南北朝鮮の通信回線が急遽復活したと韓国メディアが報じています。南北回線の復活は、昨年6月に北朝鮮が遮断して以来、じつに13ヵ月ぶりなのだそうですが、なぜ北朝鮮が急遽、南北対話に乗り出した(かに見える)のか、そして、そのことが韓国の対日行動にどのような影響を与えるのかについては、興味深いところです。
北朝鮮の最新物価
以前から当ウェブサイトで密かに注目しているのが、『アジアプレス・ネットワーク』というウェブサイトが運営している、『<北朝鮮>市場最新物価情報』というページです。
これは北朝鮮国内の「協力者」に中国製の携帯電話を渡したうえで、ガソリン、軽油、北朝鮮産米、トウモロコシの4品と、中国人民元、米ドルとの為替相場について調べたものです。
これについて、先日の『北朝鮮の物価がさらに上昇:短期的混乱か、それとも…』では、北朝鮮の物価についての不思議な情報を紹介しました。これは、物価は上昇しているにも関わらず、為替相場については逆に下落している(=北朝鮮ウォン高になっている)、という現象です。
これについて考える前に、前提条件を確認しておきましょう。
意外なことですが、この『アジアプレス・ネットワーク』の調査によると、北朝鮮では物価水準は非常に安定しています。2020年初頭から始まった新型コロナウィルス感染症拡大による混乱に際しても、一時的に物価が「乱高下」する様子も見られましたが、その後はすぐに混乱が収まりました。
ただ、先月に関していえば、どうも物価上昇自体が不自然です。調査品目のうちガソリン、軽油、コメ、トウモロコシという4品目すべての価格が上昇する一方で、為替相場については非常に安定している、という状況にあるからです。
先月の物価上昇の謎
これについて、『アジアプレス・ネットワーク』自身が6月15日付の『<北朝鮮内部> 食糧が謎の高騰で市場混乱 トウモロコシ2.4倍に 「市場は阿鼻叫喚です」』という記事で、北朝鮮の「取材パートナー」たちのこんな見解を紹介しています(日本語表現を整えたうえで、便宜上、①~④の番号を付しています)。
- ①北朝鮮では自国通貨に対する信用がなく、資産防衛のために米ドルや人民元を保有しようとしていたが、外貨の使用統制が厳格化したことを契機に人民元が急落。外貨であれ内貨であれ、現金を忌避し、人々がモノを持とうとしている
- ②当局が価格統制をやっていない理由は、財政難の当局が市場の資金を吸収するために、国家保有米を高値で販売しようとしているからだ
- ③もともと、いまは秋の収穫期までの端境期で食料が品薄になる傾向にあり、これに加え営農資材不足で今年の収穫減が予想されている
- ④コロナ禍の長期化が確実視されるなか、各地で貿易再開に悲観的な雰囲気が蔓延し、そのため物価高騰に拍車がかかった
アジアプレス・ネットワークの調査が事実であるという前提を置くならば、これら4つの見解のなかで、やはり一番説得力があるのは①でしょう。もしも北朝鮮経済の貨幣経済そのものが崩壊する兆候であれば、米ドル、人民元のレートも同様に急騰していなければおかしいからです。
したがって、先月時点の当ウェブサイトなりの見解に基づけば、この物価上昇自体、純粋に「モノ不足」、あるいは「売り惜しみ」を理由としたものであり、あくまでも一時的な要因である、という仮説が成り立ちます。
(この点、「イーシャ」様という読者の方からは、『【読者投稿】中国は、北朝鮮を捨てようとしているのか』という読者投稿を頂きましたので、ご興味がある方はいま一度、ご一読を賜ると幸いです。)
北朝鮮の物価上昇は一段落?それとも…
結論的にいえば、当ウェブサイトの仮説が正しかったようです。
いまのところ、この物価上昇は一時的なものだったように見えます。7月20日付で更新された物価情報で確認する限り、ガソリンと軽油の価格が急落し、また、白米やトウモロコシについてはやや高止まりしているものの、6月中旬の水準からは落ち着いていることが確認できるからです(図表)。
図表 北朝鮮の物価
(【出所】『<北朝鮮>市場最新物価情報』データをもとに著者作成)
