テレビ業界を取り巻く「三重苦」とは、「視聴者離れ、広告主離れ、クリエイター離れ」のことであり、その兆候はすでにさまざまなデータから見て取れます。こうしたなかで、テレビ業界を巡って不思議な点があるとしたら、YouTubeなどネットプラットフォームを活用しようとしない点かもしれません。テレビ業界はこのまま、「放送で創ったIP(知的財産)を有したまま、二次利用することなく死蔵する」のでしょうか?
目次
テレビ業界「三重苦」…高齢者の娯楽と化すテレビ
以前から当ウェブサイトでしばしば取り上げている話題があるとしたら、それはテレビ業界を取り巻く「三重苦」です。
「三重苦」とは、すなわち、「視聴者離れ、広告主離れ、クリエイター離れ」のことであり、その兆候はすでにさまざまなデータから見て取れます。
たとえば視聴者離れに関しては、総務省『情報通信白書』に近年、ほぼ毎年掲載されているメディア利用時間に関する調査結果がわかりやすいでしょう(図表1)。
これによると、2013年時点の「平日のメディア利用時間」は、20代を除き、どの年代においてもテレビがネットを上回っていたほか、高齢層になればなるほどオールドメディア(※ここではTV、新聞、ラジオ)に接する時間が長かったことがわかります。
図表1-1 平日のメディア利用時間(2013年)
しかし、これが2024年になると、少なくともネット利用時間は50代までのすべての年代でテレビのそれと逆転します(※余談ですが、40代以下の層に限定すれば、オールドメディアすべての利用時間がネット利用時間を大きく下回ります)。
図表1-2 平日のメディア利用時間(2024年)
こうした調査結果からは、テレビが今や「高齢者のための娯楽」と化していて、若者・中年層からはほとんど相手にされなくなり始めているという実態が浮かんできます。これが「視聴者離れ」です。
広告費はネットの半分以下に!
ただ、テレビ業界を襲っている現象は、これだけではありません。
株式会社電通が毎年公表している『日本の広告費』というレポートによれば、テレビ広告費は2019年に初めてネット広告費に追い抜かれ、いまや2倍以上の差を付けられているのが実情です(図表2)。
図表2 広告費(ネットvsマスコミ4媒体)
ここまでの差がついてしまうと、短期的な挽回は難しいでしょう。
そして、民放テレビ局が広告費を前提としたビジネスモデルを採用しているなかで、広告費が伸びないどころかむしろ減少基調にあるという状況を踏まえると、もしビジネスモデルの転換に失敗した場合は、遠くない未来にこの業界が行き詰まる可能性が非常に高いということを強く示唆しているのです。
実際、一部の局はすでに「自社が所有している不動産物件の賃貸」などで稼ぐビジネスモデルに転換しつつあるようですし、こうしたテナント貸しできる優良不動産物件がない会社の場合は、これから際限のない消耗戦に突入していく可能性があるといえるでしょう。
クリエイター離れやアナウンサー退社ラッシュ
ただ、テレビ業界を襲う苦悩は、これだけではありません。
優秀なクリエイターなどが、それこそ櫛の歯が抜けるがごとく、テレビ業界を去りつつある、といった話題を目にすることが増えて来たからです。
数年前から『視聴者や広告に続きクリエイターもTVを見捨て始めた』や『無限スパイラルのTV業界を見限る優秀なクリエイター』などでも指摘してきたとおり、テレビ業界からは優秀なクリエイターなどが抜けて行き、NetflixなどのVOD業者に転職していくという現象が散見されています。
また、若いアナウンサーが退社してフリーに転向するという話題も後を絶たないのですが、こうしたなかで本稿で取り上げておきたいのが、こんな話題です。
フジテレビでアナウンサーの退社相次ぐ この1年で7人も…小澤陽子アナ&勝野健アナが退社報告
―――2026/03/12 09:51付 Yahoo!ニュースより【スポーツ報知配信】
フジアナ、1年で8人退職【一覧】
―――2026.03.12付 朝日新聞デジタル日本語版より【オリコンニュース配信】
『スポーツ報知』や『オリコンニュース』などが相次いで配信した記事によれば、フジテレビのアナウンサーの退職が相次いでおり、この1年に限定しても7人ないし8人が退職、などとあります。
人数がメディアによって違うのはカウント方法の違いなのだと思いますし、また、退職する理由も様々なのだと思いますが、いずれにせよ、結構な退社ラッシュです。ひと昔前だと、テレビ局という「安定した職場」を捨てるには、それなりの勇気が必要だったのではないでしょうか。
どうやって活路を見出すのか
では、三重苦に陥ったテレビ業界に活路を見出す方法はあるのでしょうか?
