今度は月額640~1,280円、でしょうか。例の「節電ポイント」をめぐり、共同通信は週末、政府が「毎月の電気代の1~2割の減額を検討している」と報じました。この記事をどこまで信じるかはさておき、冷静に計算してみると、例の「月額数十円」と比べればいくぶんかマシですが、それでも我々日本国民が決して少なくない再生エネ賦課金を負担してきたことに照らせば、「1,280円をあげるから節電に協力せよ」とは、ずいぶん無理がある依頼です。
「節電ポイントで毎月数十円を稼ごう」
当ウェブサイトでも連日のように取り上げている話題のひとつが、岸田文雄首相自身が提唱した「節電ポイント」です。
先週の『電力会社「節電に協力したら毎月数十円差し上げます」』で「第一報」をお伝えしたとおり、政府は現在、夏場の電力需要急増を前に、各家庭や事業所に節電を呼び掛ける一環としての「節電ポイント・節電分の買取制度」などの導入を検討しています。
“岸田さん、いままでいったい何をしていたんです?”「みなさんにお願いがあります。節電に協力してください。協力してくださったら毎月数十円を差し上げます」。こんな発言を聞くと、多くの「毎月電力を260kw/h使用するモデル世帯」の皆さんはイラっと来るのではないでしょうか。FITで毎月1000円近い料金を徴収されているというなかで、「節電をしたら数十円差し上げます」。本当にいみがわかりません。それに、夏場の電力不足は早い段階でわかっていたことです。岸田首相はいったい何をなさって来たのでしょうか?電力不足回避にま... 電力会社「節電に協力したら毎月数十円差し上げます」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
6月21日に開かれた『物価・賃金・生活総合対策本部』における岸田首相の発言は、次のとおりです。
「エネルギー価格については、これまでのガソリン価格の激変緩和策に加え、電気料金については、消費者向けに、一定の定額部分とともに、利用効率化に応じて、幅広く利用できるポイントを付与する制度をつくるとともに、事業者がもう一段の節電をした場合に、電力会社が節電分を買い取る制度を導入することで、実質的に電気代負担を軽減いたします」。
この岸田発言を受け、日経電子版は6月22日付の『節電ポイントで料金割引、政府支援 電力各社の制度拡大』という記事で、次のような趣旨の内容を報じました。
- 電力会社の要請に応じて電力消費を減らし、対価を受け取るサービスは「デマンドレスポンス(DR)」と呼ぶ
- 東京電力ホールディングスと中部電力はDRを7月に開始する
- 東電が目標とするのは3%の節電で、月260kWhを使うモデル世帯に当てはめると月数十円の還元となる
…。
モデル世帯の電気代は毎月6,408円
日経が報じた「モデル世帯で月数十円」が事実だとしたら、これも大変強烈な話題です。果たして本気でこれを「還元」だと政府は考えているのでしょうか。
ちなみに東電のウェブサイト『平均モデルの電気料金』によれば、再生可能エネルギー(※)の固定買取制度(FIT)に基づく賦課金などが電気代を教え型結果もあり、260kWh/月のモデル世帯の電気代は2021年2月以降6,408円、という数値が示されています。
※再生可能エネルギーとは?
