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    Categories: 金融

共同通信、国際決済銀行の統計資料をかなり遅れて報道

やっと世間が当ウェブサイトに追いついてきたのでしょうか。共同通信に昨日、BIS統計をもとに、「邦銀がロシアに1兆円超の融資を抱えていることが、14日に判明した」とする記事が掲載されました。ただ、大変申し訳ないのですが、個別行の数値はともかくとして、BIS統計の数値自体は当ウェブサイトですでにかなり以前から取り上げていたものであり、少なくとも「14日に判明した」ものではありません。

共同通信に昨日、なんだかずいぶんと古い情報が掲載されていました。

邦銀、ロシアに1兆円超の融資/経済制裁強化、回収に暗雲

―――2022/3/14 22:11付 共同通信より

共同通信によると、「邦銀がロシア国内の企業や事業に対して計1兆円超の融資を抱えていることが14日、分かった」などとしたうえで、具体的には3大メガバンクとJBICの対露エクスポージャーについて報道しているようです。

ただ、「日本の金融機関が最終リスクベースでロシアに(円換算で)約1兆円の与信を持っている」という事実については、べつに「14日に判明した」ものではありません。

当ウェブサイトでは以前の『国際与信統計で読み解く各国の「金融パワー」と力関係』などで、統計データ上、西側金融機関の対ロシア与信の金額は、「最終リスクベース」で見て、1000億ドルを少し超えるくらいだ、と申し上げてきました。

ロシアは「どうせ欧州は制裁しない」と高を括っていた国際決済銀行が公表した2021年9月末時点の国際与信統計を使えば、各国の金融パワーや力関係が見えてきます。たとえば、ロシアに最も多くのカネを貸している国はフランス、イタリアの両国でした。実際、報道等によれば、最後までロシアの銀行をSWIFTNetから除外する措置に反対したのが欧州諸国だとされていますし、統計データで確認する限り、ロシアは直前まで、「どうせ欧州や日本は自国への制裁に踏み切らない」と高を括っていたフシがあります。国際与信統計(CBS)とは?:...
国際与信統計で読み解く各国の「金融パワー」と力関係 - 新宿会計士の政治経済評論

具体的には、国際決済銀行(BIS)が公表する国際与信統計(CBS)のデータを委細に検討していくと、「最終リスクベース」で見て、西側諸国などのロシアに対する与信額は2021年9月末時点において1047億ドルでした(図表)。

図表 2021年9月末時点におけるロシアに対する債権国(最終リスクベース)
金額 割合
1位:フランス 236億ドル 22.57%
2位:イタリア 232億ドル 22.14%
3位:オーストリア 171億ドル 16.31%
4位:米国 145億ドル 13.84%
5位:日本 92億ドル 8.80%
6位:ドイツ 52億ドル 4.92%
7位:オランダ 47億ドル 4.51%
8位:英国 31億ドル 2.93%
9位:韓国 14億ドル 1.35%
10位:フィンランド 9億ドル 0.89%
その他 18億ドル 1.73%
合計 1047億ドル 100.00%

(【出所】the Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics Full Dataより著者作成)

この手の統計データ、当ウェブサイトではすでに3月上旬の時点で提示していたものですし、また、BISのウェブサイト “Download BIS statistics in a single file” などに元データが掲載されたのは、2022年2月28日時点の話です。

この点、当ウェブサイトでは「やんごとなき事情」があって、個別銀行のエクスポージャーについては、極力ウェブサイトでは取り上げないことにしているのですが、少なくとも全体の数値と、それらが日本の金融機関にとって与える影響の少なさについては、「14日に判明した」ものではありません。

まさかとは思うのですが、共同通信のこの記事も、『新宿会計士の政治経済評論』を読んだ記者が、あわててBIS統計 “Consolidated Banking Statistics” を確認し、その結果の集計が終わったのが14日だった、といったところが真相だという可能性はゼロではないのかもしれません。

いずれにせよ、『対ロシア与信リスクは仏伊墺の3ヵ国に集中=与信統計』などでも取り上げたとおり、どうも最近、大手メディアの報道が個人の運営するウェブサイトと比べて遅れるということが増えているように思えてなりません。

対露融資で損失を発生させる可能性が高いのは、フランス、イタリア、オーストリアである――。これは、以前の『国際与信統計で読み解く各国の「金融パワー」と力関係』などでも指摘した予想ですが、当ウェブサイトの予想が正しかった証拠が、また出て来ました。時事通信の『欧州銀に巨額損失リスク ロシア向け投融資、回収困難』とする記事によれば、まさにフランス、イタリア、オーストリアの銀行の対露融資が問題になっているのだそうです。BIS統計で見る国際与信以前の『国際与信統計で読み解く各国の「金融パワー」と力関係』で...
対ロシア与信リスクは仏伊墺の3ヵ国に集中=与信統計 - 新宿会計士の政治経済評論

これなど、インターネット時代が到来し、大手メディアと市井の専門家の情報収集力に大きな違いが出なくなっている、という証拠なのかもしれないと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (8)

    • 匿名のコメント主様

      誤植のご指摘ありがとうございました。早速修正しております。

  • 共同通信は、
    「日本はこんなに回収できない。わぁ、大変だぁ!」
    という風味を出すのに手間取ったのではないでしょうか。

  • 投資家なり経済アナリストなんかは"ソレ"がメシノタネなんでしょうが、"報道屋"は騒ぎ立て煽り立てがソウなから、アンテナ感度にも差が有ったんでしょうねェ

  • 末尾、情報収集力なのでしょうか?
    どちらかというと情報発信力かと思っています。
    元々メディアも専門家も情報源が発信してから収集するのは変わらないので、ここにあまり差異はないのかと。
    (専門家が狭く深く、メディアが広く浅くという性質はあると思いますが)
    ただ、専門家は収集しても自身のコミュニティで発信するしかなく、メディアは不特定多数に発信することができたという発信側の違いにあるかと思います。
    メディアは収集、分析、発信の3つの役割を持っているとして、過去は発信を独占していたので成り立っていて
    インターネットにより発信の独占が崩壊し、メディアが手を抜いていても問題なかった収集と分析の問題が露呈したのかと思います。
    専門家はそもそも特定の分野に対して収集と分析には長けているはずなので、メディアは各々で勝てるわけがなく……
    とはいえ専門家は不特定多数への発信力が無くても食っていけるので、メディアはそういう専門家のサポートをするという役割していればメディア不要とまでは思いませんが……実情は余計な分析と倫理観に欠ける収集していて……

  • >共同通信によると、「邦銀がロシア国内の企業や事業に対して計1兆円超の融資を抱えていることが14日、分かった」などとしたうえで

    「わかった報道」ってあるそうです。今回のようなやつ。
    週刊誌だったり、あまり有名でない人の発言だったり、ソースが明示できないときに便利に使うのだそうです。
    「わかった」の主語は、共同通信の記者なんですよ。

    正しく書くなら、こうでしょう。
    「・・・ことが14日、新宿会計士のブログを読んで、共同通信の記者が分かった」

  • 日本の銀行については、銀行による差も大きいですが、ロシア債権のデフォルトだけでなく、今後の保有している国債の値下がりにどう対処するか、とか2~3年後に激増しそうな不良債権をどう処理するか、とか、いろいろ注意が必要だと思っています。
    ところで、新聞記事を読んで投資してる人なんているのかな。新聞が何を書こうが関係ないがします。そもそも、読んでないので。

  • シュレーディンガーの対露債権はマスコミが観測するまでは存在しないのです。