そのヒントがあるとしたら、『Yahoo!ニュース』が配信した、こんな記事かもしれません。
『with MUSIC』終了が突きつけること──YouTubeを使わないテレビ局のジレンマ
―――2026/03/13 5:35付 Yahoo!ニュースより
記事はジャーナリストで『Yahoo!ニュース』エキスパートの松谷創一郎氏が執筆したものですが、記事にもある通り、日本のテレビ局は外国のテレビ局などと比べ、ネット、たとえばYouTubeなどのプラットフォームを活用しない傾向がある、という指摘です。
記事の主題である音楽番組というジャンル自体に興味がある方は、リンク先記事を閲覧してください。
それはともかく、松谷氏が考える「なぜテレビ局はYouTubeを使わないのか」というテーマについては、「考えられる理由はおもにふたつある」のだそうです。
ひとつは放送収入(広告収入)が減ることへの懸念、もうひとつは権利処理スキームの未整備(番組に出演しているアーティストのパフォーマンスを個別に切り出して配信するための法的・契約的枠組みが整っていない、あるいはそのスキーム処理をするマンパワーの不足)、という可能性だそうです。
知的財産の有効活用ができるかどうか
松谷氏のこんな苦言は、テレビ業界に対する耳の痛い忠告ではないでしょうか。
「読み取れるのは典型的な『イノベーションのジレンマ』だ。従来のビジネスモデルを守るために新たなモデルを確立できず、従来モデルそのものが徐々に衰弱していく悪循環──日本の音楽番組はその泥沼に完全に陥っている」。
そのうえで松谷氏は、テレビ業界関係者の「スタイルを守り続ける」「代々携わってきたスタッフのこだわり」といった発言を、「実質的に思考停止の告白に等しい」と断じ、こう述べるのです。
「放送で創ったIP(知的財産)を有したまま、二次利用することなく死蔵する。全世界のプラットフォームになったYouTubeは眼前に広がっているにもかかわらず。それは、ドラマや映画がむかしからビデオや再放送で二次利用されてきた歴史を踏まえても、テレビ局の判断として理解に苦しむ」。
興味深い指摘と言わざるを得ないでしょう。
いずれにせよ、テレビ業界は視聴者数も広告も先細りであり、とくに報道番組などは、若い人からは相手にされなくなりつつあります。そんなテレビ業界にとって、活路を見出せる可能性があるならば、それは知的財産の活用ではないでしょうか。
音楽番組に限らず、たとえば子供向けのアニメ、戦隊モノ、大人向けのドラマ、それらの主題歌の楽曲などをコンテンツとして活用していくことができるかどうか―――。
それができるかどうかは知りませんが、それができなければテレビ業界に未来がない可能性が高い、ということに関しては、間違いないでしょう。
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素朴な疑問ですけど、テレビ局自体が知的財産をつくることが出来るのでしょうか。(テレビ局内部の知的財産をつくることが出来る人は、外部からヘッドハンティングされるのでは、ないでしょうか)
高齢者向けビジネスって、需要拡大間違い無しですよね。医療介護や一部娯楽なんかは絶対にそうなのですが。
しかし放送業者さんは実質的に「高齢者向け」に走ってしまっているわけですが、これって「今現在の高齢者」だけであって、将来の高齢者、つまり私達には全く向けていないのですよね。医療介護は誰もがいつかは通る道ですが、高齢者向け的TV番組を私が30年後に視聴したがるようになるとは到底思えない。IPをどうこうは、結局はリソースの有効活用の範疇、戦術の話です。根本的な戦略をどうにかしない限りはどうにもならない気がします。