何らかの理由で、6月中旬以降、当局が価格統制を緩めた結果、物価が上昇したものの、7月以降に再び価格統制を導入した、ということでしょうか。可能性は色々と考えられますが、その真相については、現時点ではよくわかりません。
ただし、以前から何度となく報告してきたとおり、物価水準だけで経済の状態を読むことはできませんが、付加情報からは、何となく北朝鮮の状況を伺うこともできます。実際、アジアプレス・ネットワークは7月20日付の物価調査に関する解説欄に、こんなことを表記しています。
「販売されている白米はほとんどが中国米だという。そのため『北朝鮮産米』の表記を中断する。市場にロシア産の小麦粉が販売されるようになったという」。
北朝鮮で、コメの自給ができなくなってしまっている、ということなのでしょうか。非常に気になる情報でもあります(なお、上記図表でも、『アジアプレス・ネットワーク』の記事にあわせて「北朝鮮米」ではなく「白米」に変更しています)。
南北回線が電撃的に再開
こうしたなか、複数の韓国メディアは本日、こんな話題を報じています。
南北直通連絡線、午前10時に全面復元…遮断から13カ月ぶり
―――2021.07.27 11:46付 中央日報日本語版より
韓国と北朝鮮が軍通信線を復旧 定期通話も再開へ
―――2021.07.27 12:10付 聯合ニュース日本語版より
これは、南北朝鮮をつなぐ直通連絡船が27日午前10時に13ヵ月ぶりに復元された、というものです。
北朝鮮といえば、軍事境界線付近での市民団体のビラ散布を理由に、昨年6月9日に南北間のすべての通信連絡船を遮断し、さらに同月16日には開城(かいじょう)にある南北連絡事務所を派手に爆破したことも、記憶に新しい点です。
また、これについては北朝鮮の国営『朝鮮中央通信』側も、27日の午前11時頃、「首脳の合意により、北南双方は7月27日10時からすべての北南通信連絡線を再稼働する措置を取った」、などと発表したのだとか。
南北通信連絡線の復旧 北朝鮮も同時発表「関係改善に肯定的作用」
―――2021.07.27 12:04付 聯合ニュース日本語版より
ちなみに聯合ニュースによると、北朝鮮側は次のように発表したそうです。
- 今回の復旧は南北関係の改善と発展に肯定的に作用する
- 北南首脳は最近複数回にわたって交換した親書を通じ、断絶している北南通信連絡通路を復旧することによって相互信頼を回復し、和解を図る大きな一歩を踏み出すことに合意した
余談ですが、自分で信頼関係を壊しておきながら、「相互信頼を回復し、和解を図ろう」などとのたまうのは、やはり南北共通しているのでしょうか。
「最近、南北首脳が親書を交換」
こうしたなか、この北朝鮮の声明に、「南北首脳は最近複数回にわたって親書を交換した」とする記述が出て来ます(中央日報の次の記事も同趣旨のものです)。
連絡ルートの復元に…北朝鮮「南北首脳、最近数回にわたって親書交換」
―――2021.07.27 12:02付 中央日報日本語版より
「物価上昇で慌てた北朝鮮当局が、とりあえず韓国との対話再開に乗り出した」、という可能性はあるのでしょうか。
これに関しては、聯合ニュースの次の記事(※タイトルのみ)によると、親書交換が始まったのは4月頃からだそうです。
[速報]南北首脳 4月から親書を数回交換
―――2021.07.27 11:04付 聯合ニュース日本語版より
時期的に見て、南北間で北朝鮮の物価が急騰していた6月中旬ごろからであり、「物価上昇で驚いて南北和解に乗り出した」というほど単純なものではなさそうですが、ただ、「北朝鮮が何らかの理由で韓国との対話を必要とする状況に追い込まれている」というのは、仮説としては十分に成り立つ余地があります。
それが何なのかについては、まだよくわかりませんが…。
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さて、文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領が菅義偉総理大臣と執拗に首脳会談をやりたがっているというのは、昨年秋口から何度も出て来た話題です(『菅総理「日韓関係健全化のきっかけ要求」の本当の意味』等参照)。
