北朝鮮の独裁者・金正恩(きん・しょうおん)に対し、日本人拉致事件の被害者家族らが、国際刑事裁判所(ICC)に対して申し立てを行うそうです。私はこうした動きを歓迎したいと思う一方で、やはり、手続的にはさまざまな限界があることも事実だと考えます。
目次
金正恩の刑事告訴・雑感
金正恩に対するICC告発を支持する!
北朝鮮による日本人拉致の被害者家族らが、北朝鮮の独裁者・金正恩(きん・しょうおん)を、オランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)に対して責任追及・処罰に向けた捜査に着手するよう申し立てるそうです。
産経新聞、東京新聞、共同通信などが報じています。
「人道への罪」で金正恩委員長を告発へ 被害者家族らが国際刑事裁判所へ申し立て(2018.1.18 21:18付 産経ニュースより)
日本人拉致で金正恩氏の責任追及 国際刑事裁判所に申立書提出へ(2018年1月19日 02時21分付 東京新聞ウェブより)
産経と東京に第一報が出たのが水曜日の深夜です(※ちなみに私の探し方が悪いからなのでしょうか、この報道については朝日新聞と毎日新聞に発見することができませんでした)。
これらの記事によれば、北朝鮮による日本人拉致事件を「人道に対する犯罪」として裁くため、拉致被害者の家族らが23日、ICC本部に直接出向き、金正恩の訴追に向けた捜査を求める申立書を提出するそうです。
また、産経ニュースは「日本人拉致に絡むICCへの申し立ては初」のことであり、「拉致問題解決に向けた外交交渉が膠着状態に陥る中、国際司法当局に働きかけることで問題解決をアピールする狙い」があるとしています。
こうした動きに対し、菅義偉(すが・よしひで)官房長官も19日(金)午前の記者会見で、本件に関して産経新聞の沢田記者の質問に対し、こうした家族らの動きと連携するとした政府の方針を示しています。
金正恩の刑事告訴は「奇策」なのか?
私は、こうした動きを歓迎し、全面的に支持したいと思います。
拉致問題の解決とは、「拉致事件の全容解明とすべての拉致被害者の即時帰国、そして実行犯全ての処罰」が実現されることです。このいずれかの要素が欠けていても、「拉致問題の解決」とはなりません。
もちろん、本来ならば外交努力による解決が望ましいことはいうまでもありません。しかし、日本政府が北朝鮮当局との誠意を尽くした対話という努力を重ねているにも関わらず、北朝鮮当局は拉致問題が「解決済みだ」と言い張って譲らない以上、対話による解決には、もはや限界があることも事実だからです。
実は、私自身、「ブロガー」時代に、何度か金正日・金正恩のICC提訴を主張していたことがあります。というのも、国際犯罪において、国家間での外交交渉がうまく行かなければ、国際的なオーソリティの了解のもとで、国連などの国際社会の場を利用して、犯罪者の引き渡しを要求するのは当然のことだからです。
もちろん、拉致事件の「実行犯」は、金日成や金正日、金正恩ではありません。
しかし、金一族が北朝鮮の最高意思決定権者であることは明白であり、日本人などの拉致事件は北朝鮮という「国家」が犯した国際犯罪でもあります。
当然、事実上の独裁者である金正恩が、本件に関する全容を知っていることは間違いありません。
ICC提訴の限界
ただし、「日本人拉致事件」を「国際犯罪」と位置付け、ICCの管轄に委ねる場合には、1つの問題が出てきます。
それは、ICCが裁ける犯罪が、発足する根拠となる「ローマ規程」が発効した2002年以降のものに限られるからです。
これについて外交防衛委員会調査室長(当時)の中内康夫氏が執筆した『国際刑事裁判所(ICC)とは何か』(※PDF、参議院の刊行物『立法と調査』2007年3月号P24)の中でも
「ICCの管轄権は、ICC規程の発効後(2002年7月1日以降)に犯された犯罪のみを対象とし、それ以前に発生した犯罪には及ばない」
と記載されていますが、これは「法の不遡及」という国際的な刑事法の基本原則に照らしても、当然のことだからです。
当然、金正恩は拉致事件そのものの「実行犯」ではありませんし(※すくなくとも、そう伝えられています)、また、拉致事件が多発した1970年代には誕生すらしていません。よって、ICCの管轄権の問題上、拉致事件そのものを巡って、金正恩を刑事告訴することはできません。
先ほど示した産経ニュースの記事(2ページ目)には
