本日は米国の外交専門誌に掲載された「米国は韓国を見限るべきだ」とする議論を紹介します。もちろん、現時点でこうした議論は米国内でも少数意見だと思いますが、議論自体は非常に理路整然としており、説得力があります。トランプ政権が「米国第一主義」を掲げる以上、いずれ米国も「韓国切り」を決断する可能性は皆無とはいえないでしょう。
目次
米外交誌「韓国を見限るべき」
米FP誌「米国は韓国を見限るべきだ!」の衝撃
米「フォーリン・ポリシー」(Foreign Policy, FP)のオンライン版に、「米国は韓国を見捨てるべきだ!」と主張する「過激な」(?)記事を発見しました。
It’s Time for America to Cut South Korea Loose(2017/04/13付 FPより)
FPは米国の雑誌であるため、リンク先の記事は英語であり、また、記事を読むためにはFPへの読者登録が必要です(※無料会員の場合でも月5本まで閲覧可能)。さらに、記事のボリュームは1500単語程度であり、決して短いものではありません。ただ、リンク先記事の英語は(やや専門的な単語はあるものの)平易です。英FT紙などと違って妙に技巧的で理解に苦しむ表現は用いられていないため、辞書で単語を引きながらであれば英語が苦手な方でも読めると思います。興味がある方は、直接リンク先の記事を読んでみてください。
前置きが長くなりましたが、リンク先の記事について、著作権に触れない程度で、ごくかいつまんで冒頭部分を日本語で要約すると、次の通りです。
- レックス・ティラーソン国務長官が就任後初めてアジアを訪問した際の最大の関心事は、非常に小さくて貧しい北朝鮮により占められていた
- 米国が第二次世界大戦直後から冷戦期を通じて朝鮮半島に関わり、朝鮮戦争で37,000人もの人名を犠牲にした理由は、中国以外の共産化を見たくなかったからだ
- しかし状況は変化し、朝鮮半島の地政学的重要性は、救いのない南朝鮮に米国がコミットする必要性とともに失われた
…というものです(※なお、日本語の表現と異なり、一般的に英語では韓国のことを「南朝鮮(South Korea)」と呼びます。私は英語の記事を訳出する際に、とくに断りなく「南朝鮮」という表現を使うことがありますので、ご了承ください)。
記事の要諦は「外交も米国第一主義」
この「衝撃的な記事」を執筆したのはダグ・バンドウ(Doug Bandow)氏で、ロナルド・レーガン政権下で「特別補佐官」を務めた経歴があり、また、いくつかの著書もお持ちです(詳しくは以下の経歴原文をご参照ください)。
Doug Bandow is a senior fellow at the Cato Institute. He is a former special assistant to President Ronald Reagan and the author of several books, including Foreign Follies: America’s New Global Empire.
バンドウ氏は現在のトランプ政権について、「批判すべきところも多々あるが、米国第一主義のもとでもっと効率的な外交を目指すという姿勢は正しい」と述べます。そして、
A good place to start shifting course is the region home to the world’s newest and least responsible nuclear power.(世界で最も新しく、また、最も無責任な核保有国にどう対処するかについては、外交方針を切り替えるには一番良い機会だ。)
と喝破します。まことに僭越ながら、私は以前、自分自身が申し上げた「北朝鮮危機は日本にとっても危機であると同時にチャンスだ」という主張を思い出してしまいました。それはともかくとして、バンドウ氏は米国が朝鮮半島に「こだわってきた理由」について、長年、「米国が朝鮮半島から撤退してしまうと、ソ連と対峙する欧州にとっても米国のコミットメントに対する信頼が揺らぐ」とする俗説が信じられていたからだ、と指摘します。ただ、バンドウ氏は同時に、
The continued presence of U.S. forces, by contrast, virtually guarantees the spread of conflict.(実際には、米軍がそこに存在し続けることは、むしろ争いの可能性が拡大することに繋がっている。)
と述べ、「コミットメント理論」を批判。そのうえで、南北朝鮮の経済格差が増大していることや、それに伴い南北朝鮮の兵力差も圧倒的な状況となっていることなどを指摘して、米国が韓国に存在し続ける必要性も薄れていると主張します。
(余談ですが、韓国が北朝鮮と比べて圧倒的な経済力を有していること自体は事実だとしても、韓国が自力で国を守る意思を持っていないという点を、バンドウ氏は知ってか知らずか、あえて無視しているような気がするのですが、ここでは敢えてその点に触れないこととしましょう。)
韓国の「無責任」を批判するバンドウ氏
では、なぜ米国はいまだに朝鮮半島に居座っているのでしょうか?
