経営の悪い見本のオンパレード:テレビ業界を待つ未来は「衰退」なのか?
ビジネス・インサイダー・ジャパンというウェブサイトに先日、「テレビ離れが進む本当の理由」などと題した記事が掲載されていました。これは、テレビ業界で働く女性を集め、ジェンダーに関する問題意識について対談したものですが、個人的にはまったく別の観点から読めてしまいました。それは、「テレビ業界が変化に極端に弱く、今後、衰退が待っているのではないか」という個人的な仮説を裏付ける状況証拠の数々です。
「テレビ離れが進む本当の理由」
数日前に、ツイッターのトレンド欄でこんな記事が話題に上がっていました。
テレビ離れが進む本当の理由、ここでしか言えない女性局員激論120分
―――2021/05/12 11:15付 Business Insiderより
リンク先記事は在京テレビ局の報道や情報番組などで働いている女性5人に集まってもらい、Business Insider Japanのエグゼクティブ・アドバイザーでジャーナリストの浜田敬子氏が、率直にその実態を聞く、という企画です。
わりと長い記事で、読み通すにはそれなりの時間が必要であるのに加え、(大変申し訳ないのですが)個人的には「ジェンダー」云々の箇所にはさほど興味が持てなかったのですが、ただ、「テレビ業界の内情」という点では興味深い記述もいくつかありました。
司会は浜田氏で、今回の記事で取り上げられているのは、次の5人の方だそうです。
- Aさん:40代。情報番組や報道などを担当。
- Bさん:30代。入社以来、主に情報番組を担当。
- Cさん:50代。主にニュース番組、特集番組などを担当。
- Dさん:40代。主に技術を担当。
- Eさん:40代。報道現場が長く、情報番組なども担当。
話しの流れは、日本のテレビ業界の上層部にはとくに男性が多く、ジェンダーや男女差別などに関する話題をテレビ局があまり取り上げたがらない、といったものが多いのですが、たまにこんな具合に、「日本のテレビ業界」に関する(なかば愚痴めいた)評価が出て来るのが興味深いのです。
「日本のマスコミって世界的に見ると特殊で、国内マーケットだけで十分成り立ってきたので、一般企業のようにグローバル化の波にさらされずに成長してきた。過去の成功体験から抜け出せない岩盤層と言われる人たちが、まだ上層部に残っています」(Cさん)。
Cさんのこの発言は、日本のテレビ業界で男女差別に対する意識が低い理由について、彼女なりの問題意識を説明したものですが、このあたり、まったく違う視点で読んでも参考になります。
それは、「日本のテレビ業界がいかに変化に弱いか」、という点を説明する仮説としては、興味深いものだからです。
他人に厳しく自分に甘い業界
ことに、『外には厳しいが、自浄作用が働かない内部』という小節の対話は興味深いものです。
「浜田:お話を聞いていると、テレビを中から変革をするのは難しいと感じますが、何が突破口になると思いますか?
Eさん:岩盤層を動かすのは経営的な危機感しかないと思います。」
これは、いったいどういうことでしょうか。
会話は続きます。
「Eさん:大変なことになっていて、制作費もめちゃくちゃ削ってます。人件費にも手を出してる状況です。
Dさん:でもどこか思ったほどじゃないみたいなムードも感じます。収入は減ったけど、制作費も減ったから、利益は大丈夫だったじゃんみたいな雰囲気。それって縮小ってことじゃないですか?っていう感じなんですけど。
Eさん:社員のリストラに手をつけるくらいの頃に、ようやく気がつくんだと思います。今はあまりにも多い社外スタッフのリストラで止まっているので、まだおじさんたちのサンクチュアリ感が崩せないのかなと思います。
Bさん:偉い人たちは、あと10年逃げ切れば自分たちは安泰だと思っているんです。」
舌鋒の鋭さ、容赦ないですね(笑)
この「外には厳しいが、自浄作用が働かない内部」という表現、言い換えれば「他人に厳しく自分に甘い」という意味でしょう。
実際、「(スポットCMの激減等を要因に)テレビ局の売上が落ち込んでいる」という点については、在京キー局(のホールディング・カンパニー)が公表している決算短信等からも明らかです(『「長寿番組」打ち切り相次ぐ地上波テレビの将来性は?』等参照)。
また、テレビ業界を巡っては、「製作費が3割減らされた」という話題(『「製作費3割減」に見る「貧すれば鈍する」テレビ業界』)に加え、最近だとしまむらがTVCMをなくして増収増益を達成した(『テレビ利権を突き崩す、「テレビCMゼロで増収増益」』等参照)という話題もありました。
内省しない人たち
ではなぜ、テレビ業界は変化に弱いのか。
Cさんのこんな発言を読むと、なかなか興味深いと思います。
「もともとメディアは、外に対して謝罪するという文化が弱いです。言論機関として、正しいことを正確に伝えている、という意識があるからだと思いますが、根本的な思想や価値観が間違っていたことを、内部ですらオープンに語り合う文化がない」。
