今日はひな祭りということもあり、選挙に関する話題を取り上げたいと思います。毎日新聞が2日の『東京夕刊』で、『選挙制度 勝手に変えてみた』などと題し、完全比例代表制なら「自民大敗、高市退陣?」、などとする記事を配信したようです。ただ、現在の小選挙区・比例代表並立制を前提とした得票数で完全比例代表制を論じているのだとしたら、やはり違和感を覚えます。選挙制度が変われば行動が変わるからです。政党も、有権者も。
目次
完全比例代表なら政権交代は起きたのか?
「選挙制度、勝手に変えてみた」=毎日
本日は3月3日、待ちに待ったひな祭りです。
そして、ひな祭りにふさわしい話題があるとしたら、それは選挙でしょう。
毎日新聞が2日、なんだか気になる記事を配信しました。
選挙制度 勝手に変えてみた 完全比例代表制なら「自民大敗、高市退陣」?
―――2026/03/02付 毎日新聞東京夕刊より
記事タイトル、および説明文を読む限りでは、おそらく、「仮に日本の衆院選の選挙制度が完全比例代表制なら、2月の選挙では自民党が敗北し、与党が過半数割れして高市総理が退陣していたに違いない」、といった内容であろうと考えられます。
(※残念ながら著者は毎日新聞を購読していないので、記事の全容についてはよくわかりませんが。)
そもそも前提を振り返る:中道改革連合の大敗と小選挙区
ただ、「数値ウォッチャー」としては、少し気になる内容です。
仮に毎日新聞が「勝手に変えてみた」とおり、仮に日本の選挙制度が完全比例代表制度だったとしたら、自民党が惨敗していたのか。
これについて考察する前に、前提として整理しておきたいのが、現在の衆院選は小選挙区と比例代表の並立制であり、とくに小選挙区に厚く議席が配分されている、という事実です。
そして、以前の『衆院選の実態は自民大躍進というより立民への退場勧告』でも述べたとおり、先月の衆院選は、「自民が圧勝した選挙だった」という側面とともに、「最大野党である中道改革連合(あるいは旧・立憲民主党)が盛大にズッコケた選挙だった」という側面があるというのが、著者自身の持論です。
衆院定数465議席のうち、小選挙区には6割を超える289議席が配分されていて、その小選挙区では得票数トップだった候補者が当選するため、必然的に、「少ない票数でもその選挙区内で1位になれば当選できる」という意味において、「勝者総取り」という性質があります。
このため、この「勝者総取り」が多くの死票を生むなど、選挙制度としては決して公平ではない、といった批判が、定期的に出てくるのです。
これを、今回の選挙における実際のデータでも見ておきましょう。
自民は選挙区で半分しか得票していないのに9割弱議席を獲得
先月の総選挙では、全国の小選挙区における有効投票総数5645万票のうち、自民党が得たのは2771万票(49.09%)で、これに中道改革連合の1221万票(21.63%)が続きます(残りは国民民主党7.52%、参政党6.95%、日本維新の会6.63%など)。
得票率でいえば、自民党は全体のギリギリ半数に満たないレベルです。
しかし、獲得議席に関しては、小選挙区289議席のうち、自民党は248議席、すなわち全体のじつに85.81%を占め、得票第2位だった中道改革連合は7議席と、なんと全体のたった2.42%しか議席を得られなかったのです。
というよりも、小選挙区で得た議席は、維新が20議席(全体の6.92%)、国民民主党が8議席(全体の2.77%)であり、中道改革連合の7議席は維新、国民両党よりもさらに少なかったのです。
すなわち、ここで問題点を指摘しておくと、少なくとも▼議席が得票と比例していないこと、▼議席と得票の逆転が生じていること、▼大量の死票が出ること―――の3つが挙げられます。
獲得した議席が得票と比例していない
自民党は49.09%の得票で全体の86%という議席を確保している一方、中道改革連合は21.63%の票を得たにも関わらず全体の2.42%の議席しか確保できなかった
獲得議席と得票が逆転している
小選挙区で日本維新の会は374万票しか得票できなかったのに20議席を確保できたのに対し、維新より多い票が多かった政党は、参政党は392万議票を得ていながら議席はゼロ、国民民主党は434万票を得ていながら8議席、中道改革連合は1221万票を得ていながら7議席と維新の議席を下回った
死票が非常に多い
勝者総取りという仕組み上、その小選挙区では落選した候補に投じられた票が結果的に死票となってしまう
小選挙区制度は廃止すべきなのか?
つまり、戦略的に候補を立てなければ自党候補に投じられた票が議席に結びつかず死票になってしまう、ということです。1221万票を得ていながら7議席しか獲得できなかった中道改革連合、392万票を得ていながら1議席も得られなかった参政党が典型例です。
これなど、維新はたった374万票で20議席を確保したという効率の良さはある意味で特筆すべきかもしれませんが、参政党は全国各地で候補を積極擁立したわりに小選挙区でまったく当選できなかったというのは、彼ら自身にも読み違えがあったのかもしれません。
いずれにせよ、小選挙区では議席が得票に比例せず、勝者総取りで死票が多く出るという点に特徴があります。
では、こうした制度は不公正だから廃止すべきなのでしょうか?
