「1日100万回」を「荒唐無稽」と罵ったメディアはどう責任を取るのか
ついに、「200万超え」です。以前から当ウェブサイトで何度となく申し上げてきたとおり、菅義偉総理大臣が5月7日の会見で掲げた「ワクチン接種1日100万回」という、『日刊ゲンダイ』さんにいわせれば「荒唐無稽な目標」については、6月中に軽々と達成しただけでなく、100万回を大きく上回るペースで進んでいます。こうしたなか、本日のデータで分析すると、昨日のデータと比べた「増分」が2,126,643回にも達しました。もちろん、これは「増分」であって「1日の接種実績」ではありませんが、少なくとも大きな偉業であることは間違いありません。
「ワクチン不足深刻化」報道による印象操作
いくつかのメディアが何度となく報じている「ワクチン不足」騒動を巡り、当ウェブサイトでは先日から、懐疑的な見方を提示しています。
実際に政府が発表しているワクチン接種回数のデータを眺めると、どうも「日本全体でワクチンを予定量確保できない状態が生じている」のではなく、「当初の目標よりもかなり速くワクチン接種が進み、供給が追い付いていない」だけであるように思えてならないのです。
とくに、先週の『時事通信の「ワクチン不足深刻化」記事を検証してみた』でも報告した、時事通信が報じた「ワクチン不足が深刻化」とする記事を取り上げました。
自治体、接種予約停止の動き ワクチン不足深刻化―新型コロナ
―――2021年07月02日07時13分付 時事通信より
これは、「『一部の』自治体で、7月以降の新規予約を停止・制限する動きが相次いでいる」、などとする記事です。記事本文で「一部の」と書いておきながら、記事タイトルで「一部の」を外した意図は、「全国でワクチン不足が深刻化している」という印象を読者に与えるためでしょうか。
結論からいえば、この時事通信の記事、極めてミスリーディングです。時事通信の記事を読むと、読者の多くは、政府があたかも「無計画にワクチンを配布した結果、全国的にワクチン不足が生じている」かの印象を抱くかもしれないからです。
まさに、印象操作の典型例でしょう。
VRSへの入力遅延はどれだけ深刻なのか
現実には、政府が各自治体に「ワクチン接種記録システム(VRS)へ早く入力してほしい」と要求しているにも関わらず、一部自治体ではその作業が極めて遅く、結果的に地方に在庫がダブついているかに見えてしまう、という問題があります。
実際、河野太郎行革担当相は6月23日の会見で、「VRSの入力が遅れると、その自治体に在庫が積み上がっているように見えてしまい、政府としてはそれがリアルな在庫なのか、入力遅れのための在庫なのかがわからない」と指摘しています。
そのうえで、河野氏は次のように、「なるべくリアルタイムに近い形でVRSへの入力を」と呼びかけているのです。
「VRSの入力にかかる人件費について、もしアルバイト等にお願いをするということであるならば、人件費については国が全額お支払いをする。自治体においては遠慮なく人の手当をしていただいて、なるべくリアルタイムに近い形でVRSへの入力をお願いしたい」。
そして、この6月23日の会見から2週間以上が経過しましたが、VRSの生データ(※)を先ほどダウンロードしたところ、驚くべき事実が判明しました。
VRS生データのダウンロード方法
- 「https://vrs-data.cio.go.jp/vaccination/opendata/latest/prefecture.ndjson」をウェブブラウザのURL欄に打ち込むと、その時点の最新データが取得可能
- 上記文字列のうちの「latest」以降の部分を「{dt}/prefecture.ndjson」(※)に変えると過去データの入手が可能(※なお、{dt}は「yyyy-mm-dd」形式で日付を入力。たとえば「2021年6月21日時点のデータ」なら、{dt}の部分を「2021-06-21」に変換)
なんと、「1日の接種回数の増分」が、200万回を大きく凌駕したのです(図表1、ただし図中の数値は四捨五入されており、正確にいえば2,126,643回)。
図表1 データ公表日ベース・総接種回数の前日比増分(医療従事者等を除く)
