自称元慰安婦が原告となり、日本政府に対して主権免除の原則に違反した判決が下されるという衝撃的な事件から、1週間が経過しました。この判決を巡っては「象徴的なもの」となる、との観測もあるようですが、その一方で文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領は昨日、「韓日は最も重要なパートナー」、「韓日問題は対話を通して建設的かつ未来志向的な関係を早期に復元していく必要がある」などと騙ったそうです。
主権免除違反判決のインパクト
『慰安婦判決巡っても無責任で当事者能力のない韓国政府』でもまとめたとおり、先週、韓国の裁判所は日本政府に対し、国際法上の「主権免除」の原則に違反した判決を下しました。
改めて触れておくと、主権免除については国際法上の原則ですが、その範囲を巡って論争があることは事実でしょう。しかし、韓国の裁判所が下した判決に関していえば、現在の国際法の潮流から見ても、そのロジックはかなり苦しいものです。
たとえば、2004年にイタリアの最高裁がドイツ政府に損害賠償を命じた事件をめぐり、国際司法裁判所(ICJ)が2012年、「慣習国際法によりドイツが享受すべき主権免除をイタリア裁判所が否定した行為は、イタリアがドイツに対して負う義務の違反となるものである」と結論付けた事例があります。
また、2004年12月に国連総会で採択された「国連国家免除条約」の考え方によれば、主権免除が認められるのは商業的取引、雇用契約、不法行為などに関する裁判手続に限定されており、かつ、国の財産に対する差押は認められません(ただし、この条約は未発効であり、韓国は締結していません)。
いずれにせよ、もともと自称元徴用工判決問題で膠着状況にあった日韓関係は、今回の判決でますます身動きが取れなくなってきたことは間違いありません。
日本に実害はあるのか、ないのか
もっとも、この判決で日本にとって何らかの実害があるのかといえば、それはそれで微妙です。
これについては韓国メディア『ハンギョレ新聞』(日本語版)に、今週月曜日に掲載された次の記事が参考になると思います。
日本に「国家賠償」命じた「慰安婦判決」、その後のシナリオは
―――2021-01-11 07:00付 ハンギョレ新聞日本語版より
執筆したのは、『韓国政府は「徴用工」解決のチャンスをみずから潰した』でも紹介した、「あの」キル・ユンヒョン記者です(記事に漢字が記載されていないので、本稿でもこの呼称を使います)。
キル・ユンヒョン記者は日本の産経新聞、朝日新聞などの記事をもとに、日本政府が国際司法裁判所(ICJ)への提訴を検討しているとしたうえで、韓国が竹島領有権問題や2018年の自称元徴用工問題などでICJ提訴に同意していないことを念頭に、次のように述べます。
「韓国がこれまで国際司法裁判所で解決しようとの日本の要請を拒否してきたのは、独島のケースでは、実効支配中の領土問題を解決するために国際司法裁判所に持ち込むのは何の実益もなく、最高裁判決のケースでは、日帝による朝鮮人強制動員が1965年の韓日請求権協定で解決されていない『反人道的不法行為』と認められるか100%の確信が持てなかったからだ」。
おそらく、これがすべてでしょう。
要するに、竹島や自称元徴用工の件では、ICJの場では自分たちが敗訴する可能性がそれなりに高いと見ている、ということでしょう。だからこそ、ICJ提訴を頑なに拒絶し続けてきたといえます。
もっとも、慰安婦問題に関しては、ICJ提訴が日本にとって「正解」とはいえません。
記事でも指摘されているとおり、国連のクマラスワミ報告書(1996年)、マクドゥーガル報告書(1998年)などを通じ、慰安婦問題が「日本政府が法的責任を負うべき『人道に対する犯罪』」などとする捏造が、国際社会にほぼ定着しているからです。
もともとの慰安婦問題の捏造犯罪に関わった当事者たち、それらの捏造を放置し続けた歴代日本政府の罪は非常に重いと言わざるを得ないのですが、その反面、現実問題として、ICJ提訴が日本にとっての最適解ではないという可能性については、私たち日本人も深刻に受け止める必要はあります。
取り得る3つの選択肢