じつは、小選挙区制度を採用する国は世界にいくつか事例があり(たとえば英国や米国、カナダなどは単純小選挙区制だそうです)、とくに英国や米国では「二大政党制」で知られています(ただし、英国では近年、保守党・労働党の2党に加え自由民主党などが勢力を伸ばしているようですが)。
そして、これらのうちとくに英国などでも単純小選挙区制度に対する批判は根強いようですが、ただ、ここで重要な点は、小選挙区が諸外国にもみられる制度である、という点であり、死票の多さや票数・議席数の逆転は、これらの国でも観察される現象である、という点でしょう。
比例代表vs小選挙区
参院選の比例代表では得票に応じほぼ比例案分される
では、小選挙区に代替すべき制度とはいったい何なのかが問題となります。
一般には「死票の少なさ」という観点からは、比例代表(とくに政党名のみに投票する単純比例代表)が優れているとされ、これは日本でも取り入れられており、衆院ブロック比例は465議席のうち176議席が配分されているほか、参院(1回の改選124議席)のうち50議席が全国比例に配分されています。
そして、比例代表では、実際、その政党(またはその政党所属候補)が得た票と議席がかなり比例することが知られています。
とりわけ参院選だと、2025年の事例がわかりやすいでしょう。比例代表の有効票数5919万票に対し、自民党は1281万票と21.64%を獲得しましたが、議席は改選50議席のうち12議席と24%を獲得しており、得票率と議席占有率はほぼ近似しています。
同様に国民民主党は762万票・12.88%に対し議席は7議席、つまり14%であり、参政党は743万票・12.55%に対し議席は7議席・14%、立憲民主党は740万票・12.50%に対し7議席・14%と、やはり得票率と議席占有率が近似しているのです。
では衆院選の比例はどうなっているのか
そのついでに、冒頭で取り上げた毎日新聞の「完全比例代表」についても考えておきましょう。
毎日新聞が想定している「完全比例代表制度」がいかなる制度なのかはよくわかりませんが、ここでは便宜上、衆院選では小選挙区が廃止され、比例代表に一本化されたものと仮定します(議員定数は便宜上、176議席だったとします)。
ただ、こうした前提を置いたとしても、政権交代は生じません。自維両党で議員定数の過半数を維持するからです。
というか、少なくとも自民党が議席数で中道改革連合に抜かれるという可能性は非常に低いです。なぜなら、今回の比例代表でも、有効票数5726万票に対し、自民党は2103万票、つまり全体の36.72%を得ているからです。
これに対し最大野党の中道改革連合は1044万票、つまり全体の18.23%を得たに過ぎず、単純に考えて、得た票は自民党のだいたい半分以下です。実際の獲得議席は比例に配分された176議席のうち、自民党はその約38%にあたる67議席であり、中道改革連合は23.86%にあたる42議席を獲得しています。
しかも現実には自民党は候補者不足により全国で合計14議席を他党に譲ったため、この分を考慮すれば、本来の議席数は自民党81議席で約46%、中道改革連合は自民から譲り受けた6議席を除く36議席で全体の20%あまりに過ぎません。
いちおう、「自民党の議席は過半数に満たない」の部分はその通りですが、それでも比較第1党であることには変わりなく、しかも連立相手の日本維新の会が16議席(自民から譲られた2議席を除くと14議席)を得ているため、自維両党で97議席、つまり全体の54%を得ているので、与党で過半数は維持されます。
その意味で、毎日新聞が何を根拠に「高市総理退陣」と述べているかは気になるところかもしれませんが、もしどうしても気になるという方がいらっしゃれば、どうぞご自身で公立図書館に行くなりして確認してみてください。
なぜ比例に一本化しないのか…少数政党の乱立という論点
なお、参院全国比例、あるいは衆院比例の例からもわかるとおり、たしかに比例代表だと▼得票と議席の著しい不均衡、▼議席と得票の逆転、▼大量の死票―――といった問題は生じません。
だったら、日本も小選挙区をやめ、衆参ともにすべて比例代表に一本化すれば良いではないか―――。
単純に、そう思ってしまいます。
では、いったいなぜ比例代表に一本化しないのでしょうか。
あるいは単純比例代表制にしないまでも、なぜ極端な死票が出る小選挙区制度をそのまま継続するのでしょうか。
その理由のひとつは、おそらくは少数政党の乱立を防ぎつつ、有力政党間で政権交代が生じる仕組みを目指したからではないでしょうか。
そもそも比例代表の場合は少数政党が乱立しやすく(とりわけ参議院全国比例にはその傾向があります)、なんだかよくわからない新興政党が常に数議席を確保し続けている、という側面があります(なかには浜田聡・前参議院議員のような「人財」が含まれているケースもないではないですが)。
