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「久しぶりに見た」文在寅氏、輸出規制克服を呼びかけ

あれだけ日本に対して「猫なで声」を出していたのに…ここまで様変わりするとは!

韓国の文在寅(ぶん・ざいいん)大統領といえば、任期をあと半年残すのみとなったためでしょうか、最近めっきり存在感がなくなってしまいました。その文在寅氏は昨日、国会で演説し、「日本の輸出規制の克服」を訴えました。そもそも日本が韓国に輸出規制を課した事実はありませんが、それよりも興味深いのは、文在寅氏の発言から日本に対する「猫なで声」が消えたことです。やはり、日本をテコにした北朝鮮との関係改善という構想は頓挫したのでしょうか。

文在寅氏の任期はあと半年

気が付けば、「あの方」の任期もあと半年少々になりました。

文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領のことです。

2017年5月に政権が発足して以来、最低賃金の強引な引き上げ、北朝鮮との融和を旨とした外交など、さまざまな意味において大変に「個性的な」政策を取りましたが、そのことで韓国の皆さんの生活がどうなったのかについては、正直、当ウェブサイトとしてはあまり関心を払う価値はないと考えています。

基本的に、外国がどんな人物を大統領・首相に選ぶかはその国の有権者の判断に基づくものですし、そのことに対し、私たちが外国人の立場で、「あの国はこれからああすべきだ、こうすべきだ」などと主張すべき筋合いのものではありません。

いや、もちろん、「他山の石」という表現がありますので、外国の有権者が政権選びを失敗し、そのことによってその国がおかしくなっていくという様子を「観察する」というのは有益ですが、逆に言えば、もしも「他山の石」にする価値すらないのであれば、わざわざ時間を割いてそれを分析する必要もありません。

ただ、日韓関係、あるいは朝鮮半島問題については、話は別です。

韓国が北朝鮮との関係でおかしな動きを取れば、それは日本の安全保障にも直結しますし、万が一にも「核武装した統一朝鮮」が出現しようものなら、それは日本にとっては悪夢です。

また、韓国は日本にとって大変重要な貿易相手国であるということは否定できませんし、日韓関係がギクシャクすれば、日本企業にとっても不測の損害が生じる可能性もあるので、日韓関係が良好であるに越したことはありません。

しかし、それと同時に、安全保障は経済に優先します。

万が一、韓国が日本の隣国という立場を悪用し、たとえば日本から輸入した戦略物資を「目的外利用」する、ということが常態化しているならば、そんなことは絶対に許してはなりませんし、そんな国に戦略物資を輸出することを許した輸出管理体制の責任も問われなければなりません。

対韓輸出管理適正化措置と韓国の不正貿易疑惑

さて、当ウェブサイトではちょうど1年前に、日本政府が2019年7月に発表した韓国に対する輸出管理の厳格化(あるいは適正化)措置を巡っては、「むしろ日本の利益を守るために必要な措置だった」という仮説を提示しました(『対韓輸出管理の厳格化は日本を守るために必要だった?』等参照)。

とある理由に基づき再開した『数字で読む日本経済』シリーズ、本稿で第8回目となりました。今回は「中韓がなくても大丈夫な日本経済」をテーマに、おもに数字を使いながら日中関係、日韓関係について議論しているのですが、日韓関係に言及した際に欠かせない論点のひとつが、安全保障上の措置に基づく輸出管理の強化・適正化措置です。追記:本文中で数ヵ所表現などを修正しています(詳細はコメント欄などをご参照下さい)。韓国との関係をどう見るか両国関係を数字で読むことの重要性『数字で読む日本経済』シリーズとして、現在展...
対韓輸出管理の厳格化は日本を守るために必要だった? - 新宿会計士の政治経済評論

(※余談ですが、この議論、今年2月に出版した『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』の下敷きにするためのものであり、この議論は同著にほぼそのまま採用しましたが、現時点で38個の評価と5点満点中4.5点という高評価をアマゾンでいただいているようです。)

【参考】『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない

(【出所】アマゾンアフィリエイトリンク)

具体的には、2019年7月時点において、日韓両国で輸出管理を巡る政策対話が2016年6月を最後に3年間途絶えていたこと、フッ化水素などの輸出統計(数量や金額)上、韓国への輸出が異常に多かったことなどをもとに、何らかの迂回貿易、目的外使用の可能性を指摘したものです。

これについては先週の『対中半導体包囲網?鈴置論考に見る輸出「規制」の真意』でも触れたとおり、優れた韓国観察者でもある鈴置高史氏もフッ化水素などの横流しが行われていた可能性を指摘していましたが、やはり、数字を積み上げていけば、同じような結論に落ち着くのかもしれません。

