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    Categories: 金融

日本の金融機関にとって韓国は「1%少々の国」だった

「日本にとって韓国の重要性は1%少々だ」――。こう述べると、多くの人が反論するでしょう。「いや、韓国は日本にとって3番目ないし4番目の貿易相手国であり、切っても切れない関係にある」、と。しかし、「国際金融の面では」、日本にとって韓国が1%少々のシェアしかない国である、というのは、確たる統計的事実です。最終リスクベースで見て、日本の国際与信全体に占める韓国の割合は、1.05%なのです。

外国に流れる日本のカネ

土曜日の『日本から溢れ出た5兆ドルもの国際与信は欧米に向かう』では、以前から何度となく当ウェブサイトで議論してきた「資金循環統計」「国際与信統計」などのデータをもとに、日本で使い切れなかった莫大な資金が、おもに欧米諸国などに流出している、という話題を取り上げました。

「日本は外国に対し380兆円を超える純資産を保有している国である」――。これは、当ウェブサイトで以前から何度となく繰り返し述べてきた内容ですが、それと同時に、現在の日本において、増税が必要ではなく、むしろ「やってはならない禁じ手」であるという証拠でもあります。こうしたなか、本稿ではいくつかの統計をもとに、日本の金融機関などがカネを貸している相手国は、アジア諸国よりも欧米が中心である、といった統計的事実を確認してみたいと思います。資金循環で読む日本経済日本全体の資金循環統計図当ウェブサイトでは日銀が...
日本から溢れ出た5兆ドルもの国際与信は欧米に向かう - 新宿会計士の政治経済評論

あらためて、基本的な考え方を確認しておくと、2021年9月末時点における日本全体の資金の流れ(資金循環:残高ベース)は、家計部門が2000兆円にも達しようかとする巨額の金融資産を保有し、それらが銀行、保険会社、年金といった機関投資家に流れ込んでいる、という構造を取っています(図表1)。

図表1-1 日本全体の資金循環バランス(2021年9月末時点・ストック、速報値)【※クリックで拡大】

(【出所】日銀『データの一括ダウンロード』のページより『資金循環統計』データを入手して加工)

図表1-2 日本全体の資金循環バランス(2021年9月末時点・ストック、速報値)【※PDFファイル】

(【出所】日銀『データの一括ダウンロード』のページより『資金循環統計』データを入手して加工)

財務省が国債を出し渋るからでしょうか、それとも30年間続くデフレ不況のため、企業がおカネを借りてくれないためでしょうか、この家計部門の巨額の預貯金、保険・年金資産が、日本国内では行き場をなくし、それらが海外に流出している、というのが現在の日本の状況です(図表2)。

図表2 海外部門の金融資産・負債の状況(2021年9月末時点)
部門 金額 割合
<金融資産>
貸出 217兆9140億円 26.00%
債務証券 213兆8420億円 25.51%
株式等・投資信託受益証券 292兆1727億円 34.86%
その他 114兆2217億円 13.63%
金融資産合計(①) 838兆1504億円 100.00%
<金融負債>
対外証券投資 689兆6265億円 56.60%
対外直接投資 206兆6030億円 16.96%
貸出 168兆2839億円 13.81%
その他 153兆9744億円 12.64%
金融負債合計(②) 1218兆4878億円 100.00%
金融資産・負債差額(②-①) 380兆3374億円

(【出所】日銀『データの一括ダウンロード』のページより『資金循環統計』データを入手して加工。なお、ここでいう「国債」には財投債、国庫短期証券を含む)

金融資産と金融負債の差額は、じつに380兆3374億円にも達しますが、この金額こそが、日本国内で使い切れなくて外国に流出している「国富」のようなものでしょう。

いわば、日本人が一生懸命働き、貯金した結果、その莫大な金融資産が日本国内で使われずに外国を豊かにするために使われてしまっている、というわけです。「日本は世界最大の債権国!」などと自慢する話ではなく、むしろ大変に情けない話だと思ってしまいます。

CBSを使った分析

いったいどこの国に貸しているのか

こうしたなか、ここで当ウェブサイトが注目したいと思っているのが、「対外証券投資」689兆6265億円と、「貸出」168兆2839億円、合計857兆9104億円です。

