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「日本は観光立国戦略の将来を葬るな」と中国のホンネ

中国による対日制裁措置があまりにもまったく効いていないためでしょうか、最近、中国から焦りにも似た反応が出てきているようです。こうしたなか、中国メディアが26日、日本に対し「観光立国戦略の将来を葬るべきではない」と主張する記事を掲載しました。「日本は困っていると言ってほしい」という本音が、思わずポロリと出てしまったのでしょうか?

無意味かつ逆効果の対日制裁

高市発言と中国の反応

日中関係の「悪化」という話題は、最近、当ウェブサイトでは頻繁に出てきますし、昨日の『外交青書で中国「格下げ」観測に中国報道官が強く反発』でも話題として取り上げたばかりです。

日本政府が2026年版の『外交青書』のなかで、中国については昨年の青書に含まれていた「最も重要な二国間関係の一つ」というくだりについて、「最も」を削って「重要な二国間関係の一つ」への「格下げ」を検討していると報じられた件で、「中国外交部報道官が強く反発し、改めて高市総理の台湾発言撤回を求めた」、とする記事を発見しました。「ヘソが茶を沸かす」とはこのことでしょうか。曲がり角の日中関係中国の対日制裁(?)は続く「日中関係が悪化している」、などといわれます。この点、著者個人としては「悪化」という表現は...
外交青書で中国「格下げ」観測に中国報道官が強く反発 - 新宿会計士の政治経済評論

著者自身、この「悪化」という単語を使いたくないと思っているという点や、中国が日本と基本的価値を共有しておらず、そもそもそんな国との経済的関係をわざわざ深めるべきでもないと考えている、といった「持論」については、該当する記事でご確認ください。

ただ、それよりも、本稿では「事実」をいくつか取り上げておきたいと思います。

まずは、現在の中国が日本に対し、何をやっているか、です。

ことの発端は、高市早苗総理大臣が昨年11月7日、衆院で岡田克也議員(当時)の質問に対し、台湾有事が日本にとっての「存立危機事態」となり得る、などと述べたことにあります。

これに反応したのが、薛剣(せつけん)駐大阪総領事で、発言の翌日の11月8日、Xに「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟ができているのか」などとポスト。批判殺到のためにポストを削除した、という騒動が生じました。

中国の制裁措置

ただ、これはあくまでも皮切りであり、これに留まらず、まさに非常識というレベルの対日非難が中国政府から日々発信され始め、あわせて中国がさまざまな制裁措置を講じ始めました。

中国が日本に講じている「制裁措置」
  • SNSを使い日本人を脅す
  • 日本向けの団体旅行の自粛
  • 日本製のアニメの上映延期
  • よくわからない会合の中止
  • ロックコンサート公演中止
  • 日本人歌手の歌中断→退場
  • 自衛隊機FCレーダー照射
  • パンダの貸与期限の不延長
  • 世界各国に向けた日本批判
  • 日本に対する輸出管理強化
  • 総領事へのアグレマン遅延
  • 日本の企業や団体への制裁
  • 経済会合に日本企業不参加

(【出所】報道等をもとに作成)

これらの措置、中国にとっては日本に対する一種の制裁措置のようなもので、想像するに、これらによって日本のメディアや国民が政府批判を強め、もって「退陣に追い込まれる」と危機感を持った高市内閣に発言を撤回させる、といった狙いがあったのではないかと推察します。

現実にはほとんど効いていない

しかし、非常に残念ながら、これらの措置はまったく逆の効果をもたらしました。

たとえば中国政府高官らのSNSを使った脅しについては、たとえばXで日本国民に対し日本語でさまざまなメッセージが発せられたものの、逆に日本国民はそれらのポストをおちょくるかのような内容を続々と投稿。『中共プロパガンダメーカー』などのサイトも出現しました。

結果的にXが一時、中国政府高官らをバカにする大喜利会場と化したのです(『ネット大喜利でオモチャにされおちょくられる中国政府』等参照)が、想像するに、これは中国政府高官らにとっては恐怖だったのではないでしょうか。

なにせ、自国内では人民に対し、Xなどの西側諸国のSNSへのアクセスを事実上禁止しているため、閉じられた空間で高圧的な態度しか取って来なかった連中が、自由・民主主義国の国民から集中砲火を浴びたのですから。

ただ、中国政府の「対抗策」とやらの悪手ぶりは、それだけではありません。

たとえば歌っている途中の日本人歌手の歌を強制的に止めて退場させた事件(『中国でセルフ経済制裁絶賛発動中』等参照)は、むしろ中国が文化の弾圧をする国であるという事実が世界中に広まったという効果をもたらしました。

