X
    Categories: 外交

米国務長官が台湾を「国」と呼称

「台湾は国ではない」――。そう言われても、何だか違和感がある、という人は多いと思います。しかし、米国は長年、台湾について「国」という表現を浸かって来ませんでした。こうしたなか、台湾メディア『台湾英文新聞』は先週、アントニー・ブリンケン米国務長官が米議会で発言した際、台湾を「国」と呼称した、と報じています。

米国務長官が「台湾は国」=台湾メディア

台湾は個人の海外旅行先としても人気だといわれます。コロナ禍が終息した暁には、また台湾に遊びに行きたいと思っている人も多いのではないでしょうか。

ただ、それと同時に、日本と台湾に正式の国交はなく、日本政府は台湾のことを正式には「国」と認めていません(※現実には、公益財団法人日台交流協会が事実上の駐台日本大使館として機能しています)。

ちゃんとした政府も社会もあり、独自のおカネ(新台湾ドル)も使用されているにも関わらず、台湾を「国」扱いしないというのもおかしな話かもしれません。

ところで、台湾を「国」扱いして来なかったのは、日本だけでなく、米国も同じでした。しかし、これに関連し、台湾の英字紙『台湾英文新聞』に先週金曜日付で、こんな記事が掲載されていました。

US secretary of state calls Taiwan ‘country’ / ‘Country’for Taiwan breaks longstanding US State Department taboo

―――2021/03/12 11:22付 台湾英文新聞より

これは、アントニー・ブリンケン米国務長官が3月10日の下院外交委員会で、韓国系のヤング・金下院議員(共和党)の質問に対し、台湾を「国」と呼称した、とする話題です。

この記載をそのまま信じるならば、これは極めて画期的な話です。

台湾英文新聞が「歴代の米国国務長官は台湾を『国』と呼ぶことには極めて慎重だった」と指摘するとおり、米国はいちおう、公式の場で、台湾のことを「国」とは呼称していないからです。

台湾英文新聞によると、ヤング・キム氏は「台湾は米国にとって、ここ数十年、安全保障や世界の健康保健分野における計り知れないパートナーだった」で、「強固な民主主義システム」で国際社会に貢献しているとして、台湾のWHO加盟資格があると主張。

さらに、これから開催される「民主主義国サミット」への台湾招聘や、台湾との自由貿易協定の開始などの是非を問いただしたところ、冒頭で紹介したブリンケン氏の「台湾は強い民主主義ととても強い技術力を持つ」などとしたうえで、次のように述べたのだそうです。

“A country that can contribute to the world, not just its own people. COVID is a very good example of that.”

そのうえで、台湾英文新聞は、ブリンケン氏が「国」という単語を使ったことに関し、1979年にカーター政権が台湾との断交に踏み切って以来、両国関係が新たなステージに達した可能性がある、などと述べているのです。

たしかにブリンケン氏は “country” と発言した

いちおう、事実関係についても確認しておきましょう。

これについて参考になるのは、米国の政治専門ケーブルチャンネル “C-SPAN” が書き起こしていた、下院における当日のブリンケン氏の発言です。

House Foreign Affairs Committee Hearing on Biden Administration Foreign Policy Priorities

―――2021/03/10付 C-SPANより

リンク先には3時間53分42秒の動画が掲載されているのですが、動画の3時間27分12秒以降に問題のやり取りがあります。C-SPANによる書き起こしは、次のとおりです。

 “I’m absolutely committed to working on it and I share your view that Taiwan is a strong democracy, a very strong technological power in a country that can contribute to the world, not just its own people.”

これで読むと、確かに台湾のことを述べたくだりで、「国」(country)という表現が出てくることが確認できます。ただ、この文章だと、 “in a country” の “in” が英文法的に何を意味するかよくわかりません。

そこで、実際に聞いてみると、どうも次のように発言しているように思えます。

 “I’m absolutely committed to working on it and I share your view that Taiwan is a strong democracy, a very strong technological power and a country that can contribute to the world, not just its own people.”