日本の年間GDPの2倍近くにも達する達する凄まじい金額ですが、この857兆9104億円という金額を、日本はいったいどこの国に貸しているのか、知りたいという気がしてなりませんが、残念なことに、資金循環統計では「どの国にいくらのおカネを貸しているか」について知ることはできません。

ただ、統計のベースは異なりますが、国際決済銀行(BIS)が取りまとめている『国際与信統計』(Consolidated Banking Statistics, CBS)を使えば、そのうちの一部分を知ることができます。

といっても、知ることができるのは「銀行が貸している金額」に限られており、たとえば巨額の資金を運用している、「ザ・セイホ」として知られる日本の生命保険、あるいは160兆円近くに達する外貨準備を運用している財務省の外為特会などについては、国別の残高を知ることはできません。

トップは米国の2兆ドル、ほかに欧米諸国ばかり

もっとも、CBSを使えば、だいたいの与信残高を知ることはできます。

これによると、日本の金融機関の与信先は、2021年9月末時点において、米国が2兆ドルを超えて最大であり、これに「オフショア」のケイマン諸島(6791億ドル)、英国(2297億ドル)などが続いています(図表3、ただし本稿で紹介するものはいずれも「最終リスク」ベース)。

図表3 日本の金融機関の与信先・上位10ヵ国(最終リスクベース、2021年9月末時点)
相手国 最終リスクベース 構成割合
米国 2兆0627億ドル 42.44%
ケイマン諸島 6791億ドル 13.97%
英国 2297億ドル 4.73%
フランス 2090億ドル 4.30%
オーストラリア 1407億ドル 2.90%
ドイツ 1290億ドル 2.65%
ルクセンブルク 1287億ドル 2.65%
タイ 1061億ドル 2.18%
中国 1005億ドル 2.07%
カナダ 913億ドル 1.88%
その他 9830億ドル 20.23%
合計 4兆8598億ドル 100.00%

(【出所】日本銀行『BIS国際資金取引統計および国際与信統計の日本分集計結果』より著者作成)

この図表3でわかるとおり、日本の金融機関の与信先は、8位のタイ、9位の中国を除くと、すべて欧米か豪州です。すなわち、日本から地理的に近いはずのアジア諸国は、日本の銀行にとっては重要な与信相手ではない、ということです。

アジアとのつながりはまだまだ薄いが…

そこで、アジア諸国に限定してランキングを作り変えてみたものが、次の図表4です。

図表4 日本の金融機関のアジア諸国に対する与信(最終リスクベース、2021年9月末時点)
相手国 最終リスクベース 構成割合
合計 4兆8598億ドル 100.00%
うちタイ 1061億ドル 2.18%
うち中国 1005億ドル 2.07%
うちシンガポール 773億ドル 1.59%
うち香港 662億ドル 1.36%
うち韓国 498億ドル 1.02%
うちインドネシア 490億ドル 1.01%
うちインド 417億ドル 0.86%
うち台湾 396億ドル 0.81%
うちマレーシア 215億ドル 0.44%

(【出所】日本銀行『BIS国際資金取引統計および国際与信統計の日本分集計結果』より著者作成)

中国に対する与信が1005億ドル(1ドル=115円と仮定したら約11.6兆円)というのも、見た目はたしかに大きいのですが、5兆ドルにも達しようかという日本の海外に対する与信と比べて、比率で見たら2%少々に過ぎません。

また、タイに対する与信が大きい理由は、後述するとおり、三菱UFJフィナンシャル・グループが2013年12月に、タイのアユタヤ銀行を連結子会社化した、という事情も大きいのでしょう。

タイの重要性はあまり変わらない

こうしたなか、以前にもやったことがあるのが、時系列に見た「日本とアジア諸国との金融面の関係」、という論点の整理です。

具体的には、日本の銀行のアジア諸国に対する与信額の推移を確認するとともに、その国に対する与信額が日本の銀行の全世界に対する国際与信に占める割合を同じグラフに表現してしまおう、という試みです。

たとえば、タイに対する与信は、こんな具合です(図表5-1)。

図表5-1 日本の金融機関のタイに対する与信額と構成割合

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics より著者作成)

これによると、日本の金融機関のタイに対する与信額は、2013年12月期に一気に増え、その後も順調に増えていることが確認できます。この2013年12月とは、MUFGがアユタヤ銀行を連結子会社化した時期と一致しています。