また、自衛隊機に対する火器管制(FC)レーダー照射事件(『中国が自衛隊機にFCレーダー照射…しかも「2回」も』等参照)も、中国が「気に入らないことがあると軍事的挑発を仕掛けてくる大変℉危険な国である」という点を世界中の防衛当局者に改めて知らしめる効果がありました。

要するにセルフ制裁となっている

どちらも日本への対抗措置としての効果は極めて限定的であっただけでなく、これらは中国の異常性を嫌と言うほどに見せつけたという意味において、むしろ中国にとっての「セルフ制裁」として跳ね返っていっただけのことだった、というわけです。

さらには、日本企業にとって中国でのビジネス環境が急速に悪化しているという事実も見逃せません。

もともと、中国では数年前から、日本人(日本人ビジネスマンやその家族・子弟等)を対象に危害を加えるなどの行為が散発していたのですが、総領事に対するアグレマンの遅延や各種フォーラムからの締め出しなど、まるで現在の中国は「日本企業は中国から出ていけ」といわんばかりの対応に終始しているのです。

また、レアアース等の重要資源の対日輸出が制限されているという話題も良く耳にするようになっていますが、これも短期的に日本を困らせることはできても、中・長期的にはむしろ日本企業の脱中国を加速させることになります。

日本は現在、国を挙げて、南鳥島など海洋資源開発、都市鉱山などの資源再利用、豪州などからの資源の輸入といった努力を行っていて、これらについてはおそらく中・長期的にはいくつかが実を結ぶものと考えられます。

日本の脱中国は、もはや時間の問題なのです。

中国人旅客の減少と日本経済

団体旅行の自粛は日本経済に悪影響も

さて、こうした中国の対日措置のなかに、自国民に対する団体旅行の自粛があります。

この点については、短期的には日本経済にたしかにそれなりの損害をもたらす可能性は否定できません。

現在の日本にとってインバウンド産業はそれなりに規模が大きく、国土交通省の推計(『訪日外国人の消費動向 2024年年次報告書』等参照)で2024年実績だと推定訪日外国人旅行消費額は8兆1257億円にも達しているからです。

しかも、中国人がインバウンド客全体に占める割合は(香港と合わせると)通年平均で30%前後であり、中国人旅行客の訪日が激減すれば旅行収支の黒字に影響が生じることは避けられません。2024年における中国人の支出額は1兆6901億円、香港人の支出額は6598億円と、決して小さくありません。

極論をいえば、中国人(と香港人)が全員、日本旅行を自粛した場合は、最大で数兆円レベルの機会損失が生じる可能性があるわけですし、日本国内でも左派論客などを中心に、こうした経済損失を根拠に、高市総理に対し「台湾答弁」の撤回を求める声が上がったことも事実です。

(なお、現実には全国の観光地でオーバーツーリズム問題がある程度解消されている点を歓迎する声も出ているなど、中国の「ノージャパン」はむしろ歓迎すべきである、との視点もあるわけですが、この点についてはとりあえず脇に置きます。)

むしろ中国人以外の訪日者が増えている!

ただ、中国の対日旅行自粛措置などが広がってきていることは事実ですが、ここで興味深い現象を指摘しておく必要があります。

じつは、たしかに中国からの観光客は激減しているものの、2026年1月と2月の2ヵ月間については、訪日外国人総数が700万人を超え、前年同期比で見るとむしろ小幅プラスに転じているのです(図表)。

図表 訪日外国人・国籍別内訳(2026年1月~2月)
人数 構成割合 前年同期比
1位:韓国 2,262,400 32.03% +447,942(+24.69%)
2位:台湾 1,388,100 19.65% +287,323(+26.10%)
3位:中国 781,700 11.07% ▲921,744(▲54.11%)
4位:香港 433,900 6.14% ▲5,330(▲1.21%)
5位:米国 427,500 6.05% +53,450(+14.29%)
6位:豪州 247,700 3.51% +18,748(+8.19%)
7位:タイ 232,100 3.29% +18,492(+8.66%)
8位:フィリピン 150,900 2.14% +12,017(+8.65%)
9位:マレーシア 132,200 1.87% ▲7,662(▲5.48%)
10位:インドネシア 125,200 1.77% +14,944(+13.55%)
その他 882,500 12.49% +105,900(+13.64%)
総数 7,064,200 100.00% +24,080(+0.34%)

(【出所】日本政府観光局『訪日外客統計』データをもとに作成)

なんのことはない、中国人入国者が減る以上に、韓国、台湾、米国など「中国以外」の国々からの訪日客が増加しているだけの話です。

消費額がむしろ増えている可能性も!

