数日前から、当ウェブサイトでは「なぜ韓国人などの人名を表記するときに日本語読みしているのか?」といったご質問を頂いております。これは非常に良い質問だと思います。過去に『【夕刊】あらためて「パルク・グエン・ヒェ」を説明します』などでも「日本語読み」について解説したことがあるのですが、最近、当ウェブサイトを読んで下さる方が増えているため、あらためて説明しておきたいと思います。
なぜ日本語読みをするのか?
当ウェブサイトでは、中国人や韓国人の名前を記すときに、基本的に漢字の音読みを当てています。
たとえば、「習近平」は「しゅう・きんぺい」、「文在寅」は「ぶん・ざいいん」、といった具合です。
これについて、数日前から当ウェブサイトに、「なぜマスコミ表記などと違ってひらがなで日本語読みをしているのか?」といったご質問を寄せて頂いています。
過去に何度かその理由を説明したことがあるのですが(たとえば『【夕刊】あらためて「パルク・グエン・ヒェ」を説明します』など)、最近になってかなりアクセス数が増えているという事情もあるため、改めて「なぜ日本語読みをするのか」という理由についてお伝えしておきます。
簡単にいえば、「ここが日本だから」であり、「日本であれば日本語読みが当たり前だから」です。それ以上に理由はありません。
マスコミが「習近平」を「シー・ジンピン」、「文在寅」を「ムン・ジェイン」などと表記していることは私も存じ上げていますし、とくに韓国・朝鮮人については韓国読み、朝鮮読みするのが「日本マスコミ村」の掟であることについても知っています。
しかし、私はマスコミと一切関係ありません。新聞社、テレビ局のたぐいで働いた経験はありませんし(※といっても業界紙に連載を持っていますが…)、当ウェブサイトの記事も、基本的には「ジャーナリスト」ではなく、「社会人ウェブ評論家」として執筆しています。
私は「日本マスコミ村」のルールに従うつもりは一切ありません。
※もっとも、中国人の人名については、「日本マスコミ村」でも、漢字を日本語読みしているケースもたくさんあるようです。
もっと基本的な理由
ただ、韓国人の人名について、「ぶん・ざいいん」だの、「ぼく・きんけい」だの、「きん・しょうおん」だのと表記するのには、もっと根本的な理由があります。
それは、韓国語、朝鮮語の「表記の揺れ」という問題です。
たとえば、日本のマスコミは「朴槿恵」を「ぼく・きんけい」ではなく、「パク・クネ」、「パク・クンヘ」などと表記しています。しかし、英字メディアを読むと、「Park Guen-hye」、つまり「パルク・グエン・ヒェ」と表記されています。
いちおう、私自身も調べてみたのですが、この「パルク」という表記については、韓国大統領府などが公式に使っているローマ字表記法であり、この表記法が韓国語の音声を忠実に反映しているのならば、「パク・クネ」という表現は間違っていて、「パルク・グエン・ヒェ」と表記しなければならないはずです。
ただ、「朴槿恵」をハングルで表記すれば「박근혜」ですが、「박」の読み方は、「パク」(Pak)であって「パルク」(Park)ではありません。なぜ韓国人が「박」に「Park」という表記を当てているのか、私にはまったく理解ができないのです。
さらにいえば、韓国語の発音を日本語に当てはめるときに、表記が不正確である、ということも往々にして発生するようです。
たとえば、日本のマスコミは「文在寅」を「ムン・ジェイン」と表記していますが、ハングルでは「문재인」であり、在日韓国人である私の友人に訪ねたところ、正しい読み方は「ムン・チェイン」なのだそうです。ローマ字で「Moon Jae-in」と表記するのに引きずられ、「チェ」を「ジェ」と表記したのだとか。それにしてもなんですか、「Moon」って(苦笑)。「문」は「ムン」(Mun)であって、「モオン」(Moon)にはなりませんよ?
