「国際的に広く通用する通貨」という意味でしょうか、俗に「基軸通貨」という表現があります。国債発行残高の増大という事情もあってか、韓国では現在、自国通貨・韓国ウォンを「基軸通貨」にすべき、などとする議論が広がりつつあるようですが、その道は必ずしも平坦なものではありません。なぜなら、自国通貨をハード・カレンシーとするためには、為替変動を許容するか、それとも金融政策の独立を放棄するかが必要だからです。
目次
金融論の立場から見た「国の借金」説のウソ
当ウェブサイトは「金融評論家・エクセル評論家・ハンバーガー評論家」である「新宿会計士」が運営しているウェブ評論サイトですが、正直、2016年7月にウェブサイトを立ち上げたときには、「金融」という、一般の人からしてなじみがない論点で、ウェブ評論が成り立つのか、心配していたフシがあります。
ただ、蓋を開けてみたら、これは杞憂でした。
金融ネタでも、一般の人々が「なぜ?」「どうして?」と疑問に思うような内容は多々あるからであり、また、ニューズサイトなどを詳細にチェックし続けていると、一般紙だと金融に関する誤った説明も堂々と掲載されていることがあるからです。
事例を挙げていけばキリがありませんが、そのひとつが、「国の借金」論でしょう。
これは、「日本は『国の借金』が1000兆円を超え、GDPの2倍以上に達している」、「たくさんのおカネを借りたらいずれ返せなくなる」、「だから増税、歳出削減などを通じ、これらの借金を減らすことが必要だ」、とする議論です。
私たち一般人の感覚だと、「年収500万円の人が、遊興費で1000万円の借金をこしらえてしまったら、その人の生活が破綻するではないか」、といった説明は受け入れられやすいものです。
こうした感覚に照らし、「そっか、GDPの倍以上の借金を抱えているのだから、日本はいずれ財政破綻するのか」、などと、勘違いする人が続出したとしても、それはそれで仕方がない話でもあります。
日本国債はデフォルトしない、なぜならば…
しかし、正しい経済・金融の知識を持ったうえで、現在の日本における資金循環を客観的に分析していくと、日本が財政破綻する懸念は、これっぽっちも存在しないことに気付いてしまいます。そもそも国債の債務不履行(デフォルト)が発生するためには、次の3つの条件を「同時に」満たす必要があるからです。
国債デフォルトの3要件
- 国内投資家が国債を買ってくれないこと
- 海外投資家が国債を買ってくれないこと
- 自国の中央銀行が国債を買ってくれないこと
(【出所】著者作成)
このうち「国内投資家が国債を買ってくれない」という状態は、基本的に、国内に資金が不足しているときに生じます。たとえば、国内で景気が大変に良く、機関投資家にとって国債以外の魅力的な投資商品がたくさん存在していれば、国内投資家は国債に見向きもしなくなり、金利も上昇するでしょう。
ちなみに米国や英国、アルゼンチンやかつてのロシアなどが、この状態です。
一方で、「海外投資家が国債を買ってくれない」という状態は、海外投資家が何らかの理由でその国の国債を忌避していることを意味しています。
たとえば、中国のように国内債券市場への外国からのアクセスを制限しているケースだと、海外機関投資家が自由に中国の国債を売買することは難しいでしょうし、ギリシャのようにデフォルト懸念が生じているようなケースだと、そもそも高金利でも海外投資家が債券を買ってくれないかもしれません。
自国通貨がハード・カレンシーだった場合の強み
ただし、国債自体が自国通貨で発行されていた場合だと、最終的なバックストップとして、「自国の中央銀行が国債を買う」という選択肢があります。
言い換えれば、最後の「自国の中央銀行が国債を買ってくれない」状態とは、その国の国債が自国通貨ではなく、外貨(米ドルなど)や共通通貨(ユーロなど)で発行されているケースです。