このように考えていくと、本件訴訟についてICJの判断を仰ぐことになれば、ハンギョレ新聞の指摘どおり、次のような論点について「泥沼の論争」が待っています。
- 主権免除の原則を適用しなかった韓国の裁判所の判断は正しいのか
- 慰安婦問題は1965年の請求権協定で解決済みなのか
- 2015年12月の日韓慰安婦合意のような政府間合意の有効性をどう考えるか
こうしたなか、キル・ユンヒョン氏は、ICJ以外の選択肢が次の3つであると指摘します(項目名の表現は当ウェブサイトにて適宜補っています)。
- ①慰安婦財団の残金を使って賠償金の支払いに充てる
- ②判決を強制執行する
- ③事実上の棚上げを図る
このうち①については、深刻な外交摩擦にもつながりかねません。
というのも、日韓合意に基づいて設立された慰安婦財団を韓国政府が一方的に解散してしまったという合意違反の実績もさることながら、今回の判決に基づく賠償金に充てることに、日本政府が同意する可能性はないとみられるからです。
次に②については、もし韓国国内でこれを強行しようとしたら、「断交に次ぐ深刻な外交摩擦が予想される」などとしています。キル・ユンヒョン氏は「理性的に考えれば考慮し得る選択肢ではない」と述べていますが、この点もそのとおりでしょう。
したがって、結局可能性として残るのは、③です。
「三つ目の代案は長期対峙だ。判決は確定したものの、執行できないまま長期の課題として残しておくのだ。この場合、8日の判決は、慰安婦問題に対する日本の法的責任を認めた韓国司法の初の判断という『象徴的な判決』として残ることになる」。
すなわち、判決は出たけれども執行できない、というわけです。
現実的には、日本政府としては韓国に対し、自称元徴用工判決問題と並び、「国際法を守れ」と言い続けるための材料がひとつ増えたというだけの話でもある、というわけですね。
もやもや続く日韓関係、文在寅氏のふざけた発言
もっとも、自称元慰安婦らとしては、損害賠償金を受け取ることはできないわけですから、これに韓国国内の世論が納得するかどうかという問題はあるでしょう。
そして、「日韓関係破綻」を願う立場の人にとっては、いっそのこと、韓国国内で司法が暴走し、日本国政府の資産を差し押さえるなどの暴挙に出てほしい、などと感じている人もいるのかもしれません。
さらに、批判を覚悟で個人的な見解を述べさせていただくならば、「象徴的な判決」であったにしても、やはり韓国が国を挙げて国際法を踏みにじったという実績は残るわけであり、この点に対するペナルティを何とかして韓国に課すことをしなければならないという思いはあります。
こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に今朝、こんな記事が出ていました。
文大統領、離任する日本大使に「日本が最も重要」…態度が軟化した理由は
―――2021.01.15 07:05付 中央日報日本語版より
これは、文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領が14日、離任予定の冨田浩司大使と面会した席で、次のように述べた、とするものです。
- 韓日両国は最も近い隣国であり、北東アジアと世界平和・繁栄のために共に歩んでいかなければならない最も重要なパートナーだ
- 現在の韓日両国が抱えている問題について、対話を通して建設的かつ未来志向的な関係を早期に復元していく必要がある
対話を通して建設的かつ未来志向な関係を韓国と築き上げていこうとしてきたのは日本の側であり、そうした努力をぶち壊して来たのが韓国の側であるという事実を踏まえるならば、こうした発言を目にするだけで、本当に心の底から苛立ちます。
ただ、ここで気になるのは、文在寅氏が日本を「最も重要なパートナーだ」と呼称したことです。
冨田氏が駐韓大使を務めていたのは1年2ヵ月の期間で、今後は駐米大使として赴任する予定ですが、その冨田氏に対し文在寅氏は「駐米大使として赴任したあとも、韓日関係発展と韓米日共助のために引き続き努力して欲しい」と述べたのだとか。
文在寅氏の「軟化」の背景にあるものは?