大変うれしいことに、優れた韓国観察者である鈴置高史氏の最新論考が、ウェブ評論サイト『デイリー新潮』に掲載されていました。「3匹目のドジョウ」とは、「とある人物」が過去に2回、韓国に騙されたことを意味します。また、今回のテーマは韓国が主張する「輸出『規制』」が米中対立局面で本物の「輸出規制」に転化した場合にいったい何が起こるかというシミュレーションとしても最適です。輸出規制?輸出管理?横流し疑惑以前から当ウェブサイトでは、日本政府が2019年7月に発表した対韓輸出管理厳格化(ないし適正化)措置を巡...
対中半導体包囲網?鈴置論考に見る輸出「規制」の真意 - 新宿会計士の政治経済評論

やたらと日本に擦り寄っていた文在寅氏

ただ、ここで思い出しておきたいのが、文在寅氏がここ1年ほど、日本に対してはやたらと「猫なで声」で擦り寄ろうとしていたという点です。たとえば、『今年の光復節は中味スカスカも「文在寅氏らしい」演説』でも触れましたが、8月15日の「光復節」の際には文在寅氏はこんな趣旨のことを述べました。

韓日両国は、国交正常化以来、長い間民主主義と市場経済という共通の価値に基づいて分業と協力を通じた経済成長を一緒に実現することができました。今後も両国が一緒に行くべき方向です。<中略>韓日両国が知恵を集めて困難を克服していき、隣国同士の協力の模範を示してなることを期待します」。

昨日は韓国の文在寅(ぶん・ざいいん)大統領が「光復節」、すなわち8月15日の演説を実施しました。これについて眺めていて気付いたのは、例年と比べた分量の少なさもさることながら、日本に対する挑発的な表現がほとんどなく、そして、全体としてまったく具体的な提案のない、文在寅氏なりの美麗字句で構成されている、という点でしょう。ただ、ある意味でこの演説自体、いかにも文在寅氏「らしい」ものだったとも思うのです。終戦記念日と光復節韓国と「8月15日」昨日、すなわち8月15日は、俗に「終戦記念日」と呼ばれます。その...
今年の光復節は中味スカスカも「文在寅氏らしい」演説 - 新宿会計士の政治経済評論

また、その約半年前の3月1日の「三一節」では、日本語に直訳して1000文字近くを日本に費やし、こんな趣旨のことを述べています(『【資料】文在寅氏「3・1節」演説の日本に関する発言』等参照)。

韓日両国は経済、文化、人的交流など、あらゆる分野でお互い大変重要な隣人となりました。<中略>私たちが越えなければならない唯一の障害物は、時折過去の問題を将来の問題と分離できずに混乱し、将来の発展に支障を来すことです。私たちは、過去の歴史を直視して教訓を得なければなりません。<中略>過去の問題は過去の問題として解決しながら、未来志向的な発展により一層力を注がなければなりません。<中略>韓日両国の協力<中略>は、両国みなのために役立ちますし、東北アジアの安定と共同繁栄にも役立ちますし、韓米日3ヵ国の協力にも役立つでしょう。<中略>わが政府はいつでも日本政府と向かい合って座り、対話をする準備ができています。<中略>韓日両国は、過去と未来を同時に見ながら一緒に歩いています。今年開催される東京オリンピックは韓日、南北、日朝、朝米間の対話の機会になります。韓国は東京オリンピック開催の成功のために協力します」。

今になってみると、韓国が東京五輪の期間中、「福島放射能食材を排除する」などと宣言して自国選手のために弁当を提供してみたり、日本を挑発する垂れ幕を掲げてみたり、と、東京五輪の成功のために協力してくれた記憶はありませんが、いずれにせよ、大変な「猫なで声」です。

文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領が昨日の演説で「韓国政府は日本と対話する準備がある」と述べたとする話題は『韓国大統領「日本と対話する準備」という噴飯物の演説』でも触れましたが、その原文と思われるものが韓国大統領府に掲載されていました。そこで、本稿は資料として、その文章をできるだけ原文に忠実に訳したものを掲載しておきます。文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領が昨日の「3・1独立節」の記念式典で「韓国政府は日本と対話する準備がある」と述べた、とする話題については、『韓国大統領「日本と対話する準備...
【資料】文在寅氏「3・1節」演説の日本に関する発言 - 新宿会計士の政治経済評論

昨日の演説では対日「ファイティングポーズ」

こうしたなか、その文在寅氏が昨日、国会で演説をなさったようです。

2022年度予算案施政演説【※韓国語】

―――2021/10/25付 韓国大統領府HPより

文在寅氏の演説、端的にいえば「自画自賛」の塊のようなものであり、正直、あまりマジメに読むべきものであるようにも思えないのですが、それでも真っ先に目につくのが、冒頭のこんな記述です。

