「NHK受信料不要のチューナーレステレビ」の製造に大手電機メーカーは消極的だ――。こんな記事を発見しました。今から10年近く前の「スマートビエラ」騒動にもあったとおり、大手メーカーはテレビ業界との悶着を嫌がるのだ、といった分析です。ただ、それでも少しずつですが、チューナーレステレビは普及していくのではないか、というのが、当ウェブサイトの見立てです。
坂道を転がり落ちるテレビ業界
ひと昔前であれば、テレビ業界はまさに「この世の春」を謳歌していました。
しかし、最近だとテレビ業界にもリストラの波が押し寄せ始め始めており、民放最大手であるフジテレビの親会社であるフジ・メディア・ホールディングスは2022年3月期連結決算で90億円の特別損失を計上する、などと発表しているほどです(『フジの希望退職は「テレビ業界終焉」の始まりの合図か』等参照)。
テレビ局を退社しても独立クリエイターとして活躍できる時代に「フジテレビの希望退職には約60人が応じた」。『スポニチアネックス』が先週金曜日、こう報じました。しかも、退職される方のなかには、90年代以降の日本のバラエティを牽引してきたとされる名プロデューサーの方も含まれているらしく、退職後は製作会社を設立し、映像制作に関わっていく、などとも報じられています。考えてみれば、昨今は動画サイトも存在するため、優れたクリエイターの活躍の場は地上波テレビとは限りません。希望退職という悪手くどいようですが、あ... フジの希望退職は「テレビ業界終焉」の始まりの合図か - 新宿会計士の政治経済評論 |
それもそのはず、近年だとネットなどを通じた有料・無料などさまざまな動画配信サービスが急速に普及しはじめており、動画・映像などの配信は、いまや地上波テレビ局の独占ではなくなりつつあるのです。
こうした状況で、もしもあなたが地上波テレビ局の経営者だったとすれば、いったい何をしなければならないでしょうか。
ひとつにはもちろん、ネットなどの動画配信サービスに対抗するために、優れた番組、面白い番組をたくさん作り、視聴者のテレビ離れを食い止めることが必要であることはいうまでもありません。
(※もっとも、『一般ユーザーに為替レート画像を要求するTVスタッフ』でも述べたとおり、どうもテレビ番組のスタッフのコンテンツ制作能力は極めて低いと思わざるを得ないエピソードも多々あるようですが…。)
テレビ番組スタッフの公式ツイッター・アカウントが一般のユーザーに対し、「ルーブルの為替相場の動きの画像をくれ」とお願いしたようです。なんだかビックリする話です。テレビ局であれば、BloombergなりReuterなりといった情報ベンダーからマーケットデータを直接入手し、エクセルなどでチャチャッと加工して見栄えの良いグラフを作成するスキルがありそうなものですが…。「マスゴミ」というネットスラングいつのころからか、新聞、テレビを中心とするマスメディア、あるいはマスコミのことを、「マスゴミ」と称する人が増えてきた... 一般ユーザーに為替レート画像を要求するTVスタッフ - 新宿会計士の政治経済評論 |
NHK問題
しかし、もうひとつ重要なことがあるとすれば、テレビ局は業界を挙げて、「視聴者のテレビ離れ」を防ぐための努力をしなければならない、という点でしょう。その典型例が、NHK問題にあります。
著者自身の主観的な意見で恐縮ですが、視聴者のテレビ離れを加速させているのは、たんに「テレビ放送がつまらないから」、というだけではなく、「テレビ放送を受信することができる状態だと、NHKから受信料を取られてしまうから」、という要因もあるのではないかと思います。
放送法第64条第1項本文には、「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」、とする規定が設けられています。つまり、テレビを設置した場合は、「NHKの番組を見る・見ない」とは無関係に、受信契約締結義務があるのです。
このあたり、冷静に考えれば考えるほど、おかしな法制度だと思わざるを得ません。繁華街に設置されているスクリーンビジョンの設置費用を、通行人に対して強制的に負担させているようなものだからです。
いちおう、受信料制度に関するNHK自身の言い分は、NHKが「公共放送」だから、というものですが、そのわりに、NHKが「公共放送」としての使命を果たしているのかと問われれば、「公共放送」から明らかに逸脱している番組も数多く見られます。
たとえば、昨年末の『「公共放送の3要件」から明らかに逸脱する紅白歌合戦』などでも述べたとおり、『紅白歌合戦』なる番組自体、ポップ・ミュージックの歌手(や、最近だとユーチューバーなど)を出演させているという点では、どう考えても商業放送そのものです。
そもそも論として、超豪華な舞台セットで人気歌手が歌い踊る『紅白歌合戦』は、果たしてNHKが騙る「公共性」に合致しているのでしょうか。2006年の紅白歌合戦では、出演した歌手が素っ裸に見える格好で踊るという下品なシーンもありましたが、そもそも人気歌手を集めてきている時点で、それは単なる商業放送ではないかという気がしてなりません。本稿では改めて、NHK自身が主張する「公共性」について、考えてみたいと思います。テレビのない生活は意外と快適冒頭でひとつ、報告があります。かつてから報告しているとおり、著者... 「公共放送の3要件」から明らかに逸脱する紅白歌合戦 - 新宿会計士の政治経済評論 |
すなわち、NHKや総務省がどんな屁理屈を立てようが、この放送法第64条第1項本文の規定に納得していない一般国民は非常に多いと考えられますし(※著者私見)、その歪みは、やがて国民的なテレビ離れという動きをもたらす可能性が濃厚でしょう。