中央日報はこれについて、文在寅氏の発言が「軟化」したと指摘したうえで、「外交界」からは「7月の東京五輪を南北和解の場にするためには韓日関係改善が切実だという文大統領の意志が表れている」という解釈が出ていると評しています。
この期に及んで、東京五輪を政治利用するつもりなのかと驚きます。
ただ、冷静に考えてみると、文在寅氏が置かれた環境は、ますます厳しくなっていることも事実でしょう。
『民主主義捨てる無法国家・韓国を鈴置氏が「異質な国」』でも報告しましたが、日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏は最近、韓国が本質的に変化してきたと指摘しています。
例の「公捜処」設置の件がその典型例ですが、韓国では現在、政権が三権分立を破壊しながら検察当局などと内部抗争を続けています。正直、今回の慰安婦判決が出てきた背景には、韓国の裁判所が過度に政権(あるいは韓国国内の空気)に配慮するという空気があることは否定できないでしょう。
だいいち、現在の韓国に、自称元慰安婦問題や自称元徴用工問題を収拾するだけの意欲も見られません(おそらくその能力もないのだと思います)。
いずれにせよ、文在寅氏の発言をもって、「文在寅氏が日韓関係改善に意欲を示した」と見るには早計だとだけ申し上げておきたいと思います。
View Comments (32)
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
(なにしろ、韓国と違って自分が間違う存在であると自覚しているので)
韓国の文大統領にとって、『朝日新聞の日本』や『鳩山民主党の流れをくむ政党のある日本』は、重要なパートナーではないでしょうか。(もっとも、日本向けではなく、バイデン次期大統領向けの発言かもしれませんが)
駄文にて失礼しました。
[日本向けではなく、バイデン次期大統領向けの発言]が正解だと思います。
https://news.yahoo.co.jp/articles/ad474b09edfc554be1e4e43941ce3bb95c8338e3
愚塵様へ
韓国の文大統領は、バイデン次期大統領に「日本が韓国国内の事情を忖度するように、圧力をかけてくれ」と言いたいのでしょう。
そういう事を言うのなら、ハンギョレ新聞の記者がおっしゃつたように、日韓基本条約の話合いを拒否したことから説明せよ。と言いたい。
それをわかってて、それを無視して、仲良くしようと言う文大統領。
大統領の器か?人間としてまともか?それとも、日本をケチョンケチョンにコケにしているのか?
毎日の更新御疲れ様です。文氏の発言は今まで通りと感じています。形だけの「パートナー」であり、明日には忘れているでしょう。本音は「昔通りに日本側が譲歩するか解決策を出して」ですね。慰安婦合意の残金を今回の判決に流用したら面白いかもしれないですね。
記事更新ありがとうございます。件の発言については、かの国の発言に日本の過去の発言をオウム返しまたは引用したのでは?という発言が散見されますので、関係悪化前の日本の"最も重要で経済的なパートナー"……だったかな?の発言を願望混じりに言ってみたのでは?、と思います。
なお詐欺師に必要なパートナーは人の良い金持ちの被害者ですから…相手しないにこしたことはないかなーと。
「慰安婦への賠償命令」で持ち上がる、日本拠出「5億円」の行方と支援金の「二重取り」疑惑 2021.1.14 デイリー新潮https://news.yahoo.co.jp/articles/c80c85b34d2a5dac6cc1caefd22a1e79da4fd6e8
>実は、提訴した元慰安婦12名のうち6名には、日本政府が資金を拠出した財団から既に1億ウォン(遺族には2000万ウォン)が支給されており、今回更にカネを上乗せする理由が判然としない。
*あれ?、おかわりだったの??、おかしいなぁ~???(理解不能)
なんだろう?
ムンムンのことだから、あまり何も考えてはいないような?
韓国の王様に等しい大統領様が、格下の者にニッコリ微笑みかけてやったニダ!日本の大使は有り難くも恭しくこの笑顔の意味を忖度すべきニダ!
っていうか?韓国人は、信じられないくらい無駄に高い自尊心を持つというらしいし。ましてや、大統領様のプライドたるや?
ムンムン的には、有り得ないくらいの厚遇を与えてやった、というか。
最大限の歩み寄りが、あの冨田大使に言った不気味な言葉の数々、なのでは?と、思います。
ちかの様
まさにその通りだと思います。
身分が上の、しかも大統領が たかが大使にニッコリ微笑むなど 向こうの価値観からしたら トンデモナイ譲歩だと言う事。
韓国国内なら、それだけで大統領の希望を叶えないと駄目ですね。
でも、国外なら たかが韓国の大統領。何故話を聞かないといけないのか?となるのに、無駄なプライドが邪魔して現実が見えないんですね。
「チョッパリ、助けさせてやるニダ」ですか…
No Japan はどうしたんだまったく
非韓三原則でいきましょう~
ちかの様へ
>韓国の王様に等しい大統領様が、格下の者にニッコリ微笑みかけてやったニダ!日本の大使は有り難くも恭しくこの笑顔の意味を忖度すべきニダ!