これだと、意味が通じます。いちおう、直訳しておきましょう。

私はそれに取り組むことを絶対的に約束します。台湾は強力な民主主義であり、非常に強力な技術力であり、そして自国民だけでなく世界に貢献できる国であるというあなたの見解を共有します」。

これだと、台湾のことをはっきり「国」と称しています。

「台湾=国」に見られるトランプ政権末期の方針変換

では、なぜブリンケン氏が台湾を国と呼んだのでしょうか。

台湾英文新聞の記載に戻ると、そのヒントは、トランプ政権時代末にあります。

マイク・ポンペオ前国務長官は3月9日、台湾英文新聞のインタビューに答え、米国が台湾を「国」と呼ぶなどの自制を見直したと明らかにしたと述べたのだとか。

そのうえで、実際に1月10日、国務省が台湾当局者との交流制限を解除したことを受け、あわせて台湾に関して「国」、「政府」などの文言を使うことについても容認した、としています。では、ブリンケン氏のこの発言は、「台湾を国として認める」などの米国の方針の大転換を意味するのでしょうか。

これについて台湾英文新聞は、「ブリンケン氏もトランプ政権末期の制限解除を追認した証拠」に見える一方で、「単に舌が滑っただけ」という可能性もあるとして、この発言だけをもって米国が長期的な台湾政策の方針を転換した証拠と見るには早計だ、との見解も合わせて提示しています。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

個人的には、この台湾英文新聞の報道ぶり自体、非常にバランスが取れていて好感が持てます。

米国務長官が台湾を「国」と呼んだこと自体、画期的な現象ですが、これをきちんと拾い上げて報じるとともに、それに一喜一憂せず、トランプ政権末期の方針変更から中・長期的な流れを見極めようとする姿勢が見て取れるからです。

本来のジャーナリズムとは、こういう姿勢のことをいうのかもしれませんね。

いずれにせよ、台湾の将来は台湾の人々自身が決めるべきですし、台湾の決定は我々日本人としても尊重すべきですが、あくまでも個人的には、台湾は自由・民主主義「国家」を堂々と名乗る資格があると思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (14)

  • いつぞやの尖閣諸島をめぐる発言(「国防総省報道官「日本の尖閣諸島主権支持」撤回」)のように後で「あれは失言だった」などと訂正発言がなければよいのですが・・

    • たか様へ
      >「あれは失言だった」などと訂正発言がなければよいのですが・・
       例え訂正発言があったとしても、アメリカ国内で米国務長官発言が問題にならずにスルーされれば、(訂正発言の訂正があるかもしれないと)中国へのけん制になるのではないでしょうか。
       駄文にて失礼しました。

  • アメリカが台湾を国として認めると、近い将来米中間て紛争が起こる可能性が高く、それに日本も巻き込まれる事になるという事です。
    今更、中国に進出しようとしている企業は、どうなるんですかね。

  • 台湾メディアがトリアゲタというコトで、
    トリアエズ日本メディアと中国メディア、香港メディアあたりのリアクション待ちデス

  •  独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (そう自分に言い聞かせないと、素人が舞い上がってしまうので)
     台湾が、ミャンマーの台湾資本企業に、「台湾旗掲揚を勧告」したそうです。
    >https://www.afpbb.com/articles/-/3336913?cx_part=top_topstory&cx_position=2
     これで中国本土資本の工場も、襲撃を避けるために台湾旗を掲揚すれば面白いと思いますが。(なにしろ、台湾は中国の一部なので、その中国の一部の旗を掲揚するのですから)
     駄文にて失礼しました。

  • 更新ありがとうございます。

    日本のマスコミは、この件大騒ぎしないのかな?
    「ブリンケン長官は “country” と発言した!」「台湾を国として認めた」「下院においてブリンケン氏は国と言った」。

    媚中マスコミは書けないのか(失笑)。「日本は米国の真似をせぬよう、政府与党の慎重な対応を求める!」「台湾は一国では無い!」(爆笑)。

    • 未だに媚中マスコミとか言ってるのですか(失笑)、新聞読んだ方が良いですよ。

  • 2006年の国会で麻生外務大臣が、台湾を「民主主義がかなり成熟し、経済面でも自由主義経済が浸透し、法治国家でもある。日本と価値観を共有している国だ。」と答弁していますね。
    適当にごまかしてましたが。

