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驕る戦勝国…高市総理こそ戦争を防ごうと努力している

慶應義塾大学の細谷雄一教授は『プレジデントオンライン』のインタビューで、第二次大戦の「戦勝国」であるはずの米中露3ヵ国が戦後秩序を崩し、攻撃的な姿勢を取っていると指摘しました。興味深い議論です。こうした視点から改めて安倍政権以降の日本を見ていると、FOIPをはじめ、戦争を防ぐための努力をしてきたことがわかります。いまの日本で最も戦争を止める努力をしている人物のひとりは高市早苗総理大臣その人でもあるのです。

FOIPと日本

FOIPに取り組む高市総理

先日から繰り返している通り、著者自身は高市早苗総理大臣という人物を、「100%無条件に信頼できる政治家」であるとは考えていません。

日本が税金・社会保険料を勤労者から奪い過ぎているにも関わらず、こうした状況を最優先で是正しようとしない時点で、日本経済を立て直すつもりがあるのか、非常に心配でもあるからです。

ただ、それと同時に、外交・安全保障面では、故・安倍晋三総理大臣の意向を継ぎ、いわゆる自由で開かれたインド太平洋(FOIP)を前面に打ち出し、国益を主眼に置いた動きを展開しようとしていることは間違いありません。

FOIPとは、いわば、自由主義、民主主義、法治主義(または「法の支配」)、人権といった、日本が大切にしている価値観を前面に押し出したうえで、それらの価値観を共有できる諸国と連携し、インド洋や太平洋を自由で開かれた空間する構想と位置付けられます(著者私見)。

FOIPは安倍総理の置き土産:源流は麻生総理

FOIP自体は提唱したのは安倍総理ですが、その源流は麻生太郎総理大臣が外相だった時代に提案した「自由と繁栄の弧」に求められます(著者私見)。

麻生総理(※当時は外相)が今から20年前の2006年にホテルオークラで行った講演会の内容については、現時点において、外務省ウェブサイトでまだ確認することができます。

「自由と繁栄の弧」をつくる

―――2006/11/30付 外務省HPより

麻生総理は講演で、「価値の外交」、「自由と繁栄の弧」という重要なふたつの用語を使っており、このうち「勝ちの外交」については、はっきりとこう述べています。

民主主義、自由、人権、法の支配、そして市場経済。そういう『普遍的価値』を、外交を進めるうえで大いに重視してまいりますというのが『価値の外交』であります」。

その後、2009年からは「悪夢のような」3年3ヵ月の民主党政権を経て、安倍総理が2012年に再登板した際には、麻生総理も副総理兼財相として安倍内閣に参画し、(想像ですが)安倍総理の「FOIP」にも大きな影響を与えたのではないかと思います。

その後、安倍総理が2020年、コロナ禍の最中に、持病の潰瘍性大腸炎の悪化に伴い菅義偉総理大臣に後事を託して辞任しましたが、このFOIPは日本の同盟国である米国ともビジョンが共有され、菅総理がジョー・バイデン米大統領(当時)らクアッド首脳との連携を進めるコアの考えとなったのです。

危ない米国:ベネズエラやイランの行動をどう見るか

正直、菅総理の後任の岸田文雄元首相や石破茂前首相がこのFOIPにさほど積極的だった様子はみられませんが(※著者私見)、高市総理は間違いなく、このFOIPに強くコミットしています。

そして、FOIPを中核として、基本的価値を共有する同士国、とりわけ米豪印3ヵ国とのクアッド連携を主軸としつつ、高市総理はG7諸国、あるいは英国やカナダ、イタリアなどの諸国との連携を強く模索しているようですし、(日本政府が正式に国交を持っていないにせよ)台湾との良好な関係も印象的です。

その意味では、現在の日本の外交は、日米同盟を基軸としつつも、米国に全部ベットするのではなく、たとえば「日豪関係」、「日印関係」、「日英関係」、「日伊関係」、「日加関係」―――、といった具合に関係を重層化することで、より安全保障上の地位を強固にしようとしていると考えて良いでしょう。