ただし、与信額自体は一本調子で増え続けているのですが、構成割合、すなわち日本の金融機関のタイに対する与信額が国際与信全体に占める割合については、ほぼ横ばいです。このことは、日本の金融機関がタイに対する与信「だけ」を増やしているのではなく、全世界に対する与信を増やしている証拠、ということです。

中韓vs台湾

対中与信の重要性は2%の大台を行ったり来たり

以下、タイと同様に、いくつかの国について見てみましょう。

最初は、中国です(図表5-2)。

図表5-2 日本の金融機関の中国に対する与信額と構成割合

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics より著者作成)

中国に対する与信は、近年、たしかに伸びてはいます。しかし、日本の金融機関から見た対中与信の世界シェアについては、2014年12月の2.51%を天井として、その後は2%の大台を行ったり来たりしている、という状況にあります。

このことから、日本の金融機関は中国に対する与信「だけ」を積み増しているのではなく、また、むしろ与信の世界シェアに対する中国の重要性は横ばいから低落傾向にある、ということが見えてきます。

日本の金融機関にとって「シンガポール>香港」に!

これらと同じ調子で、興味深いのが、シンガポールと香港の比較でしょう。

シンガポール、香港は、ともにCBS上は「オフショア」という位置づけであり、実際、この両者は国際金融市場で大変に似たような位置付けにあります。お互いがライバル同士、という言い方をしても良いかもしれません。

こうしたなか、シンガポールについては、多少の波はあるにせよ、日本からの与信額がほぼ一本調子で伸びていて、世界シェアについてもほぼ1.5%前後で安定していることがわかります(図表5-3)。

図表5-3 日本の金融機関のシンガポールに対する与信額と構成割合

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics より著者作成)

これに対し、日本から香港に対する与信額は2015年ごろから明らかに横ばいとなっており、また、世界シェアについては急速に下がり続けているのです(図表5-4)。

図表5-4 日本の金融機関の香港に対する与信額と構成割合

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics より著者作成)

なかなか、興味深い話です。

やはり、「雨傘革命」以降の政治面での「香港リスク」が金融面にも重しとなっているのでしょうか。

いずれにせよ、日本の金融機関にとって、いまや金融面での重要性は、「シンガポール>香港」となりつつあるように思えてならない、という次第です。

台湾向けの与信は1%を超えたことがない

日本の近隣国という意味で、もうひとつ興味深いのが、台湾と韓国でしょう。

以前の『日本はモノづくり相手を韓国から台湾に切り替えるのか』などを含め、しばしば報告しているとおり、韓国は貿易面では長らく日本にとって3番目の貿易相手国でしたが、最近になって、韓国に代わって台湾が3番目の貿易相手国に浮上することも増えてきました。

10月分の貿易統計からは、台湾が日本にとって引き続き3番目の貿易相手国であることが判明しました。といっても、4番目の貿易相手国である韓国と比べると、その差は肉薄しています。ただし、もしも当ウェブサイトが考える「日本企業がモノづくりのパートナーを韓国から台湾にシフトさせている」とする仮説が正しければ、いずれ「台湾>韓国」という流れは完全に定着するかもしれません。普通貿易統計・10月分最近、当ウェブサイトで毎月のように確認するようになってきた統計のひとつが、『普通貿易統計』という統計データです。その...
日本はモノづくり相手を韓国から台湾に切り替えるのか - 新宿会計士の政治経済評論

ただ、台湾、韓国ともに、日本にとっては「貿易相手国」としては大変に重要ですが、金融面で見たら、さほど強いつながりがあるわけではありません。

たとえば台湾の場合、近年、日本の金融機関の与信額自体は増えているのですが、シェアについては1%を超えたことはありません(図表5-5)。また、最近だとむしろ日本の金融機関の対外与信にとって、台湾が占める世界シェアは、横ばいから若干の低落傾向にあることが確認できるでしょう。

図表5-5 日本の金融機関の台湾に対する与信額と構成割合

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics より著者作成)

このように考えると、台湾は貿易相手国としては日本にとって非常に重要なのに、金融の相手国としては、あまり重要性がない、ということです。これから日本にとって台湾の重要性が伸びていくのか、それとも横ばいとなるのか、などについては、なかなか興味深いところです。