太陽光・風力・地熱・中小水力・バイオマスなど、温室効果ガスを排出せず、国内で生産できるエネルギー源のこと。資源エネルギー庁はこの再生可能エネルギーを「エネルギー安全保障にも寄与できる有望かつ多様で、重要な低炭素の国産エネルギー源」であるとしている。
(【出所】資源エネルギー庁『なっとく!再生可能エネルギー』を参考に著者作成)
そして、この再エネ賦課金は決して安いものではありません。
2022年5月分以降1年間の再エネ賦課金は1kWhあたり3.45円ですので、月260kWhを使うモデル世帯でいえば、毎月897円、毎年10,764円を「再生可能エネルギー」のために強制徴収されている格好です。
民主党政権の負の遺産・FIT法
しかし、この「再生可能エネルギー」の多くは、日照時間内しか電力を生み出してくれない太陽光発電を筆頭に、とうてい「安定した電源」とはなり得ません。
私たち日本国民は決して安くない「再生可能エネルギー賦課金」を徴収されてきたにもかかわらず、政府の要請により別途「節電」という負担を押し付けられるというのも、どうも理不尽な話です。
もちろん、再生エネ賦課金は岸田・現首相が導入したものではありませんし、ましてや岸田首相の自民党政権の前任者たち(菅義偉総理、安倍晋三総理)が導入したものでもありません。この制度はさらにそれ以前、民主党の菅(かん)直人元首相の時代に成立した再生エネ法(FIT法)という「民主党政権の負の遺産」に基づくものです。
そして、このFIT法は、日本にとってエネルギーの安定供給にはまったく寄与しないばかりか、家計負担を無駄に押し上げたうえに再生可能エネルギーという不安定な電源への依存度を高めるなど、日本経済にとっては百害あって一利なし、です。その証拠が、頻発する電力不足でしょう。
2018年の北海道・胆振東部地震直後のブラックアウト事件もそうですが、現在の日本の電力不足は、多くの原発が操業を停止していることに加え、「脱炭素」の流れから火力発電所の出力も低下しているなどの事情もあります。
したがって、政府が現在、全身全霊で力を入れなければならないことは、FIT法の見直しと発電能力の増強です。
それなのに、現在の政府からは、どうもFIT制度の抜本的な見直しや原発再稼働の加速、といったメッセージは、あまり出てきません。それどころか、やはり節電ポイントに関連した報道がなされているようです。
先日も「月額数十円」に続き、「節電プログラムへのエントリーで2000円を差し上げます」という話題を取り上げましたが(『節電で数十円→国民激怒→「やっぱり2千円あげます」』)、これなど常識的に考えれば、キャンペーンにエントリーして2000円をもらっておしまい、というレベルでしょう。
「毎月数十円」で国民が激怒するのを見て慌てたのでしょうか?今度は「節電キャンペーンに参加したら2000円あげる」、ときました。岸田政権がブレブレなのは今に始まったことではありませんが、これも大変に噴飯ものでしょう。ポイントという姑息な手段によるのではなく、再生エネ賦課金という、モデル世帯で毎年1万円を強制的に徴収する制度、さらには消費税法を何とかした方が良いのではないでしょうか。節電ポイントへの参加は大変簡単!まずは6つのステップを…先日の『電力会社「節電に協力したら毎月数十円差し上げます」』では... 節電で数十円→国民激怒→「やっぱり2千円あげます」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
政府が電気代1~2割減額を検討=共同通信
こうしたなか、共同通信には週末、こんな記事も掲載されていたようです。
節電ポイントで電気代1~2割減を検討
―――2022/6/25 01:13付 共同通信より
タイトルと本文を含めてわずか90文字の記事であり、これだけだとなんとも判断が付きません。また、虚報ないし不正確な報道が大変に多い共同通信の記事ですので、これを妄信すべきかどうかという論点はあります。
ただ、これらの問題点をあえて脇に置いたうえで、字面だけで判断するならば、節電ポイント制度の一環として、電気代を1~2割減額することを政府が検討している、ということらしいです(あるいは文脈から判断して、それに相当する金額をポイントで還元する、という意味でしょうか?)。
先ほどの「260kWhのモデル世帯の6,408円」に照らせば、1割で約640円、2割で約1,280円、といったところでしょうか。「月額数十円」と比べればずいぶんマシですが、それでも夏場の1ヵ月1,280円のためにエアコンを控える、という発想にはなり辛い気がします。
それに、「節電」とやらをどう測定するのかはわかりませんが、もしも「前年と比べて消費電力量を減らした家庭」を「節電に協力した家庭」と認定するつもりなのだとしたら、普段から電力を節制している家庭にはポイントが付与されず、昨年、ガンガン電力消費した家庭により多くのポイントが付与される、という事態にもなりかねません。
このあたり、いろいろと理解に苦しむ点も多々ありそうです。
いずれにせよ、「節電ポイント」で日本の電力不足の問題を抜本的に解消することはできません。「ポイント給付」では新たな電力が生まれるわけではないからです。
やはり政府が全力で取り組むべきは発電に加え、FITなど電気代を押し上げている要因の見直しであるといわざるを得ないでしょう。
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この節電ポイント騒動って、訳が分からない事が多いんですよね。
普通に考えれば「月数十円分のポイントあげるよ♪」で冷房や暖房を欲しがる人を
納得させられる訳がありません。むしろ反発で怒らせるという事を、
例え浮世離れした金持ちの議員であっても理解できない訳がないと思います。
一応世論が反発しているのを認識してはいる様ですが、
「じゃ、じゃあ初期ボーナスの2000円でどう?」
「え?まだ足りない?じゃあ毎月千円強ならどうかな?」
とは……一体何の流れや目的でこうなっているのか、さっぱり分かりません。
希望的観測なら、こういう「迷走」は原発を叩きたくて仕方がないマスコミや
日本のエネルギー事情が改善すると困る諸外国向けの「ダミー」であり、
裏ではちゃくちゃくと原発再稼働の準備を進めていると解釈も出来ます。
しかしそんな希望的観測が当たる保証はないので、もっと嫌な可能性を想定すると……
①実は原発再稼働に深刻な問題が発生しており、それを公表せずに誤魔化そうとしている
②再生エネルギー業界が命がけで圧力をかけており、身動きが取れなくなっている
③日本の一人勝ちなぞ許してたまるか!と諸外国の影の圧力が凄い事になっている
④岸田首相が本音では原発再稼働に反対であり、遅延工作に出ている
⑤岸田首相が「神輿」と見なされるのが嫌で何かオリジナルな事を試みて滑っている
思いつくのはこんな所でしょうかね?どれも当たっている自信はないですが……
ほんと、一体何がしたいんだろう?