こうした少数政党乱立は、ともすれば「決められない政治」にも陥りかねません。
実際、ドイツなどいくつかの国では、比例代表を採用しつつも、最低得票要件(いわゆる足切り)を採用しており、たとえばドイツ連邦議会やフランス(欧州議会)などの場合は5%の足切り要件で少数政党が乱立することを阻止しているようです。
日本の小選挙区は二大政党制を目的にしていた
それに、わが国の小選挙区制度は、1993年に自民党が一時下野した際に、非自民連立政権が至上命題として掲げた政治改革の一環として導入されたもので、さまざまな狙いもあるなかで、その最も大きい目的のひとつが、「わが国にも二大政党制を根付かせる」というものだったのです。
小選挙区だと少数政党にとっては議席を確保することが難しく、必然的に大政党に集約され、英米のように有力な2つの政党が交代しながら政権を担う、といった姿が想定されていたのです(実際にこれで2009年には民主党への政権交代が発生しています。2012年に政権が再交代してしまいましたが…)。
これに加え、日本の小選挙区制度は比例代表並立制とされ、極端な死票が出る小選挙区制を多少修正しているという点にも注意が必要です。
先ほど確認したとおり、小選挙区制度は50%に満たない得票で9割近い議席をかっさらうこともあるなど、選挙結果がやや極端に振れる傾向があるのですが、比例代表と併用することで、その欠点を(完璧ではないにせよ)ある程度は緩和しているのです。
その典型例が比例重複立候補という仕組みでしょう。
衆院選では小選挙区と比例代表で重複立候補することが可能であり、最低得票要件を満たすことを条件に、惜敗率と名簿の順位に応じて比例復活当選ができる、という制度です(言葉は悪いですがいわゆる「比例ゾンビ」がこれに当たります)。
前提が変われば行動が変わる
こうした状況を踏まえると、日本の制度はなかなかに絶妙な仕組みです。
- 衆院側では定数465議席のうち、小選挙区に6割以上の議席を割り振ることで二大政党制を目指しつつも、4割弱をブロック制比例代表に割り振り、もって少数政党にもある程度配慮をする。
- 参院側では定数248議席のうち3年ごとに半数を改選することとし、124議席は一人区に32議席、全国比例に50議席、中選挙区に42議席を割り振ることで、少数政党に配慮する。
その結果、衆院側では「強い与党」が容易に生じるものの、参院側ではそこまで単純に話が進むわけではなく、たとえば政権与党が衆院側で圧倒的な議席を獲得しても、参院側では政権与党が過半数割れしていて、結果的に与党の「独裁」が阻止されることが多いのです。
(※なお、現在のように自民党が参院側で単独過半数を持っていないにもかかわらず、衆院側で単独3分の2超を占めてしまっている状況だと、やろうと思えば参院側を無視して衆院側だけですべての法律を通せてしまいますが…。)
いずれにせよ、こうしたさまざまな前提条件を無視して、「日本の選挙制度が単純な比例代表に置き換わったとしたらどうなるか」を論じても、正直、あまり大きな示唆は得られない気がしてなりません。
これに加えて日本の選挙制度が完全比例代表制を取る場合、政党も有権者もそれに合わせて行動しますので、たとえば自民党も「第一自民党」、「第二自民党」などに分裂してお互いに友党関係を結ぶかもしれませんし、自民党の補完勢力がいくつか出てくるかもしれません。
すなわち、選挙制度が変われば、選ばれる側の政党も選ぶ側の有権者も行動を変えますので、小選挙区・比例代表並立制のもとで行われた選挙結果のデータをそのまま使ってもあまり意味はありません。
それなのに、現実の得票数データをそのまま使って「もし日本の衆院選が完全比例代表だったら議席はこうなっていたに違いない/高市総理は退陣していた可能性がある」、といった議論をしても、正直、あまり有益ではない気がするのですが、いかがでしょうか?
View Comments (2)
比例代表は政党支持者が投票しているとは限らない
小選挙区であれば人物本位で投票するが、
どこかの政党が圧勝するのも嫌なので別の党に投票
そんな行動は一般的なのでは
私なら自民党候補にいれたら
比例は実質無害そうな共産党に
①選挙制度を合理的にしなければならない。
②ではこのような案はどうだろうか。
③おや、あれだけ大勝した高市自民が負けていた可能性すらある!
という論理立て、思考実験なら有意義かもしれませんけど。
①選挙結果が気に入らん。
②高市自民が負ける結果をどうにかして導き出せないか……
③お、これなら高市政権が負けるかも!!
すっげぇ無意味です。そしてマスコミ、というか左派がやることっちゃー大抵こういう思考順です。道理で考えずに都合で考える。ギャンブルに負ける人にも多いタイプですね。絶対に経済を任せてはいけない。