このあたり、当ウェブサイトでもかねてより申し上げて来た、「新聞、テレビ業界には自分たちの無謬性(※)を信じているという勘違いがある」とする仮説と整合していますね(※ここでいう「無謬性=むびゅうせい=」とは、自分たちの報道内容に間違いがないという勘違いのことです)。
そして、こうした状況がなぜ生じているかについて、Cさんは次のように続けます。
「メディアで自浄作用が機能しないのは、起きた事象をオープンにして、再発防止につなげる仕組みが弱いからだと思います。外のことは批判するのに、自分たちの内部で起きていることには甘く、組織として穏便に済ませてしまう部分があるように思います」。
その典型例が、2018年4月に発生したとされる「財務省事務次官事件」(当時の財務省事務次官がテレビ朝日の女性記者に対してセクハラを起こしたとされる事件)です。
「財務省事務次官事件の時も、『うちの局はないよね』で終わりました。セクハラなどが社内であっても、以前は『みなさん気をつけましょう』という一般的な注意喚起だけ。具体的な事象を知らないと、自分たちがやっていることがハラスメントに当てはまるかどうかも分からない」。
なかなか、手厳しいですね。
実際、(真偽のほどはよくわかりませんが)問題のセクハラ事件の際も、マスメディア業界では「取材を担当する女性記者は、官庁の上層部に『色仕掛けで』情報を取って来い、と命令されている」といった裏話を複数のメディアで読んだ記憶があります。
たとえば、2018年4月19日付・J-CASTニュース『次官セクハラの裏に「女性記者使ってネタを取る」体質? 小林よしのり「それこそパワハラ」』あたりが参考になると思います(※内容については本稿では触れませんので、ご興味のある方は直接ご確認ください)。
テレビの将来は「衰退」じゃないでしょうかね?
さて、テレビ業界はずばり、どこに行くのでしょうか。
記事では『社会との意識差が「テレビ離れ」を加速する』の小節で、「YouTubeでの動画配信やNetflixの台頭など、動画コンテンツの形態は多様化している」と指摘したうえで、「テレビを若者に見てもらうためには、どうしたら良いのだろうか」と問題提起をします。
「浜田:今どの局も若い世代の視聴者をどう獲得するか、躍起になっていますよね。社会との意識差があると、特に若い世代に見てもらうことはますます難しくなると思います」。
これに対し、Dさんがこんな指摘をします。
「あれだけ視聴率と言いながら、数字に頼らない。全然科学的じゃなくて、感覚的にやっているんです。俺がいいと思うものを作れば、世間が後からついてくるんだって思っている人はまだ多いので」。
なるほど、意外と参考になるものですね。
以前から当ウェブサイトでは、そもそも「視聴『回数』」で何回視聴されたかがわかる動画サイトの動画と異なり、テレビ番組は「視聴『率』」という数値が独り歩きしているのではないか、と問題提起して来ました(『そもそも視聴率って信頼できるんでしたっけ?』等参照)。
このDさんの発言を読むと、テレビ業界の中の人たちは視聴「回数」ではなく視聴「率」という、(こう言っては失礼ですが)あやふやで客観性に疑義がある指標を使い続けているから、自分たちの番組に人気があるのかどうか、理解できていないのではないか、という仮説が頭に浮かびます。
さらに、コロナ禍におけるリモートワークを巡って、Aさんはこんなことを述べます。
「うちはもう戻り始めてます。システムの問題もありますが、基本プロデューサーは『俺が出てこないと、番組は回らない!』って思っているし、リモートが大嫌いな人も来ちゃうし。『リモート分かんねえ!』ってパソコン閉じちゃうような人もいるし」。
なるほど(笑)。
このコロナの時代、ITのスキルもなく、変化から逃げ回っている。
まさに、この「プロデューサー」氏は現在のテレビ業界を象徴する人物、というわけでしょう。その行き先は「衰退」、というわけですね。
経営の悪い見本のオンパレード
さて、今回の記事については、あくまでも「テレビ業界とジェンダー」というテーマだったのですが、当ウェブサイトではこれを「テレビ業界の現状と未来」という切り口から読んでしまった次第です。
また、テレビ業界の方々が5人集まったということではありますが、当然、出席した人たちも主観で物事を見ているはずなので、今回の記事の内容が「テレビ業界とは一般的にこうだ」という確たる証拠として、そのまま採用できるというものでもないでしょう。
ただ、拝読した感想を申し上げるならば、「やっぱり」というヒトコトに尽きると思います。
よく「日本国内でしか通用しない製品やサービス」を揶揄する「ガラパゴス」という単語を耳にしますが、その「ガラパゴス」の最たるものが、日本のメディアだったのではないか、という気がしてなりません。
