本稿は、ちょっとしたメモです。最近、「日本の韓国に対する輸出『規制』の影響で、日本製品の韓国に対する輸出高が急減している」、といった報道を目にする機会が増えている気がします。ただ、実際に統計データで確認すると、むしろまったく違った姿が見えてきます。それは、「韓国の対外輸出高が減少したことで、日本からの生産財の輸入が減っている」、という仮説です。
最近、メディアの報道を眺めていると、「日本から韓国への輸出が減少している」、といった報道を見かけることが増えて来ました。たとえば、次のような具合です。
輸入ビールで日本は9位後退、1位は米国
韓国の輸入ビールの勢力図が昨年から大きく変動している。2020年上半期は米国産ビールの輸入額が13年ぶりに首位に立った一方で、日本産ビールは9位に落ち込んだ。<<…続きを読む>>
―――2020/08/06 14:58付 アジア経済ニュースより
日本の対韓輸出 5月は09年以来の低水準=コロナ・規制強化が影響
新型コロナウイルスの感染拡大や日本政府の対韓輸出規制強化の影響で、日本の対韓輸出額が11年3カ月ぶりの低水準となった。<<…続きを読む>>
―――2020.07.08 09:54付 聯合ニュース日本語版より
とくに、韓国メディア『聯合ニュース』に先月掲載された記事は酷く、あたかも「日本の輸出『規制』の影響で日本の対韓貿易に急ブレーキがかかった」かのような言い草です。
では、実際のところ、これについてどのように考えれば良いのでしょうか。
じつは、韓国のビジネスモデルは非常にシンプルで、生産財(モノを作るためのモノ)を日本などから輸入して、それを韓国国内で組み立て、外国に輸出する、というものです。この構図は、日本政府が昨年7月に対韓輸出管理適正化措置を発表してからも、基本的には変わっていません。
そして、日本から韓国への輸出高の推移を眺めてみると、ここ最近、横ばいから少しずつ減少に転じていることが確認できますが、減少し始めた時期が、日本が「輸出『規制』」を発動したとされる2019年7月ではなく、それよりも1年前の2018年7月前後以降のことです(図表1)。
図表1 韓国の日本からの輸入高と前年同月比
(【出所】韓国銀行データ “8.3.1.1 Exports By Principal Country (Korea Customs Service)” および “8.3.2.1 Imports By Principal Country (Korea Customs Service)” より著者作成)
そして、同じ時期、韓国の全世界に対する輸出高についても減少していることが確認できます(図表2)。
図表2 韓国の全世界に対する輸出高と前年同月比
(【出所】韓国銀行データ “8.3.1.1 Exports By Principal Country (Korea Customs Service)” および “8.3.2.1 Imports By Principal Country (Korea Customs Service)” より著者作成)
ちなみに図表1と図表2に示したデータのうち、「韓国の全世界への輸出高」を左軸に設定し、「韓国の日本からの輸入高」を右軸に設定して重ねてみると、非常に興味深いグラフが出来上がります(図表3)。
図表3 韓国の全世界向け輸出と日本からの輸入の推移
(【出所】韓国銀行データ “8.3.1.1 Exports By Principal Country (Korea Customs Service)” および “8.3.2.1 Imports By Principal Country (Korea Customs Service)” より著者作成)
いかがでしょうか。
両者がほぼピッタリと重なっていることが確認できると思います(※左軸と右軸のメモリがちょうど10倍異なっている点にはご注意ください)。このことは、韓国のビジネスモデルが日本から生産財を輸入して加工し、それを外国に輸出する、というモデルであることを強く示唆しています。
ちなみに、図表1と図表2から「前年同月比」を抜き出しても、やはり同じような現象が確認できます(図表4)。
図表4 韓国の全世界向け輸出と日本からの輸入の推移(※前年同月比)
(【出所】韓国銀行データ “8.3.1.1 Exports By Principal Country (Korea Customs Service)” および “8.3.2.1 Imports By Principal Country (Korea Customs Service)” より著者作成)
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
この点、韓国の日本からの輸入高を全世界への輸出高で割った比率は、ひと昔前と比べて徐々に低下してきていることは事実です。ただ、少なくとも2019年7月に日本政府が発表した輸出管理適正化措置による韓国の「脱日本」は、データの上では確認できない、というのが実情に近いでしょう。
ということは、依然として日本が韓国の産業に対する生殺与奪の権を握ったままである、ということでもあります。
こうした実態を無視して、「日本の輸出『規制』により韓国の日本からの輸入高が減少し、日本企業にも打撃を与えている」とする論調に対しては、強い違和感を覚える、というのが正直なところでしょう。
View Comments (17)
輸出『規制』措置が惹起した NO JAPAN 運動のために対日旅行者数が著しく減少、そのために日本経済はダメージを被っているという言説があります。現実には、旅行者数減は『規制』措置発動前に始まっており統計データにはっきり表れていました。それを指摘していたのはみずほ銀行総合研究所刊みずほレポート2019年7月8日号「2020 年のインバウンド客数目標達成に黄信号」でした。
https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/jp190708.pdf
記事は文中において「韓国・台湾・香港からの旅行者が急減速」と指摘し、図表にこれら3ヶ国からの渡航者数が減少し続けていること、ことさら韓国発旅行者数減が顕著であると書いています。記事は原因を種々に分析していますが、為替レートが不利に遷移していたこと、渡航先が東南アジアへ変わったことを開設してます。京都も奈良も東京も一応行ってるし気が向いたら日帰り旅行感覚でいつもで行けるわというのが真相だったのではないでしょうか。
