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今年の第1四半期決算で在京民放は軒並み大幅な増益に

本稿は、ショートメモです。2021年第1四半期(4-6月期)におけるテレビ業界の決算が好調だそうです。この「増益」は、たんにコロナ前の状況に戻っただけ、という側面も否定はできないにせよ、少なくとも本稿で分析する限り、フジ、日テレ、テレ朝の3社については過去4年で最大の利益を計上しているようです(※ただし、TBSとテレ東については、時間の都合上、分析を割愛しました)。

共同通信「在京民放が大幅増益」

読売新聞に先週金曜日、共同通信が配信した、こんな記事が出ていました。

在京民放の全、大幅増益 4~6月、テレビ広告回復

―――2021年8月13日 17時04分付 読売新聞オンラインより

記事タイトルでもわかりますが、在京民放(の持株会社)の直近の四半期(2021年4-6月期)における決算が、前年同期比で「大幅な増益」となった、とする話題です。

ただ、ここで「増益」、「減益」などと称するときには、たいていの場合、「前期と比べて」、という条件が付きます。

各社のうち3社の決算を眺めてみた

この点、実際に各社決算短信で、放送事業(フジ・メディア・ホールディングスと日テレホールディングスについては「メディア・コンテンツ事業」、テレビ朝日ホールディングスについては「テレビ事業」)の損益状況について調べてみると、「利益水準がコロナ前に戻っただけ」、という方が実態に近い気がします(図表1~3)。

(※時間の都合上、TBSとテレ東の分析については割愛しています。)

図表1 フジ・メディア・ホールディングス
決算期 売上高 セグメント利益
2018年4-6月期 128,694 1,296
2019年4-6月期 124,895 3,962
2020年4-6月期 105,081 2,613
2021年4-6月期 97,215 5,600

(【出所】フジ・メディア・ホールディングス決算短信より著者作成)

図表2 日テレホールディングス
決算期 売上高 セグメント利益
2018年4-6月期 92,357 10,608
2019年4-6月期 91,081 8,929
2020年4-6月期 77,348 7,032
2021年4-6月期 91,555 13,662

(【出所】フジ・メディア・ホールディングス決算短信より著者作成)

図表3 テレビ朝日テレホールディングス
決算期 売上高 セグメント利益
2018年4-6月期 61,400 5,219
2019年4-6月期 60,750 1,820
2020年4-6月期 47,731 1,944
2021年4-6月期 58,031 6,351

(【出所】フジ・メディア・ホールディングス決算短信より著者作成)

どの社の決算でも、第1四半期としてのセグメント利益は、少なくとも4年間で最大です。

ただ、売上高に関していえば、フジについては減少が続いています(なお、フジの場合は新聞・出版部門の売上高も含まれるため、もしかするとフジテレビ本体以外の子会社・関連会社の業績が低迷しているのかもしれません)。

一方で、日テレについては増収・増益を達成していますが、売上高水準に関していえば「コロナ前に戻っただけ」ということであり、テレビ朝日に至ってコロナ前の水準には戻っていない、というのが実情に近いのではないかと思います。

テレビ業界はまだまだ頑強だが…

この点、以前の『コロナ禍でのテレビ局経営:在京5局はすべて減収減益』でも触れたとおり、コロナ禍のため、在京キー局(の持株会社)は2021年3月期決算で、いっせいに減収減益に陥りましたが、在京キー局に関してはいずれも経営基盤自体が安定しているため、すぐに経営破綻するという状況にはありません。

また、大手新聞社の中で唯一有価証券報告書を提出している株式会社朝日新聞社の場合、『株式会社朝日新聞社の決算:一過性要因とその他の要因』や『株式会社朝日新聞社の有報を読む』でも述べたとおり、同社としては過去最大級の最終赤字を計上しているものの、経営基盤は依然として安泰です。

これに加え、とくにテレビ業界に関していえば、コロナからの回復局面では広告収入も増えたなどの影響もあり、次第に収益が戻って来ているという状況にあります(※もっとも、新聞社の場合は『某新聞社、4期連続営業赤字で自己資本比率も3%割れ』などでも述べたとおり、倒産寸前の会社もケースもあるようですが…)。