バンドウ氏はロバート・E・マッコイ氏(※米空軍で韓国語専門家として勤務したこともあるアナリスト)による「米国が無知であったため、第二次世界大戦後に朝鮮半島を分断させたことに対し、道義的責任を感じているためである」とする議論を引用。冷戦中に米軍が朝鮮半島に駐留していたことで、韓国が北朝鮮に統合されるという最悪の状態を防ぐことができたのは事実だとします。
しかし、バンドウ氏に言わせれば、これは「結果論」に過ぎず、米軍が莫大な駐留経費を使ってまで朝鮮半島を守る必然性など、もはや失われていると主張します。なぜなら、「自国民を守るのはその国の政府の最も重要な義務」だからであり、韓国がその義務を果たしていないからです。
そして、韓国の無責任さを示す典型的な事例が「太陽政策」です。金大中(きん・だいちゅう)政権が採用したこの「太陽政策」では、北朝鮮に対して100億ドルもの支援がなされ、結果的にその支援が北朝鮮の核兵器やミサイルの開発につながったとしています。
もっとも、5月に選出される次の韓国大統領が「太陽政策」を復活させる場合、トランプ政権が韓国に対して「寛大であり続ける」とは限らないでしょうが…。
米国は「世界の警察官」ではない
私がこのFP誌のバンドウ氏の議論を読んでいて、もう一つ感じる点は、同氏がトランプ氏の主張する「米国第一主義」を「当たり前だ」と考えている、という点でしょう。バンドウ氏は
American soldiers shouldn’t be treated as defenders of the earth, deployed here, there, and everywhere.(米国の兵士は地球の防衛義務を負って世界のあらゆる場所に配備されていると考えるべきではない。)
と指摘します。こうした発想に立つならば、仮に米国が韓国を防衛するとすれば、それが「米国の国益に合致する場合」に限られます。この議論は、非常に当たり前ですね。
そして、議論はこう続きます。
South Korea’s prosperity is not one of those vital interests, at least in security terms. (中略)The cost would be high but fall primarily on the region. In contrast, direct U.S. involvement in another Korean War would be much more expensive than the Afghan and Iraqi conflicts(後略).(南朝鮮の繁栄自体は、少なくとも安全保障という観点からは、重要な利益とはいえない。南朝鮮防衛のコストは米国にとって高くつくが、その利益は米国にではなく、南朝鮮に帰属する。これと対照的に、米国が第二次朝鮮戦争の直接の当事者となれば、アフガンやイラクでの戦役と比べ、はるかに多くの人的・経済的負担となるであろう。)
この視点は、非常に大事です。私たち日本人からしても、うっかりすると見落としてしまいがちですが、米国が多大なコストを掛けて朝鮮半島に米軍を駐留させている理由は、それが米国の国益に合致する(と米国の政権が考えている)からであり、断じて「韓国に道義的な責任を感じているから」ではありません。
ということは、韓国に米軍を駐留させることが、①米国の国益に反してしまうか、②駐留経費負担が米国の国益に比べて大きくなり過ぎてしまうか、そのいずれかの場合に、米国は韓国から撤兵するでしょう(ただし、今回のバンドウ氏の議論では、米軍の韓国駐留と米国の国益の関係については明示されていませんが…)。
北の核抑止は米軍の駐留でなくても良い?
ところで、現時点で北朝鮮は原始的ながらも核兵器を保有しており、事実上の核武装に成功していることは間違いありません。問題は北朝鮮が保有する核兵器の破壊力と、北朝鮮がその運搬手段(ミサイル)をどの程度有しているか、という点です。
バンドウ氏は、こうした「北の核」が米国にとっては重大な脅威であるという事実を認めつつも、「だからといって米軍を朝鮮半島に駐留させる」という理由にはなっていないと述べます。そのうえで、具体的には
- 米国が本土から北朝鮮に照準を合わせて核攻撃を行うという「報復の理論」
- 韓国自体に核武装させること
という2つの選択肢が「あり得る」と述べます。ただし、バンドウ氏によると、中国は「核拡散競争」の結果、、日本が核武装に踏み切ることを恐れているため、中国が深く関与する形での朝鮮半島の非核化に期待を寄せています。
国益重視主義は米国も全く同じ
コストに合わない韓国防衛
私がこのバンドウ氏の議論を読んで痛感したことがあります。それは、「米国は米国の国益のために動くべきだ」とする「当たり前の主張」に説得力がある、ということです。
そして、ドナルド・トランプ米大統領が「米国第一主義」を掲げていることは事実ですが、別に、このことはトランプ政権になってから始まったものではありません。そういえば、「もはや米国は世界の警察官ではない」とは、トランプ氏ではなく、前任のバラク・オバマ大統領の発言でした。
ところで、米国が韓国を防衛することの米国にとっての「国益」とは、いったい何でしょうか?