ギリシャ国債の実質デフォルトが発生したのも、ギリシャ中央銀行がユーロを発行する権限を持っていなかったからですし、アルゼンチンやロシアの米ドル建て国債がデフォルトしたのも、アルゼンチンやロシアの中央銀行が米ドルを発行する権限を持っていなかったからです。
基本的にユーロを発行する権限を持っているのは欧州中央銀行(ECB)ですし、米ドルを印刷する設備を持っているのも米FRB(連邦準備制度理事会)やその傘下の各地域連銀、あるいは北朝鮮政府などに限られています。
逆にいえば、その国の通貨自体が国際的に広く通用する通貨となれば、国債がデフォルトするリスクも、その国が破綻するリスクも各段に低くなります。
そして、国際決済銀行(BIS)の統計上も、日本円という通貨は、米ドル、ユーロに次ぎ世界で3番目に多く取引されていますし、オフショア債券市場の規模も、英ポンドには負けますが、世界で4位の規模を誇っているのです。
つまり、日本円という通貨が世界で非常に強い立場にあること、日本国債がその日本円という通貨で発行されているということ、日本国内で資金が有り余っており、国債の消化にはまったく問題がないこと――、といった事実を踏まえるならば、日本国債がデフォルトする確率は、宝くじで1等を当てるよりも低いと考えて良いでしょう。
それなのに、「国の借金が大変だから」云々というウソを堂々と述べるというのは、財務省という組織がよっぽど頭が悪いのか、それとも中国共産党あたりの手先となり、悪意を持って日本経済を積極的に破壊することを目的とする「悪の総本山」なのか、そのどちらかかが真相でしょう。
また、こうしたウソを喜々として喧伝するのに加担してきたのが、新聞、テレビを中心とする日本のオールドメディアです。
当ウェブサイトはこれまで主張してきた内容は、経済学的には「需要が供給能力を上回らない限りは需要を創出すべきだ」とするものであり、また、国債についても日本国内の消化能力の範囲内(少なく見積もって300~500兆円、下手をすると800~1000兆円)は増発すべきだと申し上げてきたつもりです。
(※もっとも、世の中には最近、「自国通貨の国債はいくら発行しても問題がない」とするインチキ理論もあるようですが、当ウェブサイトで主張している内容は、こうしたインチキ理論ではなく、「具体的に数字的な根拠を示すことができるもの」に限定しているつもりです。)
人民元はハード・カレンシーにあらず
さて、こうしたなか、金融専門家の視点からすれば、「ハード・カレンシー」という概念は、非常に興味深い論点のひとつです。
「新宿会計士」の定義に基づけば、「ハード・カレンシー」とは、「その通貨の発行国・地域を越えて、広く通用している通貨」のことであり、「域外使用・取引にあたって規制も少なく使い勝手が良い」という条件が付くものをさします。
中国の通貨・人民元は、2016年10月に国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)に組み入れられましたが、その人民元は、いまだに域外使用・取引にあたってさまざまな制約が設けられています(たとえば、中国本土の債券市場などで外国人投資家が自由に債券を売買することは難しいのが実情です)。
これに対し、日本円は、世界でも最も洗練された債券・デリバティブ市場を持ち、さまざまな金融商品が発行され、外国人投資家であってもこれらの金融商品を自由に売買することができますし、また、外国企業などが日本の債券市場で債券を発行し、日本円を借りる、ということも自由にできます。
韓国ウォンの「基軸通貨」論
その一方で、先日の『韓国経済団体「ウォンには国際通貨となる資格が十分」』では、韓国メディアの報道で、韓国の通貨・ウォンに「国際通貨となる資格が十分にある」などとする、韓国国内の経済団体の主張を紹介しました。
