セミナーというものをやる機会がめっきり減りました。当社も顧客も、zoomやMicrosoft Teams、WebExなどのサービスを活用したリモート会合、ウェブセミナーなどを活用しているからです。

このウェブ会合、当初は新型コロナウィルス感染症対策からやむを得ず導入したものだったのですが、いつのまにか、すっかりその虜になってしまいました。非常に便利だからです。

オフィスに居ながらにしてさまざまなミーティングが実施できるというのも魅力的ですし、また、その会合を実施するための交通費、時間などが必要ない、というのは大きなメリットです。

たとえば、当方が都内某所の会社に出掛ける場合には、先方での滞在時間が1時間だったとしても、移動時間や待ち時間が前後で30分程度は生じるため、最低でも2時間は必要です。約束の時間に遅れないよう、先方のオフィスに早めに到着しようと思えば、もう少しかかるかもしれません。

また、先方が当社にやってくる場合、当方にはこうした時間的ロスは発生しないのですが、それでも先方には同じようなご負担をかけてしまいます。

顧客が都内ではなく遠方の場合だと、最近高騰している航空運賃や新幹線代、宿泊費などのコスト負担もさることながら、下手をすればその顧客の訪問だけで1~2日、オフィスを不在にしてしまいますし、遠方の顧客が東京の当社にいらっしゃるときにも、やはり同じ問題が出ます。

しかし、ウェブ会合の場合は、そもそも論として「相手に会いに行くための時間」が発生しません。デメリットがあるとすれば、「初対面の相手とは直接会って名刺交換することができない」、「その地方の美味しいものを食べることができない」、といった点でしょうか。

これだとリモートワークが進んでいくのもある意味では当然といえるかもしれません。

これだけある!外出のメリット

ただ、それでもあえて申し上げるなら、個人的には外出は嫌いではありません。外出には外出のメリットもたくさんあるからです。

たとえば、「顧客と直接会えるのが楽しい」、「気分転換になる」、といった利点がありますが、それだけではありません。移動しているだけでオフィスにいるときと思考回路が切り替わり、新たな着想が得られる、などの利点もあります。さらには、外出をした際に、ついでに銀行や役所を回るなどの作業もできます。

外出もうまく活用すれば非常に有意義でもあります。その意味では、外出時間が一概に「無駄だ」というつもりはありませんそれどころか、外出していたときの方が却って仕事が進むこともある、というのが現代の面白いところです。

先日、著者自身はコロナ禍以降、数年ぶりに遠方に出張したのですが、その際に新鮮な体験をしました。まず、東海道新幹線でもJALでも、無料のWiFi接続サービスが当たり前のように存在しているのです(条件付きではありますが…)。

とくに「東海道新幹線の7号車」は、座席に座りながらにして、ウェブ会議や通話が可能です(詳しく知りたい方は「東海道新幹線7号車」で検索してみてください)。その気になれば、遠方の顧客に訪問するまでの時間を使い、仕事をすることができてしまいます。

また、久しぶりに乗った飛行機でも、いろいろと衝撃を受けました。

まず、多くの飛行機では、座席前にUSBの給電口が設置してあるようなのです。ケースによってはType-Cに対応していることもありますので、Type-Cの給電に対応したケーブルを持っていけば、重たいPCのACアダプタを持ち歩く必要すらありません。

次に、飛行機内ではもうヘッドフォンやイヤフォンの配布をやめてしまっているようなのですが、そのかわり、機内のエンタメも自身が保有するPCなりスマホなりで視聴することが可能です。一定条件を満たせばインターネット接続も可能です。

これでいったい何が発生するのか――。

著者自身は現在、どこでも仕事ができる体制を作っているため、それこそ「移動時間中に仕事をする」、ということができてしまうようになった、ということです。また、滞在先のホテルでも、昨今だと普通にWiFiサービスが存在していますので、セキュリティの問題さえクリアするならば、それこそ自由自在に仕事ができます。

むかしの某人気マンガで、主人公である素行の悪い警察官が上司の部長から逃亡するために自転車をこぎ、あわせてそれで発電した電力をPCに給電しながら上司の悪口をネット上に書き込む、といったシーンが出ていましたが、いまや移動しながら仕事をするのは当たり前の話なのかもしれません。