ただ、東京五輪でオールドメディアは、五輪を商機と考えていたスポンサーの利益を侵害しました。

ことに、『五輪ヘイト煽るメディアに「広告主離れ」のブーメラン』でも指摘したとおり、トヨタ自動車に至っては五輪向けに制作していたテレビCMを放送しないことを決定せざるを得なかったということを思い出しておくのも有益でしょう。

さらには、株式会社電通が公表する『2020年日本の広告費』によれば、マスメディアの広告費は毎年落ち込みが続いており、すでに1年前の時点でテレビ広告費はネット広告費に追い抜かれています(図表)。

図表 日本の広告費

(【出所】株式会社電通『2020年日本の広告費』)

この点、東京五輪の影響もあり、おそらくテレビ業界の第2四半期決算を含め、少なくとも今期に関しては大幅な増収・増益を記録することになると思うのですが、それが永続するかどうかについては別問題、といったところだと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (10)

  • テレビ朝日の第一四半期の売上は前年比大幅増だけど2年前とほぼ同じ。
    前年の第一四半期(4/1-6/30)は最初の緊急事態宣言でスポット広告が大きく落ち込んだため。
    当期は緊急事態慣れでスポット広告が戻ったようだ。そういえばACジャパンの公共広告が減ってるような気がする。

    • 業界に詳しくないんですが、ACジャパンってどういうスキームなんですか?
      誰がお金出して、誰が利益を得ているのか?

      • 公益社団法人ACジャパン。
        昔の名前だと公共広告機構。
        ACはAdvertising Council の略でアメリカのAdvertising Councilが公共広告public service ad.キャンペーンを展開していたことも関連します。
        広告業界が公共福祉改善に協力するという主旨で設立されたボランティア活動になります。ですから広告会社が私費で広告を制作、それを主要メディアが無料で掲載するという方式で活動しています。収入源は広告主、広告代理店、媒体社からの会費で事務所は旧電通ビルにあったりします。
        震災、コロナ禍でAC広告が増えましたが、広告主がなんらかの理由で広告をやめたい場合はACへの差し替えになりACには費用負担はありません。
        公共広告は重要な存在と考えられており広告賞でも公共広告部門が存在します。

        • 例えば10時から11時の間にスポット枠が20あり18までは埋まっているがどうしても2足りない。ACジャパンの公共広告2つ入れておくか。テレビ局にとって無収入だけど。
          というのもあるのでは。

          • テレビ局のボランティア活動と言うことになります(笑)
            実際は、スポットは本数が決まった契約が多いですが枠が空いていれば同じCMを何回か流しますよ。という契約もあり普通のCM流します。

  • なんとなく、番組制作費の削減〔質の低下〕効果と広告費の復調が相乗した感じですね。

    格落ち商品が定価で売れるのは一度限り。次回からは値切りループなんじゃないかな?

  • 今四半期は前期コロナで激減したのが戻っただけなので、今後のテレビ業界の傾向を占うにはデータが不足していると思う。
    番組制作費は広告主が負担するので費用対効果を考えて高額な製作費はかけられず、その結果番組は低コストのぶらり旅、グルメ物、お笑いタレントものに。結果視聴率下落、広告主が離れて他の広告媒体へ。そこに入るのがショップチャンネルと韓流ドラマ、その他ドラマの再放送。テレビは殺伐としたものになるのではないかと思う。(BSはすでにそんな雰囲気)

  • TV局といえば、YouTubeにも公式チャンネルがありますよね。各局の人気動画を比較すると・・・面白いことがわかります。たとえば、テレビ東京の公式チャンネルで最も再生されている動画は2年前の動画です。4番目には今年投稿の“若い”動画も含まれています。
    一方テレビ朝日の公式チャンネルで最も再生されているのは3年前の動画ですが、それ以降は9年前の動画ばかりが目立ちます。最近の動画が“負けている”ことを示していると思うのですが、この、長年上位に食い込んでる動画とはいったい何なのか・・・それは是非、実際に見て確かめて頂けたらと思います。(笑)

  • 今日の(8/18/2021)の日経に面白い記事が出てた。
    様々な公的機関に対する日本人の信頼度。最も信頼できるのが自衛隊、最も信頼できないのがマスコミだった。この調査は2020年の10月ー11月に郵送で行われたとのこと。

    事実を冷静に伝えず、あおりに徹した結果だろう。国民は結構シビアに見てるね。