(【出所】VRSオープンデータより著者作成)
これには、素直に驚きました。
増分の「213万回」の内訳
もちろん、この図表は、「7月7日(水)の1日で213万回も接種した」、という意味ではありません。
「VRSから7月8日時点で提供されたデータと、7月7日時点で提供されたデータを比べると、両者に213万回の差が生じていた」、という意味です。
厳密に言えば、こういうことです。
- 7月8日の公表データ…4月12日から7月7日までの総接種回数が43,605,682回(①)
- 7月7日の公表データ…4月12日から7月6日までの総接種回数が41,479,037回(②)
- ①-②=2,126,643回
内訳を分析すると、これもまたじつに強烈です。
7月8日時点の公表データに含まれるのは、4月12日から7月7日までの総接種回数ですが、このうち7月7日の接種回数は742,814回に過ぎず、残りの1,383,829回は過去データの修正に伴う増分です。
具体的には、7月6日の接種回数が195,726回、7月5日の接種回数が100,600回、7月4日の接種回数が122,728回、7月3日の接種回数が107,646回、それぞれ上方修正されており、それ以前のデータも857,129回上方修正されているのです。
言い換えれば、7月7日時点で公表されたデータは、7月8日だけで1,383,829回分も加算された、という計算であり、現時点で「接種は終わっているけれどもVRSにデータとして入力されていない」という事例が、数百万回か、下手をすると1000万回分は存在している疑いが濃厚です。
もちろん、ワクチン接種があまりにも急激に進んでいるためでしょうか、今後ワクチン供給にスピード調整を余儀なくされるであろうと考えられるため、いくぶんかワクチン接種速度は落ちるでしょう。
しかし、これは「目標よりも迅速にワクチン接種が進んでいる」という証拠であって、決して悪い話ではないのです。参考までに、65歳以上(いわゆる「高齢者」)向けの接種は、公式ベースでも1回目が7割、2回目が4割に達しています。
【参考】7/7(水)の接種率:
- 65歳以上・1回目…71.49%
- 65歳以上・2回目…40.40%
(【出所】VRSオープンデータより著者作成。なお、「接種率」とは累計接種数を『令和2年住民基本台帳年齢階級別人口』【※エクセルファイル】記載の人口で割った数値。高齢者接種率は累計接種回数を3548万6339人で割って求める)
しかし、VRSによる入力遅れという事実を踏まえるなら、接種率はもっと高いはずです。
仮に1回目と2回目で350万回ずつの入力漏れがあったとすれば、正しい接種率は1回目が8割、2回目が5割です。そのうえで、本日以降も1日150万回ずつのペースで接種が進めば、のこり16日で1回目、2回目ともに100%を達成する計算です。
(※とはいえ、自治体によってはワクチン接種が順調に進んでいないケースもあるため、現実に7月末までに接種が完了するという保証はありませんが。)
デイリーのグラフは印象操作に使える!
参考までに、次の2枚の「ワクチン接種実績」グラフ(図表2、図表3)を紹介しましょう。
図表2 ワクチン接種実績(医療従事者等を除く)
(【出所】7月8日時点のVRSオープンデータより著者作成)
図表3 ワクチン接種実績(医療従事者等を除く)
(【出所】6月22日時点のVRSオープンデータより著者作成)
図表2と図表3、「直近データに近付くほど接種実績が落ち込む」という意味では、グラフの計上はそっくりですが、両者を見比べていただければ大幅な「上方修正」が加えられていることがご確認いただけるでしょう。
つまり、どちらのグラフも「直近になるほどに接種実績が落ち込んでいる」ように見えるのですが、あとから公表されたデータで作り直せば、その当日に接種実績が落ち込んでいるという事実はないのです。
このデータ特性、いくらでも「悪用」できます。
VRSの入力遅れという実態を踏まえずに単純にデイリーで分析してしまうと、図表2のように、あたかもワクチン不足が深刻化しているかのようなグラフが出来上がってしまうからです。
もしかすると、どこかのメディアがこの図表2のようなグラフを使い、「ワクチン不足のために接種実績が落ち込んでいる証拠だ!」と喧伝し始めるかもしれません。