また、今回の対談はテレビ業界に関するものであり、新聞業界に関するものではありませんが、新聞、テレビなどを含めた「マスメディア」、あるいは「オールドメディア」という視点で見てみると、発想が旧態依然としているという普段からの個人的な感想を裏付けたものでもあります。
とくに「自分たちは絶対に間違えないはずだ」という勘違い、社会の変化から目を背ける番組作り、コロナ禍における収入の激減を経費節減で乗り切るという保守思考は、まさに経営の悪い見本のオンパレードのようなものではないかと感じた次第です。
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更新ありがとうございます。
う〜ん。なんというか、コレに出席した女性人も、同じ体質だと言っては失礼でしょうか?ウチワ話は上司やプロデューサー、幹部職があと10年で居なくなるって読めますが、その時は、また新たな岩盤層が出来ていると思います。貴女達がそうならないとは言えない(笑)。
結局、自分達がシュープリームだ、特別な存在だとテレビ局社員、新聞社社員全員が思っているのです。若者を取り込む、ムリムリ!自己満足だけでしょう。
テレビ無い若者多いです。私の職場20人中、平均年齢は30歳に届くかな、ぐらいですが、テレビをまったく見ない(もしくは無い)と言う方が過半数占めてます。その行き先は「衰退」しかありません。
記事を読んでみましたがジェンダー論こそが記事の登場人物の方々が最も拘っているところだとわかりますね。ジェンダーという新しいものについていけないから、思考が硬直した高齢男性が仕切っているからマスコミが衰退するのだという論で、マスコミそのものに対する疑義までは行っていない。自分たちのような進歩的女性が仕切れば途端にうまくいくんだといわんばかり。
記事の女性と「おじさん」とはベクトルの方向が違うだけで、
「独善的」なのはさほど変わっていないように見受けられました。
この調子ならば世代交代したところでテレビが復権するのは無理でしょう。
そう、マスコミ内のおじさんだけの話じゃないのですけどね。
もう十数年前、医療系ブログで「マスコミの人ってカンファレンスをしないのでしょうか?」と言われていました。
"根本的な思想や価値観が間違っていたことを、内部ですらオープンに語り合う文化がない"
→なかのひとが遂に気づいた?と思いましたが、確かに元記事からはジェンダー論目線の課題提起と議論しか見えてきません。エコーチェンバー現象はネット内の議論に対していわれてますが、テレビのなかのひとも一緒だと感じました。今後も方向性が若干変わっただけの、一面的・表層的なコンテンツが期待できそうです。
「リモート?しらねぇよ!」PCそっと閉じ
テレビ業界の体質、おもしろかったです。
めがねの親父様の、「テレビ無い若者多いです」についてですが、うちの息子にはあてはまってます。勿論独立してますが、彼はNHK費用を払っていません。
ところで、今のコロナのご時世、体に鞭打って再就職戦線で頑張った私から見れば、「リモート分かんねえ!」でPCを閉じる人にも仕事があることが異常だと思います。例の「車が悪い」と言って刑務所行きをこばんでいるジジイを彷彿とさせます。
pcわかんねえ!で思い出しましたが
テレ朝のコメンテーターが
若者のストレス増加の原因は何かと聞かれて
コロナやリモートワークでしょうね、
と回答したのには驚いた。
いや、コロナは分かるが、リモートワークが原因はないでしょう。
うちの会社員の30代前半までの人達の大半は
リモートワークを有効に使ってますよ。
働き方も時代によって変わるのだから、自分がリモートワーク苦手だから、他も一緒という考えはどうかと思いますね。
笑点がリモート開催したのはすごかったですよね。
笑いと言うのは、時々の世相のものですし、
落語家って、"とにかくやってみる"で、身軽な人が多いし、
それなりに人脈もあるので、侮れません。
「年配社員はジェンダー問題に関する理解度が低い」とか「年配社員はITやリモートワークに適応できない」という解釈はたぶん間違っていて,「年功序列で一定年齢に達した人の大半に役職を与えてしまうので,もともとの能力の低い人が大量に管理職に中にいる」という解釈が正しいを思います。いろいろな能力の人が混在するのは,若い世代もシニア世代も同じなのです。ITも1980年代にPCが普及したころを考えれば,70歳以下の人は,若い人とのハンディーはあまりないはずです。
それから,テレビ業界とか特定のテレビ局に限らず,他の企業や官公庁でも同じです。
「好きの反対は嫌いではなくて無関心」を象徴する、コメント欄の盛況っぷりですね(^-^;)
御意。
どうでもいいです。
引用された記事は、結局、テレ朝のCMの何が悪かったのかわかりませんでした。
この記事を最後まで読破されたことに敬意を表します。