ドンキテレビが絶好調
その兆候は、すでに始まっています。
以前の『NHKとの契約不要「ドンキテレビ」好調につき再販へ』でも取り上げたとおり、ディスカウントストアのドン・キホーテが発売した「チューナーレステレビ」が、どうもかなりのヒット商品となっているようです。
NHKと受信契約の締結義務が生じないとされる「チューナーレステレビ」の売れ行きが好調なようです。ディスカウントストアのドン・キホーテが2月中旬から、チューナーレステレビの再販を始めるとの報道に加え、一部のメーカーは同様のチューナーレステレビの発売に踏み切っているのだとか。これなど、NHKの強欲が、結果的にはテレビ業界自体を道連れにしているようなものでしょう。ドンキのチューナーレステレビ『社会はチューナーレスTVによりNHK排除に動くのか』を含め、以前からしばしば当ウェブサイトで紹介してきた話... NHKとの契約不要「ドンキテレビ」好調につき再販へ - 新宿会計士の政治経済評論 |
この製品、「チューナーレステレビ」と銘打っていますが、現実には「テレビ」といえるかどうかは微妙です。そもそも一般に「テレビ」とは、地上波、衛星などの放送を受信するための製品を指す用語ですが、ドンキの「テレビ」自体、そもそもテレビ放送を受信するためのチューナーが最初からついていないのです。
このあたり、当ウェブサイトでも便宜上「テレビ」、あるいは「チューナーレステレビ」を呼称していますが、厳密には「動画再生機」とでも呼ぶべきなのかもしれません。
ただ、「テレビ」と銘打っておきながら地上波テレビが映らないというテレビがが世の中で販売され、しかも好評を博する時代が来るとは、なかなかに興味深いことでもあります。というのも、これこそまさに、テレビ業界自体が坂道を転がり落ちるように衰退し始めている証拠でもあるからです。
このあたり、世間の記事を読んでいると、ドンキTVの大ヒットの理由は「NHKの受信料が不要だから」という点に焦点が当たっているようです。
著者自身は、必ずしもそれだけが理由ではなく、たとえば「民放も含めたテレビ放送がつまらないから」、などの理由もあるのだとは思いますが、それでもNHK受信料という問題を放置し続けていることで、民放を含めたテレビ業界自体が沈没するという側面があることもまた間違いないでしょう。
なぜ大手メーカーは大々的にチューナーレスTVを作らないのか
ただ、この「NHK受信料不要テレビ」を巡っては、ドンキTVの大ヒットにも関わらず、他の大手メーカーなどに大々的に広がっている様子はありません。これに関連し、『マネーポストWEB』が本日、『週刊ポスト2022年3月11日号』に掲載したこんな記事を配信していました。
ドンキが発売「NHK受信料不要テレビ」 大手メーカーが参入しにくい事情
―――2022/03/02 07:00付 Yahoo!ニュースより【※マネーポストWEB配信】
記事タイトルにもあるとおり、「NHK受信料不要テレビ」を巡っては、ドンキに続いて一部のメーカーも参入しているものの、大手電機メーカーについては「今のところ参入していない」点について、嘉悦大学教授の高橋洋一氏が次のように指摘している、というものです。
「チューナーなしのテレビを生産するのは技術的には容易で、ニーズもあります。しかし大手メーカーは付き合いの深いテレビ局の反発を怖れているため、ネット専用テレビの製造に消極的なのでしょう。その間隙を縫って、ドン・キホーテが話題性のある商品を仕掛けてきたわけです」。
…。
このあたり、たしかに大手メーカーとしても判断が難しいところでしょう。
そういえば、2013年には、大手家電メーカーのパナソニックが開発した「スマートビエラ」のテレビCMの放送を、テレビ局が拒否した、という騒動がありました(これについては『ASCII.jp』の2013年7月30日付『本質を捉えていないビエラCM拒否報道』などの記事も参考になると思います)。
今から約10年前の時点で、すでに日本ではテレビ業界とメーカーのつばぜり合いが発生していた、ということでしょう。
それでも少しずつ広がり続ける
ただし、大手メーカーが「地上波テレビが映らないテレビ」をまったく製造していない、というわけでもありません。その典型例が、ソニーが発売している業務用チューナーレスディスプレイです。
ソニー、チューナレスの4Kブラビア。在宅勤務向け32型9万円から
―――2021年6月8日 12:46付 AV Watchより
ソニーが販売しているのは、「テレビ」ではなく、あくまでも商業施設、オフィス、教育機関などに向けた「業務用ディスプレイ」であり、「役員やVIP用の大会議室などのほか、オフィスエントランスのサイネージなどにも適している」というものです。
すなわち、すでにチューナーレステレビというものは世の中に出現し始めているのです。
もちろん、テレビは耐久消費財の一種なので、いますぐチューナーレスTVが普及する、という考え方は、やや短絡的です。しかし、5年後はどうか、あるいは10年後はどうか、などと考えていくと、やはり、地上波テレビとインターネット動画サイトの力関係は、いずれ逆転していかざるを得ないでしょう。
それを遅らせるために、地上波テレビ業界(とくに民放各局)自身がNHK問題にどう向き合っていくのか、個人的には生温かく見守ってみたいと思う次第です。
View Comments (11)
よくわかんないけど、NHKが持ってる資産を元手に、その運用益と寄付金で、運営するようにできないのかな?