さらには、「李」を韓国では「イ」と読み、北朝鮮では「リ」と読む、などの違いもありますし(※もっとも、この点については南北分断の影響もあり、仕方がないという側面もありますが…)、このような違いを踏まえつつ、韓国語・朝鮮語の発音を忖度して、日本語ではあり得ない方法で漢字を読むのは不適切です。
いずれにせよ、私が韓国人の人名をひらがな表記している理由は、
- ここが日本だから、漢字は日本語読みするのが当たり前であること。
- 韓国語の表記の揺れが酷すぎて、正確に読むことがいちじるしく難しいこと。
の2点です。
漢字が分からない人名も増えている
ただし、最近、韓国メディア、北朝鮮メディアの報道などを読んでいると、人名で漢字表記がなされていないケースもあります。たとえば、「企画財政部」(わが国の財務省に相当)の部長(※大臣に相当)だった人物の事例が分かりやすいでしょう。
漢字で記載すると「金東●」(●はナベブタの下に兌)だそうですが、ウェブサイト上、この「ナベブタの下に兌」という漢字を表記することが難しいためでしょうか、韓国メディアなどは「金東ヨン(キム・ドンヨン)」、と表記していることが一般的でした。
(※どうでも良いですが、この「金東ヨン」氏は先週、更迭されて企画財政部長官を退任したそうです。)
また、北朝鮮は公式には漢字を廃止しており、人名表記も漢字が当てられていないことが多く、韓国メディアの日本特派員の中には最初から漢字表記をせずに署名記事を掲載しているケースもあります。このため、このような事例だと、そのメディアの表記方法に従うしかありません。
たとえば、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に先月掲載された次の記事は、韓国経済新聞の「キム・ドンウク」と名乗る東京特派員が執筆したものです。
韓経:【コラム】対日外交、「感情」より「事実」を前面に出すべき(2018年10月12日10時33分付 中央日報日本語版より)
しかし、この「キム・ドンウク」という人名については、少なくともこの記事の中には漢字表記が見当たりません(もちろん、労力を掛けて調べたらわかるのかもしれませんが…)。このようなケースだと、漢字表記がわからないため、原文通りに「キム・ドンウク氏によると…」といった紹介の仕方をせざるを得ないのです。
スタンダードでなくても良い
以上の表記方法については、あくまでも私自身が記事を書くうえでの基準であり、別に読者の皆様にこれを押し付けるつもりはありません。コメント欄で「ムンジェイン」と書きたければそう書いてくださって結構です(ちなみに私が使っているiPhoneの場合は「ムンジェイン」と打ち込むと「文在寅」と出ます)。
ただし、もしこのスタンダードを気に入ったのであれば、勝手に使ってくださっても構いません。
なお、私自身の母親(故人)は在日韓国人二世でしたが(生前に帰化済み)、その兄弟(つまり私から見たら叔父や叔母ども)が名乗るときには、日本語読みをしています。
叔父の1人の名前は「金正日」(※仮名)ですが、この叔父は他人に自己紹介をするときに、「キム・チョンイルです」ではなく、日本語風に「きん・しょうじつです」と名乗っていますし、他の叔父ども、叔母どもも同じです。
もっとも、私の親戚の事例は在日韓国人・在日朝鮮人全般に言えることではないのかもしれませんが、一応、ご参考まで。
View Comments (33)
論評、ありがとうございます。
日本でもTVニュースなどで韓国・北朝鮮の人物名を日本語読みしている時代がありました。
例えば、韓国大統領で全斗煥氏なら「ぜんとかん」読んでいましたが、知る限り、盧泰愚氏以降の韓国大統領は日本語読みをしていません。ただしいわゆる金大中事件で有名になった金大中氏は「きんだいちゅう」と読まれていたことがあります。
北朝鮮に関しては金日成氏は「きんにっせい」と読まれていましたが、金正日氏からは日本語読みされていません。
