「金融ハブ」という記事を、某外国メディアに発見しました。いわく、「ソウルは金融中心地として、世界第6位だったこともある」という記述です。こういう与太話はどうでも良いのですが、「通貨・金融規制の使い勝手」と「金融の中心地」には、密接な関係があることもまた事実です。
金融ハブ論
韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、『韓国経済新聞』(韓経)が配信した、こんな記事が掲載されていました。
韓経:世界6位から36位に…金融中心地ソウルの「果てしない急落」(2019年03月19日09時40分付 中央日報日本語版より)
「英コンサルティンググループのZ/Yenが18日に公開した国際金融センター指数(GFCI)」によると、ソウルは世界の112都市のうち36位に留まった、とする記事です。
ただ、私が驚いたのは、「今年、ソウルの金融ハブランキングが36位に留まったという」部分ではありません。今から3年半前の2015年9月時点で、ソウルが「ランキング世界6位だった」という事実です。
というよりも、韓国経済新聞はこの「GFCI」なる指数について、「世界の主要都市の金融ハブ競争力を測定する代表的な指数」だと述べています。私自身も金融業界の隅っこで生きていますが、こんな指数、見たことも聞いたこともありません。
本社を置けばよいというものではない
韓国経済新聞の記事にはまとまりがなくて、何が言いたいのか正直よくわからない部分もあるのですが、あえて私なりに要約すると、「韓国の金融競争力を強化するためには、金融機能を1ヵ所に集中し、それを金融ハブとして育成すべきだ」、とする主張でしょう。
ただ、記事を読んでいても、さまざまな国策銀行などをソウルに集中させるか、地方に移転させるか、といった「本店所在地」の議論に終始しており、「ソウルを世界の金融ハブに育て上げること」の具体的な提案は、ほとんど見られません。
ちなみに、今朝方の『カリブ海の小国に63兆円を貸し付ける最強の日本の金融機関』でも少し触れましたが、金融競争力は通貨の競争力と表裏一体の関係にありますし、金融規制の効率性とも密接な関係性を持っています。
「国策金融機関の本社をソウルに置けば、ソウルが金融ハブになる」という短絡的なものではないのです。
実際、香港やシンガポールには主要国の金融機関が勝手に集まって来ていますが、これは金融機関が証券税制や金融規制の簡素さ、資本移動の自由に対する制限の少なさに魅力を感じているからであり、香港やシンガポールが好きで集まっているわけではないことは間違いありません。
東京市場の問題点
ひるがえって、東京市場は確かに巨大ですが、結局は1400兆円を超える資金を運用する日本の金融機関、500兆円を超える資金を運用する日本の保険・年金基金が市場規模を押し上げているという側面が強いといえます。
源泉徴収制度などの複雑な税制がなければ、東京市場ももっと魅力度が上がるのではないかと思うのですが、やはり、財務省の力が強すぎるのは大きな問題ではないかと思わざるを得ません。
ちなみに『ハード・カレンシー』とは、
「その通貨の発行国・発行地域に留まらず、国際的な商取引・資本取引等において広く利用されている通貨であり、為替取引等においても法的・時間的制約が少ない通貨」
のことであり、具体的な事例としては米ドル、ユーロ、日本円、英ポンド、加ドル、豪ドル、スイスフランの「7大通貨」がこれに該当します。ただ、日本という国の実力に照らすならば、円という通貨はもっと国際的な競争力を持っていても不思議ではないはずです。
実際、シンガポールの通貨「シンガポール・ドル」や香港の通貨「香港ドル」は、それ自体が通貨として通用するというよりは、「カレンシー・ボード」(シンガポール)、「米ドル・ペッグ」(香港)のように、外国の通貨を通貨自体の裏付けとして利用しているという側面があります。
このように考えたら、「本当の意味でのハード・カレンシー」は、日本円がアジアで唯一の通貨であり、日本円はもっと通用力が高まっても良いのに、とすら思うのです。
View Comments (18)
>財務省の力が強すぎるのは大きな問題ではないかと
そう思いますよね。
もっとも、財務省はフセイン的な悪さなのかもしれませんが、そこの区別は素人の私ではつきかねます。
百合子ファーストの某東京都知事が、東京を金融センターにする、的なことを言ってたような気がしますが、結局今までできていなかったことができるようになる理由がよくわかりませんでした。
