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訪日観光客2000万人計画に「穴」はないのか?

先日、「年間の訪日旅客数が2000万人を超えた」という報道が出ていました。確かに、大勢の外国人観光客が日本を訪問してくれると、観光需要を喚起するなど、日本経済にとってはプラスの効果も大きいです。なにより、日本の「ファン」を世界中に増やすという効果もあります。ただ、内訳を分析してみると、ヨーロッパや北米などの「先進国」からの訪問客数も確かに増えているものの、入国者の「伸び」を牽引しているのは主に韓国と中国です。「訪日観光客4000万人構想」に、「落とし穴」はないのでしょうか?

訪日観光客2000万人時代

JNTO統計

日本政府観光局(JNTO)は昨日、「訪日外国人・出国日本人」に関する統計を作成し、公表しています。特に、2003年以降の日本を訪れた外国人に関する国別月次データはエクセルで提供されており、これを加工すれば、訪日観光客数の動向を見ることができます。

ただし、JNTOの統計はエクセルでシートごとに分かれていて、非常に統計処理し辛い代物ですので、私はこれを、一枚のシートに転記し、「エクセル2003」形式にして保存しております。もしよろしければ是非、ご活用ください。(ただし、このエクセルシートにより損害を被ったとしても、責任を負うことはできません。自己責任にてご活用ください。)

グラフ化してみた

現時点で公表されているJNTO統計は、9月分と10月分については速報値であり、また、全ての国について出そろっている訳ではありません。というわけで、確定値ベースでは8月分までしか利用できませんが、1月から8月までの累計値、および前年9月から当年8月までの累計値それぞれについてグラフ化すると、興味深いことがわかります(図表1~4)。

図表1 当年8月までの8か月間累計値の推移(単位:万人)
総数 韓国 中国 台湾 香港 アジアその他 その他
2003 336 100 27 48 18 34 110
2004 418 110 42 76 21 40 128
2005 455 119 43 89 20 43 141
2006 488 141 55 91 24 41 137
2007 551 175 64 94 29 47 143
2008 590 181 69 100 39 53 148
2009 441 104 66 68 29 44 130
2010 588 165 104 89 37 55 138
2011 394 113 65 64 22 39 92
2012 566 135 113 98 33 60 127
2013 686 178 84 146 49 82 147
2014 864 178 154 190 59 115 168
2015 1,288 255 335 247 99 150 201
2016 1,606 329 448 289 121 169 250
図表2 当年8月までの8か月間累計値のグラフ(単位:万人)

図表3 当年8月までの12か月間累計値の推移(単位:万人)
総数 韓国 中国 台湾 香港 アジアその他 その他
2003 336 100 27 48 18 34 110
2004 602 156 59 107 29 62 189
2005 651 167 63 120 29 65 206
2006 706 197 77 129 34 63 205
2007 796 246 90 134 40 72 215
2008 874 266 100 145 53 84 227
2009 685 162 96 108 46 73 201
2010 827 220 139 123 53 86 206
2011 667 192 103 102 36 74 162
2012 793 188 152 134 47 88 185
2013 957 248 113 195 64 119 217
2014 1,214 245 202 265 84 172 246
2015 1,765 353 421 340 133 225 292
2016 2,292 474 613 409 174 263 358
図表4 当年8月までの12か月間累計値のグラフ(単位:万人)

いかがでしょうか?

確かに訪日観光客は「激増」しています。あくまでも7月までのデータですが、2014年に1000万人を突破し、今年7月までの1年間で見ると、史上初めて2000万人の大台を難なくクリアしました。政府は訪日観光客目標をさらに上方修正し、東京五輪のある2020年には4000万人(!)もの観光客の招致を目指すそうです。

中韓両国で半数近く!

