関係修復にせよ断交にせよ、「日米韓連携」は必要なプロセス
ロンドン時間の5日午前9時に開催された日韓外相会談を巡って、外務省からの概要発表が大きく遅れるなどの不自然な点がいくつかあった、などの論点については、昨日の『日韓外相会談の発表自体「後回し」にされたことの意味』などでも触れたとおりです。こうしたなか、産経ニュースには昨晩、興味深い報道もありました。それは、茂木敏充外相が「米国による日韓関係への介入」を防ぐために「機先を制した」というものです。
韓国の虚偽発表をどう防ぐか
『日韓外相会談、唐突ながらも内容に「サプライズ」なし』でも取り上げたとおり、ロンドン時間の5月5日、訪英中の茂木敏充外相と鄭義溶(てい・ぎよう)韓国外交部長官(※外相に相当)との間で、(やや唐突に)日韓外相会談が実施されました。
日韓外相会談は鄭義溶氏が外相に就任して以来初のことでもありますが、内容的にはお互いに原則的な立場を繰り返すのみであり、「完全な平行線」と呼んで差支えないでしょう。
しかも、昨日の『日韓外相会談の発表自体「後回し」にされたことの意味』でも取り上げたとおり、日本側のプレスリリースがかなり遅れるという椿事もありました。
これについて当ウェブサイトでは「日韓外相会談の内容の発表がかなり遅れたこと」自体に何らかの意味があると考えています。それを説明する仮説はいくつかあるのですが、最も可能性が高いもののひとつは、「韓国側の虚偽発表を阻止すること」なのかもしれません。
じつは、韓国政府の報道発表を眺めていると、相手国の発表内容と比べて大きな齟齬を来すことが頻発しています。今年2月の米韓電話首脳会談で、米韓両国の報道発表内容があまりにも大きく異なっていた(『電話首脳会談に関する米韓両国の発表内容が違い過ぎる』等参照)のがその典型例です。
また、今回のロンドン会合でも、日米韓3ヵ国外相会合が持たれましたが、『聯合ニュース』(日本語版)に昨日掲載された次の記事によると、やはり米韓双方の報道発表内容に齟齬があったのだそうです。
韓国外交部「韓日が肯定的評価」=バイデン政権の対北朝鮮政策
―――2021.05.06 17:52付 聯合ニュース日本語版より
聯合ニュースによると、齟齬を来していた場所は、米国側の資料にあった「国連安全保障理事会の対北朝鮮決議の完全な履行が必要である点に日米韓3ヵ国が合意した」とする記述が韓国側の資料に含まれていなかった点だそうです。
これについて「韓国外交部の当局者」は6日、「安保理決議の履行は基本的な部分であるため(韓国側の資料に)含めなかった」と説明したのだそうですが、こんな屁理屈が通るはずはないでしょう。国際社会においてはプレスリリースこそ第一義的な政府公式見解だからです。
このように考えていくと、日本の外務省のウェブサイト上、日韓外相会談、日米韓3ヵ国外相会合の概要の公表が遅れた理由は、「韓国(や米国)の発表を見極め、わざと遅延させた」という可能性が出て来るのです。
もしこの仮説が正しければ、日本の外務省の行動も、良い意味で大変に狡猾です。
なにより、韓国がインチキ外交の数々を駆使して相手国を出し抜こうとしているのであれば、日本はそれ以上の賢明さを持ち、こうしたインチキ外交を封殺していかねばなりません。
「日韓問題への介入防ぐための先手」!
