本稿は、ショートメモです。昨日の『徴用工解決と輸出管理撤回という政治決断はあり得ない』について、若干の補足を行っておきたいと思います。
牧野氏の主張の「本当の意味」
本稿は、ショートメモであり、昨日の補足です。
昨日の『徴用工解決と輸出管理撤回という政治決断はあり得ない』では、朝日新聞の牧野愛博編集委員の論考をもとに、その議論の信憑性について検討しました。
牧野氏の主張の主眼は、「韓国政府が被告日本企業に代わって原告に弁済し、判決の執行を無力化する代わりに、日本が韓国向け輸出管理の厳格化を取りやめる」などの政治決着しか解決の道がない「との声も出ている」、とするものです。
昨日の繰り返しで恐縮ですが、当ウェブサイトなりの主観申し上げるなら、この記述は「牧野氏の意見」というよりも、「日韓両国政府(もしくはそれに非常に近い関係者)に、そのようなことを考えている者がいる」、という意味だと思います。
その意味では、牧野氏の論考の「本当の意味」とは、日本政府側でも韓国に対し譲歩しようとする機運が盛り上がっている可能性がある、というものでしょう。もしかして、安倍晋三総理が辞任したことで、外交の主導権が再び官邸から外務省に戻ろうとしていることも影響しているのかもしれません。
両者が「両天秤」、あり得ない!
ただし、金融規制の専門家という立場から言わせていただければ、「『強制徴用判決=輸出規制撤回』バーター論」については、いろいろと誤りが含まれています。
そもそも韓国が「輸出『規制』」などと主張する輸出管理適正化措置自体、外為法第48条第1項に基づく安全保障上の措置です。このため、この措置自体、自称元徴用工問題とは基本的には無関係だと考えるのが妥当です。
また、韓国側は「日本の措置は輸出規制だ」としきりに主張してきますが、以前から当ウェブサイトでくどいほど繰り返してきたとおり、輸出規制の根拠条文は外為法第48条第3項であり、輸出管理と根拠条文自体が異なりますし、発動されている事例自体、多くありません。
なんなら、もし韓国が日本企業の資産現金化に踏み切った場合などにおいて、日本政府は対韓経済制裁の一環として、「輸出『規制』」の方を発動することだって可能でしょう(といっても、あくまでも「理屈の上では」、ですが…)。
ただし、日本政府は輸出管理適正化措置の理由のひとつに「韓国に対する信頼が失われた」ことを挙げています。したがって、「自称元徴用工判決が日本政府の韓国に対する信頼を失わせた」という意味では、自称元徴用工問題が輸出管理適正化の間接的な原因のひとつである、という可能性はあります。
しかし、この場合であっても、自称元徴用工問題は数ある原因のひとつに過ぎませんので、自称元徴用工問題が日本の望むとおりに解決されたとしても、輸出管理適正化措置(韓国の用語でいう「輸出規制」)の撤回が実現するとは限りません。
輸出管理適正化措置は、あくまでも「安全保障上、日本が韓国の輸出管理を信頼しているかどうか」という観点で決まってくるものです。極端な話、この点について日本政府が韓国政府を信頼できなければ、半永久的に輸出管理の緩和は実現しない、という可能性もあるでしょう。
「ゼロ対100理論」そのもの
さて、牧野氏の「『強制徴用工=輸出規制撤回』バーター」論に戻りましょう。
この論考に出てきた、「韓国政府が被告日本企業に代わって原告に弁済し、判決の執行を無力化する」とする構想についてはじつは自称元徴用工問題の本質的な解決になっていない、という点において、重大な問題があります。
日本政府が求めているのは「国際法を守れ」であり、そもそもの問題の本質は、韓国の裁判所が国際法違反の判決を出したことにあります。これを全面撤回したうえで、日本に対し適切な謝罪と賠償を行ったとして、初めて韓国の行為がゼロに戻るのです。
しかし、この「『強制徴用工=輸出規制撤回』バーター」構想が実現すれば、日本が何も悪くないのに譲歩することになる一方、不法行為を仕掛けている側である韓国が、自分の不法行為をちょっと控えるだけで、日本から譲歩を得ることができる、というわけです。
これっていつも当ウェブサイトで触れている、「ゼロ対100理論」そのものではないでしょうか。
ゼロ対100理論とは?