しかし、ここで問題が一つあります。それは、訪日観光客の出身地が、「特定の国」(特に中国と韓国)に偏り過ぎている、という点です。

同じデータを使って、各年の前年9月から当年8月までにおける「訪日観光客の出身国別割合」を、表とグラフにしてみましょう(図表5~6)。

図表5 訪日観光客の出身国割合
総数 韓国 中国 台湾 香港 アジアその他 その他
2003 100% 29.8% 8.2% 14.1% 5.3% 10.0% 32.6%
2004 100% 25.9% 9.8% 17.8% 4.8% 10.4% 31.3%
2005 100% 25.7% 9.6% 18.5% 4.5% 10.0% 31.6%
2006 100% 27.9% 10.9% 18.3% 4.8% 8.9% 29.1%
2007 100% 30.8% 11.3% 16.8% 5.0% 9.0% 27.0%
2008 100% 30.4% 11.4% 16.6% 6.1% 9.6% 25.9%
2009 100% 23.6% 14.0% 15.7% 6.7% 10.7% 29.3%
2010 100% 26.6% 16.8% 14.9% 6.4% 10.4% 24.9%
2011 100% 28.7% 15.4% 15.2% 5.4% 11.0% 24.3%
2012 100% 23.6% 19.2% 16.8% 6.0% 11.1% 23.3%
2013 100% 25.9% 11.9% 20.4% 6.7% 12.4% 22.7%
2014 100% 20.2% 16.6% 21.8% 6.9% 14.2% 20.2%
2015 100% 20.0% 23.9% 19.3% 7.5% 12.8% 16.6%
2016 100% 20.7% 26.8% 17.9% 7.6% 11.5% 15.6%
図表6 訪日観光客の比率推移

訪日観光客数に占める韓国出身者の割合は、データが存在する2003年以降、一貫して30%前後に達していましたが、近年ではむしろ、韓国人の比率は20%台に低下。それでも、人数で見ると、日本に入国する韓国人数は年間500万人の大台に乗せようとしています。そして、その韓国人を追い抜いて日本に入国する外国人でトップに立っているのは中国であり、直近数値で見ると、比率でも全体の25%を超えています。私のような「ひねくれ者」からすれば、「反日国」である中韓から、これほど大勢が日本に「押し寄せている」ことが理解し辛いような気もします。

もちろん、台湾や香港、あるいはそれ以外のアジア諸国など、「親日国」出身者の入国も増えていますし、欧米など「アジア以外」からの入国者数も300万人を超えるなど、「観光地」としての日本の魅力が高まっていることは素直に歓迎したいところではあります。しかし、「その他のアジア」、「アジア以外」が全体に占める比率で見ると、むしろ下がってしまっています。

日本の観光政策は一長一短

という訳で、訪日観光客数が激増したこと自体は素直に歓迎すべきことですが、その一方で、訪日観光客の出身国に偏りが生じていることは、日本の大きな課題でもあります。

ビザやホテルの問題は?

特に、中国人観光客が日本に「押し寄せている」ことは事実ですが、ここに多くの問題が含まれています。

観光ビザで満足できるのか?

まず、中国人の入国ビザの問題です。

基本的に中国人が日本に入国する場合には、「入国ビザ」が必要です。しかし、ビジネスマンでも知識人でも文化人でもない個人観光客が、いちいち日本国内の知り合いなどから「招聘」を受けるというのも、なかなか厄介です。そこで、中国国籍者が「観光目的で」日本に入国するための特例として、「中国団体観光・個人観光ビザ」という制度が設けられていま