その理由については、当ウェブサイトでは日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏の「ブラックスワン・ストーカー」仮説を支持しているわけですが(『鈴置論考、「日韓の」ではなく「韓国の」特殊性に言及』等参照)、もしその仮説が正しければ、今回の「南北対話復活」は意味深です。
文在寅氏としては、メインの政策目標である「北朝鮮との関係改善」が達せられるのであれば、日本との首脳会談、あるいは日本との関係「改善」などに、こだわる必要がなくなるからです。
ますますコントロールを失う南北関係、まだまだ目が離せない展開が続くのでしょうか。
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1980年代にミャンマーを旅行したことがある。外国人は200米ドルの強制両替が義務。例えば200米ドル=200チャット。公定レートは1ドル=1チャットなのだ。旅行者はバンコク空港で、ある銘柄のスコッチウイスキーを10ドルで買ってミャンマーに入国すると、闇商人が200チャットで買い取ってくれる。闇商人は200チャットで仕入れて、おそらく300以上で転売するのだろう。つまりドルの闇レートは1ドル=30チャット。公式レートの30倍ということ。貧しい国の閉鎖経済ではこういうことがあたりまえにおこるようだ。現地の現地通貨建物価の変動を分析するのは連立方程式を解くようにむつかしいのではないか。
とても勉強になります。ありがとうございます。
ちなみに、今でも外貨取引制限のあるアルゼンチンは正規の両替やカード決済の場合に適用される公定レートと闇両替レートが乖離していて、何年か前に私が旅行した時は闇両替だと公定レートの1.5倍ぐらいのペソになったと思います。
ここでレポートされてる北朝鮮ウォンの交換レートは実勢値の話ですね。
北が南を叱責してきた理由は、制裁解除や闇送金を行わなかった(行えなかった)こと、共同訓練の中止を実行できなかったということと記憶しています。
どちらにせよ即効性のある恐喝しかしておりませんね。もともと将来的に役立つ布石は南に任せず自国でやるという姿勢だったのではないでしょうか。
コロナで経済的ダメージがあるなら尚更に即物的な要求をすると思います。
その一旦の行動であり、南がそれに応えられずにまた叱責……といったいつかの焼き直しになると予測します。
南北通信が始まったのは対日ストーカーが激化する前ですね。
鈴置説とは異論となりますが、やはり対米働きかけのために日韓首脳会談を目論んだのでしょう、それが米国をどこまで動かせるかどうかに関わらず。
韓国としてはメインプランの道半ばでまだまだ諦めきれないと言ったところならば、対日ストーカーは続きますね。
それと同時に青瓦台以外の議員・メディア・市民団体による対日圧力としての難癖イチャモンも続くでしょう。それらが「怖いヤクザ」役として働き、青瓦台が「優しいヤクザ」役として働くという恒例のパターンです。
ブログ主さま、いつもお世話になっております。
お韓さまは意気揚々と何時もの如く燥いでおりますが此のニュース本当でしょうか。
小生何時もの嘘ではないかと疑ってしまうのです。過去の対日外交に対する当局の発表が蘇ります。
>自分で信頼関係を壊しておきながら、「相互信頼を回復し、和解を図ろう」などとのたまうのは、やはり南北共通しているのでしょうか。
南北は、北が上ですので、日韓と同じ構図だと思えば朝鮮共通です。
>「北朝鮮が何らかの理由で韓国との対話を必要とする状況に追い込まれている」
一番単純なのが、この想像ですよね。
もう一つ気になるのは、最近北朝鮮がオリンピックや防衛白書でやたら日本にケチをつけるのが増えている事。
妄想です
北朝鮮と中朝工作員の文大統領は、最初から話がついていて、南北関係の悪化は猿芝居だった。
どうも、文工作員で南北統一は、うまく行きそうにないし、ここで左派政権が終わってしまっては、元も子もない。
南北関係を少し良くすることで、文工作員へのサポートとなる。