こうしたなか、もうひとつ残る疑問が、「なぜ、唐突にロンドンで日韓外相会談が開かれたのか」、です。
昨日の『日韓外相会談の発表自体「後回し」にされたことの意味』などでも触れましたが、朝日新聞は5月5日付の『日韓外相が会談、対面では昨年2月以来 英国で20分間』という記事で、次のように報じました。
「日本政府関係者は『茂木氏が米側の顔を立てた』と解説した」。
報じたメディアが朝日新聞であるという点は多少ひっかかりますが、「個人的にはこの説明が最も腑に落ちる」と申し上げた次第です。
これに関連し、産経ニュースには昨日、こんな記事も掲載されていました。
「韓国との問題は日本に任せて」茂木氏、米国の介入防ごうと先手
―――2021.5.6 19:06付 産経ニュースより
結論的にいえば、「日韓外相会談はブリンケン氏の顔を立てるために行われた」とする説を裏付けるものですが、それだけではありません。ロンドンでの日米韓3ヵ国外相会合、日韓外相会談の「舞台裏」を明らかにする者でもあります(※ただし、記事中、情報源は明かされていませんので、この点については注意は必要ですが)。
産経ニュースは記事冒頭で、日米韓外相会合自体が「ブリンケン米国務長官の意向で実現した」としつつも、重要なことを指摘します。
すなわち、「対北をにらんだ3ヵ国の安全保障協力には前向きに対応する」一方、「慰安婦問題などで冷え込む韓国との関係では原則を譲らない方針」を堅持するために、「米国に対しては日韓問題への介入を防ぐための先手を打っている」、というのです。
「日韓問題への介入を防ぐための先手」!
何とも興味深い記述です。
ことに、ジョー・バイデン米大統領には日韓慰安婦合意で「仲裁者」を騙り、日韓問題に介入したという「前科」もあります。いや、「仲裁者」というよりも、単なる「おせっかい」と言うべきでしょうか。
水面下のインプット
では、具体的にいかなる「先手」を打ったのでしょうか。
産経によると、日本政府はバイデン政権発足当初、米国の北朝鮮政策の見直しを巡り、オバマ政権の「戦略的忍耐」への逆戻りや米本土には届かない(しかし日本列島などを射程に収めかねない)短中距離弾道ミサイルの容認などを警戒。
そこで、茂木敏充外相が水面下で米国に対し、日本側の問題意識を「インプット」したのだそうです。
この点、米国は北朝鮮政策の詳細を公表していませんが、産経は「完全非核化やあらゆる射程の弾道ミサイルを容認しない考えは堅持している」と指摘し、実際、茂木外相もこれに対し「『支持』を表明した」と述べています。
ただ、米国の北朝鮮政策については日本にとっても満足が行くものとなったようですが、日本側にはもうひとつの懸念点がありました。「同盟国の結束を重視する米国が日韓の仲裁役を買って出ること」です(ちなみにこれについては、当ウェブサイトでもくどいほど繰り返してきた論点です)。
産経はこれについて、「慰安婦問題やいわゆる徴用工問題で国際法や日韓合意を反故にする韓国に対し、日本が譲れる余地はない」としつつも、オバマ政権の国務副長官でもあるアントニー・ブリンケン国務長官が「非核化という大局のために日本に妥協を迫る可能性」という懸念があったと指摘。
これに対し、茂木外相が機先を制し、就任直後からブリンケン氏に対し、1月の電話会談や3月の「日米2+2」における対面会談で、次のように繰り返したのだそうです。
「安全保障に影響が出ないよう3ヵ国の連携はしっかりやる。その代わり韓国との問題は日本に任せてほしい」。
また、ロンドンでの日韓外相会談についても、「ブリンケン氏の顔を立てる」という側面があったと指摘(※これが朝日新聞の報道と整合しています)。約20分の会談に臨み、「想定通り平行線をたどった」としています。
この産経報道をどう読むか
さて、この産経の報道、くどいようですが、情報源は明示されていませんので、100%正しいと決めつけるのは尚早でしょう。
ただ、読後感を申し上げるならば、この記事の内容が日本政府の行動や、バイデン政権発足以降の日米のさまざまな声明・発表(1月の日米電話外相会談、3月の日米「2+2」、4月の日米首脳会談など)と、(完全ではないにせよ)ある程度の整合性があると考えて良いと思います。
ことに、「日米韓3ヵ国連携」に関しては、安倍晋三政権時代、あるいはドナルド・J・トランプ政権時代においても堅持されていた考え方であり、(公式には)対北朝鮮でこの考え方が有効だとする見解で日米政府が一致しています。
もちろん、この「日米韓3ヵ国連携」が「北東アジアの平和」から「北朝鮮政策」へと矮小化され、それに代わって日本は「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」というビジョンを掲げ、「日米豪印4ヵ国連携」などの枠組みを「日米韓3ヵ国連携」と代替させようとしているフシがあります。
しかし、韓国側の不法行為で日韓関係が破綻しそうになっていることは事実ですが、残念ながら現時点において米韓同盟は(辛うじて)生きており、日本の側から「日韓断交」などを言い出すことができる状況にはありません。
もちろん、将来的に日韓関係が洙服されるのか、破綻するのかはわかりません。しかし、いずれの未来が待っていたとしても、「(形の上では)日米韓3ヵ国連携を主張し続ける」というのは、日本にとってはそれなりに合理的な戦略でもあるのです。
約束破りのウソツキと付き合えますか?
