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経済安保で日本が選ぶ半導体連携相手は韓国でなく台湾

先週成立した経済安保推進法では、半導体などが「特定重要物資」に指定され、手厚い財政支援などの対象となる方向だ、などと報じられています。また、萩生田経産相がゴールデンウィーク中に訪米した際、米国と「半導体協力基本原則」で同意しています。こうした動きに伴い、日本政府や日本企業がパートナーに選ぶのは、半導体王国の韓国ではなく、台湾ではないでしょうか。

経済安全保障推進法で半導体などが支援対象に

先週11日、参議院本会議で「経済安全保障推進法」が可決・成立しました。

内閣府が公表しているPDFファイル『経済安全保障推進法案の概要』によると、その「目玉」は次の4点にあります。

  1. 重要物資の安定的な供給の確保
  2. 基幹インフラ役務の安定的な提供の確保
  3. 先端的な重要技術の開発支援
  4. 特許出願の非公開

ちなみに岸田文雄政権下で小林鷹之氏が経済安全保障相に任命されるなどの影響もあり、非常に迅速に法案が成立したことについては、岸田政権下の功績のひとつと考えて良いでしょう(※本件を巡っては若干指摘しておきたいこともないではないのですが、これについては本稿では割愛します)。

そのなかでもとくに有望な分野のひとつといえば、半導体でしょう。

「重要物資の安定的な供給の確保」には、「国民の生存に必要不可欠」な物資や「国民生活・経済活動が依拠している物資」などを「特定重要物資」に指定し、それらの供給を助成・低利融資などで支援するという項目が含まれています。

一部報道によれば、半導体がこの「特定重要物資」に指定されるのだそうです。

経済安保推進法が成立 23年から施行、供給網を強化

―――2022年5月11日 12:51付 日本経済新聞電子版より

日経電子版の11日の記事によれば、この「特定重要物資」という区分は「戦略物資の調達を海外に依存するリスクを減らす」目的で設けられたもので、具体的には国が半導体、レアアース、蓄電池、医薬品などを「特定重要物資に指定」し、「関連産業向けの財政支援を厚くする」、などとしています。

とりあえず制度については出来上がりましたので、これに基づいて、あとは日本政府がいかに効率的な分野を見つけて必要な資金を投じることができるかがポイントでしょう。くれぐれも、「小さすぎ」「ショボすぎ」にならないことを期待したいところです。

日米半導体同盟

こうしたなか、以前の『輸出規制解除を目論む韓国尻目に日米が輸出管理強化へ』でも取り上げたとおり、萩生田光一経産相はゴールデンウィークに米国出張を行い、半導体分野での日米協力に加え、日米が主導して新たな輸出管理の枠組みを創設するという方向性を確認してきました。

対韓輸出管理適正化措置のことを、韓国側ではこの期に及んで「輸出規制」と呼んでいるのですが、その「輸出規制」とやらは尹錫悦(いん・しゃくえつ)次期政権下で解除されるものでしょうか。これを読み解くヒントのひとつが、萩生田光一経産相が先日訪米した際、米国側と取り交わしてきた、半導体に関する日米協力に加え、輸出管理のさらなる強化などの合意にあります。「日本の外相の4年ぶり訪韓で日韓関係改善へ」=韓国メディア韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)に昨日、こんな記事が掲載されていました。日本高官が4年...
輸出規制解除を目論む韓国尻目に日米が輸出管理強化へ - 新宿会計士の政治経済評論

萩生田氏の米国出張に関しては、経産省のウェブサイトに概要が取りまとめられています。

萩生田経済産業大臣が米国に出張しました

―――2022年5月6日付 経産省HPより

なかでも重要なポイントは、ジナ・レモンド米商務長官との『第1回日米商務・産業パートナーシップ(JUCIP)閣僚会議』【※PDF】でしょう。半導体、輸出管理、デジタル経済、貿易・投資という4つの分野において、引き続き日米協力を進展させていることが確認されたからです。

とりわけ、半導体に関しては、『半導体協力基本原則』【※PDF】が公表されています。

この「原則」のなかで、こんな記述があります。

特に半導体製造能力の強化・多様化、労働力開発の促進、透明性向上、半導体不足に対する緊急時対応の協調及び研究開発協力の強化について、同志国・地域と共に、二国間で協力していくことの重要性を強調した」。

