セクシー大臣は「350年後に評価される」?ないない!
「計画・実行・見直し・改善」のプロセスのことを、一般に「PDCA」(plan-do-check-act)サイクルと呼びます。このPDCA、民間企業だと当たり前のようにみられる活動なのですが、なぜか日本政府はこのPCDAサイクルが非常に苦手のようです。こうしたなか、例の「セクシー大臣」がレジ袋有料化に気を良くしたのか、さらには理解に苦しむ政策を打ち出しています。
政策の見直しができない日本政府
何事もそうですが、政策には「狙い」があるはずであり、その「狙い」が達成されたかどうかを査定するとともに、何らかの弊害が生じているのであれば、それらの弊害を除去しなければなりません。場合によっては、政策そのものを撤回することが必要であるケースもあるでしょう。
ところが、わが国の政府は、この「政策の評価」が全くできていません。その典型例が、2019年10月の「消費税・地方消費税の増税」でしょう。
これに関しては、政府関係者らからは、「せっかく消費税の税率を上げたのだから」、といった発言も出て来ます。おそらくこうした発言の裏には、「国民の抵抗などを押し切ったのだから、税率は死守する」といった発想が見え隠れするのも事実でしょう。
それに、日本の場合、「国民経済の最大化」(たとえばGDPの最大化など)に責任を持つ官庁が存在しません。強いて言えば、かつて存在した経済企画庁がそれに近いのですが、経企庁は1990年代の「橋本行革」のどさくさにまぎれ、他省庁に吸収されてなくなってしまいました。
そして、現在の総務省や経済産業省が、日本経済の最大化に責任を持っているとは言えません。
結局、「財務官僚が国のサイフの入口(国税庁)と出口(主計局)を握ることで、私たち日本国民から選挙で選ばれた政治家を上回る政治権力を不当に手にし、日本経済を破壊しまくっている」という構図については、安倍政権下でも変えることはできませんでした。
いずれにせよ、消費税の増税が理論的にも実務的にも、いかに誤っているかを指摘するのは、在野の経済評論家などに限られてしまっているのが実情でしょう。
スタート前から指摘されていた、レジ袋有料化の弊害
こうしたなか、早いもので、昨年7月1日にスタートした「レジ袋有料化」から、およそ9ヵ月が経過しました。
この政策、「普段何気なくもらっているレジ袋を有料化することで、それが本当に必要かを考えていただき、私たちのライフスタイルを見直すきっかけとする」ことを目的としているそうですが(経産省ウェブサイト等参照)、端的にいえば愚策中の愚策です。
そもそも論ですが、レジ袋の使用を削減したとして、環境負荷を減らすことにほとんど寄与しないとする指摘があります。これについては元日経BP記者の加谷珪一氏が『ミモレ』というウェブサイトに昨年7月11日付で寄稿した次の記事が参考になるでしょう。
レジ袋有料化の効果に懐疑論が浮上。しかし日本はそれ以前の問題だった
―――2020.7.11付 ミモレより
加谷氏は「レジ袋をなくせば、その分だけプラスチックごみを減らすことができる」としつつも、次のように指摘します。
- 海洋プラスチックごみのうちレジ袋が占める割合はわずか0.3%しかなく、ペットボトル(12.7%)などと比較するとゼロに近いというのが実状(容積ベース、環境省調べ)
- そもそもレジ袋は石油精製時にも発生する副産物であるポリエチレンからできており、このポリエチレン自体、レジ袋を使う、使わないにかかわらず生成されてしまうものである
- もともと捨てるはずのポリエチレンを使って製造されたレジ袋は環境負荷が小さく、逆に石油由来のマイバッグを使ってしまうと石油の消費量が増える可能性すらある
…。
こうしたことが制度スタート時点ですでに指摘されていたにも関わらず、環境省、経産省、財務省などの中央官庁は、この制度にブレーキを掛けることなくスタートさせてしまいました。
万引きの急増とそれに伴う社会的コストの増大
しかも、現時点において、レジ袋無料化はさまざまな弊害を生んでいる可能性が濃厚です。その典型例が、窃盗・万引きの急増でしょう。これについてはすでに複数のメディアで何度も報じられているので、認識しているという方は多いのではないでしょうか。
マイバッグ悪用、万引後絶たず レジ袋有料化8カ月 スーパー苦慮
―――2021/03/21 11:36付 北海道新聞・どうしん電子版より
レジ袋有料化で“マイバッグ万引き”? ポリ袋の需要増加も