「金氏は拉致の実行責任者ではないとしたが、事実を知りながら被害者を解放せず、安否を隠蔽する「事後的共犯」だと指摘。長年の深刻な被害を「文民への継続した攻撃」と訴える。」
という下りが出て来ますが、これは、罪刑法定主義・不遡及という近代国家の原則に照らして、拉致事件そのものを巡って金正恩を刑事告訴することができないという点が隠されています。
その意味で、産経ニュースの記事も正確さに欠け、私としては不満が残ってしまうのです。
ICCの手続と具体例
ICCが犯罪者を裁くための手続の要点を確認しておきましょう。これには、
- 対象となる犯罪:集団殺害犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪
- ICCの管轄権が認められる場合:締約国や安保理による付託、検察官独自の捜査への着手
- ICCの補完性の原則:各国が被疑者の捜査・訴追を行う意思や能力がない場合にのみ、ICCによる捜査・訴追がなされる
- ICCから逮捕状が発付された場合:締約国には被疑者の逮捕とICCへの引渡し、証拠の提出等の義務が生じる
という特徴があります(外務省『国際刑事裁判所(ICC)』P2等を参考に著者作成)。
そして、実際に安保理が付託し、逮捕状が発付された事例としては、スーダンの現職の国家元首であるバシール大統領に対するものが有名です。
つまり、人道等に対する犯罪については、たとえ相手が国家元首であったとしても、ICCとしては逮捕状を発付する、という意思を見ることができます。
ただし、ICCの逮捕状にも限界があります。それは、締結国が容疑者の引き渡しに同意しなければ、ICCとしては逮捕状を執行することができないからです。
実際、バシール大統領の身柄は現時点で拘束されておらず、そればかりか、自由に各国を動き回っています。
最近の事例で見ても、あろうことか国連常任理事国である中国が2015年9月3日に開催した「抗日戦勝利70周年記念式典」で、習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席や朴槿恵(ぼく・きんけい)韓国大統領(当時)、潘基文(はん・きぶん)国連事務総長らと仲良く並んで写真に収まっています。
余談ですが、国家元首が犯罪者と平気で同席する中国や韓国のような国に、国連加盟国としての資格はありません。また、潘基文氏についても、ICCは事情聴取を行うべきでしょう。
自衛隊を北朝鮮に!
拉致事件で徹底的に無責任な国は韓国
さて、拉致事件については、日本が最も大きな被害国の1つであることは間違いありませんが、被害国は日本だけではありません。先ほどの産経ニュースによれば、
「北朝鮮を脱出した拉致被害者や脱北者らの証言などによると、拉致被害国は日本だけでなく、韓国、レバノン、ルーマニアなど少なくとも12ヵ国に及ぶとみられ、北朝鮮の人権状況を調べる国連特別報告者や国連人権理事会はこれまでに、ICCによる捜査・訴追を提言してきた。ICCの規定では検察官が該当する犯罪を把握すれば、自らの判断で捜査に着手できる。」
とありますが、実は、被害国は多岐にわたっています。一部報道だと、米国人青年が中国から北朝鮮に拉致されたとの情報もありますが、拉致事件の包括的な全容解明と完全な解決のためには、日本以外の被害国との連携も大切です。
しかし、日本と並ぶ拉致被害国である韓国が、この問題を巡って積極的に動いている形跡はありません。
この点、日本の場合は憲法第9条第2項(戦争の禁止規定)を初めとするさまざまな制約があるためでしょうか、自国民が拉致されても、それを取り返すために海外に自衛隊を派遣することが困難です。
しかし、韓国の場合は日本の憲法第9条第2項に相当する規定もないわけですし、北朝鮮の「同族」であり、かつ、大韓民国憲法第3条には「大韓民国の領土は韓半島(朝鮮半島)及びその付属島嶼とする」とする規定が置かれているわけです。よって、韓国の国内法によれば、犯罪者である金正恩一味を取り締まる義務は、韓国政府にあるはずです。
その大韓民国憲法に照らすならば、金正恩も大韓民国の国民の1人であり、かつ、大韓民国の国民を拉致した犯罪事件の全容を知っている容疑者でもあります。
なぜ韓国が北朝鮮に軍隊を送り込まないのでしょうか?
私の目から見れば、韓国政府の姿勢こそ、無責任極まりないものに他ならないのです。
北朝鮮による拉致は「対日戦争」?