事実上の、「日米半導体同盟」でしょう。

「国・地域」にいう「地域」とは「台湾」のことか

そして、冷静に読んでいくと、「同志国・地域とともに」、という記述もあります。

「同志国」・地域」とは、いったいどこのことでしょうか。そして、「同志」ではなく「同志国・地域」とわざわざ記載する意味は、いったいどこにあるのでしょうか。

これに関して非常に気になる報道がありました。韓国メディア『朝鮮日報』(日本語版)に本日掲載された、こんな記事です。

動きがなかった日本、米・台と組んで半導体投資再開…数兆ウォン規模の投資続々

―――2022/05/16 09:55付 朝鮮日報日本語版より

朝鮮日報は朝日新聞の16日付の企画記事を引用するかたちで、日本が米台両国と組んで半導体投資を再開する見通しだと報じました。いちおう、台湾に関して、少なくとも日本政府は公式には「国」と認めていませんが、これが「同志国・地域」の意味だったのだとしたら、なかなかに興味深いことでもあります。

これについて朝鮮日報は「半導体市場の供給不足」にともない、「日本政府が戦略的に国内半導体産業育成支援に乗り出した」などと指摘。東芝が40%を出資するキオクシアホールディングスが1兆円を投じ、来春の完成を目指し、約3.1万㎡のフラッシュメモリ製造棟を岩手県に建設中という実例を挙げています。

また、ほかにもキオクシアホールディングスが1兆円を投じて三重県に新たな生産ラインを完成させたこと、台湾TSMCがソニーやデンソーなどと提携し、熊本県に半導体工場を建設する予定であることなどを挙げており、これらに日本政府による基金の支援が見込まれている、とするものです。

朝鮮日報によると、これを報じた朝日新聞は「政府が製造工場に税金を投入するのは異例」と指摘したそうです。政府による支援がそんなに気に食わないのでしょうか?

産業同盟相手にふさわしいのは台湾?

このあたり、メディアがなにを言おうが、半導体産業に関する国を挙げた支援が強化される方向にあることは間違いありませんし、こうしたなかで、日本の経済安保を預けるにふさわしいパートナー選びも進んでいくことは間違いありません。

ただ、不思議なことに、この「半導体同盟」に関するさまざまな報道を調べてみても、「日本企業がサムスンと組もうとしている」だの、「日本政府が韓国企業に助成金を出そうとしている」だのといった話題がほとんど出てきません。出てくるのは台湾のTSMCであったり、日本企業であったりします。

そういえば、以前の『「日本の友人」である台湾が3番目の貿易相手国に浮上』などでも述べたとおり、貿易面だけで見れば、日本にとっての2021年の1年間を通じた貿易高(輸出高+輸入高)については、韓国が僅差で4番手に転落し、台湾が3番手に浮上しています。

2021年の貿易統計で、輸出、輸入ともに台湾が韓国を上回った結果、台湾が日本にとっての3番目の貿易相手国に浮上しました。外務省は昨年の『外交青書』で、台湾を「基本的価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人」と位置付けています。そんな大切な友人である台湾との関係が深まることは、日本にとっても重要な意味があります。貿易高で台湾が3番目に浮上ついに貿易高で台湾が「3番目の相手国」に浮上しました。財務省税関が先週金曜日に公表した『普通貿易統計』によれば、日本...
「日本の友人」である台湾が3番目の貿易相手国に浮上 - 新宿会計士の政治経済評論

僅差であるとはいえ、「台韓逆転」は非常に象徴的な出来事です。

また、貿易統計上、「日本にとっての3番目の輸出相手国」としての地位は、今年に入って台湾と韓国が再逆転してしまいましたが、それでも「僅差」という状況は続いています。

もしかすると、日本が経済安保を推進すればするほど、産業面では日韓の関わりが薄まり、かわって日台の関わりが深くなっていくのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (2)

  • 台湾もいつ親中政権になるか不安ではあるが
    韓国よりはマシかも

  • 本件、韓国ITジャーナリストが「日米が最先端半導体で協力、韓国の対応は? 米大統領訪韓に注目」https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00059/ という記事を書いているのです。
    それによると米国は「Chip4」と呼ぶ米日台韓の半導体同盟を3月に提案したとのこと。当初韓国はその提案に難色を示していたが、日米半導体協力の報道を受け、自国の優位性が失われる危機感からChip4やむなしという方向なのだと。で、バイデンさん訪韓の際、半導体協力について踏み込んだ話が出るのでは、という憶測をしています。いづれにせよ、米国は韓国財閥からの米国内への更なる投資を要求する可能性はあるでしょう。