北の偉大なる将軍様を思い出したのは、私だけでしょうか。
駄文にて失礼しました。
寝言は寝てから言えと一瞬言いたくなりましたが、そもそもかの御仁は起きていたことがあるのかと暫し黙考。
もしかすると、ずっと寝続けていて、「邯鄲の夢」ならぬ「統一の夢」を見続けているのかもしれません。目が覚めたら暗い独房の中なんてことでないと良いですね。
更新ありがとうございます。
離任する富田大使に、文在寅氏が日本を「最も重要なパートナーだ」と呼称。ナニを言うやら、このトンチキ!(笑)
微塵も思ってない事は、今までの極度な反日姿勢に現れている。文は強烈な左派・北崇拝派だ。富田大使には「両国は最も近い隣国であり、北東アジアと世界平和・繁栄のために共に歩んでいかなければならない最も重要なパートナー」。
カッコや見栄を今更張るなよ。日韓がもう対等だと思っているなら、そらオメデタイ。言っときますが、日本は韓国を格下と思ってます。産業の厚みでもインフラでも衛生でも人間性でも所得でも。コレを真摯に考えず、タメ口きくのは阿呆国家ですヨ。ゼーンゼン立ち位置が違うでしょうが(失笑)。
文在寅氏の「軟化」は、四面楚歌だから。まともに相手してくれる友邦国、隣国はありませ〜ん。サイナラ!
めがねのおやじ様
韓国人に、京都人の言葉遣いは通用しません。
ぶぶ漬け食べるか?聞かれたら ありがとうと食べるまで帰らないし、いい腕時計と褒めても、時計の自慢を延々とする。
普通の気遣いや、言葉の装飾、嫌味、皮肉など 少し高度な言葉は通じないと認識し、ハッキリと、オマエは駄目だ。と簡単な言葉での会話しないと ずっと粘着されそうですね。
sey g 様
「まぁムンさん、いつも綺麗な真っ白い四角い紙お持ちにならはって」
※(意訳)「ムンさんって、A4用紙持つしか能があらへん」
地味に京都府選出の国会議員て半島(及び半島由来人)に融和的なイメージが…
既に平成も過ぎ去ったのに、なぜにこがあなイメージあるっちゃろ??
戦中世代は既に一線に居らんっちゅうによ
ちかの様
すみません。
言い訳しません。
本当にすみません。
(T_T)
sey g 様
慇懃無礼な京都弁では朝鮮民族には通じませんね。ココは河内弁か播州弁で張り倒して貰わな(爆笑 あの辺は殆ど喧嘩腰が丁寧語)。◯◯ヤンケッ!ナンドイ!ワレ!イテマウド!ナンボノモンヤ!(価格を聞いている訳ではありません)
。
日本一ガラの悪い言葉をお聞かせして、失礼しました(笑)
ちなみに下のコメント主さんからも声が上がっているように、京都府選出議員は、親韓媚中が多いです。
穀田恵二、野中広務、 国民民主党の前原、主夫してた宮崎、他にも居ます。
中央日報は「文在寅大統領の日本に対する態度が軟化した」と書いていますが、全くの間違いだと思います。文在寅大統領の真意は、富田駐韓日本大使との面会後に、次期駐日韓国大使に内定している姜昌一氏と面会した時の会話に如実に表れています。
すなわち、文在寅大統領は姜昌一氏に対し、「時々問題が生じても、その問題によって未来志向的に発展しなければならない両国関係全体が足をひっぱられるべきではない」とし「それはそれで解決方法を探し、未来志向的な発展関係のための対話努力は別に継続しなければならない」と強調したそうです。
これすなわち、韓国得意の「ツー・トラック理論」です。
キル・ユンヒョン記者は、「自称元性奴隷判決」の今後の行方として、最も可能性が高いものは「長期対峙だ。判決は確定したものの、執行できないまま長期の課題として残しておくのだ。この場合、8日の判決は、慰安婦問題に対する日本の法的責任を認めた韓国司法の初の判断という『象徴的な判決』として残ることになる。」と書いています。
韓国紙の記者にしては、珍しく、日韓の外交関係を客観視できる能力をお持ちのようです。その優れた視点から見れば、「自称元性奴隷判決」のみならず「自称元徴用工判決」の今後の行方も同じようになる可能性が最も高いことになりますし、私も同じ意見です。
しかし、「自称元徴用工」や「自称元性奴隷」の爺さんや婆さんが、韓国裁判所の画期的な確定判決がいつまでも『象徴的な判決』にとどまってしまうことに沈黙していると考えているのでしょうか。
キル・ユンヒョン記者が予想する結末には「韓国内で自称元被害者と韓国政府、自称元被害者同士(例えば、和解・癒やし財団から1億ウォンを受け取った者と受け取らなかった者)の間で壮絶な内ゲバが始まることが抜け落ちていると思います。