さてIPといえば。
「SNK」というゲームブランドがあります(餓狼伝説、サムライスピリッツ等)。格闘ゲームブームに押されて、一時は現在に至るまで好調のCAPCOM(ストリートファイター、バイオハザード等)に並ぶようなかなりの隆盛を誇りましたが、経営の方向性の判断ミス等で没落、パチスロ大手の傘下に堕ち本来の強みを活かせぬ飼い殺し状態に陥りました。しかし過去に育てていたIPの人気は根強く、またIPを手放さず管理し続けており、なんとゲーマーであるサウジアラビア皇族に買われて、社名と近年過去IPの続編を復活するに至りました。実際にはキレイな話ばかりではないにせよ、「クリエイター」と「ファン」というものを考えると、中々に面白い話です。
今の高齢者にのみ向けられた放送業界にも同じことが起きるかというと……
高市政権の国家情報局創設・スパイ防止法法制化に向けて成功体験の放送で創った知的財産「飲み屋で愚痴も言えないムーブ」の再利用はキッチリ始めたようですね。
過去の間違った報道、正しかった報道。
それぞれ纏めれば、日本国民の財産になると思います。
広い意味での知的財産。
テレビ局の活路の一つが、知的財産であることに異論はありません。
しかし、現実には無理だろうと思います。
自分の見聞の範囲では、人権を最も軽視しているのがマスコミですが、知的財産を最も軽視しているのもマスコミです。タレントの出演契約は、古いものではDVDによる映像化の許諾を取っていないものあります。もちろん、ネット配信の許諾も取っていません。原作者との契約も、口約束の場合も多く、「誰が、どのようなビジネス形態について許諾をしているか」が分からないのです。契約時点で、将来どこまでビジネスを展開するか?を考えていなかったということでしょう。ネットの投稿を無断でニュースに使うのと同じで、「今が良ければ、将来どうなろうと構わない」と考えた結果だと思います。
つまり、「テレビ局が死蔵している」のではなく、「テレビ局は死蔵するしかない」のです。
ライブドアによるニッポン放送やフジテレビの買収で明らかになったように、素人でも経営できるのが、利権ビジネスの特徴です。テレビ局が、著作権の許諾の再取得という地味系の作業をやるとは、とても思えません。いざとなったら、普段は表面的な批判をしている権力にすり寄って、生き残りを図るのでしょう。
古いコンテンツにおいて権利者の許諾を得るのは難しいでしょうね。
いわゆる円盤化やネット配信など、コンテンツ制作当時には想定されていなかった媒体での発信を行うのは困難でしょう。
(一社)映像コンテンツ権利処理機構というところが、放送番組に出演された方々をさがしていて、先月にはNHKで放送された朝ドラや大河ドラマ、タイムスクープハンターシリーズの出演者の権利者を探す公告が出ていました。
また1977~1978年に放送されたNHK特集に登場した俳優、それも嵐寛寿郎という超ビッグネームについても権利者を探しているという状況です。
偶々昨日、お台場のテレコムセンターに行く用事があったのですが、近所にフジテレビのスタジオがある建屋がある事に気づき、あの目立つビル以外にも自社ビルがある様子なのに驚きました。
まだ大きな社有資産があるのであれば、危機感は意外に湧きにくいのかもしれません。
そういえば、TBSは緑山、テレビ朝日は若葉台、日本テレビは生田。各々別サイトをお持ちですね。まぁ同業他社さんも同じだし。と言うことなのかもしれません。