本稿は、ショートメモです。韓国メディア『中央日報』(日本語版)の記事によると、日本産ビールの対韓輸出高が前年同月比で10倍近くに増えたのだそうです。ただ、そもそも論として日本の対韓輸出高に占める「BtoC」(消費者向けビジネス)の割合は非常に低く、少なくとも「日本産ビール」で日韓の経済関係を議論しても、あまり意味はないように思えます。
夏に刊行した拙著『数字でみる「強い」日本経済』を含め、以前から当ウェブサイトで一貫して申し上げているとおり、経済に関する話題を議論するうえでは、数字は何より大切です。
もちろん、「数字だけ読んでいれば良い」というわけではありませんが、「数字を無視した経済議論」はときとしてミスリーディングであり、役に立たないばかりか有害ですらあります。
こうしたなか、日本政府が昨年7月に発表した対韓輸出管理適正化措置を巡り、韓国国内で「ノージャパン運動」なる不買の動きが出ていることは、当ウェブサイトでもたびたび取り上げて来たとおりであり、とくにビールなど、日本製の飲料の対韓輸出が激減していることは間違いありません。
図表1は、財務省が公表する『普通貿易統計』のデータをもとに、「1_飲料及びたばこ」の対韓輸出高の2012年10月から2020年10月までの推移と前年同月比をグラフ化したものです。
図表1 日本の対韓輸出高(1_飲料及びたばこ)
(【出所】『普通貿易統計』より著者作成)
たしかに、日本政府が対韓輸出管理適正化措置を発表した翌月の、2019年8月以降、「1_飲料及びたばこ」の対韓輸出高は急減していることがわかります。
だからこそ、日本製ビールなどが韓国で売れなくなっていることをもって、「日本の輸出『規制』で日本自身も困っている」証拠として、韓国メディア(や一部のわが国のメディアなど)が嬉々として取り上げているのでしょう。
ただし、ビールなどの対韓輸出高は不買運動により激減したわけであり、ちょっとした変動が大きく出てくるのはある意味でも当然のことかもしれません。こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に今朝、こんな記事が出ていました。
韓国で日本製品不買運動収まるか…10月の日本ビール輸入額873%増加
韓国で日本産ビールの輸入が再び増加している。<<…続きを読む>>
―――2020.12.07 10:42付 中央日報日本語版より
中央日報が相変わらず輸出管理適正化措置のことをかたくなに「輸出規制」と誤記し続けているのはご愛嬌として、韓国関税庁や酒類業界によると、2020年10月に日本産ビール輸入額は37万ドルで前年同月比873.7%増えたとしています。
これについては日本の側の統計を見る限り、10月に前年同月比で急増したという事実は確認できませんが、その理由は「日韓いずれかの統計が誤っている」という点に加え、単純に「計上するタイミングが違うから」という可能性も考えられます。
ただ、「韓国側で日本産ビールの輸入が再び増えた」のが事実だったとして、それが日韓関係の改善を意味するものとは言い難いでしょう。
そもそも論として、飲料・たばこ類の対韓輸出高は、輸出統計上の10種類のジャンルのなかで、「4_動植物性油脂」に次いで最も少ないからです(図表2)。
図表2 日本の対韓輸出高(2019年)
輸出品目 | 金額 | 構成比 |
---|---|---|
0_食料品及び動物 | 350億円 | 0.69% |
1_飲料及びたばこ | 73億円 | 0.14% |
2_原材料 | 2020億円 | 4.01% |
3_鉱物性燃料 | 1918億円 | 3.80% |
4_動植物性油脂 | 22億円 | 0.04% |
5_化学製品 | 1兆2570億円 | 24.92% |
6_原料別製品 | 7939億円 | 15.74% |
7_機械類及び輸送用機器 | 1兆9067億円 | 37.80% |
8_雑製品 | 3575億円 | 7.09% |
9_特殊取扱品 | 2904億円 | 5.76% |
合計 | 5兆0438億円 | 100.00% |
(【出所】『普通貿易統計』より著者作成)
さらにいえば、日本の韓国に対する輸出量全体でみれば、じつは前年同月比でマイナスとなるのは日本政府が輸出管理適正化措置を講じるよりもはるかに以前の2018年夏ごろであり(図表3)、日韓貿易高全体が日本の輸出管理適正化措置の影響を受けているとは言い難いのが実情でしょう。
図表3 日本の対韓輸出高全体
(【出所】『普通貿易統計』より著者作成)