このあたりのことは日本のメディアに対して日本語読みをしないようにとの要請があったという話です。
同様のことは北朝鮮の国号についてもあって、TVニュースでは「北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国」と呼称している時代がありました。これもそのような要請があったとのことです。
あくまで私見ですが、パークやムーンの方が英語っぽい響きでかっこいいというその程度の理由だと思います。
仏教の法事が面倒くさいとかかっこいいとかいう理由でキリスト教徒になる人間がかの国は多いそうですから。
< 更新ありがとうございます。
< この『読み』の件はずっと前に新宿会計士様が表現法について説明されてましたね。そのあとにも説明があったと記憶します。不自然と思う方が居るんですね。私はそのほうが不思議です。
< 朝鮮語が英語表記になると、こうまでオカシクなるか、の見本が【文在寅】です。朝鮮語に近づければ【ムン・チェイン】ですね。それが、米国では韓国政府或いは本人自ら【Moon Jae-in】です(笑)。
< 耳触りの良い、綺麗な言葉の「ムーン」(月)を入れたかったんでしょう。「モン」より良いと。それにチェよりジェの方が欧米では通りやすい。なかなかのアホです(笑)。見た目、綺麗な表現にあこがれる民族は、固有の自分の姓名さえ変えてしまう。おぞましい連中です。
< ついでに【パク・クネ】(またはクンヘ)。これも英語表記では【Park】、公園になります。【パク】では【パクル】に繋がるから(嘘です)。要は公園の方が通りがいいからです。以上、私も韓国人の名前表記について、美化しすぎという観点から気になってました。 以上
>耳触りの良い、綺麗な言葉の「ムーン」(月)を入れたかったんでしょう。
LunaticなMoonと覚えてもらえるからでしょう。
質問させて頂いた者の一人です。
お忙しい中、ご回答、ありがとうございました。
はずかしながら、「習近平」さんが、「しゅう・きんぺい」さんではなく
「シー・ジンピン」さんと呼ぶことを、初めて知りました。
個人的には「名前」(というか、いわゆる真名)に特別な意味があると思っているので、
申し訳ないのですが、私個人は、「できるだけ近い発音で呼んであげるべき」とは思います。
(例えば「あずれ」って名前の人が、ローマ字で「azure」って書いたら、
「アジュア」や「アジュール」って呼ばれたら、絶対に嫌だと思うので)
でもそもそも、日本で、漢字を使う圏内の方の呼び方をどうするかという基準がなく、
それどころか、ハングル-英語の置き換えですら、一意では無いと言うことを聞いて驚きました。
もしかしたら、「名前の発音」に拘ること自体が、日本独特の感性なのでしょうか……
(そいえば、職場のベトナムの子も、色んな発音の仕方があると言って、
メールアドレス決めるときや、あと印鑑作るときに、困っていた子とを思い出しました…
(勝手な推測ですが、保守的な考えを持つ人ほど、いわゆる、漢字と結びつかない
キラキラネームを嫌に感じる、というような傾向が、あったりするのかもですね…)
すみません、勝手ながら、色々考えさせて頂きました。
無論、新宿会計士様に、ポリシーを変えろ、などと言うつもりはございません。
ご丁寧にご説明頂き、また、色々と考えさせて頂くきっかけを頂き、
いつも本当にありがとうございます。
これからも、記事を楽しみにさせて頂きます。
新宿会計士さんの説明に完全に同意します。
「ここは日本だから」だけでもよろしいと思いますし、メディアが勝手に作った業界ルールに従わなきゃいけない理由もございません。
しかも、メディアも完全に徹底してるわけでもなく、行き当たりばったりの感がありますし、そもそも会計士様も書かれている通り、言語発音が難しい表記になるケースもママあります。
漢字圏の国の地名にしても同様で、北京、上海など現地発音で読む場合もあり、重慶、大連のように日本語発音で読む場合もありますね。
ちと外れますが、韓国のソウルってのは、漢字がないんでしたっけ?