自分たちの側に100%の過失がある場合でも、告げ口外交、瀬戸際外交などを駆使して「相手も悪い」などと言い募り、過失割合を「50対50」、あわよくば「100対ゼロ」に持ち込もうとする、韓国特有の屁理屈のこと。
韓国メディアが取り上げた意味
こうしたなか、この牧野氏の考察を巡っては、韓国メディア『中央日報』(日本語版)でも昨日取り上げられています。
朝日新聞「韓国政府、日本企業の代わりに徴用被害者賠償の可能性」
韓国政府が日本企業に代わって強制徴用被害者に対する賠償に踏み切る形で韓日関係の関係改善を図っていく可能性があると朝日新聞が予想した。<<…続きを読む>>
―――2020.11.30 14:05付 中央日報日本語版より
中央日報はなにか都合が悪いときには論評抜きで淡々と報じるのですが、リンク先記事もまさにその典型例であり、牧野氏が述べた内容をほぼそのまま紹介する、という体裁です。
ただ、これが中央日報に掲載された理由としては、「韓国側でもこの話題に関心を持つ人が多い」という事情に加え、「情報ソースのロンダリング」(※)のためではないか、とも疑っている次第です。
(※情報ソースのロンダリングとは、たとえば最初に日本のメディアA社が報じ、それを外国のメディアB社が引用し、それをわが国のメディアC社が報じることで、信憑性を偽造すること。)
View Comments (9)
左派マスコミのネットワークは、世界中に有りますので、「情報ロンダリング」は、有効なデマの拡散手段です。出所が分からないから、責任も無い。
便利なシステムです、はい。
情報論惰輪愚(ジョウホウロンダリング)でいいのかな?
せめて国内メディアにだけでも「孫引き引用以下での親情報の記載」を義務化して欲しいですね。
例、韓国紙の中央日報は「『朝日新聞が報じた』と、報じた」・・みたいにね。
そしたら循環参照のタネは露呈してしまうのです。きっと。
もう少し話が盛り上がれば、ロイターあたりが手助けするのでしょうか?
日韓は今丁度バランスの取れた状態なのに、何故子供じみた手法で解決と称してバランスを崩そうとするのかその感性が理解できません。
韓国は判決に従って進めば良い訳で、輸出規制とやらも書類さえ整えれば(しかも日本企業が)問題はない訳です、日本はと言えば何も困って居ない。
牧野氏の発言は表面日韓友好のスタンスを取りながら、特に韓国側を洗脳し日韓離間工作をしているだけの様な気がしてます。
更新ありがとうございます。
韓国政府が日本企業の代わりに徴用工に補償を弁財する、なんてのは何の解決にもなりません。話をややこしくするだけ。またタカリに来るよ(笑)。
頭ん中ゴミだらけの韓国政府、マスコミには何べん言っても分からないでしょう。65年の日韓基本条約で解決済みです。個人補償は韓国政府が面倒を見る、国内の問題です。
輸出管理適正化措置は、あくまでも「安全保障上、日本が韓国の輸出管理を信頼しているかどうか」という観点で決まってくるもの。
日本から武器に転用可能な品目を第三国に出荷した。それも度々。その相手が怪しげな国、、。それだけで十分でしょう。更に日本が協議を求めても逃げ回った。
この件と、徴用工なんざカスリもしない。不透明な輸出や瀬取り、この点について韓国政府は全く信頼できません。輸出管理の緩和はしないどころか、より厳格化するのも手だと思います。
なんなら来年の五輪から南北を外せば?「朝鮮半島は統一を機に核保持を目論む悪の国家、アジアの共通敵だ」と。
貴殿の意見に賛同します。