雪だんご さん
孫子でしてはいけないってなってる『戦力の逐次投入』をやってますよね。
お金が大事なら、そもそも再エネは「時期尚早」と使わない、普及させないのが正解でしょうし。
「研究開発日費の民間負担」とかにして、定額徴収ならまだ通ったのかも。
『戦力の逐次投入』とは言い得て妙ですね。
実際に「この作戦ならどうだ」「あの作戦でもダメならこれだ」と
愚策を繰り返し、戦力(支持率)を無駄に消耗しているのですから。
仰る通り、これが「現在の再生エネルギーは効率が悪すぎるので、
研究のために予算をつぎ込みます!」ならそこそこ国民の
理解を得られたと思うんですが……
なぜか再生エネルギーの力不足っぷりや環境破壊の矛盾には
かたくなに触れようとしない。自民党だけでなく、
自民政権を批判できるならどんなネタも使うはずの野党も。
やっぱり何か事情を隠していると思いたくなります。
クロワッサン様
戦力の逐次投入と見るなら、まだマシです。
最大戦力を持ちながら、一切使わない。
フリートビーイングで大和・武蔵を戦場近くに出さず
相手を威圧させる目的なら、ともかく。
意味の無い呪文「九条」を使って原子力発電させないのは
何なかなぁ~。 九条では、電力逼迫を躱せないし
ポイントと生命とどちらをとるのかと言われて、ポイントを
取るのは、熱中症まっしぐら、だと思うのです。
(注:九条信者は、ポイントゲットのチャンスです)
雪だんご 様
原発再稼働とはいうものの前途は多難でしょう。
10年以上も稼働停止しているものを再稼働させるには、新設原発を営業運転に入れると同じくらいの点検・確認の作業が必要なはず。これを省略すれば安全稼働は覚束ない。そしてこの作業には膨大なマンパワー(原発1基当り、ざっくり千人×数か月?)を要する。これを何か所も同時にとなると作業要員が確保できないだろう。となると順次やるしかなく、東電最大の柏崎刈羽原発(7基、電気出力約800万kW)を点検・確認するだけでも年単位でかかるはず。その上、仮にそのような点検・確認の作業ができたとしても、運転要員には10年間もの運転経験のブランクがある訳で、熟練度・士気は低下しており、再訓練などが必要と思われる。ということで、岸田政権の方針はイマイチはっきりしませんが、再稼働にだけでも長期戦略が必要です。
川口マーン恵美氏が度々ドイツの『補助金じゃぶじゃぶEVシフト』や電力価格状況について書いていて、ロシアによるウクライナ侵略によって再エネ派が手のひら返しを行ったりしてます。
https://gendai.ismedia.jp/list/author/emikawaguchimahn
再エネはまだまだ不安定要因であり、これを利用する事はあっても依存する事はあり得ないのではないかと。
エコキャップ運動など、社会的負担を誤魔化す環境関連運動の現状は、ある意味「朝鮮半島は日本の生命線だから、韓国が如何にアタオカだろうと日本は友好関係を維持しなければならない」という価値観に通じると考えます。
国民の人気者でありたい岸田文雄政権と政権よいしょ新聞論説委員による懐柔工作には率直に言って気分が悪いです。基本スタンスは仕事しているふり。ポイント制度や振興券に通底するうそっぽさはそこにあります。
FITで生み出されたエネルギーは、新たなベース電力として活用すべく、大型蓄電装置(水素電池等)の普及を目指して欲しいです。
とは言え、喫緊の課題は原発再稼働に基づく電力供給のはずなんですけどね。
*****
ドロンジョ:はやくキシダ政権の政策をどうにかするんだよぉ~!