―――2021/2/22(月) 21:24付 Yahoo!ニュースより【日テレNEWS24配信】
マイバッグ普及で「万引き増加」約3割…どんな対策が必要?スーパーの協会に聞いた
―――2020年11月22日 17:30付 FNNプライムオンラインより
小売店ではマイバッグを使った万引きに対処するために、監視カメラや警備員を増やさざるを得なくなるのだとしたら、結果的に環境負荷どころか、民間企業に対してかなり余計なコストを掛けさせている、ということでもあります。
また、これらの報道によれば、弊害はほかにもあります。たとえば、次のような具合です。
- マイバッグには繰り返し使えるという利点もある反面、衛生的に問題となりやすい(とくにスーパーやコンビニなどで弁当を購入した際にマイバッグを使用するときには要注意)
- スーパーなどで買い物をした際に、マイバッグへの袋詰めに手間取り、結果的に売り場が混雑する
- レジ袋にはゴミ袋などとして使用するという「二次利用」需要があるため、需要は減っておらず、取って付きのポリ袋などが売れている
これらのなかには、マイバッグが完全に慣行として定着すれば解消する問題もあるかもしれませんが、そうでない問題もあるでしょう。
いずれにせよ、このレジ袋有料化政策に関しては、「政策の評価」が必要であることは間違いありません。
セクシー大臣の「次の狙い」
ところが、レジ袋有料化を主導した政治家のひとりである小泉進次郎環境相は、肝心の「レジ袋」云々に関する政策の評価もろくにせず、懲りもせずにこんなことを打ち出しました。
プラスチック製スプーン等も有料化、テイクアウトに励む飲食店が悲鳴…小泉環境相が主導か
―――2021.03.09 18:00付 Business Journalより
使い捨てスプーン有料化に進む小泉進次郎氏は「令和の徳川綱吉」か
―――2021.03.23 07:00付 NEWSポストセブンより
これは、3月9日に閣議決定されたプラスチックごみのリサイクル強化、削減に向けた新法案に関する話題です。
具体的には、来年4月に施行を目指す新法において、飲食・小売業などにおいて使い捨てプラスチック製品の削減を義務付けるもので、有料化や代替品への切り替えなどが盛り込まれ、怠った事業者には改善を勧告・命令し、従わない場合には50万円以下の罰金も科されるというものです。
コロナ禍の最中、飲食店がテイクアウトに向けて自助努力を続けるなかで、なかなか強烈な追い打ちです。日本政府は本気で日本経済をぶっ壊すつもりでしょうか。
ちなみにその閣議後、小泉進次郎氏はこう語ったのだそうです。
「自分でスプーンを持ち歩く人が増えていく。こうしたことでライフスタイルを変化させていきたい」。
はて、街歩きをする際に、自分でスプーンを持ち歩いたりするものでしょうか。衛生面からも極めて疑問です。
また、リンク先記事のうち、NEWSポストセブンの記事によれば、流通ジャーナリスト・渡辺広明氏は次のように指摘しているそうです。
「コンビニではパスタやプリンなどのデザート類など、フォークやスプーンを使う商品の売り上げが落ちる可能性がある。レジ袋に加えて『スプーンは有料ですがお付けしますか?』という店員の負担も増す。せめてコンビニにどれくらいスプーンやフォークを使用する商品があり、どれぐらい持ち帰っているのかを調査した上で判断すべきではないでしょうか」
ちなみに記事タイトルにある「令和の徳川綱吉」とは、小泉進次郎氏を「生類憐みの令」を生み出した徳川綱吉にたとえたものです。記事末尾にある次の記述などは、小泉進次郎氏に対する強烈な皮肉でしょうか。
「『生類憐みの令』には近年、『世界初の動物愛護法』として再評価の兆しもある。小泉進次郎氏も350年後くらいに再評価されるのか」。
いずれにせよ、さしたる実証研究もなく、いきなり「プラスプーン」を有料化するというのは、政策としては極めて乱暴ですし、それを閣議決定してしまうというのも、他の閣僚らはいったい何をしているのかと思ってしまいます。
政策評価を欠いたまま次の政策
ただし、これもあくまでも個人的な考え方ですが、小泉進次郎氏をこのタイミングで大臣にした安倍晋三総理は、ある意味では老獪な人物だったのかもしれません。
小泉進次郎氏が環境省に就任して以来、例の「セクシー発言」(『セクシーに風評被害を広める男と科学を軽視する女』等参照)も含め、彼の人となりが広く日本国民に知られることとなりました。