韓国紙で今朝、「韓国ウォンはIMFのSDRに指定される資格がある」とする報告書に関する話題が取り上げられています。ただ、いろいろ勘違いしている人も多いのですが、「SDR指定されたら国際通貨になる」わけではありません。話は逆で、通貨そのものが国際的に広く取引されるためには、その通貨そのものの使い勝手が改善しなければなりません。「人民元は基軸通貨となるのか」進まぬ人民元の国際化先月発売された『月刊Hanada2022年3月号』に寄稿した『デジタル人民元脅威論者たちの罠』と題する拙稿では、中国の通貨当局が強... 韓国経済団体「ウォンには国際通貨となる資格が十分」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
このあたり、端的にいえば、非常に微妙でしょう。
あまり知られていませんが、「その国の通貨が世界で広く取引されているかどうか」という論点は、「その国の経済規模」とは関係ありません。スイスのように、GDPの絶対額は小さいけれども通貨が世界中で信頼されている、というケースもありますし、GDPが世界第2位の中国の通貨が信頼されていないというケースもあるからです。
そして、韓国の通貨・ウォンは、世界的に広く通用する通貨ではありません。実際、オフショア債券市場の規模も非常に小さく、また、SWIFTの統計上も、少なくとも「国境をまたいだ決済」でも、少なくとも2016年以降のデータで見て、上位20位に入ったことはありません。
こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に今朝、こんな記事が掲載されていました。
韓国与党大統領候補「韓国、基軸通貨国の可能性」…野党代表「胸が高鳴る」
―――2022.02.22 09:23付 中央日報日本語版より
中央日報によると、与党「ともに民主党」の大統領候補である李在明(り・ざいめい)氏が21日のテレビ討論で「韓国が基軸通貨国に編入される可能性が高い」などと発言したことを巡り、保守系の野党「国民の力」の李俊錫(り・しゅんしゃく)代表が「本当に胸が高鳴る」と皮肉ったのだそうです。
すなわち、李俊錫氏は自身のフェイスブックに「国の借金を解決するために韓国を基軸通貨国にするという話を聞いて本当に胸が高鳴った」と投稿したのだそうです。
韓国は「基軸通貨」化に耐えられるのか
ここでいう「基軸通貨」が何を意味するかはよくわかりませんが、もしも「国際的に広く通用する通貨(ハード・カレンシー)」という意味でそう述べているのであれば、たしかに多少、国債を過剰に発行しても、海外投資家が国債を引き受けてくれるという点については間違いないでしょう。
この「基軸通貨」云々の記述がどういう文脈で出てきたのかといえば、韓国で最近、国債の発行残高が増大していることを受け、GDP比の適正な国債比率を巡る論争のなかで、「非基軸通貨国の場合は50~60%を超えると厳しい」という尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏の発言を受けたものだそうです。
中央日報によると、李在明氏は「韓国は国債比率がGDPの半分にも満たず、基軸通貨国になる可能性が非常に高い」、「それだけ経済力の水準が高い」と述べ、韓国が「基軸通貨国並みに国債を発行しても良い」とする認識を示したものだ、などと述べた、というものだとか。
正直、韓国が自国通貨をハード・カレンシーにしたければ、いますぐ国内の通貨市場、債券市場、株式市場を外国に開放し、資本移動の自由を完全に認めたうえで、不透明な為替介入政策をいっさいやめれば済む話でしょう。
もっとも、その場合には、韓国は米国や日本、英国のような「激しい為替変動」か、香港、デンマークのような「金融政策の独自性の放棄」という、どちらかの選択をする必要が出て来ます。
韓国経済がそれに耐えられるかどうかは、また別問題、といったところではないかと思う次第です。
View Comments (18)
>「韓国が基軸通貨国に編入される可能性が高い」
「編入」って、誰が何への編入を認めるのだか。(笑)
「基軸通貨グループ」??