外務省の「中国団体観光・個人観光ビザ」によると、現在、中国人に対して交付される「観光ビザ」は、次の4種類です(図表7)。

図表7 中国人に対する観光ビザ
区分 概要 備考
団体観光ビザ 中国の関連法令に基づく「団体観光」の形式をとり、滞在期間は15日以内 「団体観光ビザ」の場合、添乗員なしの自由行動は認められない
個人観光一次ビザ 団体観光の形式をとらない「一次ビザ」(ビザ一枚につき1回しか入国できないビザ)。滞在期間は15日または30日以内 事前に旅行日程を作成して中国の旅行会社を通じてビザを申請する
沖縄県数次ビザ/東北三県数次ビザ 1回目に沖縄県や東北三県で1泊以上するなどの要件を満たした場合に発給される、何度でも日本に入国できるビザ。有効期間3年、1回の滞在期間は30日以内 1回目の訪問のみ旅行会社を通じてビザを申請すれば2回目以降は旅行会社に旅行手配を依頼する必要はない。発給対象者は十分な経済力を有する者とその家族などに限られる
相当な高所得者用数次ビザ 有効期間5年、1回の滞在期間90日以内の数次ビザ 1回目だけ旅行会社を通じてビザを申請すれば2回目以降は旅行会社に旅行手配を依頼する必要はない

(【出所】外務省ウェブサイト

今年7月までの1年間で日本に入国した605万人もの中国人は、多くの場合、「団体観光ビザ」で日本に入国しているものと考えられます。しかし、その「団体旅行」を主宰するのはあくまでも中国国内の旅行会社です。

いわば、中国の旅行会社を「身元保証人」にすることで、中国人観光客が日本国内で「失踪」することを防ぐ仕組みですが、その反面、中国の旅行会社と「つるんだ」悪質なツアー・ガイドが、日本国内で中国人を相手に「ぼったくり」行為を行っているというニュースもあります(たとえば次の記事)。

日本旅行でぼったくられる中国人観光客 日本よ、もっとしっかり取り締まれ! =中国メディア(2016-05-04 10:37付 サーチナより)

いくつかの報道によると、悪質な場合は、たとえば

  • 日本旅行で「免税店」に連れていかれた中国人観光客がガイドなどの強引な「おすすめ」によって市価の数倍の値段で健康食品などを買わされる
  • 冷め切った料理を提供される

など、「おもてなし」と縁遠い行為がなされているようなのです。

もちろん、こうしたニュースが本当かどうか、現在のところ私自身に確かめる術はありません。しかし、仮に「中国本土の悪質な業者」と「日本の悪質な店舗」がタッグを組んでいたとすれば、このような行為が蔓延しても不思議ではありません。

民泊の取締りとホテルの整備は?

実は、私自身が新宿で暮らし、働いているという事情もあるのですが、私自身が居住するマンションに、どうやら外国人らからお金を取って宿泊させるという「民泊物件」があるようなのです。

民泊とは、旅館業法上の旅館・ホテルなどの営業許可を取らないで、違法に外国人らを宿泊させる行為であり、立派な法令違反です。もちろん、規制緩和に伴い、すでに一部の「特区」では限定的に民泊が解禁されていて、来年度からは法令改正により本格的に民泊が解禁されるようです。しかし、現時点で一般の人々が居住するマンションの一室に、不特定多数の外国人を宿泊させる行為は、明らかな違法行為でしょう。

また、私自身が東京以外の地域にお客様との契約を持っているため、時々、地方に出張に出かけるのですが、その際もここ数年、ビジネスホテルも満室になっていることが多く、確かにホテルを取り辛い状況が生じています。

万全ではない「訪日4000万人計画」

最近のJNTO統計からは、訪日観光客が増えていることは確実に言えるのですが、その一方で、観光客が特定国出身者に偏るとか、ホテルの整備が間に合わず、民泊で居住環境にトラブルが発生するとか、そいうったことが発生すると、明らかに本末転倒です。

特に、年間600万人という中国人観光客が、日本に来て「ぼったくりツアー」で嫌な思いをして帰っていく、といったことがあると、非常に困りものです。国交省などの当局は、旅行代理店のサービスが適正かどうかについて、きちんと監視すべきでしょう。

また、日本を訪問する観光客の多くが、「反日国」である中国と韓国の出身者で占められているというのも大きな問題でしょう。特に、博多港から出港する韓国行きの高速船では手荷物検査等がなされていないらしく、時々、日本国内からの盗品が朝鮮半島にわたっているという話も聞きます。

少なくとも観光行政とは、「観光客がたくさん日本にやって来て嬉しいな」、などという単純なものではないことは間違いありません。

新宿会計士: