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日経報道「日米2+2で中国名指し」、むしろ遅いほど

日経新聞は本日、今月開催が予定されている「日米2+2会談」で、日米両国が「中国を名指しして批判する」方向で調整中だと報じました。これは歓迎すべき話であり、むしろ今までが遅すぎたほどです。ただ、それと同時に一部のメディアは「中国が2027年までに台湾を『解放』する」などと報じています。中国の無謀な拡張主義がもたらす地域情勢の緊迫化は待ったなしなのです。

「2+2」とは?

俗に「2+2会談」と呼ばれているものがあります。

これは、外交担当と防衛担当の2人の閣僚が一堂に会して行われる会議で、日本はすでに米国との間で数知れない回数の「2+2会談」を実施しています。

外務省の2011年9月13日付『わかる!国際情勢』というページによると、もともとは日米安保30周年を迎えた1990年に当時のベーカー米国務長官が発案し、米国の国務長官・国防長官、日本の外務大臣・防衛庁長官(現・防衛大臣)の4者で会談を実施したものだそうです。

そして、同じく外務省『日米安全保障協議委員会(「2+2」)』というページで確認すると、少なくとも2000年9月11日以降に限定しても、現在までに14回開催されています(そのうち3回が民主党政権時代のもの)。

この「2+2」の意義は、何と言っても双方の国の外務、防衛に対して責任を持つ閣僚が直接膝突き合わせて話し合えるという点にあります。

こうしたなか、わが国は長らく「2+2」の実施相手が米国に限られていましたが、第一次安倍政権下で2007年6月6日に、当時の麻生太郎外相と久間章生防衛相が東京で豪州のアレグザンダー・ダウナー外相、ブレンダン・ネルソン国防相を迎えて「第1回日豪2+2」を開催しました。

日本はこれまで少なくとも7ヵ国と開催

その後、豪州とはこれまでに累計8回の「2+2会談」を実施していますが、それだけではありません。第二次安倍政権が発足して以降は、さまざまな国との「2+2」会談を実施しているようです。

外務省・防衛省などのウェブサイトで確認すると、米国、豪州以外にも、たとえば次のような国との「2+2」を開催しているそうです。

  • ロシア(2013年11月2日の第1回を皮切りに3回)
  • 英国(2015年1月21日の第1回を皮切りに4回)
  • フランス(2014年1月16日の第1回を皮切りに5回)
  • インドネシア(2015年12月18日)
  • インド(2019年11月30日)

当然、こうした「2+2」を実施すれば、英国、豪州、フランスといった潜在的な同盟相手国との戦略的関係の強化が図られますし、また、ロシアのように領土問題などの諸懸案を抱えている相手国とは緊張の緩和と信頼の醸成が期待できます。

もちろん、ちょっと会って話をしただけで、すぐに相手との信頼関係が出来上がるというほど単純なものではありませんが、それでもこの手の会談を継続的に実施することは、決して悪いことではありません。

実際、「2+2会談」以外にも、日本はさまざまな国との次官級などの協議も行っており(図表)、これにより友好国との友好をさらに深めるとともに、仮想敵国との緊張関係の軽減も図られていることは間違いないでしょう。

図表 日本が「ハイレベルの防衛交流」を行っている相手国(2019年4月~2020年3月)

(【出所】令和2年版防衛白書P344『図表Ⅲ-3-1-2』)

今月の「日米2+2」では中国名指しに踏み込むか

こうしたなか、今月、「日米2+2会談」が開催されるようです。

米2閣僚来日、コロナ下の対面協議 中国名指し批判で調整

―――2021年3月9日 14:53付 日本経済新聞電子版より

日経電子版によると、米国のアントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官の2名が来日し、今月16日に都内で茂木敏充外相と岸信夫防衛相が参加するそうです。また、米国の閣僚級の来日は今年1月にジョー・バイデン政権が発足して以来初のことです。

記事タイトルにもあるとおり、日経によると、今回の「最大のテーマ」は「中国への抑止力強化」であり、とりわけ中国を名指しして、中国が2月に施行した「海警法」にも懸念を示す方向で検討を進めている、というのがこの記事の主眼です。

もしこれが事実ならば、ずいぶんと踏み込んだ対応です。

なぜなら、これまで「日米2+2」でも、「日米豪印クアッド外相会談」でも、中国を名指しした声明は出ていないからです(※といっても、「東シナ海・南シナ海で武力により現状変更を試みる」という表現を見れば、中国を指していることはバレバレでしたが)。

日経は日米両国がこれまで中国を名指ししなかったことを、「サプライチェーンを中国に依存する日米両国」に「対中関係悪化を経済などに飛び火させたくない思惑」があった、などと述べていますが、これに加えておそらく、中国による現状変更の試みを口頭で牽制するにとどめようとしていたフシがあります。

しかし、やはり「海警法」を含めた尖閣諸島の現状を踏まえるならば、中国を名指しするのもやむを得ない話でしょう。むしろ遅すぎたくらいです。

中国「2027年に台湾を『解放』」

こうしたなか、『「約束破りのウソツキ」がFOIPに入れないのは当然』でも報告したとおり、早ければ今週中にも、日米豪印4ヵ国オンライン首脳会談が開催される、といった複数のメディアによる報道もあります。

ただ、その一方で、中国の横暴はますます酷くなりつつあります。韓国メディア『中央日報』(日本語版)によれば、香港の中国政治専門家の孫嘉業(そん・かぎょう)氏は中国が2027年に台湾を統一するというタイムスケジュールを設定したと指摘したそうです。

「中国、2027年に台湾を降伏させる」…香港メディア

―――中央日報/中央日報日本語版2021.03.09 14:23

じつは、この2027年とは、中国共産党の「紅軍」が創設されてちょうど100年目ということだそうであり、また、中国の王毅(おう・き)外相も7日の記者会見で、「台湾海峡の両岸は必ず統一し、必然的に統一される」などと述べたのだとか。

中国の対外膨張主義がもたらす地域情勢の緊迫は、「待ったなし」なのです。

新宿会計士:

View Comments (12)

  •  独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (そう自分に言い聞かせないと、素人が舞い上がってしまうので)
     アメリカの国務長官と国防長官が、訪日しての日米2+2で、中国を名指し批判するとして、アメリカは訪韓もするそうです。だとしたら、韓国でも中国名指し批判が出来るのでしょうか。(その結果によっては、訪韓はしないのかもしれません)
     蛇足ですが、この前の『そこまで言って委員会NP』で、中国が台湾を解放する前段階として、尖閣諸島や与那国島を占領する。(近藤大介氏が)「その時期として、北京冬季オリンピック閉幕から中国共産党党大会までに間であろう」と言ってましたが、新型コロナやオリンピックボイコットの可能性を考えれば、北京冬季オリンピックの前もあり得るのではないでしょうか。
     駄文にて失礼しました。

    •  すみません。追加です。
       米韓で在韓米軍経費交渉で原則合意したそうですが、アメリカが条件として、「米朝交渉で、アメリカに協力する」、あるいは「米中交渉で、アメリカの足を引っ張ることはしない」をつけたと考えるには、考えすぎでしょうか。もっとも、何がアメリカのためになるかは、韓国が決めると、考えているかもしれませんが。(もちろん、韓国の文大統領か次期大統領かは分かりませんが、「韓国が約束を守るはずはない」と言われたら、それまでですが)
       駄文にて失礼しました。

    • 引きこもり中年様

      香港に関してはアメリカもヨーロパも口では厳しい批判を中国に向けていますが、実際の軍事行動を起こすことは考えられません。
      しかし台湾は別です。
      台湾は政治体制は事実上完全独立国、軍隊もありますし、民主主義の優等生の台湾に中国に軍事的行動を起こすとなれば、アメリカ日本のみならず、世界を敵に回すことになります。
      強引に台湾を併合することは中国の滅亡、世界大戦、世界の破綻を意味することは中国も解っているはずです。
      豊かになった中国人民もそのような破滅は望んでいないでしょう。
      (中国政府は必至で中華民族意識を煽っていますが、そもそも漢民族は個人主義的でお隣の国で盛んな民族意識なんて皆無です)