やっぱり異常なオールドメディア

さて、こうした感覚に慣れているビジネスマンは多いと思うのですが、ここで改めて思い出してしまうのが、『日本の記者のITリテラシーの低さ、大丈夫ですか?』でもふれた、新聞・テレビなどのオールドメディアの記者の、ITスキルの極端な低さです。

岸田首相の映像の前に群がるオールドメディアの記者の皆さん、ITリテラシー、大丈夫ですか?岸田首相が新型コロナウィルス感染症に罹患したことが判明したなかで、ツイッター上で非常に心配になってしまう画像を発見してしまいました。画面の前に群がる記者の皆さんです。岸田文雄首相が新型コロナウィルス感染症に罹患してしまいました。首相官邸ウェブサイトに昨日公表された次の記事によると、20日から咳や微熱といった症状を生じ、急遽、PCR検査を実施したところ、21日に陽性が確認されたのだそうです。岸田総理の新型コロナ...
日本の記者のITリテラシーの低さ、大丈夫ですか? - 新宿会計士の政治経済評論

というのも、オールドメディアの記者の皆さんが、コロナに罹患した岸田首相を映し出すテレビの前に群がり、ぶら下がり取材を行っているからです。絵としてはあまりにもシュールであり、あまりにも衝撃的です。

ただ、これについてはオールドメディアの皆さんのITスキルの問題というよりも、記者クラブの既得権の問題、という側面もあります。

ウェブ取材を認めるとなると、誰にアクセス権限を付与するか、という話になりかねず、そこから必然的に、「記者クラブ所属の記者にしかアクセス権限を与えないのはいかがなものか」、といった論点に発展することを、おそらくオールドメディア関係者が恐れているのでしょう。

というよりも、そもそもこの手のITツールを活用する時代になってくると、記者が首相官邸という空間に物理的に赴く必要がなくなりますから、「情報に独占的にアクセスできる」という記者クラブの特権制度が、このIT時代によって揺らいでいる、という意味でもあります。

もちろん、オールドメディア関係者のITスキルが極端に低い(らしい)というのは、彼らの振る舞いからも何となく想像がつきます。

よく選挙前に「この候補者がアンケートに答えなかった!」などと怪気炎を上げているメディアがありますが、選挙に立候補したことがある知り合いに事情を尋ねたところ、オールドメディアはいまだに各社が各候補者に「紙」を送り付け、そこに手書きで回答することを求めているのだそうです。

このコロナ時代に、いったい何をやっているのでしょうか?メールなどのウェブによる回答で良いのではないでしょうか?

あるいは、候補者の氏名や年齢、略歴、公約・アピール点などはだいたい同じなのですから、「記者クラブ」などという談合組織を持っているのであれば、その「記者クラブ」が共通のフォーマットで候補者に取材すれば済む話ではないかとも思います。

もっとも、オールドメディアで働いている人たちのITスキルの低さを見ると、「一次データの処理」などに特化した専門家が、自身のウェブサイトを所持し、オールドメディアが報じない(あるいはオールドメディアには報じる能力がない)情報をどんどんと発信するようになれば、そこに商機があることも間違いのですが…。

情報源の多様化

さて、オールドメディアの話を持ち出したついでに、少しだけ脱線しておきます。

この「IT時代への対応」という意味で思い出すもうひとつ重要な話題が、「情報源の多様化」です。

オールドメディアというのは、基本的に情報が単線的です。

たとえば新聞の例だと、朝日新聞を取っている家庭では朝日新聞以外の記事を読むことはできませんし、読売新聞を取っている家庭では読売新聞以外の記事を読むことができません。したがって、同じ話題を朝日新聞と読売新聞がどう報じているか、そこに違いがあるのかどうかを、個人レベルで検証することはできません。

ところが、インターネット時代に変わり、新聞記事も多くがネット配信されているため、ポータルサイト(たとえばYahoo!ニュースなど)を開けば、同じ話題を複数の新聞がどう報じているかについて、本当に簡単に確かめることができます。

テレビについても同じことが言えます。テレビはチャンネルを変えれば複数の局を視聴することができますが、日本の地上波テレビ局は、ひとつの地域で視聴可能なチャンネルはせいぜい6~8個であり、しかも、「オンデマンド再生」ができません。テレビ局が流す垂れ流すコンテンツをそのまま再生するだけです。

しかし、インターネットだと、たとえばYouTubeなどの動画配信サイトに行けば、それこそ無限に近いチャンネルが存在し、しかもそれらの多くは「オンデマンド」、すなわち「好きなコンテンツを好きなタイミングで視聴すること」が可能です(まれにライブ配信というケースもありますが)。