金融行政の観点だと、都知事でできることはあんまりないんじゃんいの、という気はしますが。
どうやれば東京が(東京じゃなくてもいいですが)金融センターになれるのか、
いつか機会があれば、新宿会計士さん的な見立てをご披露いただけると嬉しいです。すごく興味があります。
そうですね。使い勝手が良いからハブ〔中心拠点〕になるのであって、集めたからってハブになれるものではないんですよね。
ソウルに金融機関を集めても、使い勝手が良くなければ見かけ上の数値が上がるだけで「実り」がないですね。〔そんなにランキングが大事なんでしょうか?〕
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金融ハブの件に限らず、体裁や建前ばかりを気にしていると、物事の本質をキチンと見極められずに国際社会から「ハブられる〔省かれる〕」可能性も否めないと思うんですけどね・・。
GFCIの定義って、ちゃんと辞書に出てるじゃないですか。
https://www.collinsdictionary.com/dictionary/english/ground-fault-interrupter
そういえば、韓国はCircuit Breaker発動の先進国じゃないでしょうか。
日本では数えるほどしかありませんし、中国はいまひとつ上手く運用できていない。
単に「看取ってた」せいで、多いなあと感じているバイアスでしょうかねえ。
韓国の言うハブ化は、釜山のターミナルと、仁川空港もよく言っています。
釜山に関してはまあハブ化に成功していると言えなくもない様な。
http://www.mlit.go.jp/common/000228237.pdf
仁川に関しては、結局、F1誘致とかと同じコースになりそうな・・・。
https://japanese.joins.com/article/110/210110.html
韓日中ハブ空港競争で劣勢の仁川空港
こまわり君
ハブvsマングース
八丈島のキョン!
更新ありがとうございます。
GFCIって初耳ですが、金融センターという事ですと、銀行、生保、証券など複合的な金融機関の集積ですよね。でもいろんなランキングあるようですが、なんの為のランキングかな?私には良く分からない(笑)。
国・地域で言うと米国・ニューヨーク、英国・ロンドンはさすがに『メガ』『ハブ』だと分かる。GFCIでは、あの京城市が4年前に6位で、今年の発表が36位とは、、、。そーだ!京城市で世界1位取れるのがあった!
チョンセだ(大笑)。間違いなくチャンピオンだよー。
韓国経済新聞さんへ 金融機関の本店持って来たらセンターって、ちょっと発想ヤバくないかい?
新宿会計士様いつもタイムリーな記事を掲げていただき興味深く読んでおります。
東京市場の地位向上についてですが、日本の金融当局はそれを望んでいません。
なぜなら自分達の行政能力が低いことを満天に晒すことになるからです。
日本の金融当局はプラザ合意以降、自国の国力を低く見せる事に邁進してきました。
未曾有の円高によるバブル到来が、その想いを決定的に叩き込む結果になりました。
ジャパンアズナンバーワンはアメリカが周到に準備をした日本撲滅運動でした。
バブル崩壊はアメリカの金融当局による誘導であり、その後の「失われた20年」は朝日新聞をはじめとした左派陣営の自虐劇場に乗ったものでした。
但し、1年後にはフォーブス誌が嘘であることを暴きますが、財務省はGDP成長率を下振れさせ続けています。
日本の行政担当者はアメリカのやり方を間近で見過ぎたので金輪際目立ちたくありません。
新宿会計士様が、客観的なデータで日本経済の力をお示しいただいておりますが、金融当局としては迷惑な話なのです。
ドルの覇権に挑戦した国は尽くアメリカに潰されています。
石油の決済にユーロを使ってしまったイラクやそれをそそのかしたドイツとフランス。
トチ狂って元を国際通貨にしようとしている国と、しり馬に乗る最低な国が証明しています。
PS:新宿会計士様はご存知かもしれませんが、「炭鉱のカナリア、炭鉱の龍」様のコラムは、上述の2国の外貨準備を考察するとても良いヒントとなります。
たろう 様
長年、私が抱いていた疑念をすっきりさせてくれるお説です。
ま、敗戦国として仕方がないかもと思ってます。
あ、でもいい手かもしれません。
トップは風がつよく当たります。2番手が楽ですね。
日本は少し遅れているようですが、いずれほとんどの企業間でもオンライン決済という流れは変わらないと思います。
そんな雰囲気の中、金融機関などを物理的に一ヶ所に集める意味あるんでしょうか?