あくまでも肯定的に考えるのであれば、「セクシー・レジ袋・プラスプーン」の3点セットが決め手となり、彼が将来、日本国の首相になる可能性が潰えるのであれば、それはそれで効果があったといえるのかもしれません。
ちなみに、もしも自分自身が選挙に出るのであれば、野党の皆さんが選挙で勝とうと思うならば、次の3点のうち、どれか1つでも公約に掲げれば良いのではないでしょうか。
- 消費税法廃止
- NHK廃止
- レジ袋無料化
もっとも、これらについて主張するのであれば、野党の皆さんもそれなりに勉強しなければならないでしょうから、少々厳しいのかもしれませんが…。
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こんにちは。
最近の小泉進次郎さんの暴走ぶりは、もうほとんど「エコ・ハラスメント」です。
取っ手つきのポリ袋は、結局買わざるを得ませんし。
なんか来月からは、商品の税込表示が義務付けられるとか?これって、先々の増税ムーブメントですよね…?
立憲共産党や国民民主党は政権を取った時、マニフェストなるものの項目で容易く破ったものがあるので、公約に掲げてもだれも信じないのではないでしょうか。
特に消費税やNHKの廃止は絶対無理。
すこ~しは期待してたんですが、やっぱ、アカン人でしたね小泉Jr。
個人的にはペットボトルも含め、プラスチックは原則焼却すべきだと思ってます。
どうせ生ゴミは重油かけて燃やしてんだから。
トータルで考えればそれが一番エコ。
一般人が誤解してることを、しっかりと説明して政策に落とし込むのが政治家の仕事だと思うんですが、Jrは単なるポピュリストだったといいうことがここにきて明らかになってしまいました。
クリステルさん残念だったね。
あなたはファーストレディにはなれそうにありません。
シンジロウ氏の現時点における評価については、
橋下徹氏の論評に同意しまス
レジ袋有料化。もしPDCAが機能していたなら有効な政策だったと考えます。
環境へのプラスチック放出が減ったかどうかは分かりませんが、少なくともエコバッグ使用が増えて、スーパーによるレジ袋の提供が減ったことは間違いありません。
この政策は、エコバッグが普及して、レジ袋有料化を止めても惰性でレジ袋利用率が低いまま、という状態でもって完遂すると勝手に考えていました。ただ、違ったみたいですね。余りに戦略のない政策で残念です。
少なくともPDCAを回して、「レジ袋有料化は効果はあったけど、それでもまだ足りないから新たな政策を付加する」というならわかります。だからまずレジ袋有料化についてのフィードバックが先じゃないですか?
頭のよくない環境省と頭のよくない環境が説明責任を果たさず政策を進めている感じです。
説明責任。野党さんの出番だとおもうのですが、、、もりかけさくらよりもずっと国民は期待してますよ。十分に内閣の失態を追及出来ますよね。
頭のよくない環境省と頭のよくない環境大臣ですね。訂正します。
PDCAに尽きますね。
日本一優秀な頭脳をお持ちの霞ヶ関の皆様が、PDCAを知らないはずがありません。
知っていて、何らかの思惑があるか、単に面倒くさいから、知らんぷりでしょう。
頭のよくない市民団体さん(オット失言)に環境省が思想的に乗っ取られてる感じはします。
まあ、もしそうでも、セクシーさんが河野太郎大臣並みにちゃんと説明出来てたら、我々は心情的に反対ですけど『仕方ないなぁ一理あるね』とせざるを得なかったと思います。この辺は大臣の能力がより明確になったというところですね。
セクシーさんがちゃんと説明出来なかったので、この政策を民の声で潰せるチャンスは十分にあると私は考えます。ある意味この状況はラッキーなのかもしれませんよ。
日々スーパーで買い物している市井のおばさんから一言。
レジ袋が有料になり、日常使用しているリュックやトートバッグに商品を入れるようになりました。その際、食品の汁が垂れないように、他に匂いが移らないように、また紙パックなどが破損さた場合に備えて、店備え付けの無料のビニール袋を少々(!)多めに使わせてもらっています。なお、某TVの昼番組で、レジ袋有料化により無料ビニール袋の消費量が増えたと放映していました……(私だけじゃなかった!ホッ)
レジ袋を有料化し、プラスチックスプーンを有料化しようと企て、次はビニール袋の有料化ですかね、セクシー大臣⁇
例えば、デザート類等のスプーンを有料化すれば、コンビニなんかは自社PBを”スプーン付き商品”で統一すると思うんですよね。
そうすれば店舗としては従来よりレジでの手間は減り、コストは価格に転嫁して万々歳なのでは?