尊敬する国民の皆さん、国会議長と国会議員の皆さん、任期6ヵ月を残して最後の是正演説をすることになり感慨深いです。/任期中、国家的に危機の連続でした。政府発足初期から一触即発の戦争の危機状況を克服しなければならいました。日本の一方的輸出規制、保護貿易主義、グローバルなサプライチェーン再編など急変する国際貿易秩序に対応していました。

冒頭で、いきなり「日本」「一方的輸出規制」という単語が出てきて、辟易します。

というよりも、今回の演説では、これまでの文在寅氏の演説でも出て来た「韓日関係の改善」、「対話の準備はできている」、「徴用工」、「慰安婦」といったキーワードはすべて欠落し、そのかわりに出て来たのが「日本との対決」だったというのは、大変に興味深いところです。

つまり、これまでの対日擦り寄りはどこへやら、昨日の国会演説では、いわゆる「対日ファイティングポーズ」が復活し、これまでの猫なで声もどこへやら、見事なほど、日本については「輸出規制」以外について完全にスルー、というわけです。

平気で事実に反する内容が口を衝いて出てくるとは…

それだけではありません。文在寅氏は演説のなかで、こうも述べています。

日本の輸出規制は、私たちの素材・部品・機器産業が自立する逆転の機会に変えました。国民が応援して、政府と企業、大企業と中小企業の両方の手を合わせ保持対応しました。その結果、100台のコアアイテムの対日依存度を減らし、輸入先の多様化などのサプライチェーンを安定させつつ、日本を越えて世界へ、素材・部品・機器強国の道に進んでいます」。

こういう統計的事実と真っ向から反することが平気で口を衝いて出てくるあたり、ある意味では「さすが」と嘆息せざるを得ません。

そもそも論として日本が講じたのは対韓輸出管理適正化措置に過ぎず、韓国に輸出規制を発動した事実はありませんし、また、日本の輸出管理適正化措置以降も、日韓両国の貿易高が著しく減少したという事実はありません。

いや、むしろ『台湾が3番目の貿易相手国に浮上しつつあることの意味』などでも述べたとおり、日本の貿易統計を確認すると、今年の韓国に対する生産財、中間素材(韓国語表現でいうところの「素材・部品・装備」あるいは「素部装」)の輸出量は、むしろ過去最大水準でもあります。

台湾は日本の友人:中国への配慮より「日本の国益」を重視せよ貿易の世界において、「台湾>韓国」という基調は、定着するのでしょうか。本稿では「速報」として、昨日公表された貿易統計のデータをもとに、台湾が日本にとって「第3位の貿易相手国」に浮上しつつある現実と、そしてなぜ日本が台湾の国際社会入を後押しすべきなのか、その概要について報告しておきたいと思います。2021/09/30 12:37追記図表1に示した「貿易額/貿易収支」欄が誤っていましたので修正しております。コメント欄でご指摘くださった伊江太様、大変ありが...
台湾が3番目の貿易相手国に浮上しつつあることの意味 - 新宿会計士の政治経済評論

(※ただし、韓国に対する輸出以上に台湾に対する輸出が伸びた結果、輸出相手として見て台湾が韓国を追い抜いた、ということでもありますが、この点はまた別の議論です。)

いずれにせよ、当ウェブサイトとしては、これまでの文在寅氏の「対日擦り寄り」の理由は、むしろ北朝鮮との関係改善を模索するなかでの文在寅氏の焦りの表れだと考えていたのですが、日本をテコにした北朝鮮との関係改善が功を奏しなかったことで、日本との「関係改善」には見切りをつけたのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (16)

  • 韓国歴代大統領の退任後の末路、韓国財閥がいつまでも創業家から専門経営者に経営を任せられないこと、北朝鮮のトップが3代続いて金一族なことを見ていると朝鮮民族の宿痾のようなものを感じる。血族以外はまったく信用できないのではないか。李氏朝鮮は高麗王朝の王氏を根絶やしにしたという。そのせいで韓国には王という姓が非常に少なく、いても中国からの帰化人だったりするらしい。
    まあ、あまり関わり合いにならないほうがいいね、そういう民族とは。

    • 半島では代替わりオールリセットが遺伝子に組み込まれた性根なのかもしれませんな
      で、リスタート時に周り見回して都合の良いネタだけ拾って組み立て

      オールクリアでリスタートは大陸もか!