しきしまさんへ
物理的には兎も角、
ピアが集まるノッドは、集中する
ノッドの集積は、結局、
物理的偏在を生むだろうし
一定の地域に集まると思うよ
難しいことはわかりませんが、国際金融センター指数(?)で上位10に、中国の都市が入っていること。
この指数って、金融センターの国際的競争力というものを計るらしいのですが、統制経済やっている中国や非法治国家である韓国が何故ランクインしているのか、わからないです。
国家が簡単にデフォルトしそうな国の金融機関の国際的競争力って高いものなの??
それとも、国家の外貨(ハードカレンシー)準備高による信用力??韓国はいつも足りなくてスワップスワップって騒いでいた気がする。
話を変えますが、Web主さんは、今年の消費税増税に反対してみえます。懸念材料としては、対中貿易戦争が引金となって、世界同時不況が心配されること。そういう観点でみると、この記事はちょっと怖い。
<黒田総裁はやっぱり日本経済の「どえらいリスク」だった>
https://ironna.jp/article/12171
>黒田総裁や日銀の公式見解では、中国経済など世界経済は年後半から回復するという予測を行っている。しかしその根拠は、「中国政府がちゃんとやるだろう」という、楽観的というよりも、まるで中国政府の「代理人」のような予測に基づいているだけである。
これが根拠で、景気を読み、消費税増税を決めるんだとしたら怖くないですか?
まるで、鉛筆をころがして、会社経営を決定している社長のようで・・。
レポートの原本を斜め読みしてみました。
https://www.zyen.com/publications/public-reports/the-global-financial-centres-index-25/
https://www.zyen.com/media/documents/GFCI_25_Report_8XXvEuw.pdf
いやまあ、言葉は悪いですが味噌(客観的数値)もクソ(アンケート!)も一緒くたにして独自の指数を作って何をしたいのか・・・。
しかも大部分がネットアンケートという驚きの内容www。
りょうちん様 すごいですね。英語得意なんだ!おばさんは、アレルギーです。(笑)
こういった格付けって、信用されないと意味ないでしょ。指標の根拠が信頼性に乏しいものであったら、格付けも信頼されないんじゃないの?
それとも、今週のあなたの運命みたく、格付けそのものの取り扱いが軽いものなのかな?「信じる信じないは、あなた次第。」とか。(笑)
https://www.longfinance.net/programmes/financial-centre-futures/global-financial-centres-index/gfci-methodology/
こちらのHPなら、Googleから立ち上げれば自動翻訳機能が働くかと思います。
(というか私、Googleの自動翻訳機能がどのように起動するのか解らないのですが)
心配性のおばさん様
格付けが正しいかどうかなんて利用者側には関係ないのですよね。
格付けされる、あるいは変化する事でどう動くかだけが重要なんです。それが格付けの連動していればそれで十分という事でしょう。そして格付けとは一種の有力者がどう動くかの宣言、ポジショントークです。
格付けが決まった段階で既に利益を出せる人は動き終わっています。流れを決める人のポジションが決まったという事です。そしてそれが公表される事によっておこぼれに与ろうと追従する者が動き、その動きを予想した者も動き、上がっている流れを見てダメな投資家も動きます。要するに流れができた結果、正しくなるんだと思います。
デマから豊川信用金庫に対する取り付け騒ぎが発生した豊川信用金庫事件と似たような物です。騙される者が多くいればデマはデマじゃなくなるという事です。それが一応根拠に基づいていればなおのことという事ではないでしょうか?
匿名様、ショゴスライム様 ありがとうございます。
翻訳ソフトが、そんなに進んでいるなんて知らなかった!
おばさんが生きていた頃(?)は、誤訳ソフトだったので。活用させていただきます。
ショゴスライム様、いつもながら、核心を突くアドバイス、ありがとうございます。
格付けって、逃げ水?