  •  最近は、農業関係の書類ですら、氏名、年齢ときて

    Q.自認する性別は何ですか?
     ・男性
     ・女性
     ・その他
     ・回答したくない

     なんてなっている物もあるんですよ。国と自認している相手に対して「オマエは国じゃない」なんて人(?)権侵害ですからねぇ?さすが人権にコミットしている(池上談)バイデン政権。

    余談:身近に台湾パイナップルが売っていません……ガックシ

  • 中共は「覇権主義国にはならない」と言いながら軍拡を世界最強レベルで続けてきました。また中共は「核先制攻撃をしない。純粋に防衛的。核兵器全面禁止を支持する」と言いながら核開発を進めてICBMやSLBMを配備し続けて来ました。
    日本にはポツダム宣言で台灣を手放したと言う事情がありますが、第二次世界大戦の戦勝国でも無い中共がポツダム宣言やサンフランシスコ講和条約を云々するべき立場でもありません。日薹が互いに国と認め合い友好的になる事はなんなら米英仏露に認めて貰えば台湾自身が「戦勝国」でしたので戦後秩序としてこれ以上良い事は無い。ロシアも他の4カ国が賛同するなら中共ばかりを庇い立てする義理はないと思います。つまり「台灣は無力な弱小エリアで中共の不可分の領土」などの荒唐無稽な中共の事実歪曲に「戦後秩序の範囲の中で」レールを戻せばよろしい。
    こう見てくると戦勝国でも無い(参戦国かどうかも疑問な)中共を国連に迎え、逆に台灣の席を剥奪し、あまつさえ中共に国連安保理常任理事国の定席までホイホイと渡してしまった「戦勝国チーム」の皆さまの判断の誤りは今更ながら指摘せざるを得ない。

  • 立憲、社民、共産党は台湾をどう思っているでしょうか。独立した中国の一部と解釈しているのでしょうか。
    これらの党に全く興味が無いし、知りたくも無いので調べる気もしません。

  • 形式論で言えば、現時点で「台湾」という国家は存在せず、あくまでも存在しているのは「中華民国」という国家です。かつて中華民国はその領域を「台湾島および現在の中華人民共和国+モンゴル国」までと憲法で規定していました。確か、李登輝総統の頃にその規定は削除されたと記憶していますが、人民共和国側は今でも台湾はあくまでも台湾省であると見做していると思われます。つまり、台湾側は中華民国と人民共和国とはそれぞれ別個の国家(State)であるとしているのに、人民共和国側はあくまでも一つの国家(State)しか存在しないと主張しているということになります。結局、李登輝総統が主張されていたのも、こういうことでしょう。

    これはStateの問題であり、Nationの問題ではないので、どちらかの主張が一方的に「正しい」ということはありません。決着されるべき問題であるかどうかも、一概には決めつけられません。民主主義という観点からすれば、最終的には住民の意志にかかってきますが、少なくとも一方の当事者が民主主義とは程遠い体制であることから、住民の意思が無視される可能性も否定できないでしょう。
    現時点では、アメリカも日本も「一つの中国(State)」を支持していることになっています。ただし、どちらも北京を首都とする人民共和国が一つのStateの主体であるとまでは言明していないはずです。つまり、中華民国でも中華人民共和国でも構わないが、「中国は一つ」という中国共産党の主張を否定はしていない、あるいは中国共産党がそう主張していることを認識している(acknowledge)というに留まっています。従って、台北を拠点とする中華民国もまたStateであると承認したとしても、大きな政策変更には違いありませんが、必ずしも過去の姿勢と矛盾しているとまでは言えません。少なくとも、中華民国が国家(State)としての要件を十分備えており、単に承認しているかどうかというだけのことであるからです。

    今回、ブリンケン国務長官が台湾をcountryと表現しましたが、これだけではまだアメリカが重大な政策変更をしたのかどうかは断定できません。アメリカの高位公職者が台湾をStateと表現した場合、そこに込められた意図はより明確になります。ただし、そこまで踏み込むと中国共産党の主張を完全に否定することになるので、アメリカが対中開戦やむなしと決断した場合に限られるでしょう。折しも、「2025年までに人民共和国は台湾に侵攻する」という噂が流れています。バイデン政権の任期中です。それはアメリカの高位公職者が"State of Taiwan"と言明することがきっかけとなる可能性があります。今後、アメリカの高位公職者が台湾をどのように表現するか、注意していく必要があると思います。

1 2