その意味では、すでに情報の多様性という観点で、オールドメディアはネットに完敗しつつあるのでしょう。

オールドメディアは「進歩のない機内サービス」

どうしてこんな「余談」を述べたのかといえば、コロナ後に久しぶりに搭乗した飛行機で、この3年間のテクノロジーの進歩を痛感したからです。ここで思い出しておきたいのが、むかし当ウェブサイトの読者コメント欄でご指摘いただいた、こんな趣旨のコメントです。

  • 昔の飛行機では、機内食が終わったら機内で映画の上映会を行っていた
  • それがいつの間にか、各座席にモニターが備えられ、複数チャンネルが視聴できるようになった
  • 今度はこれらのチャンネルについて、オンデマンド再生ができるようになった
  • テレビを飛行機に例えたら、「皆が同じ映画を見る」という昔のままで発展していない

…。

このコメント主様、要するにオールドメディア全体を「進歩のない機内サービス」に例えたわけです。なかなかにうまいたとえだと思いますが、それだけではありません。久しぶりに搭乗した飛行機では、さらにテクノロジーが進歩していたからです。

まず、先ほども指摘したとおり、自身のスマホで自由にコンテンツをダウンロードして楽しむことができるようになりましたし、離陸準備中であってもPCで作業を続けることもできるようになりました。

また、飛行機は国内線の場合、もともと機内食もモニターもないというケースが多いのですが、機内WiFiのおかげでこれまで存在しなかった「映像コンテンツ」というサービスが国内線にも実装されました。航空会社にしても各座席にモニターを設置するなどの設備投資をしなくて済むため、ウィン・ウィンの関係、といえるでしょう。

3年ぶりに搭乗した航空機で、ここまでサービスが進歩しているのを痛感した一方で、改めて意識してしまうのが、オールドメディアの「オールドっぷり」です。

新聞は相変わらず紙に刷った「決して新しくない情報」を、地球温暖化ガスをばら撒きながら全国に配達するという時代遅れぶり。テレビはテレビで4K対応すら遅れ、オンデマンドに対応できないまま一方的に番組を垂れ流すのみ…。

情報革新のスピードは、否応なく、オールドメディアのテクノロジーの時代遅れぶりを露呈させていくのでしょう。

利権は変化を嫌う

考えてみれば、鉄道業界や航空業界は、このコロナ禍にあって収益の激減に直面するなど、どの社も一種の経営危機に陥ったのではないでしょうか。だからこそ、新幹線も飛行機も、ネット対応を進めることなどを通じ、「移動しながら仕事をする」というビジネス需要を取り込むことに成功しつつあるのかもしれません。

なるほど、リモートワークのニーズが増えるなか、「リモートワークしながら移動する」という需要をうまく取り込むことに、ある程度の成功を収めつつある、というわけです。実際、著者自身が乗車した「東海道新幹線の7号車」も「WiFiつきのJAL」も、満員とはいかないまでも、そこそこの利用客がいました。

やはり「危機」は変革のチャンスでもあるのでしょう。

翻って、オールドメディア業界はこの3年間、いったい何をしてきたのでしょうか。

記者クラブの利権を大切にするあまり、画面の岸田首相を密になって取り囲むという、いかにも反IT的でシュールな画像を世間に晒しているという事実こそが、オールドメディア業界が変革を嫌っているという証拠そのものではないでしょうか。

著者自身の私見ですが、一般に利権というものは変化を嫌います。

オールドメディアが変化しない(できない)のも、結局のところはオールドメディアが変化を嫌う「利権」の側にある、ということであり、テクノロジーが進歩した結果、これらのオールドメディアは変化できずに時代に取り残されていく、ということなのかもしれませんね。

新宿会計士:

View Comments (11)

  • 今年も夏休みに孫がやってきた。相変わらずテレビを見ない。
    TV局が流すコンテンツをテレビの前で見るー>自分の見たいコンテンツを好きな時間、好きな場所で見るという方向に変わってしまったのだろう。
    テレビの生き残る道はスポーツ中継くらいかなと思っていたら、ワールドカップアジア予選や井上尚弥のタイトルマッチは価格的にTV局では手が出なくなってしまった。というより広告効果を考えるとスポンサーが金を出せないほど高くなってしまったということだろう。
    プロ野球は相変わらず中継している。日本のプロ野球はメディアが関係している球団が多いせいだろうか。ジャイアンツ=読売、ドラゴンズ=中日新聞、ベイスターズ=TBS、スワローズ=フジサンケイ。プロ野球中継なら、まだスポンサーはつく。
    プロ野球シーズンが終わったらあの枠どうするんだろう。私の予想ではTVショッピングかな?
    あれはメディアの堕落だね。電波を転売しているだけだから。