インバウンド経済などと中身のない風船のような熱情を煽った経済新聞社と観光庁は近視眼を断罪されるべきですね。
いつもデータ分析を元にした記事をありがとうございます。
私も元データを見たいと思いまして、“8.3.1.1 Exports By Principal Country (Korea Customs Service)” でググったのですが、見つけることができませんでした。Korea Customs Serviceのサイトで、サイトマップを当たっても(https://www.customs.go.kr/english/sitemap.do)統計データのアーカイブが見つかりません。
図表1 - 3の目視で荒っぽく数値を追って私が受けた印象は以下の通りです。
1. 2002年には月額140億ドル程度だったのが、2017年には月額550億ドルまで、約4倍に成長。ピーク時より不調とは言え、今でも月額400億ドル前後は稼いでる。見事な経済成長です。
2. 日本からの輸入高は2005年は月額が40億ドル前後、このときの輸出額は200億ドル強。2020年は変動が大きいですが、平均35億ドル程度でしょうか。輸出は400億ドル程度。日本への依存度は20%から9%に減少していると見ることもできます。国産化が進んでいたり、日本以外の国からの輸入でサプライチェーンの多様化を図っていたりしているのではないでしょうか。
何のかんの言っても韓国は逞しい国に見えます。
http://www.meti.go.jp/statistics//toppage/report/minikeizai/pdf/h2amini051j.pdf
上の資料によると製造業の海外現地法人の売上高は2005年(平成17年)にくらべて平成26年は40兆円以上も増えていますから、韓国企業による国産化、調達先の代替·多様化というより、日本企業の製造拠点の多様化が原因じゃないでしょうか?
ちなみに、輸出優遇措置撤廃で日本から韓国への輸出が減りましたが、JSRもステラケミファも昨年度の売上高は2018年度より多少減りましたが過去2番目の売上高です。
つまり、日本企業の海外現地法人から購入しているのでしょう。
まあ、韓国の人たちは要因分析とかまともに出来ないですからね。輸出管理強化も不買運動もコロナも一緒くた。なんか特異な数字があればそれを基に自説を論じるだけ。
関係ないですけど、縦軸10倍と聞いて思わず縦軸おじさんを思い出してしまいました。まあ10倍する根拠も明確ですし明らかな相関性もグラフ作成法に誘導された印象なく感じ取れます。
更新ありがとうございます。
ちょっとお題からはズレますが、ビールでコメントさせていただきます。
「米国のビールブランドが韓国での委託生産を米国からの輸入に切り替えた影響もある」「日本産ビールは前年比92%急減した。日本製品の不買運動が広がり、今年上半期は9位」(アジア経済ニュース)との事。
ゲラゲラッ(笑)!オイ!日本は分かる。韓国が不買したからな。でも米国産ビールは、もうちょっと詳しく書いてよ(笑)。
記事を読むと昨年迄、米国ビールはメイドインコリアだったの?そりゃ不味いはずだ。売れませんよ、そんな色付けただけの炭酸水に(笑)。
で、今年は米国から直輸入に切り替えて売れてるって、そんな事当たり前やん!味が変わったやろ?昨年迄と比べて。韓国メーカーはヘイトかカスとか言うビール会社だったよね?(爆笑)
韓国人は激辛、辛いもんしか食べないから、何を呑んでも一緒です。日本製ビールは繊細な味なんだ。アンタラには勿体ない。呑んで貰わなくて結構です!(一昨年まで旨いウマイと言ってたくせに)。
しかし、日本のビールメーカーも複数社がホップ、麦芽を韓国製を使っている(1社の全銘柄ではありません)。何故、韓国産に替えたんだ?それも発売当初は缶に「麦芽、ホップ=韓国産」と表記していたのに、今は「麦芽、ホップ=外国産」と誤魔化しています。
某日本大手スーパーの韓国産ビールと発泡酒は酷くて撤退、日本製に切り替えました。反面今頃出て来たのが、日本ビールメーカーの韓国産材料を入れた酒です。安い第3のビールとか発泡酒だけでなく、ビールもあります。
韓国人を執行役員に加えた事も関係しているのか?私はそれが分かってから、好きだった某メーカー品は「不買」してます(爆笑)。気になる方は、一度見て下さい。
臨終に際して、脳内ではドーパミンやセロトニンが大量放出されるそうです。
幸せ回路全開でホルっているのですから、そっとしておきましょう。
現実に気づいて用日路線に変更されても面倒なだけです。
>臨終に際して、脳内ではドーパミンやセロトニンが大量放出されるそうです。
それってどうやって研究したんでしょうか・・・。
コニー・ウィリスの「航路」を思い出しました。
韓国政府や韓国メディアの宣伝によると、NO JAPAN運動によって日本経済は大打撃を受け、今やフラフラの状態でダウン寸前とのことですが、平成元年度の貿易統計を見ると、いろいろと面白い事実がわかります。
例えば、韓国向けの乗用車輸出ですが、平成元年度の実績は5129台、前年比-65.1%で、輸出金額としては、150億円弱といったところです。
前年比-65.1%というと物凄い落ち込みであるようにも見えますが、絶対数値で見ると、落ち込む前ですら1万数千台なので、せいぜい1万台ほど落ち込んだにすぎません。日本の自動車メーカー全体から見れば、誤差にもならない程度の増減です。おそらく韓国メディアは-65.1%というところだけに着目して大喜びしてるんでしょう。お目出度い話ですね。
ちなみに、令和元年度、日本が韓国から輸入した自動車の総数は83台です。同時期、中国からは1613台輸入しております。ほほほ。
令和元年度財務省貿易統計: https://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/2020/202025e.xml
余談です
>日本が韓国から輸入した自動車の総数は83台です。
意外に多いです(販売=登録 輸入総数≠登録数と考えるべき)
2019年(※年度ではない)バス販売は約(発表媒体により若干差が出ます)40台
残りは日本メーカーの研究用かな?