いずれにせよ、私は拉致被害者の皆様やご家族の気持ちを思うといたたまれない気分になりますし、全ての拉致被害者のご無事と、1日も早い帰国を心待ちにしたいと思います。
もちろん、ICCの管轄権が認められると認定されれば、安保理付託やICC検察官の捜査などを通じて、金正恩に対する逮捕状が発付される可能性はゼロではありません。しかし、だからといって、今回のICC提訴は、拉致事件が解決に向かうという「万能の秘策」ではありません。そもそもICCの検事が今回の告発を受理しない可能性だってあるからです。
そのように考えていくならば、今回のICC提訴の動きについては高く評価できるものの、やはり、日本政府、いや日本国民としての取り組みは不十分です。
その最大の制約とは、言うまでもありません。70年以上放置されてきた欠陥憲法の問題です。これは、だれか人任せにする問題ではありません。私たち日本国民自身が、「自分の問題」として考えねばならないのです。
『改憲議論の前に:現実的改憲論の勧め』の中でも申し上げましたが、憲法は私たち日本国民が現実に即して変えていかなければならないものであり、この問題から目を背けること自体、無責任極まりないものです。
そして、私は北朝鮮による日本人拉致については「対日戦争」だと考えています。
そうであるならば、拉致被害者を取り戻し、実行犯を拘束し、処罰するために、日本が責任を持って北朝鮮に軍隊を送り込むのが筋でしょう。
もちろん、こうした構想に現実味がないことも、重々、承知しています。
しかし、北朝鮮による日本人拉致事件とは、日本人に対して覚悟と決起を迫っているのです。
そのことを、決して忘れてはならないでしょう。
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そりゃあ韓民国政府は北朝鮮による韓民国人拉致に積極的どころか微塵も動かないでしょうね。
北
が先か南が先か分からんくらい南も同族(北朝鮮人)を拉致監禁して奴隷にしてきた。
(朝鮮戦争)
捕虜にした北朝鮮軍の看護婦や街行く北の婦女子を拉致しては朴セイキの基地村に監禁して伝統のキーセンsexスレーブにしてきたんでしょう。
日本の領土竹島に侵略して殺人、暴行、拉致監禁どころか半島内部で互いに拉致監禁してきた。そのうへ今現在も拉致監禁しての塩田奴隷・障害者奴隷が報道される韓民国が、北朝鮮軍による拉致監禁を公にしたら...軽く致命傷を受けることになるんじゃありませんか。
< 夕刊発信ありがとうございます。
<オランダ ハーグの国際刑事裁判所ICCへの提訴は、確かに金正恩を法の裁きを受けさせるまで持って行くのは、難儀だと思います。2002年以前に遡求しないという点と、本国の了解が必要な事。
これだけ捉えれば、何という抜け道だらけの裁判所だと思いますね。でも今まで政府が動いてもビクともしなかった事件だけに、拉致被害者家族の訴えという点は、今までと違う「必死さ」「これで最後」という提訴側の気持ちは伝わります。
< 2002年以前は遡求しないという事ですが、金正恩が首領に就いたのはそれ以後です。日本人他、数は日本より多いと思われる韓国人や米国人ほか各国に被害は広がっています。金正恩が生まれる前から拉致被害者はいましたが、執権後は彼は被害者が存在する事実、囚われたままであり、帰国させない残酷さ、すべて金正恩の指一本で解決出来る立場にありました。現在も人質です。
< その点を勘案すれば、現在進行形で何百人という無垢の人を軟禁拘束していると取るのが世界中でも普遍的な考えではないでしょうか。また長い年月、気候も風土も自由もない地域に強制居住させられると、かなりの人数が持病、死亡したと思うのが普通です。50年前は、まだまだ日本は北朝鮮に弱腰でした。日本人が行方不明になって、北が怪しいとなっても朝鮮総連や朝青同、関連施設、関連私企業に、警察も公安も突っ込みが弱かった。朝鮮がらみは犯罪の検挙が難しいのかと、思ったこともありました。まさか警察はグルかと(笑)。
< 拉致された方を全員奪還するには金正恩のクビを取るのが、一番早いです。ICCがどっちつかずの判断出すようなら、それまでに改憲が必要です。死ぬより辛い毎日を過ごして来られた被害者とその家族を思うと、国民の理解は得られると存じます。それにこの事件は韓国人も絡んでいる。朝鮮民族全体の悪事です。北と南をぶっ潰す為に、今年中に国民投票に持って行きたいですね。