こうしたなかで注目しておきたいのが、現在の米国がなにかと危うい国である、という点です。

その典型例は、米国がベネズエラとイランの両国で相次いで行った軍事介入です。

たとえば米軍は1月3日、南米・ベネズエラの首都・カラカスで電撃的に軍事作戦を展開し、「大統領」であるニコラ・マドゥーロとその妻シリア・フローレスを拘束。続いて2月28日にはイスラエルとの共同作戦でイランの首都・テヘランを空爆し、最高指導者であるアヤトラ・アリー・ハメネイを排除しています。

両国ともに産油国であり(油質はまったく異なりますが)、また、中国との関係が深い国としても知られています。

一説によるとこれらの国は中国の通貨・人民元決済を推進していたとの話もありますが、いずれにせよ、米軍の狙いが中国の締め上げと人民元決済の排除にあったという可能性はしてきしておく価値があるでしょう。

中国とロシアも危うい

さて、「行動が危うい」という意味では、心配なのは米国だけではありません。

たとえばロシアは2022年2月に隣国・ウクライナへの軍事侵攻を開始し、早くも4年が経過しましたが、戦争は現在でも続いており、ウクライナ東部のドンバス地域などがロシアにより占領されるなど、戦線は膠着しているとされます。

また、中国に至っては、台湾侵攻の可能性を対外的に公言しており、極端な話、軍事侵攻がいつ始まってもおかしくはない状況でもあります。加えて最近は中国人民解放軍内部での粛清も伝えられるなど、情勢は不安定です。

このあたり、『納得の鈴置論考「日本も気を引き締めて国の舵取りを」』でも取り上げたとおり、「韓国観察者」である鈴置高史氏も、日本の周辺国である中国、韓国、北朝鮮が同時に「おかしくなっている」と指摘したことを強く意識せざるを得ません。

いずれにせよ、米中露3ヵ国に加え、日本の近隣でいえば南北朝鮮の動きが怪しい中ではありますが、しかし、安倍総理の遺産であるFOIPは、間違いなく日本の生存空間を広めます。

なぜなら、「普遍的価値」の旗印があれば、自由・民主主義国家群としてはその旗印の下に集結しやすくなりますし、同時に米国に対し、自由・民主主義国家群が暴走を強力に止めるブレーキとしても機能し得るからです。

とりわけ、日本がFOIPを強調するほどに、米国としても法の支配から著しく逸脱した行動を取ることが困難となります。

なぜ戦勝国は驕るのか

細谷教授のインタビュー記事が興味深い

これに関連し、非常に興味深いインタビュー記事がありました。

原因は「お金」でも「領土」でもない…米中露の「戦勝国」が国際ルール無視の戦争を起こして手に入れたい最終目標

―――2026/03/19 08:15付 Yahoo!ニュースより【プレジデントオンライン配信】

記事は、国際政治学者で慶應義塾大学法学部教授の細谷雄一氏が『危機の三十年』(新潮選書)の刊行を機に、ライターの梶原麻衣子氏がインタビューを行ったものですが、細谷氏は「なぜロシア、アメリカ、中国は暴れているのか」という点にを巡り、いずれも第二次世界大戦の戦勝国、という共通点を指摘します。

これについて梶原氏は「敗戦国・日本からすると、戦勝国として戦後秩序を形成する側にいた米中露が不満や反発を持つのはわがままにも思えてしまう」と疑問を差し挟みます。まっとうな疑問です。

しかし、これに対する細谷氏の回答は、むしろ戦勝国こそ、葛藤をもちやすい、というものです。

戦勝国は相応のコストや犠牲を払って戦争での勝利を勝ち得た以上、相応の対価を得てしかるべきだという国内からの突き上げ、ナショナリズムを抱えることになります」。

もちろん、戦争では(日独などの)「敗戦国」側も大きな犠牲を払っているはずですが、どうして戦勝国だけそうなるのでしょうか。

細谷氏によると、敗戦国では「なぜ負けたのか」を考えたうえで、「みずからのナショナリズムを相対化し、客観化」するのだそうです(いわれてみれば、日独では自国のナショナリズムを絶対的な正義とせず、相対化する傾向があるようにも思えます。ただし、これは著者の主観ですが…)。