  • >日本をテコにした北朝鮮との関係改善が功を奏しなかったことで、日本との「関係改善」には見切りをつけたのかもしれません。

    こういう、はっきりとした目的を持ってダメなら方針を転換するって、外交姿勢は見習うべきとこな気がします♪

  • ADHDの子供にゲームで遊ばせると気にくわない展開になる度にリセット繰り返すそうです。

    国家が情緒不安定ですね。

    二度と日本に敗けないと言ってそれほど時間がたってないのに何度敗けたことか…

    国連に連れて行ったBTSとやらに文大統領の名前です入った腕時計賜っただけでギャラどころかアゴ・足費用まで芸能事務所持ちで支払ってないとか。
    1億円オーバー踏み倒し。

  • 方針変更なのか、いつもの二枚舌なのかはまだ見極める必要があるかと思いますが、文政権の現状認識と現実の乖離がますます進んでいるのを感じます。

  • それにしても、半導体製造にかこつけてどさくさ輸入していたフッ化水素を止められイランや北に締め上げられたのが余程堪えたのでしょうねぇ。

  • 韓国は既に北朝鮮に取り込まれている、と私は思っています。
    文大統領が日本を利用して「関係改善」したかったのは、韓国と北朝鮮の関係では無く、文大統領と金正恩総書記との関係だと思います。
    北の制裁解除で捗々しい成果をあげる事が出来ませんでしたので。
    核兵器開発のためのフッ素化合物の供給も途絶えてしまいました。
    ※韓国は、核兵器の開発を北に委託している、あるいは北と共同で開発している、のでは無いかと思います。

    北の将軍様もお怒りだと思います。
    退任後はやはり塀の中?

    • 将軍様は最近すっかり若返られたようで驚きました。20代にしか見えません。
      彼の国の技術は侮れませんねえ。

  •  これは国内向けの演説みたいですので、支持率上げたくて勇ましく言ってるだけのような気もしますが、表向きは日本との関係改善を望む言葉を口にしていても、やはり本心はそれだったのかと思う次第でありまして。
    自分の思い通りにならないからといって、こうもあっさり手のひらを返す様な態度を取りますと、相手の信用を失うだけだと思うのです。
    そう、ちょうど今の韓国のように。
    ダメならダメで他の手段を模索するというのは結構なのですが、やはり国と国とのお付き合いですから、最低限の礼儀と敬意は示さないとあかんやろ。

  • >いきなり「日本」「一方的輸出規制」という単語が出てきて、辟易します。

    韓国側でどの程度実害があったか知りませんが、ここまで拘るのは、この件では「日本にメンツを潰された」との思いが強いことも一因だと思います。それが、頑なに「輸出規制」という言葉に拘り、執拗に原状回復を迫る所以でもあるでしょう。これまでの日本は、韓国が何か「悪さ」をしても「遺憾だ!」と言うばかりで、実効力のある対抗措置を発動することは稀だったように思います。処が、件の徴用工判決に対しては、(韓国の見方では)いきなり対抗措置を発動してきたのです。そしてその措置は、韓国半導体産業の急所を押さえているのが、実は日本であることを如実に示すものでした。

    それまでの韓国は、サムスン電子をはじめとする自国の半導体産業を世界一と自慢し、自尊心の拠り所としてきた感じがあります。日本の措置はこの自尊心を大きく傷つけたのだと想像します。それまでは、先端技術の象徴である半導体で日本に克った=技術力・産業力で日本を追い越したと思っていたでしょうから。とはいえ、仮に日本がこの措置を取り止めて元に戻したとしても、日本に首根っこを押さえられている現実は変わりません。しかし多分、日本にその非を認めさせたと宣伝すれば、論理思考に慣れていない韓国国民はある程度納得するのでしょう。まったく、疲れる人達です。

  • >いずれにせよ、当ウェブサイトとしては、これまでの文在寅氏の「対日擦り寄り」の理由は、むしろ北朝鮮との関係改善を模索するなかでの文在寅氏の焦りの表れだと考えていたのですが、日本をテコにした北朝鮮との関係改善が功を奏しなかったことで、日本との「関係改善」には見切りをつけたのかもしれません。

    日本から見切りをつけられた状態で猫なで声を出し、相手にされず、「見切りをつけた」事にして次へ進んだ(?)、と…。

    今は米国相手に終戦宣言をしようと猫なで声を出してるようですが、これまた米国に相手にされず仕舞いになって「見切りをつけた」事にして次に進みそうですね。

    うーん…G1国家ってところですかねぇ。

  • お疲れさまです。

    私の意見は、横流しが突っ込まれるとまずいので、輸出管理を「輸出規制」と言い張っている。

    それだけです。

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