もっとも、客観的事実に照らし、韓国は「国際法を守らないウソツキ国家」でもあります。韓国が日本に対して行った、ウソツキ、約束破り、国際法違反、無礼などの行為のほんの一例については、次の図表のとおりです。
図表 文在寅政権下の韓国が日本に対して行った不法行為の例
# | 時期 | 出来事 |
---|---|---|
① | 2017年12月 | 2015年12月の日韓慰安婦同意に関する外交機密文書を日本政府の了解なく勝手に公表 |
② | 2018年9月頃 | 旭日旗騒動 |
③ | 2018年10月30日、11月29日 | 自称元徴用工判決 |
④ | 2018年12月20日~ | 韓国海軍駆逐艦による自衛隊機への火器管制レーダー照射事件 |
⑤ | 2019年2月頃 | 国会議長による天皇陛下に対する侮辱発言 |
⑥ | 2019年7月頃まで | 慰安婦財団解散 |
⑦ | 2019年7月19日 | 日韓請求権協定に基づく紛争解決措置の完全な無視 |
⑧ | 2019年8月22日~11月22日 | 日韓GSOMIA破棄騒動 |
⑨ | 2019年9月11日~11月22日、2020年6月2日~ | 日本の対韓輸出管理適正化措置を巡るWTO提訴騒動 |
⑩ | 2021年1月8日 | 自称元慰安婦の訴訟に関連し、ソウル中央地裁が日本政府に主権免除違反の判決を下す |
⑪ | 2021年4月14日~ | 日本政府が決定した福島第一原発のALPS処理水の海洋放出を巡って「汚染水」と誤った用語まで用いて激しく批判する |
(【出所】著者作成。肩書は当時。なお、余談ですが、2020年までの出来事については、拙著『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』のP33にも転載しています。)
こうした状況を踏まえるならば、形の上で日米韓3ヵ国連携を唱えるのも大事ではありますが、その裏で「日米韓3ヵ国連携に代替し得る国際的な連携の枠組みを開発する」、「安保・経済・金融などの面において韓国との関係を徐々に薄くする」などの行動を取ることが、日本にとってのリスク管理でもあります。
いずれにせよ、日本が韓国と将来的にいかなる関係を構築していくかに関しては、日本政府だけでなく、日本の経済界、ひいては私たち日本国民がどう考えているかにもかかっています。
個人的感想を述べるならば、約束を破るウソツキ国家と「ともに手を取り合い、未来に向けて発展していく」ような関係を構築することはできないと考える次第です(あくまでも個人的な感想ですよ!)。
View Comments (25)
産経の記事も納得感は得られますね。そもそもは日米の共通認識として、韓国は大統領から閣僚までおかしな方々ばかり、と言うところもあったのでは無いかと思います。その辺りはわざわざ日本が説明しなくても、韓国自ら言論統制やら、ワクチンスワップやら、文氏のNYTのインタビューやらで、おかしい根拠を勝手に積み上げてくれてますので。
>・・・その代わり韓国との問題は日本に任せてほしい」と繰り返し念を押した。外務省幹部は「米国は日本の立場を理解している。こちらが困ることは言ってこない」と語る。
日本は米国の対中戦略の重要なパーツとなっているこのご時世ですから、米国との間でこういう「ギブテク」が成立するのもあり得る話だと思います。
日米関係をうまくコントロールしていってほしいものです。
そろそろ、
「韓国を入れておくことが安全保障の障害になる」
という認識を、広めて行くべきでしょう。
時代は変わりましたね(しみじみ)
みずきさんが懐かしいです・・・
新宿会計士様の仮説や産経が報じた裏話、信憑性を感じるし、本当だとしたら良い事だとは思うのです♪
思うんです・・・・でも「外務省」ですよ♪
そんなちゃんと考えた行動ができるのでしょうか?
