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米韓同盟巡り「共通の敵持たない同盟は脆弱」=鈴置氏

米軍のイラン攻撃の10日前、韓国と中国の間の黄海で、米中両軍の航空機が対峙するという事件があったのだそうです。そして、この事件を巡って、韓国観察者である鈴置高史氏の論考が冴えわたっています。事件に対する韓国の反応とその背景を丹念に掘り起こしていくと、結局は米韓同盟の最大の弱点である「共通の敵を持たない同盟の脆弱さ」に行きついてしまうからです。

外交関係は難しい?

著者にひとつ持論があるとしたら、それは「外交関係は人間関係の延長で論じることができる」、というものです。

外交などといわれると、たいていの人は「自分とは無関係な難しい世界の話」だと思うかもしれませんし、外務省と聞けば、なんだか難しい試験に合格した一握りのエリートが入れる特別な官庁、というイメージを持つ人もいるかもしれません。

さらにいえば、日本人の多くが外国語に苦手意識を持っているフシもあり、百戦錬磨の外国人外交官と英語で侃侃諤諤喧喧囂囂(かんかんがくがくけんけんごうごう)とやり合うなんて、別世界の話ではないかと思ってしまいそうです。

ただ、外交というものは、じつは私たち「外交の素人」レベルでも、十分に理解できるものです。

なぜなら、国家とは人の集合体だからです。

人が集まって国家を作っているわけですから、国家と国家の関係も、人と人の関係の延長で十分に理解が可能であり、そして、私たち国民レベルでの外交に対する理解は、時として自称・外交専門家である外務省などの役人のそれよりも、遥かに解像度が高いものだったりもするのです。

人付き合いはだいたい②に問題点が集約されている

では、人と人との関係は、どう考えるべきでしょうか。

親戚づきあいのような血縁に基づく関係を別とすれば、人間関係は究極的に2つの軸で決定されるはずです。

平たい言葉でいうと、その人が好きか嫌いかという「感情」と、その人と付き合う必要があるかどうかという「利害」という2つの軸で、4つの関係があり得ます。

人間関係の4類型
  • ①好きな相手であり、かつ、付き合う必要がある相手
  • ②嫌いな相手であり、かつ、付き合う必要がある相手
  • ③好きな相手であり、かつ、付き合う必要がない相手
  • ④嫌いな相手であり、かつ、付き合う必要がない相手

類型の1番目は、(あなたにとって)好きな相手であり、かつ、付き合う必要がある相手です。

あなたは何らかの理由でその相手と付き合っていかなければならないのですが(わかりやすい例でいえば会社の上司、同僚、部下、あるいはあなたが学生である場合は先生・教授など)、その相手が人間的に親しみやすく、あなたはその相手と一緒にいても苦痛でないばかりか楽しくなるという相手です。

会社に行くのが楽しみ、その上司と一緒に働くのが楽しみ、学校に行ってその教授の話を聞くのが楽しみ―――。

こういう相手ばかりだと、人生が楽しくなりますね。

ただ、残念ながら、人間関係はそこまで甘くありません。

なんとかの法則じゃないのですが、あなたにとってはたいていの場合、人生で2番目の類型のような相手と付き合っていかなければならないからです。わかりやすい例が、職場の嫌な上司、取引先の嫌な担当者、大学の嫌な教授、といったところでしょうか。

人間、生きていくにはカネを稼がねばなりませんから、嫌な相手が職場にいても、我慢してその相手と付き合わねばなりませんし、しかもその相手が上司だった場合は、あなたは勤務評定をその相手に握られてしまうわけですから、たまったものではありません。

このあたり、アマゾンのウェブサイトで「嫌な上司」などと入力すると、関連する書籍が山ほど出てきますが、それらの多くは上記②の類型の人間関係であり、①に関して論じている書籍はほとんどありません。それほどまでに人間関係への関心は高いのでしょう。

なお、上記③、つまり人間的に親しみが持てるものの、利害関係が消滅しているような相手というのは、たとえば退職した会社で昔お世話になった上司、卒業した大学でお世話になった恩師などがイメージしやすいと思います。これらの人間関係は生涯続くこともあり、旧交を温め合うのも人生を豊かにします。