自ら勝ち取るんだよ馬○者。
「米ドルを印刷する設備を持っているのも米FRB(連邦準備制度理事会)やその傘下の各地域連銀、『あるいは北朝鮮政府など』に限られています。」
wwww
安心しろ
日本も外国通貨を印刷する設備を持っているから
>韓国与党大統領候補「韓国、基軸通貨国の可能性」…野党代表「胸が高鳴る」
心臓病かも知れないから、病院に行った方が良いでしょう。
韓国人は、日本円が基軸通貨で主要先進国と無制限スワップがある事を妬んでいます。
そのうち日本を超えている韓国が、基軸通貨で無いのがおかしいとか、言い出すんじゃないかな。
韓国国債はGDP比で低いですが、政府系金融機関を含めた「国の借金」は、GDPを超えているはずです。
選挙目当てにバラマキ公約をしているから、10〜20兆円の国債を発行する事になると思います。
だんな様
南国は既に日本を飛び越えている状態だと信じているので
日本を飛び越えている南国は自動的に基軸通貨にならなければ
ならないと思っていますよ。
(注:日本は崖っぷちで下を覗きこんでいる状態なので、日本を飛び越えると
いうのは、崖からフライングする事だと思います)
そうすれば米国から無限・無期限のスワップが飛び込んでくると。
でも不思議な事に宗主国中共様の人民元が基軸通貨でない事や
米国からスワップが来ない事に気がつかないのも、おかしな話です。
胸が高鳴るというのは、心臓系か血管系の病気だと思います又は
幻覚症状なので、病院に早く行った方がよいと思います。
ちょろんぼ さま
人民元は基軸通貨で、アメリカからスワップを取り上げられたのは、文政権のせいだと思っているんじゃないかな。
最近韓国は「あたおか」が深刻化し過ぎて、「お薬増やしておきますね」のコメントは死に絶えたニダ。
>韓国人は、日本円が基軸通貨で主要先進国と無制限スワップがある事を妬んでいます。
なるほど、「編入」って、そのことかもしれませんね。
流動性スワップがあったからって、国債発行の限界が増えるもんでもないでしょうが、そこらへんはケンチャナヨかな。
元ジェネラリストさま
>流動性スワップがあったからって、国債発行の限界が増えるもんでもないでしょう
基軸通貨になれば、無制限に世界中から借金出来ると思っていると思いますよ。
>中央日報によると、与党「ともに民主党」の大統領候補である李在明(り・ざいめい)氏が21日のテレビ討論で「韓国が基軸通貨国に編入される可能性が高い」などと発言したことを巡り、保守系の野党「国民の力」の李俊錫(り・しゅんしゃく)代表が「本当に胸が高鳴る」と皮肉ったのだそうです。
…朝鮮半島南部が米国の52番目の州になるって事ですかね?
米国も「歴史を忘れた〜」になりそうなんですが(-_-;)
与党大統領候補は、現大統領以上の経済のプロですから、
国債増発しても通貨をその分増やして払えば丸儲け
くらいに考えてるんでしょう。
「韓国通貨が苦しいから、苦しくないハードカレンシーに韓国通貨もなれば良い」と言うのは「国民がパンが無いと言うのならお菓子を食べれば良い」と言う発言に論理的には似ている。てか、まさに国民経済の疲弊に対する処方箋として恐ろしいほど真知と根拠のない楽天性に共通点がある。
誤字が ×真知 ◯無知
今は亡きぐっちーさんがかつて「富の原泉は、信用と付加価値の創造」と言ったが、すぐに約束は破るは、作ったものは爆発炎上するし、早く早くばかりで詰めは甘いし、ウォンがゴミくずになる日も近いんじゃね?
1997年と2008年の両年に韓国で何が起きたのか、この韓国経済団体並びに李在明次期大統領候補もきれいさっぱり忘れてしまっているようです。
歴史を忘れた民族には未来はない、と思いますがね。
そのような韓国人の譫言は、経済的な環境や諸条件とは一切無縁で、「韓国の国格は大いに上がり、今や少なくとも日本やイギリスと同等、あるいはそれ以上なのだから、(準)基軸通貨国として扱われるにふさわしい」以上のものではありません。だから、SDRに組み込まれた人民元が基軸通貨どころか、ハードカレンシーとしてすら見做されていないということになど、全く意識にないのです。問題としているのは「国の格」だけであり、「これほどの格にまでいたったウリナラが基軸通貨国として扱われないのは恥ずかしい、不当だ」でしかありません。
なんだったら、「今日から韓国ウォンはハードカレンシーである」と宣言してみればいいんですよ。言うだけならタダですし。その宣言に対し、市場でどのような反応があるか(そもそも反応はないでしょうが)、見てみればよいのでは?
通貨って信用そのものですから、国と国との約束を簡単に反古にしたり、反古にすることこそが上に立つ事だ、とか考えている民族の通貨が、たやすく基軸通貨に成れるわけないじゃないですか。信用なさすぎ。ぱったり聞かなくなりましたが、G8になったり、いろいろ妄想が激しい国ですね。