ボヤッキー:期待に応えぬ、財務省の「”ポチ(犬)”っとな!」・・。
行政か議会か知りませんが最近、ポイントによって民衆を導こうとする政策が多いですね。
やってる感や頑張ってる感の鼻息の荒さをとても感じられます。20年前には無かった。近年の流行りのお洒落なトレンドだと思います。
節約嗜好の主婦がヒャッホーと飛びつくことを期待しているのでしょうか導き方、誘導の仕方がとても興味深いです。
個人的にはキシダポイントなるものがあって一定数貯まれば総理のプロマイド写真とサイン色紙が送られてくるなら、頑張る気にもなれる気がします。
大臣の名前や総理の名前の入った資格証は案外記憶に残ります。
需給がひっ迫した時に供給を増やすのではなく需要者にお願いして需要を減らすという発想。
電力ばかりでなく、電車の「時差通勤通学にご協力を」も同じ。
夏だけ原発稼働という柔軟性はないのかね?
この共同の記事が本当かどうかはともかく、評判が悪いからと次々と政策を変更する姿勢は頂けません。ってか、怒りが湧いてきます。
こういうことをする人って、ノイジーマイノリティに騙されやすい。
政治家たるもの、一度口に出したなら初志貫徹するくらいの気概を持って取り組んで欲しいのと、こんな明らかにすぐに論破されるような愚策ではなく、お偉いさん達がたくさんいるのだから、ちゃんと吟味を重ねて政策を立てて国政を執って欲しいと思う。
なんか、やっぱり岸田って残念だな、と思う。
我が家の昨年の電力使用量は
7月 94 kWh
8月 103 kWh
9月 104 kWh です。
今夏は相当暑い?かもしれませんので、これ以上の節電は命に関わりそうです。
多少節電したところで、大して節電ポイントやらも貰えそうにもありませんし、
260kWhのモデル世帯を目指し、ガンガン冷房を効かせたいと思います。
私も発電設備があるのに発電しない方が悪いと思います。
Zマークの省とその手先の宏池会はグローバリストなんでしょうね。電力が安定しない日本からまた製造業をなくしたいということでしょう。ただ不思議なのはその手法として悪夢の民主党政権と同じように為替を円高にもっていかない点です。彼らの目指す姿は税金を取るだけで使わない世界です。よって福祉とか年金に税金を投入したくないので、猛暑でも空調を使わせたくないのだと思います。人口が減る方向に舵を切っていると思いますね。今度の選挙では宏池会には入れないようにしよと思っています。ただ、ここの選挙区の自民候補は宏池会でないのに、現政権を褒めてましたのでその候補には投票しないことに決めました。
今の電力の不安定は、地域電力会社の火力の休廃止が進んで調整余力が無くなっていることも大きな原因ですが(経産省がそう言ってます)、
最近電力界隈の方々のツイッターフォローを増やしているのですが、その中にこういう話がありました。
ツイッターに貼付されているスクショの資料は、これだと思います。
第29回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/029.html
・資料3-1 早期の容量確保について
P.2以降に、容量市場の早期開設についての出席者の意見がまとめられています。
ざっと読んでみましたが、P.6の地域電力会社の山田氏、鍋田氏が明確に、「収入のあての無い火力は事業観点で休廃止せざるをえず、容量市場の前倒しは望ましい」という主旨の発言をしています。
反対意見は多いのですが、料金が高くなるというコスト面だけしか見ていないものなど、ややバランスに欠けるものが多いと思いました。
電力危機の原因はこれだけではありませんが、結果、火力の休廃止が進み、電力危機が訪れている現在があるのは経産省も認める事実です。
ご参考までに。
今の危機の原因はこれだけじゃないし、容量市場前倒しの経緯も合成の誤謬であって、役所も出席者も、みんな「自分の責任じゃない」と言う顔なんでしょう。それを演じているというか。
そろそろ、地域電力をサンドバックにするのやめてほしいですね。
サンドバック→サンドバッグ