現代ジャパンの(日本進出のための)試乗車の可能性もあります(新型コロナでの頓挫を祈ってます)
実質 乗用車販売は「0」ですね w
ちなみに 駐日韓国大使館は現代(韓国のみ)を使ってます
他の駐日大使
①トヨタ(レクサスを含まず)②メルセデス(一部Eクラス)③BMW④日産
意外な国がトヨタを使っていたりします
英国 (RRでなくベントレーでもなくアストンマーチン・モーガンでもない)ジャガー(マレーシアだったかな?)です
イタリアも意外であり納得マセラティ
(参考 YouTube)
失礼
ジャガーはインド系(タタ)英国企業(本社英国)でした
「図表3」を興味深く拝見しました。
2014年の初頭に「日本からの輸入額」と「韓国からの輸出額」が逆転。
韓国内での組み立て作業の付加価値が高まっているように見えます。
このあたりは、貴Webサイトが解説されている
韓国による為替操作の影響もあるのでしょうか。
「依然として日本が韓国の産業に対する生殺与奪の権を握ったままである」という事実こそが、韓国が日本の輸出管理適正化措置に対してWTO提訴や日韓GSOMIA終了通告などの異常反応を示した背景にあると思います。
そして、異常反応の最大の理由は、自称元徴用工訴訟判決により差し押さえた日本企業の財産を現金化した場合に、日本政府が対抗措置として半導体関連3品目の全面輸出禁止措置を実施することを恐れているからだと思います。
韓国が日本に対し、『輸出規制』撤回要求の期限として、一方的に今年5月31日を指定したのも、差押財産の現金化をにらんだものだったと思います。
以上の推測が間違っていなければ、日本政府が対抗措置として半導体関連3品目の全面輸出禁止措置を実施しても、韓国の半導体産業が影響を受けなくなる(WTOで韓国が勝訴する場合を含む)までは、差押財産の現金化は実現しないと思います。
なるほど、逆に言えば、日本が報復措置で半導体関連3品目を全面輸出禁止をすれば、待ってましたとばかり
「ほれ、ワシらが言うた通り、悪質な輸出規制をやりおった」と騒ぐんだろうなあ。小賢しいなあ。
フッ化水素の輸出量も重ねてみたいですねw
雲助
当ブログは、レーダー照射事件以来、毎日拝読させて頂いております。
この事件で、韓国の葉茶目茶な対応ぶりをみて、自分が犯した罪を自認したからです。
私は、サラリーマン時代の数年前、韓国の「○山重工」へ「原子力関連部材」発注した会社に勤めておりました。
○山重工が製作したその部材は、結果として、日本の工業規格をクリアできず(溶接技術が未熟であった為に)、契約破棄となりました。
問題はその後始末です。
勿論、技術力の評価を見誤った、当社の責は免れませんが、相手側の威圧的な「大声」に屈して、○○億円という違約金をむざむざと分捕られたのです。
話が前後しますが、私は、○山重工との契約締結した直後に、工場視察という名目で、釜山へ出張しました。
空港へ着くなり、CEOを筆頭に幹部総出の出迎え、その晩はキーセン接待、翌日はCEOと同伴のゴルフと観光…工場視察は最後にチョロっとでした。
すっかり騙されました。馬鹿でした。
異常な接待のその訳を、何故気付かなかったのかと、悔やまれて仕方ありません。
申し訳ありませんでした。
興味深いお話ですね。
技術力評価よりも、違約金の方が気になります。どんな契約内容だったのでしょう。なぜ日本側の企業は違約金を払う必要があると判断したのでしょう。○○億円の損害は誰の決済で、つまり誰の責任で計上したのでしょうか。株主はそれを良しとしたのでしょうか。
つまびらかには書けないことだとは思いますが、好奇心を表明してみました。