外務省なのに・・・・・
(*´・д・)(・д・`*)ホントカナ?
七味様
同感です
どうも後だしジャンケン感がします
日本としては会うつもりはなかったけど
米国に促されて会わざるえなかった
だけど、それでは今までと同じだし
茂木さんの顔を立たせるためにも
それらしい話しを作って新聞社にリーク
したのではないか
「作り話が薄いぞ、何やってんの!」
読売新聞の記事が、頑固で報道され始めていますので、反応が楽しみです。
「日本は卑怯にも告げ口外交をしたニダ」。
一方、これを機会にG7で日米韓首脳会談を、米韓首脳会談事に開催すれば良いという話が出て来ました。
【コラム】来月の英国G7、韓日米首脳会談の適期だ
https://news.yahoo.co.jp/articles/d1e1dd64ed33a43d874fa353294c7fc57fbdef68
実現しても今回の繰り返しでしょうけど、韓国にとっては、良い手だと思います。
だんな様
>韓国にとっては、良い手だと思います。
今回の外相会談みたいなことを繰り返して、何か益があるのかなと考えてみて、思い当たったのが大岡裁き。
お奉行様の前で、互いに言いたいことを言い合って、
お裁きは、「三方一両の損」
これでも本来ゼロ100のところを、フィフティ、フィフティにもっていける。
おまけに律儀な日本が約束をきちんと守っても、
アチラはどうせ、三権分立だの、国民感情が許さないだの、
はじめから守るつもりなどないとなれば、100対ゼロも夢じゃない。
ウ~ン、いい手かも(笑)。
伊江太 さま
基本的に
日本は、会って得する事は無い。
韓国は、会って損する事は無い。
の違いだと思います。
この前提を変えない限り、会談するのは損です。
更新ありがとうございます。
「日韓問題への介入を防ぐための先手」!
「日韓問題は任せてください」が日本のホンネか。確かに放ったらかしたら、韓国が嘘ついて騒ぎ回る。米国が世話を焼いたら、日本には不利になる事もある。もうそろそろ韓国は自由主義、民主主義から脱退してもらわないと。サイナラ〜!
憲法改正さえ実現出来れば日本は米国に日韓の二者択一を迫る事も可能になってきます。
安倍政権で憲法改正が実現出来なかった事は本当に残念です。
韓国は今でも米国は韓国を見捨てられないとたかをくくってるのではないでしょうか?
何せ瀬戸際外交は韓国・朝鮮の得意戦略ですから。
かなり前からの産経デジタル購入者です。
安保問題で、首相のたよりなさそうな外見、シェーシェーと抜かした外務大臣会見を受けて、岸防衛大臣以外はダメだと決めつけていたことをお詫びします。安部さんの時と同じく、日本が主体的に、韓国の告げ口外交の前に、きちんと対応して頑張っているようですね。
本日、アメリカ大使館SNSで、以前から掲載されていたバイデン大統領スピーチ動画がTopに固定されました。
固定されたツイート
アメリカ大使館
@usembassytokyo
4月30日
アメリカ合衆国の政府機関
連邦議会の上下両院合同会議において、バイデン大統領「紛争を始めるためではなく防ぐために、インド太平洋で今後も強い兵力を維持すると習国家主席に伝えた」
上記説明文原文ままです。
安部さんの米国との事前交渉含めた阿吽の呼吸関係、しっかり受け継がれているようです。
でもやはり日本は国会(立法府)がひどいですね。
フォーカス台湾より
(フランス国会)決議案は、世界保健機関(WHO)総会や国際民間航空機関(ICAO)、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)、国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)などへの参加を目指す台湾を具体的な行動で支援するようフランス政府に求めるもので、元国防相のアラン・リシャール議員らが3月下旬に提出。今月6日に行われた採決で、賛成304票、反対0票、棄権19票で通過した。
蛇足ですが、フォーカス台湾の記者は日本の百倍優秀のようです。