  • 素行の良くない警察官の事例は、亀有公園前の交番勤務をしている対象者以外にまったく思い当たるところがありません。

  • NHKがネット視聴へ移行か?
    視聴料確保のために動き出した?
    との記事を見ましたが総務省とのタイアップで検討が始まっているのでしょうか。

  • オールドメディアと言えば、もう随分前から、新聞は取っていません。
    活字は大きくなり、広告は全体の半分以上になって、真水の記事は本当に少なくなりました。読むところがないです。
    フリーペーパー迄はいきませんが、感覚的には、購読する気になりません。
    我々が望むのは、事実の報道と論説です。
    これからは、この2方向に分かれて行くでしょう。
    報道は、Yahooニュースなどのまとめサイト。
    論説は、この新宿会計士様のような「論説サイト」。
    いろいろな視点からの論説サイトが、増えれば、世の人々の視野も広く多様化出来るはずです。
    実際、この新宿会計士様のサイトでは、いろんなコメントも書けるので、そのコメントを読んでいると、本当に視野が広まります。
    自分の頭が硬かったなと気づく事が多いです。

  • サムライアベンジャー(「匿名」というHNを使っている方には返信しません) says:

     ブン屋さんたちにITリテラシーを求めても期待外れでしょうね。記事のための場所どりとかで争ったり、どちらかというと体育会系(体育会系の人、すみません)でしょうから。

     ITリテラシー以前に、リテラシーに大きな問題がありそうですよね。経済の記事を文学部出身者が書いていたり、日経新聞でしたっけ、「日本のビジネスパーソン必読の新聞」だそうで。
     そういえば日経新聞で韓国の財務関係の記事を書いている記者が、韓国の金融系シンクタンクに留学している人だったりとか(韓国で金融を学ぶメリット、あるんでしょうかね。お里が知れるというものです)

  • S Work車両はスマートEXかEXエクスプレス予約で取ります。
    なんだけど、時々幼児連れがいる事も。席数が少ない車両(なので迷惑をかける範囲が狭い)と思ってくるんですかね。
    なおGWと盆の期間は設定がありません(通常の車両扱い)。
    あ、700SのS Work車両は都度30分毎の制限なし「S WiFi for Biz」が利用できます。ただしゲーム等は繋がらないかな(艦これ@Androidはダメだった←仕事しろ)。

    JAL WiFiは衛星インターネットに対応していない機材(J-AIR運航のエンブラエルとか)は機内エンタメのみですね。

  • >ウェブ取材を認めるとなると、誰にアクセス権限を付与するか、という話になりかねず、そこから必然的に、「記者クラブ所属の記者にしかアクセス権限を与えないのはいかがなものか」、といった論点に発展することを、おそらくオールドメディア関係者が恐れているのでしょう

    既にテレビ朝日、日本テレビ、産経新聞などの続報で、あのテレビ会見で総理公邸と官邸を専用情報で接続した会議システムを使用=一般回線で外部とつながなかったのは官邸側の情報セキュリティ上の措置だったと分かっているのに未だにこんなこと言ってんですか。
    この件での筋違いのオールドメディア、記者クラブ下げは論点そらしでしかない。自分の見当違いを認めたくないのか、みっともないですね。

    • 官邸のぶら下がり取材をやれるなら、フリージャーナリストの中には希望者はたくさんいますよ。なぜ記者クラブ所属の特定オールドメディアの記者だけが、官邸に出入りしてぶら下がり取材できるんでしょうか。
      セキュリティの問題をクリアしたとして、そのオンラインぶら下がりに参加できるのはオールドメディアの記者だけってなると、そりゃおかしいでしょう(笑)

      公平な運用は、特定オールドメディア限定のぶら下がりは廃止、現状のフリーも参加できる官邸記者会見への一本化ですよ。
      これは法令に基づかない、オールドメディアの根拠なき特権が顕在化した現象です。

      「論点そらし」してるのはあなたですよ。(笑)