      中国が台湾を事実上併合するとすれば、台湾に親中政権を誕生させ、経済的に今以上の依存関係を構築し、中国が今よりは民主的国家となって台湾の人が「まあ中国に併合されても良いかな」と思わせ、かつ武力で脅しをかけて世界大戦を恐れるアメリカに、「台湾の人が受け入れるなら仕方ないな」と思わせるような状況になった場合かと推定します。

      ちなみに尖閣については、上記併合の一連の過程の中で、アメリカの様子を見ながら、日本との戦略的互恵関係維持の可能性、メリット&デメリットを測りながら、唐突に一挙に上陸し、すばやく実効支配をする可能性はあると思います。
      アメリカは尖閣の主権を日本に認めておらずあくまで実行支配、つまり施政権が日本にある場合のみ安保対象としているので、中国もそこを突くことになるのでしょう。

      なお今回の香港メディアのニュースで報道された2027年にどういう意味があるのか解りませんが、上記戦略を実行するためには最低それくらいかかるということかもしれません。

      その間に中国国内で民主化運動が起こり、台湾どころではなくなっている可能性もありますね。

  • バイデン政権は滑り出しで、口先だけは勇ましいことを言って回ってると思います。
    害のない範囲で。
    今後、行動が伴うのか、結果的に中国を利する選択をしないか、注視しています。

  •  「台湾と国交を回復し、FOIPに台湾を加入させる」
    ⇒バイデン政権には、これを世界に率先して実行して欲しいと思います。日本、オーストラリア、イギリス、カナダなどがこれに続けば良いと思います。イギリスのチェンバレン首相がナチスに対して採った融和政策の失敗を繰り返してはいけないと思います。習近平は、既に当時(ミュンヘン会議)のヒトラーに匹敵する危険な独裁者になってしまいました。
     もしも、私が「デス・ノート」を拾ったら、真っ先に「習近平」と記入します。もしも、私がドラゴンボール7個を手に入れ、シェンロンが現れたら、「習近平を殺してください」とお願いします。

  • 威勢が良いのは結構なことですが、JB Pressに3月8日付で掲載された記事の4ページ目に「軍の力が強くてどうにもならない」という話がありました。

    この記事によると、王毅外相は「習近平国家主席の忠実な代弁者」であるとのこと。
    習主席は人民解放軍のトップである中国共産党中央軍事委員会主席を兼任しており、名実ともに軍の統帥権を握っているにも関わらず、「軍の力が強すぎる」とはいかなることでしょうか。

    もしかして、人民解放軍が台湾侵攻を声高に唱えているのは表向きの姿にすぎず、時が満ちた暁には「敵は中南海にあり!」とばかりに、北部戦区が北京を一気に攻め下す計画でもあるのでしょうか??

    >主席の訪日を実現させるためには、釣魚島(尖閣諸島)で日本を刺激しないことが大事だということも重々承知していて、そのことも王毅外相は習主席に建議している。だが、軍の力が強くて、どうにもならないというのが現状だ。

    出所:中国「尖閣で日本刺激する軍に王毅外相困惑」の見方
       東アジア「深層取材ノート」(第78回)
       近藤 大介氏
    https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64385

    • 内部抗争が熾烈なのは中国共産党に限らず皇帝が君臨した時代よりの伝統のようなもので、盤石に見える習近平体制も常に内部に火種を抱えています。
      再び汚職を追放するという名の下に人民解放軍の不穏分子を粛清しないと、不測の事態が明日起こってもおかしくない状況です。ただ、それをやるには人民解放軍の力が強くなりすぎて逆に失脚する危険も大きいです。