結果、必要としない消費者にもスプーンが行き渡る状況に・・。
*紙スプーンの導入企業に、実績に応じた助成金を配った方が効果的なのかと。
万引きの急増とそれに伴う社会的コストの増大
しかも、現時点において、レジ袋無料化はさまざまな弊害を生んでいる可能性が濃厚です
⇓
…レジ袋有料化は…
にご訂正願えないでしょうか?
所謂セクシー大臣を見ていて思うのが
悪い意味での中小企業の2代目ボンボンですね
親の七光りでチヤホヤされる取り巻きに囲まれていい気になって思いつきの施策を強行し、現場を疲弊させる。
現場の疲弊をよそに成し遂げた達成感と取り巻きのヨイショにいい気になって、さらに悪手を放っていく。
厄介なのは父親から半端に帝王学を学んでいるので、自分が支持される様に綺麗事を述べるのが得意という。
父親は政治家としては突出した「変人(©田中眞紀子)」ぶりが政治家としては(良くも悪くも)結果を残すに繋がったかに思えますが、進次郎氏は出馬前の麻生太郎氏の評が思い出されます…
ドッチカッテート兄貴(孝太郎)の方が“政治家”向きカモ!?
数日前に
プラスチックの原料って石油なんですよ!意外にこれ、知られてないんですけど。
と言う発言があったそうですが、こんな発言が出来るバカが大臣だなんて…
プラの原料が石油であることを知らない人がどれだけ居るんでしょうか?もう少し勉強してから発言しないと関西人からアホではなくバカと呼ばれますよw
本当に環境を考えるならこの記事に書かれているとおりポリエチレンを無駄に捨てるより有効的に使うのが正しいですよね。
1.スプーンなど持ち歩いていられない
2.ならばサービスでつけるようにしよう、お客さんにも便利で売れるぞ
3.でもプラスチックゴミ良くないかも
4.ピコーン!スプーンを持ち歩くライフスタイルにすれば良いんじゃね!?
振り出しに戻る。見事にコトの出発点を忘れています。
そもそも、想像するだけで問題だらけです。
今日のお弁当カレー買おうかなースプーン持ってこ→カレー売り切れじゃん…スパゲッティしかないじゃん…→すみませんフォーク買います、個包装ポイー
\ゴミ爆誕/
さて、セクシー発言は、環境問題などへの取り組みは楽しい、クールなことだと捉えるべきだ、という主旨で、セクシーでもあるというのはサミット同席者の引用であったはずです。その後の小泉氏の説明がスベりにスベったために問題発言っぽくなっていますが、この件のみについては彼を擁護したい立場です。赤い小池など野党議員も大喜びで叩いていたので、嫌悪感もあります。
しかし、レジ袋の件自体の問題点と、散々指摘されているPDCAの無視ときて、「むしろ、もう小泉お前、存分に叩かれろや」という気持ちでいっぱいです。
彼には、以前は神輿の飾りとしての能力に期待していました。都知事選に出るかもとかほざいてた頃の蓮舫にも脅威感がありました。どちらも当選能力は高いからです。しかし実際には小泉氏はコノザマ、蓮舫も市井の人々に随分嫌われています。結局は能力が必要のようです。