こうしたグラフの使用がアンフェアであるという点については、いくら強調しても、し過ぎではないと思う次第です。
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順調に増えるワクチン接種に対してメディアの反応は「。。。。ちぇ」といったところかな。
どうすれば順調でないように見せられるか知恵を絞っている。
何はともあれ日本のワクチン接種が日々大変な勢いを維持して増加して居る事は本当に良かったです。外国を見ますと1)コロナなんか大した事はないとする居直り層2)ワクチンは悪とする陰謀層3)そもそもワクチンが供給が少ないか途絶える国4)余りにも人口が多かったり国土が広すぎて数字が上がらない、等等さまざまなケースが有ろうと思います。日本の場合は、私見ですがアメリカの自国優先やイスラエルの出し抜きに数ヶ月待たされた形跡がある。まぁアメリカに関しては死屍累々で日本はさざ波と言う事もあり仕方がなかったのかも知れません。その代わりにこれまた私見ですが比較的お高いファイザーモデルナだけを選んだせいもあり、入荷が始まれば数が途絶える事もなく(今のところ)安定的に入ってくる様になりました。接種優先順位はどこの国もきっと日本同様に医療スタッフ等→高齢者→成人と来たのでしょう。
受ける側も接種を実施する側も概ね順調ですね。
ワクチン接種についてのメディアの印象操作は、ヒドイですが、それに屈伏して(緑のタヌキの策略にも載せられて)、4度目の緊急事態宣言というのは、まったく絶句するしかありません。
メディアの印象操作はもちろんありますが、4回目の緊急事態宣言になる最も大きな原因は日本人が極めてリスクを嫌うゼロリスク信仰であってマスコミの印象操作ではありませんよ。
現実に東京の陽性者が毎日1週間前の人数を超えて増え続け、遂に1日の陽性者数が900人を超えてしまっては、リスク大嫌いで心配性な日本の大衆の感覚だと緊急事態宣言を発令するしかありませんよ。
そもそもマスコミが報道に名を借りてネガティブな情報ばかり流すのは自民党政権打倒という政治的思惑もありますが、それ以上にネガティブな「ニュース」の方が明るいニュースよりも日本の大衆に受けて視聴率を取りやすいからだと私は思っています。
要するに日本人は心配性だから心配の種をどんどん与えてあげると、視聴者は「ほら、やっぱり私の心配は当たってた」と自己肯定できるから、そういうニュースに人々は飛びつき視聴率が上がるのです。
日本人に英米人並みの前向きな陽気さ(言い換えるとパッパラパーさ)があれば「なんだ東京で陽性が増えたって重症者も死者も大して増えてないじゃん」で終わってるでしょうがね。
日本人は本質的に根暗で心配性なんですよ、お人好しであるのに加えて。
そのマスコミが同じ口でヨーロッパのサッカー大会やフランスの自転車レースの観客の入れっぷりやフルサイズイベント解禁を称賛しているのには苦笑するしかない。
日本に対するのと同じ基準で、無謀だの無観客でやれだの言ったらどうなんだと思います
緊急事態宣言でとても良いことは、酔っ払いが排斥されることだと思います。
そもそも日本人は酔っ払いに寛容すぎると思います。大声で臭い息吐いて、あちこちにゲロ吐き立ちション便して街を汚くし、駅員や警察に絡んで暴力沙汰も起こす。
日本人の半数近くは、そもそも外飲みが嫌いなのだから、もっと厳しく酔っ払いを取り締まり、発生を抑制すべきだと思います。
ベンチで飲んでゴミ散らかして帰ってしまう輩は、迷惑条例等々を駆使して迅速に罰するべきです。
居酒屋も淘汰されるのは止む無しです。転職支援こそすれ、営業支援に税金を垂れ流すのは反対です。
コロナ対策の中で、もっと真剣に生き方考えて欲しいです。
> 居酒屋も淘汰されるのは止む無しです。転職支援こそすれ、営業支援に税金を垂れ流すのは反対です。
全く同感です。
東京の飲食店約15万店は、どう考えても多過ぎ。
先進国で次に多いバリの3倍以上もある。
サンフランシスコの37倍以上という異常ぶり。
飲食と人流が大問題だというのなら、10万店位削減(それでも先進国中1位)するのが、蔓延防止措置として適当なのでは?