男女間のジェンダーに関しては相当以前の昭和にウーマンリブ運動というのがありました。その時女性に感想をきくと男女平等に扱われるのは迷惑だという意見も結構ありました。当時は高度成長期でもあり企業戦士は24時間すべてを会社に捧げるのが当たり前の世の中で、男に伍して働くというのは大変なことだった状況もあります。現在のジェンダーの流れについても、声は挙げないけれど女性すべてが賛同しているとは限りません。女性蔑視発言には反応するけれど、男と同じ責務を負うのはイヤという人も結構いるかもしれません。
こんなことを書くと自分が正義と考えているジェンダー主義者に袋叩きにされそうですが、男性でも同期が次々に昇格するのに取り残される人々は必ず存在するのであって(むしろ限られたポストの中ではそちらの方が大多数です)、女性だからという理由で昇格できないと信じているのは本当かと思ってしまいます。
匿名29号さんへ
>現在のジェンダーの流れについても、声は挙げないけれど女性すべてが賛同しているとは限りません。女性蔑視発言には反応するけれど、男と同じ責務を負うのはイヤという人も結構いるかもしれません。
この課長に「なってしまった」女性がそうですね。
「課長になってしまった…」有名企業の30代女性社員が出世を嘆く理由
https://www.moneypost.jp/788497
「うちの会社の場合、私みたいに上昇志向がなく、『そこそこの給料で、そこそこの責任で働いていたい』という女性社員も多いんですよ。」
だそうです。何%という割合は出ませんが。
>浜田:今どの局も若い世代の視聴者をどう獲得するか、躍起になっていますよね。・・←『この言葉自体が問題を含んでいます』
今回のブログにも、納得させられる内容が満載ですが、マスコミが「市場」どう見ているかという視点も必要ではないでしょうか。
〇たとえば、国鉄が民営化したときのJR東日本の初代副社長(その後副会長、会長)、山之内秀一郎氏によると、発足後のJRの接客サービスを向上させることが重要だと考えて、「お客さま」という言葉を徹底させようとしました。しかし、本社は「乗客」「利用者」と言い、現場は「お客さん」が一般だったので、「お客さま」と言う言葉を徹底させることは簡単ではなかった。それでも、日に日によくなっていったそうです。そして、現場から社内の会議にまで、JRにお金を払って利用して頂いている人たちのことを「お客さま」と呼ぶようになったことで、社員の意識が変わっていき、それが社内の多くの改革につながっていったということです。
〇一方、マスコミの世界はどうでしょう。NHKは外面上「視聴者の方」「視聴者のみなさま」という言葉を使っています。これでも不十分ですが、さらに驚くことに、内部資料では受信料を徴収している人たちのことを、「視聴者」と呼び捨てにしていることです。(たとえば「視聴者対応報告」の中の文章) NHKの深層認識では、我々は「お客さま」ではなく、受信料がとれる単なる「視聴者」集団なのです。
民放のテレビ局では、はっきりしていて「お客さま」=「スポンサー」です。我々はせいぜい「視聴者の方」「視聴者の皆さま」で、局内では単なる「視聴者」です。浜田さんでさえ、「視聴者」と言っています。
そして、本丸の新聞の業界では、月ぎめの購読者のことも「読者」と呼び捨てにします。よくて「読者のみなさま」です。
マスコミは自分たちの市場(=お客さま+お客さまになる可能性のある人たち)を本当に見ていない。会社幹部から新入社員までが、自分の市場である人たちのことを品物のように扱っている。今の若い人たちは選択肢が多いので、無意識の内にそんなマスコミ業界から離れていっているのです。縮小していくのは当然です。
なお、例えばアマゾンでは、「お客様」「あなたにおすすめ」「〇〇さん」などと、上手に使い分けています、アマゾンを見て不快にならず、テレビ朝日の「ご意見、ご要望」のページを見て不愉快になる理由がお分かりになるでしょう。
https://www.tv-asahi.co.jp/ch/sphone/contact/
すみません。
「無病」で発信していましましたが、「無病息災の男」です。
『原則としてお答えできません』の項目が多過ぎで吹いてしまいました。「その他」って(゚o゚;
TBS、赤坂で再開発
https://news.yahoo.co.jp/articles/f02ec09ee738c66196c9c92a926c9c8fea864b7a
二本柱の一つ、不動産分野への投資です。 いっそのこと評判の悪い報道分野から撤退し、コンテンツ部門や鉄板支持層がいる「バカ笑い番組」に集中した方が、企業としては好感が持たれるかもしれません。
件の記事は、ジェンダーの扱いとテレビ離れを関連付けさせたい意図で書かれているんだろうけど、
結局、それでは片付かない問題であることを実感させてますね。