しかし、戦勝国は、そういうわけにはいかないのだそうです。細谷氏はこう続けます。

米中露は第二次世界大戦に多大なコストをかけて勝ったのだから、相応の対価を得なければならないという意識を強く持っています。その驕りとも言うべき姿勢が、攻撃的な姿勢に転換していく。これが今の世界の問題の根源なのではないでしょうか」。

なんだか、興味深い仮説ですね。

中国やロシアについてはスッキリと説明がつく

実際に当てはめていると、こんな具合に、中国とロシアについてはスッキリと説明がつきます。

ウラジミル・プーチンの歴史認識に基づく主張

第二次大戦でソ連は2000万人以上の犠牲を払い勝利し、その対価として得たはずの「ソ連帝国」が、愚かな西側主義者のゴルバチョフのせいで崩壊し、米国の陰謀などにより帝国を切り取られてしまった。我々にはそれらを取り戻す権利がある。

ここ10年ほどの中国の認識

我々は対ファシズム戦争であった第二次世界大戦で多大な犠牲を払った戦勝国である。だからこそ1943年のカイロ宣言に沿って、戦後秩序において恣意的な役割を担う権利がある。

このプーチンの認識は、なぜロシアが数々の戦略的失敗にも関わらずウクライナ戦争を止められないのかというヒントが詰まっているようにも見えますし、また、中国がここ10年ほどで言い出した「1943年カイロ宣言」云々のくだりも、中国が台湾侵攻に拘る理由の一部を象徴しています。

そして、細谷氏によると中国は日本の台湾への関与を「日本の軍国主義」に絡めて批判しているのであり、「日本の軍国主義批判という歴史認識が先に来るのではなく、台湾の日本への接近を阻止するという政治目的が先に来る」のだとか。

そういうわけで、いくら日本が「軍国主義の復活などしていない」と反論したとしても「あまり意味はない」、というのが細谷氏の見解です。

日本に何ができるのか

ちなみに今回の細谷氏の記事では、例のXで流行した「ママ戦争止めてきて」のタグの話題も出てくるのですが、これについてはリンク先記事で直接ご確認下さい。

それよりも、ここではもうひとつ、インタビューワーである梶原氏の、「国内の世界観も分裂し、大国が国際秩序に背を向け、中東や欧州で衝突が起きている状況で、日本はどうすればいいのでしょうか」という質問について紹介しましょう。

細谷氏はこんな趣旨のことを述べます。

  • いまは「世界史の転換点」にあり、非常にかじ取りが難しい状況で、これまでのように「アメリカについて行けば大丈夫だ」という単純な分かりやすい時代ではなくなった。日本は自助努力が必要となる
  • 安倍政権がもう批判を受けながら成立させた2015年の平和安全法制もその一環であり、また、米国頼みから自助努力に移る過程でCPTPPを発足させ、QUADやFOIPを提唱してきたのもそのためである

…。

なんともスッキリとした説明です。

いわば、安倍政権以降の日本外交の立ち位置とは、「日米同盟には頼りながら米国が国際法や国際秩序を乱すことについては同調しない」、というものであり、それとともに「国際社会における法や規範を維持しミドルパワー諸国の連携を進めていく」という作業も求められる、というのが細谷氏の見解です。

これを細谷氏は「一部矛盾する二正面作戦」、「二重戦略」などと呼びつつ、この一部の矛盾を「可能な限り整合させていかなければならない」、というものです(ちなみに細谷氏はその具体例として、マドゥーロ拘束時に高市総理が出した声明が「この2つをうまく組み合わせたものだった」と指摘しています)。

なかなかに興味深い論考でしょう。

米レポートでは「中国は2027年までの侵攻の準備をせず」

さて、こうした文脈で、高市総理がさっそくに外交上の成果を上げたという可能性も指摘しておきましょう。

米国の国家情報長官室(Office of the Director of  National Intelligence)が現地時間の18日付で、『米国に対する脅威の年次評価書(2026年版)』を公表しました。