輸出管理(彼の国は「規制」と歪曲する)の問題の解決方法は通産省が彼の国へ繰り返し説明している。単純に自国消費なのか、どの国へどのような審査で輸出されたのか把握するだけである。自国の消費量は数倍単位で上下したり、大量に廃棄したとか無茶苦茶な説明を止めて、当然の管理体制を確立すればすぐに終わる話。それをしない所に彼の国の意思がある。
マスコミは一般大衆の知的レベルを低く見積もりすぎ。
自称「徴用工」問題は国際条約違反の案件であり、一方的な破棄は当然、制裁を含む対抗措置をされても文句は言えない。国際条約・協定を維持・締結する上で著しく彼の国に不利になるのは当然であろう。制裁を実施していない日本は甘すぎると言える。制裁をさせない圧力を掛けている国があるのかも知れない。
一方、安全保障貿易管理の問題は、日本の国際的な義務・責務であるので、北朝鮮・イランに戦略物資を横流しするような管理をする国には簡単に輸出できない。彼の国固有の問題ではない。
次元が違う問題を天秤にかけている牧野氏は各事実をいづれも本質から全く理解していないだけでなく、論理的な思考をしているとは言い難い。知的レベルが相当に低いか、または、読者をなめ腐っているのであろう。
韓国に対する戦略物資貿易管理の厳格化(いわゆるホワイト国認証剥奪)の件は、難しい局面にはいっている。
本制度のそもそもの目的・対象は、旧COCOM(共産圏への貿易管理)を引き継ぎ、そこにならずもの国家を加えたもの。
RCEPが成立したが、これは中国主導による「21世紀の大東亜共栄圏」に他ならない。戦略物資貿易管理制度とRCEPは、基本的になじまない性質のもの。
あるいは、戦略物資貿易管理制度を最前線として、RCEPとTPPは対峙する性質の枠組みだが、トランプ政権は東アジア政策を根本的に間違え続けてきたといえる。
ゆえに、双方に加盟する国(日本、オーストラリアなど)が存在するのは、アメリカに対する不信感、乃至は「アメリカ以後」を遠くに見据えた政策決定といえなくもない。
EUは、異質の加盟国・イギリスが離脱することで意思決定が多少はスムーズになる。加えて、ロシアの存在。ロシアは西側諸国との経済協定を結んでいないが、中国・モンゴルなどとユーラシア経済連合を結んでいる。EUとユーラシア経済連合とはエネルギー・資源供給、および市場提供の面で深く関わっている。ドイツ、フランスなどが国防費を大幅に削減してきた背景には、「ロシアとの戦争はない」とする政策判断がある。
つまり、アメリカの繁栄をを担保する「ドルの覇権」が、RCEP、EU+ユーラシア経済連合においてユーロ、あるいは人民元を決済通貨とすることで崩壊するのだが、トランプ政権はこの点に無頓着だった。
ここからは仮定の話になる。
アメリカが中国を叩き始めたのは香港の人権問題に発するが、本質は技術優位を確保するための政策意図。前項の「悪夢」が実現すると、アメリカの技術優位もほころびるのだが、バイデン次期政権はどう再生するつもりだろう。
アメリカは戦争に打って出る勇気は、おそらくない。
インドの政策判断について。
インドは、「インド太平洋」の柱軸国家に位置するが、RCEPには加盟せず、もちろんTPPにも加盟していない。
インドの国防資産は、伝統的にイギリス、フランス、ロシアと深い関係にある。
インドの経済界は、これも伝統的に中東諸国と関りが深い。
つまりインドは、他のどの国の覇権も認めず、現時点ではいいとこどりをやって、将来に大を為そうとしている。