欧米の飲食店はレストランやカフェなどある程度業態が固まっていますが、日本の飲食店は屋台の流れをくむのか牛丼やラーメンなど一品物の業態が普及しているため数が多くなっているのではないでしょうか。
このような文化的な差異も考えると、欧米礼賛で日本の多様な食文化を頭ごなしに否定することも無いと思います。
ただ、結論として自然淘汰に人為的な手を加えるべきでは無いという主張には賛成します。
大量絶滅は過剰適応の帰結ですが、特効薬でもあるからです。
まあ自分が業界の外にいるから言えることですが。
星のおーじ様
日本人が酔っ払いに寛容すぎるというのには全く同感です。
そもそも日本人を含むモンゴロイドは遺伝的にアルコール分解能力がコーカソイド(白人種)に比べてずっと低く、アルコールから受ける害も大きいという科学的事実があります。当然ながら酒は社会の様々な面(医療費、飲酒運転による殺人や傷害、DVや喧嘩など素面ならば思い止まるであろう様々な犯罪行為)で大きなコストを発生しています。
以前から何度か書きましたが、煙草の社会的害とそれによるコストについてあれほど大騒ぎするのであれば、社会的コストで煙草以上の酒に関する社会的害や社会的コストについても問題としてきちんと取り上げ、煙草と同じく酒は定価販売に限定させ酒も煙草と同じく定価の半分以上を税金として巻き上げる仕組みにすることが急務です。
肉体労働者階級ならいざ知らず、大学卒のホワイトカラーが人前で酔っ払った醜態を平気で晒している先進国なんて、日本ぐらいのものです。欧米にも仕事で何度も出張しましたがホワイトカラーがそんな醜態を晒しているのは見た覚えがありません。
今回の中華コロナ感染拡大防止を奇貨として、お花見なども含め公園など公共の場での飲酒を禁止する法律を制定してくれませんかね。お花見で最も興醒めなのは酒を飲んで酔っ払って大騒ぎしている人迷惑な馬鹿共の姿ですから。
まじレスすると、緊急事態宣言は、「如何なることがあってもオリパラはやり遂げる」という菅総理の決意表面だと受け取れます。
コロナ禍という未曾有の状況でやるのですから、特別なオリパラで良いではありませんか。きっと歴史に残りますよ。
ちなみに、パラは8月24日からであと47日後ですから、ちょうどワクチン1億回を超えたあたりでしょう。屋外ならば、多分フルに観客を入れられるのではないかと考えます。
感染者数(陽性者数)はもはや当てにならないというのは皆様と同意見ですが、重症者数は医療崩壊に直結する指標ですので引き続き重要です。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/number-tokyo/monitoring.html
直近の東京都の重症者数は底を打って上昇に転じているので、オリンピックを前にリスクを最小化するために緊急事態宣言を出すというのは妥当な判断かと思います。
また、逆説的にオリンピックを無観客とするために緊急事態宣言を出したという考え方も出来ると思います。
世論は「緊急事態宣言で国民に三密回避を求めておいてオリパラ有観客はおかしい」という流れですが、スポンサーからすれば「緊急事態宣言が解除されているのに無観客はおかしい」となるでしょう。
今回の宣言は世論とスポンサーの双方に配慮した結果かもしれません。
>もしかすると、どこかのメディアがこの図表2のようなグラフを使い、「ワクチン不足のために接種実績が落ち込んでいる証拠だ!」と喧伝し始めるかもしれません。
どこかの週刊誌がそのような記事を書いてしまったら、このブログの晒し記事になってしまわないか心配で心配で仕方がありません。
昨日の吉村さんの会見で、接種をするのを優先して
VRSの入力を後でまとめてすると言う事で大阪市の入力が遅れているといってました
1800ヶ所の医療現場の9割がそのようで
6月は1ヶ月に1回登録するという事を1週間に1回に変えていって
7月中旬で追いついていくようです
270万の中の高齢者分は7月でほぼ終わっていく予定と言う事なので
あと1週間は急に増えていくのでは
他の自治体でもよく似たことになっているところがあるとも言ってました
その辺の中小市町村ならともかく、横浜市と並んでわが国で最大の規模を誇る大阪市で、政府から求められているオペレーションをちゃんとこなせないのはダメですよ。医療機関が自ら入力できなくて、市町村(から発注を受けた業者)が代わりに入力するにしても、予診票の回収等に時間がかかるから1~2週間程度入力が遅れるのはやむを得ないと思いますが、さすがに1か月以上入力が遅れてしまうのは、自治体側のオペレーションがおかしいと言わざるを得ません。それで政府が在庫確認できないので、想定の予約量を下回るワクチン供給量になって後で文句を言うのは筋が違う話ですね。
また、大阪市、神戸市、明石市等の関西の自治体で予約キャンセルが大きく発生したということは、このあたりの自治体のオペレーションになにか問題があったということだと思うのですが、まったく話題になりませんね。トラブルの発生だけ報道して、何が問題だったかをちゃんと検証しないまま、国民の怒りの声とか取り上げても全く報道機関としての意味がないですね。別に国民の声とかSNS見れば大体反応分かりますし、役所勤めしていれば、いやでもトラブル発生したらクレーム対応しなきゃならんのですから。VRS入力遅れ問題を指摘した新宿会計士様の慧眼が光りますね。
しかし、接種日から2週間以降は、これまでバックデート数がそんなに増えてなかったから、基本的には自治体はちゃんと入力しているのかと思ってましたが、ここにきて急増とはちゃんとオペレーションやってなかった自治体が多かったということで、あまり褒められることではないですね。。。