日本の金融機関にとって韓国は「1%の国」

ところが、台湾よりもっと極端な形状をしているのが、韓国です(図表5-6)。

図表5-6 日本の金融機関の韓国に対する与信額と構成割合

(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics より著者作成)

日本の金融機関の対外与信全体が伸びているにも関わらず、韓国に対する与信額はまったく伸びておらず、したがって、韓国が日本の金融機関の対外与信に占めるシェアは下がり続けています。

近年だと2012年12月に1.87%にまでシェアが上昇していましたが、直近だと2021年9月末時点で日本の金融機関の対外与信全体に占める韓国のシェアは、1.05%に過ぎません。ざっくりいえば「1%の国」、というわけでしょう。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

いずれにせよ、「日本にとってXXは極めて重要な国だ」、といった議論を見かけることがあります(多くの場合「XX」の部分には中国、韓国が入りますが、なぜかタイ、シンガポール、台湾などが入ることはあまりありません)。

ただ、正直、金融面では、中国、韓国といった近隣国の重要性はさほど大きくありません。

このあたり、「日本にとってXXは極めて重要な国だ」で思考停止するのではなく、やはりきちんと立ち止まって、ひとつひとつのデータについて、日本にとっての重要性を見極めていく、という姿勢が重要ではないかと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (8)

  • 最終リスクベースが「ケイマン諸島」になっている与信先の実態はどうなのでしょう。
    ちなみに、あの恒大集団も、ケイマン諸島に登記されています。

  • >日本の金融機関の対外与信全体が伸びているにも関わらず、韓国に対する与信額はまったく伸びておらず、したがって、韓国が日本の金融機関の対外与信に占めるシェアは下がり続けています。

    貸し剥がしていないってだけで、損切には備えてるってことなのかもですね。

  • 金融機関にとって、韓国の重要度はタイや中国の半分くらい。香港、シンガポールよりも下で、インドネシアと同じ程度。こういうデータを見ると、日本の金融機関は、すでにテーパリングを完了させているといえるのではないかなあ。

  • 与信が増える増えないのひとつの指標ってなんでしょうか?
    韓国だけでなく台湾もなら、戦争の可能性なのかなぁと思うのですが。

  • 韓国を含むアジア圏向けの与信が絶対額、与信総額に占める比率のいずれもが伸びない理由としては、多分以下のようなものが挙げられるのだろうと思います。

    a. そもそも資金需要がない
    b. カントリーリスクが大きすぎて、融資回収に確信が持てない
    c. アジア圏向け与信のためのノウハウが不足している

    おそらく「資金需要がない」ということはないだろうと思われるので、bかcかということになるのかと思います。そして、bとcは必ずしも相互に独立しているというわけではなく、カントリーリスクをマネージするだけのノウハウが不足しているために、与信供与ができないという側面もおそらくあるのでしょう。
    資本の論理を単純化すれば、要するに「儲かるか儲からないか」「融資をきちんと金利を付けて回収できるか」ということであり、そこに価値観とか友好関係などが介在する余地はないと思います。従って、アジア圏向け与信総額が伸びないということは、我が国の金融機関は何らかの理由で「儲からない」と判断しているのだろうと思います。韓国向け与信についても、「儲からない」から、または「回収に疑義がある」から、供与が伸びず、回収の方向に向かいつつあるということなのかもしれません。

    ただし、「儲からない」と「儲けることができない」というのは微妙に異なります。前者はそもそも最初からビジネス性に欠ける案件であるのに対し、後者の場合は、金融機関の能力不足によって、ビジネスの機会を捉えることができないということを意味しているからです。
    現状がどちらであるのか、あるいはどちらの比重が高いのか、判断するだけの材料を持っていませんが、個人的には後者の方が多いのではないかと疑っています。

  • いつも楽しみに拝読しております。

    アジア向けはともかく、韓国向けについては約束を守らない信用できない相手ですから、 「与信」できるわけがありませんよね。

  • こうして
    事実の数字でご指摘いただくと
    いかにこれまで偏向メディアの影響で
    半島さんを課題評価していたかに
    あらためて気付かされ、
    正しい相応の位置づけでの認識をもとに
    対応していく必要を感じます。

    まあ、韓流方面からは、
    1パーセントとは失礼ニダ!
    ウリたち3cmはあるニダ!
    とのクレームはあるかもしれませんが。