2026 Annual Threat Assessment of the U.S. Intelligence Community

―――2026/03/18付 Office of the Director of  National Intelligence ウェブサイトより

レポート自体は34ページもののPDFファイルですが、同22ページ目以降に、こんな趣旨の記述があるのです。

中台関係
  • 2026年においても、中国政府はおそらく、武力衝突を避けつつ、台湾との最終的な統一に向けた条件を整える努力を続けるだろう
  • 中国は必要に応じて武力行使による統一を強行すると脅迫しており、また、米国が台湾を利用して中国の台頭を阻害しようとしていると見なす動きに対抗する姿勢を示しているが、それでも可能であれば武力を用いずに統一を達成することを望んでいる
  • 人民解放軍も指示があれば武力を用いて統一を達成するための軍事計画と能力の開発を継続している

…。

そのうえで、中国政府が(中華人民共和国建国100周年を迎える)2049年までに「国家復興」という目標を達成するため、台湾との統一が不可避であると主張している、などと指摘するのです。

ただ、それ以上に目を引くのが、こんな趣旨の記述です。

「(当室としては)中国指導部が現在、2027年に台湾侵攻を実行する計画を立てておらず、統一達成のための明確な期限も設けていないと評価している」。

これは、なかなかに重要な指摘でしょう。

一部では中国が今すぐにでも台湾侵攻を敢行しかねない勢いだ、などと警告するむきもあるのですが、その具体的な計画についてはまだ立てられておらず、また、中国としてはできれば武力を使わずに台湾統一を成し遂げたいと考えている、ということだからです。

戦争を防ぐ努力をしているのは高市総理

こうした文脈で考えて行けば、高市総理の昨年の台湾発言も、結局のところ、中国による台湾侵攻の意欲を阻害するという意味では、発言自体に意味があったという可能性はあるのではないでしょうか?

もちろん、米レポートでは「高市発言が中国の台湾軍事侵攻の意図を挫いた」などと記載されているわけではありませんが、しかし、中国の高市発言に対する強い反発は、この発言が中国の台湾侵攻をためらわせるだけの重い意味合いが含まれていたという可能性を強く示唆するものでもあるのです。

こうした見立てが正しいかどうかはわかりません。

ただ、「#ママ戦争止めてきて」などとXでつぶやけば戦争が止まるほど国際政治が単純なものではないことは間違いなく、そしていまの日本で最も戦争を止める努力をしている人物のひとりは、「ママ」とやらではなく、じつは高市早苗総理大臣その人である、という点については指摘しておく必要があると思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (4)

  • ホワイトハウスで開かれた高市トランプ会談の動画が Youtube に上がっています。30分近くもあります。トランプ大統領、うれしそうだな。首相に随行しているのは『あの』外務省のやり手通訳氏、彼なんだか貫禄がついて来ました。

    同じ動画がホワイトハウス、Associated Press / Reuters / Fox News / New York Post などから投稿になっています。注目発言切り取り動画も別途あります。コメント欄が開放されているものには、好意的なコメントや敵対的なコメントが付いていますが、動画に付くコメントこそ有用な情報源、月並み取材活動では新聞記者が決して得ることのできない貴重なものです。ワシントン特派員はいつもどおり感想文や個人見解をあれこれを混ぜ込んで記事を日本に送り付けて来るに違いありませんが、この動画こそが会見の1次情報、記者の書いた記事を読む前に動画を観ろ。という時代にとうとうなったんですね。

    • この動画こそが会見の1次情報、記者の書いた記事を読む前に動画を観ろ。という時代にとうとうなったんですね。・・・・まさに時代は変わったと実感しました。

    • 新聞記事は読まないでいい。
      知りたいことがあるなら AI に聞いてまず要約をゲットしろ。
      詳しく知りたいならそう言ってみろ。

  • 毎度、ばかばかしいお話を。
    憲法9条信者:「我々こそが、祈りの力で戦争を防ごうと努力している」
    まさか。