たしかに冷静に考えてみると、米国が莫大なコストとリスクを抱えてまで韓国を防衛する意味は、よく分かりません。在韓米軍基地は米国にとって、重要な海外拠点であるとはいえません。米軍にとってむしろ重要な同盟国は、日本です。むしろ、非常に感情的で危険な民族である韓国・朝鮮民族と積極的に関わることの方が、米国にとってはリスクです。
つまり、私の見立てだと、米軍が朝鮮戦争で数万人の犠牲者を出したことで、米国にとっては韓国が「捨てるに捨てられない拠点」となってしまったのでしょう。そして、人間の心理学として、過去に莫大なコストを払った拠点を放棄するのは難しいものです。しかし、バンドウ氏の議論の通り、冷静に考えてみれば、米国が莫大なコストとリスクを抱えてまで朝鮮半島を防衛する「必要性」はありません。
「米国第一主義」を掲げるトランプ政権が、そんなシンプルな事実にいつまでも気付かないはずなどないでしょう。
自分の国は自力で防衛すべし!
もちろん、本日紹介したバンドウ氏の議論は、おそらく、現時点の米国内では「少数派」の意見でしょう。
ただ、「韓国に核武装させるべきだ」とする下りを除けば、私は同氏の議論に、だいたい同意できます。そして、「自分の国は自力で防衛すべきだ」とする指摘は、韓国に対してだけでなく、当然、日本に対してもあてはまります。
バンドウ氏は記事の末尾を、次のように締めくくっています。
The South is no longer a poor nation in need of protection from the specter of global communism but one more than capable of standing on its own two feet.(もはや南朝鮮は共産主義の脅威から保護されるべき世界の最貧国ではない。自らの二本足で立つ能力を持っている。)
さりげなく韓国に対する「上から目線」と侮蔑に溢れた文章だという印象を拭い去ることはできませんが、要は「自分の国は自分で防衛しろ」ということです。私たち日本は、一刻も早く、「自分たちの足で立つ」という決断をすべきでしょう。そのためにも憲法第9条第2項という「足枷」を自ら廃止しなければなりません。
そろそろ、そのことを真剣に議論したいものです。
View Comments (7)
読者の皆様
いつもご愛読ありがとうございます。
もしかすると今回、あるいは明日の記事以降、当ウェブサイトは著者の都合によりしばらく休刊するかもしれません。
もちろん、世界情勢は動いているため、更新できるようなら更新したいと思うのですが、とある事情があるため、こればかりは何とも分かりません。
もしウェブサイトの更新ができなかったとしてもご容赦下さいますよう何卒よろしくお願い申し上げます。
FPのこの記事、小生も読ませていただきました。どちらかというと保守寄りのFPの記事ですので「やはり、そろそろ来たか」というのが小生の感想でした。朝鮮戦争に従軍したベテランの方々の数が少なくなる今後は、この種の議論がもっと一般的になされてくると予想しています。
大方のアメリカ人の認識では、アメリカは北朝鮮ににらみを利かすために韓国に軍隊を置いているとしているかもしれません。
例によって見たくないものは見ませんし報道もしませんので
南朝鮮にとっては、まともな第三者のような「衝撃」は皆無でしょう
そんなことよりは展開する米艦隊が日本海表記か東海表記かが大事
国家存亡の危機でも慰安婦問題同意をどんな屁理屈で覆すかがもっと大事
THAAD報復のために激減した中国人観光客の代わりに
どうやってこのGWに日本人観光客に来てもらうかが当面の最大関心事
いつだって華麗に斜め上を逝く民族をなめんなよ
合わせて「責任」は常に他者にあるというのが朝鮮民族の思考回路
最後に勝った方に附くだけだから、頭をすくめていつも自分では動かない
事が終わったと確認できた時点で事大すればいいだけニダ
恥知らずだのなんだのそしられても、これが朝鮮人の生きる道
武勇を褒めたたえられてこれから死ぬやつ、ご苦労様スミダ
読者の皆様
いつもご愛読ありがとうございます。
私こと「新宿会計士」は、4月24日分の記事については執筆済みですが、それ以降の記事を書いておらず、こうした状況で専門書を一冊執筆しなければならなくなり、さらに本日、我が家に新生児が誕生したため、明後日以降の記事を更新することができないかもしれません。
何とか記事を投稿したいと思うのですが、万一、更新できなかった場合には、何卒ご容赦下さい。
引き続きご愛読賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。
ついでに申し上げますと、我が子は世界中で一番可愛い。これは世界の真理に違いないということを、私は本日実感した次第です。
あら(笑)
日本の人口が一人増えたわ
おめでとうございます
しばらく休刊かもとのことで、良からぬ事態も想像しましたが
公私ともども充実しているご様子、慶賀に耐えません
どうぞマイペース
黒猫のゴンタ 様
いつもご愛読ならびにコメントありがとうございます。
また、私の下らないコメントにもご返信を下さいましたこと、重ねて御礼申し上げます。
朝鮮半島情勢や欧州連合(EU)など、議論すべき題材は大量にあります。私用にて多忙となる見込みであるため、記事の分量は減少するかもしれませんが、その分、効率的に執筆して参りたいと思います。
引き続きご愛読賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
新宿会計士