京城や漢城ではソウルとは読まないでしょうしね。
>韓国のソウルってのは、漢字がないんでしたっけ
朝鮮王朝時代は「漢城」、日本統合時代には「京城」が、漢字表記でした。どちらも朝鮮語では「ソウル」とは読めませんが、大韓民国からは元の「漢城」が中国語表記(漢字)での「ソウル」でした。
「漢城=漢(中国)の首都」では韓国人のプライドが許さなかったみたいで、2005年からは中国語表記でソウルは、「首爾 / 首尓」となりましたが、当然ことなが中国人もソウルとは発音しないでしょう。
自分の国の言葉で呼ぶことはたぶん、世界共通ではないかな。ロシアのサンクトペテルブルクだが、英語ではセントピーターズバーグとか発音していたと思う。最初、どこの場所かと思っていたが、どうやらサンクトペテルブルクのもよう。日本語にロシア語は入っていないので、たぶんロシア語に近い発音で呼んでいると思うが、英語とロシア語は言語構造が似ているから英語風になっていると思う。だから自分の国の基準で呼んでいいと思う。李克強は「リー・クーチアン」だけど「りかちゃん」と聞こえるんだな。かわいいな。
ですよね。普通は異国の名前を自国読みします。
聖書に出てくる使徒達を日本人は律儀にヨハネ、パウロ、ペテロと呼びますが、英語圏では普通にジョン、ポール、ピーターですよ。セントベネディクトをイタリア人はサンベネデットと呼びます。イタリア語では「クト kt」が言えないんです。
グルジアみたいに「英語風にジョージアと読んでくれ」という不思議な国もありますが。
ヨハネがジョンになるのは違和感が大きいな。ヨハネなんてかっこいい感じの名前が犬っころの名前になるんだもん。聖書も最近はないが文語訳が重みがあってよろしい。口語訳はなんか軽すぎる感じ。
そもそも論なんですが、中国人はいいとして、なんで韓国人は未だに漢字の名前を持っているんでしょうか。
どこで使ってるんだろう?
朝鮮には中国の影響を受けた親族集団の家系に関する文書である族譜というものがありまして、現代の韓国でもそれは存在します。そこに人名を記載するには漢字が必要です。
近年の若い世代には族譜にこだわりを持たない人が増え、その結果、名前に漢字表記を持たない人も増えているそうです。
族譜!そういえばそれがありましたね。
現代の韓国人がほとんど両班になるという・・・。
韓国の人の名刺だけど、昔は漢字で名前が書いてあった。韓国も漢字文化圏なので名前は本来は漢字。でも最近の名刺はみんなハングル。ベトナムも名前は漢字が起源。もちろん、現在は漢字でないけど、本来は漢字。ホーチミンも胡志明。志の明らかな胡さんということかな。みんな中国に反発して漢字を捨てたみたい。日本は漢字は便利と使い続けている。
越南国が漢字を捨てたのは、フランスによる植民地化後です。漢字を使用していたのが支配層だけなので支配層が植民地化で没落した後は、簡単な「クオック・グー」が普及しました。
漢字・漢文が特権階級の持ち物というのは、中国、韓国、ベトナムでじは常識でしたが、唯一常識でなかったのが、日本です。日本では江戸時代に町娘ですら恋文を漢字交じりで書いていたし、瓦版も当然漢字交じりでした。
これって、相手国と自国メディアとの取り決めがあったのではないかと薄ら覚えがw
そもそもそれを言い出したのが、どの組織かも分かりませんがねww
韓国が地元発音に近い表記なのに対して、中共とはその点に問題を表記していなければ、
そのまま、日本語読みになっていたような?
ドイツ・イタリア・フランス・英語ではちがうはずなので、その国々の要請だと思うw
自尊心の高い国ほど言うんだろう?w
特に半島人とか?ww
確かにそのような取り決めがあったことは覚えているが、すじの悪い合意だね。本来の慣例を変えるのだから。
さっそく、解りやすい解説を掲載していただき、ありがとうございました。
過去の掲載記事もすごく参考になりました。(モヤっとした疑問がスッキリと解消しました。)
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韓国語の人名(読み)は、ローマ字変換の定義を守らずに、個々が個人の好みの文字列での「語呂合わせ標記」したり、文法的にも発音しない文字が含まれてる場合があり、漢字と読みの整合性を取ることが困難なのですね。(やはり、決まりを守らない文化なのですね。)
管理人様の主義・主張に基づく「日本語読みでの人名標記」は当然だと思いました。
不確実だと判ってることを「間違ってるかも?」と認識しながら表記しなければならないことは、ストレスでしかありませんので…。
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私の疑問コメントに情報を提供して下さった
「阿野煮鱒」様
ありがとうございました。