さらに、先月の『中国人客が減った結果⇒決済額はむしろ前年同月比増加』などでも取り上げたとおり、三井住友の決済額データで2025年12月の消費額は前年同月比で16%上昇。国・地域別でみると中国客の消費が51%減ったものの、中国以外の国・地域からの訪日客の消費が伸びたのだそうです。

ちなみに内訳としてはフランス(+58%)、英国(+45%)、台湾(+38%)、米国(+31%)、韓国(+27%)、豪州(+22%)―――などとなっているほか、シンガポールやタイ、香港なども伸びており、さらに2019年の月平均を100とした場合の2025年12月の消費額は230だったのだそうです。

この点、日経記事では「中国人客はスマホ経由のQRコード決済なども多い」ため「カード決済額だけでは実態を把握しきれていない可能性はある」、「中国人客が多かった業種では減少が目立つなど業種別に濃淡はある」、といった指摘もありますので、注意は必要でしょう。

ただ、中国人観光客が激減しているからといって、必ずしも日本経済に打撃が生じているとは限らず、むしろオーバーツーリズム解消や中国人客がいなくなることによる単価の高い欧米人観光客増加など、日本にはプラスとなっている可能性すらある、といった点は、見過ごせません。

いずれにせよ、中国の対日「観光制裁」がさしたる効果を上げていない(というか、少なくとも中国政府が意図したであろう効果は生じていない)ことはほぼ間違いありません。

中国政府さん、ご心配に及ばず

こうしたなかで見つけたのが、こんな記事です。

観光立国の未来を自ら葬る日本

―――2026-03-26 10:45:00付 中国網日本語版より

記事が掲載された『中国網』(チャイナ・ネット)は中国政府ないし中国共産党系の機関が運営しているとみられるニューズ・サイトですが、その内容もまた強烈です。中国共産党系の記事は末尾の方に言いたいことが尽くされていることが多いのですが(私見)、同記事もその一種かもしれません。

記事では「実際に中国人客の大幅減に伴い、日本の百貨店や免税店の売上が大きく落ち込み、各地の商店でも客足が著しく減少した」、「日本の観光業全体は大きな圧力を受け、業界関係者から不満の声が上がっている」などと指摘。末尾でこう主張します。

  • 中日関係の悪化と中東情勢の動揺が重なり、日本の観光立国戦略には暗い影が差している
  • 日本が国際観光の長期的発展を本当に望むのであれば、観光ビジネス環境の改善に努めるだけでなく、政治・外交の面でも言動を慎み、他国(特にアジアの近隣諸国)から信頼を得る努力が求められる
  • これ以上、自ら観光立国戦略の将来を葬るべきではない

お言葉ですが、べつに中国政府から心配される話ではありません。

日本はすでに他国からの確固たる信頼を得ているからです。たとえば『アジアでの信頼獲得に失敗し日本に惨敗する中国の外交』でも取り上げたとおり、少なくとも日本はASEAN諸国からは深く信頼されています(あるいはASEAN諸国の多くは中国よりも日本を信頼しています)。

思わず本音がポロリ

ただ、それ以上に驚くのは、「これ以上、自ら観光立国戦略の将来を葬るべきではない」という表現に見られる「認知のゆがみ」でしょう。

中国人観光客が減っているのは事実ですが、それはべつに日本にとって悪い話ではありませんし、上述の通り、中国以外からの観光客などが中国人の減少をカバーしているという現実があります。

中国共産党としては、「中国の対日制裁で我々は困っている」と日本に言ってほしいのかもしれません。あるいは「日本がまったく困っていないのに困惑しているのはむしろ中国の方」であり、こうした本音が思わずポロリと出て来た、とでもいうべきでしょうか。

なにより中国を見ていて気付くのは「プランB」のなさであり、余裕のなさです。現在の中国は「日本から台湾発言の撤回を引き出す」以外の戦略が見当たらず、しかも日本に対して講じることができる措置も限られているため、かなりの焦りがあるのかもしれません。

いずれにせよ、中国政府の今後の言動には要注意、といったところでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (3)

  • 中国の関心を買い続けて、ライバルに差を付けてやる。
    日中国交回復後、日華断絶後の政治家・経済人・知識人・報道界のハラの内は一貫して共通でした。
    パンダは今や日本に居ません。令和8年はパンダフリージャパン、2026 年はパンダフリー時代です。見てください。立場が苦しくなっている業界、立場が不利になっているひとたちは揃って同じ穴のムジナではありませんか。

    • 一条龍企業の実態データが欲しいところです。当該企業だけでなくそこから怪しげなキックバックを受け取っていた人・団体も口には出せないが焦っていることでしょう。関係はないとは思いますが 最近のマスコミの焦りようもひどいものです。

    • サメだ、サメの海で泳ぐのだ。
      誰に飼ってもらって来たか、足元を焙られて(ひでぶ、あぶび)ゲロっているひとたちがたくさんいるようです。