NHKの財産を国から贈与受けた形にするとかで、最初はなんかあるかもだけど、それが終わったら、晴れて国の関与のない「公共放送」になれるんじゃないのかな?
世の中の流れとして当然だと思います。
ワンセグも、テレビを見るために携帯を買ったわけではなく、カーナビもテレビを見るために設置したもので無いにも係わらず、「付いている」だけでお金をむしり取られるくらいなら、最初から付いてないい方がいいに決まってます。
事務所なども、テレビを見るためにモニターが必要でなれけば、スマートテレビが普及していくだろうと思いますし、ビジネスホテルとかでも、受信料支払いで年間億単位の経費がかかるなら、このテレビで置き換えていくんじゃないかと思います。
あとは、行き着くとこまで行けば、NHKが総務省に泣きついて、法改正しないかどうかをしっかり見ていく必要があると思います。
NHKは、ネット配信によって国内のすべての家庭から受信料を徴収するのが最終目的と思います。
ネット配信では世界中からの受信料の徴収となってしまうので、法的に無理ではないかと思っていましたが、よくよく考えてみるとNHKに関するのはあくまでも「国内法」ですので、国外には届きません。
その点をNHKは主張して、すべての国民から受信料をせしめようとしてくるはずです。
果たして、NHKが勝つか、ネットによる総合知(NHKの横暴を広く知らしめる)が勝つか、どちらになるでしょうか?
欲をかきすぎましたね。
無難な落としどころを、放送法を盾に個人まで標的にしてごり押しした所で民心を完全に失い且つ自浄努力は全くしなかったツケがこれから身にふりかかります。
だが、ロシアのウクライナ侵攻・中国の暴走・北の政体維持固執・韓国の病的反日と同じく、取り返しはつきません。
なんの対処法も今さら存在しません。
確か、ソニーって今となっては懐かしいトリニトロン管の時代からチューナーレスのモニター販売していましたよね。教室の片隅においてあった記憶があります。
プロフィール→プロフィールプロシリーズ。
マニア向け商品で業務用にも使っていたのです。
カラーモニターといっていたように思います。
チューナーは別売り、アンプ内蔵でスピーカー別売りでした。27”持ってました。
利権三原則がピッタリ。
プーチンもイエスマンに取り囲まれ、歴史の正当性などを持ち出し、身を滅ぼす。
NHKと同じに見えてきました。
歴史の正当性など言い出したら切りが無い。
全ての人に正当性が出てくる。
どうすんのお
スマホによるワンセグ絶滅をどう総括しているんでしょうねえ。
2021年はワンセグ搭載機種がなかったそうですね♪
機種変更のとき、ワンセグがないものってのを条件に考えてた身からすると、無駄な確認事項が減って嬉しいことなのです♪
ドンキテレビと聞くと相撲取りがテレビのリモコンで人の頭を殴って引退したのを思い出す
コロナでも、二十代で最初に死んだのは相撲取りだったし、日大総長も相撲畑の人間だし
相撲取りの話題は豊富ですね
NHKと言えば、今日のSAKISIRUにこんな記事がありました。
国連緊急特別会合のNHKスルーに国民の不満爆発、「受信料払っているんだから中継しろよ」
一般視聴者も有識者も問う「公共放送」「受信料」の意義
箕輪 健伸 ライター/SAKISIRU編集部
https://sakisiru.jp/22138
メディアへの強い不信感が募る中で、視聴者が今必要としている情報をそっちのけにしているようでは、更にテレビ離れを加速させる可能性があります。
チューナーレステレビが売れているのも当然の事であり、この事実を報道しようがしまいが、最早歯止めが効かなくなっていると思います。
それだけ視聴者がNHKをはじめとしたテレビ局に不信感を持っているという事なのです。