      因みにこちらのウエブの前々回コメントに政経分離と信じている経営者が多いと書いたら、そんなのどれほどいるのかと反論を頂きました。口で尋ねれば自分はそうではないと答えるのがほとんどでしょうが、一触即発の状況下にあっても、これから中国に進出するのだという経営者の行動は政治と経済は別だと信じているように思えて仕方ありません。あるいは自分のリスク対策は大丈夫だと自信満々なのでしょうか。
      もし尖閣諸島付近で何かトラブルがあれば今度は習近平の意向に関わらず中国全土に数年前以上の反日の嵐が巻き起こされるのは目に見えているのにと考える次第ですが、それでも経済は別であり日本企業はダメージを受けないのでしょうか、その辺を教えて頂ければ幸いです。

      • > 政経分離と信じている経営者が多い

        そう考えている訳ではなく、「発生確率が非常に低いリスクは、発生確率=0 と見做す」経営者が多いのではないかと思います。(私が見聞きした範囲内では)

        リスクマネージメント基本は、各リスクを、( リスク発生時の被害額 × リスク発生確率 ) の値でソートして管理するのですが、発生確率が非常に低い、例えば、千年に一度とかいった類のリスクを、発生確率=0 でリスクマネージメントした結果が、東電福島原発の様です。

        人民解放軍の台湾侵攻も、百年に一度とかいった類のリスクですから、発生確率=0 でリスクマネージメントしている経営者が多いと思いますよ。

        ゼロと非常に小さな数は、全然違うという事が、サラリーマン経営者には十分認識できていない様に思われます。

        • リスクマネジメントの講釈ありがとうございます。
          今の中国の国内事情と米国はじめ世界各国との関係を鑑みても、これから中国に進出しようとしている経営者はこの数年以内に何か起きるリスクは非常に小さいと考えている人ばかりということですか。
          正常性バイアスが働いたとしても、経営者の地位にある人がそこまで楽観的になれるのか、分かりません。

          • もうひとつ思い出してしまったのですが、「いまから中国にしんしゅつするのか」という意見に対して名古屋の住人様から「私の主張の根底は決して「中国とパートナーシップを築く」ことではありません」と回答あったのですが、では関係を作ろうとしているのかが分かりませんでした。
            例えば中国に合弁工場をこれから建設しようとして、普通はビジネスのパートナシップの関係でなければ成功しないと思うのですが、パートナシップでなければどういう関係なのか想像がつきませんでした。

            またグダグダついでに、「中国に代わる市場がなければビジネスとして会社が成り立たないだろ」という意見も頂き、ごもっともと思ったのですが、いや待てよ、既にどっぷり中国に漬かっている企業ならその通りながら、「今から中国に進出するのは如何なものか」という考えに対する答えなのか?と思った次第です。

            墺を見倣え様のコメントに関するものではないことで申し訳ございません。ふと疑問に思ったもので。

  • 更新ありがとうございます。

    「日米2+2会談」で中国を名指しで批判する。良い考えです。「海警法」を含めた尖閣諸島の現状を踏まえるならば、中国を名指しするのも当然です。今の中国はやりすぎ。何か急いでいる。批判するのは遅すぎるくらいです。

    日本が「ハイレベルの防衛交流」を行っている相手国は最近2020年1年間でも結構あるんですね。でも、、、豪州や米国は多いのは理解できますが、あのブラジル、パプア・ニューギニア、ウクライナ、エジプト、モンゴル並みの1回しかしてない近くのお国がある?え?話が根本的に合わないから?それは嫌われ民族だから仕方ない。誰も韓国と話し合って、有意義な合意には成りません。不幸な結果と時間を浪費だけ。 
    ところで訪日のあと、半島かしつこく求愛をすると思う。しかし、無視です。近いからちょっと寄る、必要は一才ありまへん!

  • 日経の記事は3/8の国務省の記者会見がもとではないでしょうか。
    海警法と日本について質問したのは別の記者ですが質問が記事になっている印象です。
    中国に対して質問した記者は、オリンピックにも触れましたが報道官は具体的には触れませんでしたし別の記者の質問が今回の記事の元であり回答は以前より踏み込んだとは言えるかも知れませんが名指しなどと言うものでは無いと言う印象でした。
    台湾についてはかなり時間割かれていましたがここでも中国名指しではありませんでした。