データで見る限り、日韓貿易高は半導体市況に大きく依存していると考えられますし、とくに韓国の貿易統計を分析すれば、対中輸出高と日本の対韓輸出高には強い相関があるとも考えられます(※時間の都合上、本稿ではその説明は省略します)。
「ノージャパン」による不買運動は「BtoC」(消費者向けビジネス)に限られており、この「BtoC」はむしろ日本の対韓輸出高に占める比重が非常に低いという点を踏まえると、残念ながら日本産ビールで日韓の経済関係を議論しても、あまり意味はないのではないかと思う次第です。
View Comments (11)
大体、韓国人の言ってる事には、意味が無い。
NO JAPANも選択的不買運動も、自分の都合で親日レッテルを避ける為のものだと思います。
昨年8月以降、アサヒビールの韓国向け輸出は90%以上減少したそうです。
しかしながら、アサヒビールにとって、韓国向け輸出は全輸出量の1%未満なのだとか。従って。韓国向け輸出がどうなろうが、業績への影響はほぼゼロに等しいとのこと。
数字はうろ覚えなので要訂正ですが、結局のところ、困ったのは現地の韓国人社員だけだったというオチです。
ということで、韓国で日本製ビールが売れようが売れまいが、日本経済はもとより、個々のビール会社にとっても大した影響はないとなります。まあ、売れ行きが大幅に伸びれば、韓国人の雇用が数十人程度増えるかもしれませんね。よかったよかった。
更新ありがとうございます。
仔細な事ですが価格が高いですね。
サントリープレモ◯ 500cc 4,300ウォン
アサヒスーパード◯イ500cc 3,900ウォン
日本なら270〜320円ぐらいじゃないですか?(安売り店は除く)。韓国のこの画像の店には、私の好きなキリンクラシッ◯ラガーとサッポロ黒◯ベルが無い(笑)。別に韓国で売れなくてもいいよ。
韓国人はヘイトかハイトか爆弾酒にしなさい!何飲んでも、唐辛子で舌やられて、味が分からんやろ(爆笑)。
めがねのおやじさま
ビールは減税されたから、アサヒは240円位で買えます。
発泡酒との価格差が減ったから、ビールに戻す人がいるんじゃ無いかな。やっぱり美味いし。
だんな 様
それは失礼しました。確かに減税でしたね。何も思わず買い物カゴに入れてました(笑)。大学院と大学生それぞれ下宿させている時は、家の経済が逼迫しているので第3のビールとか発泡酒を飲んでました。
今は少しマシになったので、ホンマもんのビールを呑ませていただいてます。もう戻れないですネ。冷蔵庫の本数が多いと家内に注意されるので(冷えが悪くなる、節電せよ)、2〜3本をコソッとさりげなく別々に置いてます(笑)。
めがねのおやじさま
発泡酒も美味しくなりましたけど、その分ビールも美味しい製品に変わってますからね。
ビールじゃないと、「うまい」の声は出ませんね。
日本のメーカーは、すごいなと思います。
経済よりも、嗜好とか世論の調査と捉えるほうが意味があるでしょうね。
氷山の一角とはこういう事を指すのかもしれません。
日本の物を拒否したいのであれば、本丸の生産設備と生産財を…
外観だけ取り繕おうとしても、既にバレているので、精々頑張ってくださいとしか。
(それすら息切れしているようですけど)
ボーンズ 様
泡の向こうに透けて見えるのは、アリャ旭日旗。
スカみたいな味でも、やっぱりハイトあたりの国産ビールを飲むしかない。
けど、まさか製造設備がすべてメイドインジャパンなんてことは…(笑)
輸出品目別の対韓輸出高など掘り出してきていただき、参考になります。新宿会計士様ご自身が輸出高の比重から貿易や商取引上「あまり意味はない」と結んでおられるのですが、そもそも「0に近い小さい数字の%議論・評価」自体があまり意味が無いのですよね。少し数字が変われば大幅に振れるので。
以前、TVだったかラジオだったかの通販番組で、「カルシウムがなんと豆乳の10倍!」とかいう(結構前の事で曖昧ですので、数値は適当です。)商品が宣伝されていました。スゴいですよね。なんとあの"健康に良い"、豆"乳"の10倍ですよ!
ところで豆乳のカルシウム含入量は15mg/100gです。さて似た名前のカルシウム代表格食品、牛乳は110mg/100gです。アレレー?牛乳なら1.4倍弱かぁ…いやまぁ悪くはないけども。
前年同月873.7%だの、2年前同月では4.8%だの、マスコミが好きそうな数値ですが、元にしてる数値が超小さいですよと自分で言っているようなものですね。前年利益がギリ赤字を脱して+1円だった中小企業が翌年になんとか100万円の利益を積んだ際にも「この企業スゴイ!前年の100,000,000%!!!!!!!!」とか書くんですかねぇ。
NO JAPAN ビールがなぜか ヒール役