今イチニダ。
>これは、南北朝鮮をつなぐ直通連絡船が27日午前10時に13ヵ月ぶりに復元された
typoですね。
しかし、LINE通話でいいんじゃねw
ストーリーは全然知らないですが「飢餓海峡」が思い浮かびました。
凍えそうな鴎も居ますね。
ポイントはエシュロンに掴まれない”専用線”ってところなんでしょうな。
何回騙されたら南朝鮮は分かるのだろうか?いや、文政権になってから、世間には知られぬようなカムフラージュした形で、一方的な支援が酷すぎる。
開城の南北連絡事務所を爆薬でぶっ壊され、板門店では何度も威嚇攻撃され、また南側の最前線監視所と銃砲火器部隊は撤去してしまった。北側の非武装地帯には地雷を足の踏み場も無いほど仕掛けられ、つい最近までは開城市の周辺の電力をタダでくれてやり、瀬取りで石油精製品、ドル、みかんも無償提供していた。
韓国の報道では「最近複数回にわたって交換した親書を通じ、断絶している北南通信連絡通路を復旧する」、、ええ?その電気代は韓国持ちですか?(ツッコミ所を間違えました)「複数回にわたって交換した親書を通じ」大変な時間の無駄をしてますネ。親書の交換って(笑)。金恩と与正の機嫌損ねたら、また断線になるのに(失笑)。ま、嘘つき同士、約束不履行同士、仲良くイカサマ賭博やってろ。
北朝鮮は飢饉である事は間違いないでしょう。将来を見据えた農業政策をせず、「焼畑農業」か「三期作」か、土地が痩せる事ばかりしていると思います。また、ハノイ会談やらで米国と決裂、頼りにならない韓国を見切りました。
しかし、情勢は内外とも悪くなる一方の北だけに、頼りにならないが、慕ってくれる文に経済面ではおんぶされ、金も食料も核関連材料も、すべて出させるつもりではないですか?どうせ今年一杯しか使えない賞味期限ギリギリの奴だ。使えるだけ使おう、ではないでしょうか?中国産米と言いながら「ハングル表記」ではないかと(笑)。
> 北朝鮮で、コメの自給ができなくなってしまっている、ということなのでしょうか。
本質的じゃないところに突っ込んで申し訳ありません。
北朝鮮って元々米を自給できていましたっけ?
北朝鮮は寒さと痩せた土壌のためにあまり米が取れず、日本と違って寒冷に強い稲の品種も使われてないようです。そのため、とうもろこしの粉をお粥にしたり、じゃがいもを加熱、加工したものを主食にしていると聞いた事があります。もちろん米を主食にしている家庭もあります。
何かの大規模イベントをやる時はしばしば米の徴発が行われますが、徴発対象になる地域は決まって黄海南道・北道です。そして徴発の後で餓死者が出たと報道されるのも決まって黄海南道・北道です。少なくともここ20年間はそうです。
こういった事を合わせて考えると、北朝鮮は少なくとも苦難の行軍以来、もしかしたら建国以来米を自給できておらず、中国を始めとする海外から安い米を輸入して国内需要を補っていると思われます。補えているかどうかはわかりませんけれど。
>北朝鮮って元々米を自給できていましたっけ?
昔の、ムンムン大佐が出ていた頃のブラバラで、ジャガイモを白米風に加工する工場を視察する金パパを見た覚えが…
あれ、ムンムンじゃなくてファンファンだっけ?
日韓、米韓、離間の計ですね。
多分、韓国はまんまとハマるんですかな。
とても判りやすい。
先週から複数のニュースサイトで報道されていますが、北朝鮮が猛暑と少雨で、干ばつに襲われて危機的状況になっているからではないでしょうか。
すでに農作物に被害は出始めて、6月から続いている食料不足に火がついて放置できなくなっているすると、韓国以外に食料支援を求めることのできる国もなく、韓国との通信回線を復活させるしかなかったのでしょう。
説得力のあるお説だと思います。
もう一つ、北朝鮮は、韓国の次期大統領も親北・離米の者が就くよう、地均しに入った、その一環ではないかとも思った次第です。
文在寅が北朝鮮への支援に成功したとして、その対価として北朝鮮から得る見返りはどんなレベルなのでしょう?
南北融和アピールに北朝鮮が協力すれば満足し、本来解決すべき南北間の問題には手を触れないまま終わりそうです。