一方、上記④、つまり人間的に仲良くなく、かつ、仲良くお付き合いする利害関係も消滅している場合は、多くの場合、人間関係自体が消滅します(片方がストーカー化して付きまとうなど、特殊なケースもないではありませんが…)。

つまり、人間関係について論じるべきは、①や③の相手をいかに増やすかも重要ではあるものの、やはり最も大事なのは②の相手との関係をいかにコントロールするか、といった論点でしょう(④については基本的に論じる必要すらありません)。

外交関係も基本的にはそれとよく似ている

こうした文脈で、外交についてもまったく同様に議論することができます。

といっても、「感情」という言葉ではなく、「価値観」ないし「基本的価値」という言葉を使うことが多いです。

さきほどは人間関係に4つの類型があるという話を持ち出したのですが、外交関係にも基本的に4つの類型があるはずです。

外交関係の4類型
  • ①基本的価値を共有して、かつ、付き合う必要がある相手国
  • ②基本的価値を共有せず、かつ、付き合う必要がある相手国
  • ③基本的価値を共有して、かつ、付き合う必要がない相手国
  • ④基本的価値を共有せず、かつ、付き合う必要がない相手国

ここで「基本的価値」は国家理念のようなものであり、日本の場合でいえば、「自由主義国である」、「民主主義国である」、「法治国家である」、「人権を尊重する国である」、「約束を守る国である」、「誠実に行動する国である」、「積極的平和主義国家である」、といったところでしょう。

とくに自由・民主主義の精神は、GHQの占領下で日本に導入された概念だという俗説を信じている人も多いのですが、じつは大日本帝国憲法、いや、明治天皇の五箇条の御誓文、いや、聖徳太子の憲法十七条などのなかですでにその骨格が示されていた、というのが著者自身の考え方でもあります。

一方で、困った無法国家が、中国、ロシア、北朝鮮など、日本の周囲に少なくとも合計4ヵ国ほどあります。

これらの国々は力で他国を侵略しても良いと勘違いしているほか、国際法、国際的な約束などは「強国」であればいつでも破って良い、などと考えているフシがあり、これら4ヵ国にほど近い私たち日本にとっては、大変迷惑な話です。

基本的価値を共有しない相手と戦略的利益を深めるな

実際、日本の外交青書でも、日本の近隣国・地域の中で「自由、民主主義、法の支配、人権といった基本的価値を共有している」と日本政府が認識している相手は台湾くらいであり、台湾以外の主要な近接国・地域に「基本的価値の共有」の文言はありません。

ということは、私たちの国・日本にとっては、台湾以外の近接国は基本的に基本的価値を共有していない相手国と考えられるのです。

ただ、基本的価値を共有していないからといって、完全に断交するのは難しいのも事実でしょう。

実際、近隣無法国家の中でも日本がほぼ完全に関係を断っている相手は北朝鮮くらいなもので、中国、ロシアなど3ヵ国とは、なんだかんだで何らかの関係を維持しています。

(樺太・千島を含む)日本列島や台湾を北米大陸の隣に持って行くことなどできませんし、国が引っ越すことはできない以上は、たとえ無法国家が相手であっても、何とか折り合いをつけて付き合っていかねばなりません。

当然、②のような、基本的価値を共有していない相手国との付き合いは最低限にとどめるべきだ、という論点もあります。

このうち、特に中国との関係についてはタイミングよく、今朝の『日本はピンチをチャンスに変える国…中国の制裁の結末』で論じたばかりですが、簡単にいえば、「中国との関係はすぐに清算することなどできないが、長い目で見たら中国との『死活的に重要な関係』は解消される」、というものです。

中国がレアアース等の戦略資源輸出を巡って複数の日本企業に制裁を発動するなど、日本に対し、圧力を強めています。そんな日本にとっては、中国依存を直ちにやめることが難しいのも実情です。ただ、石油ショックを省エネ技術開発で乗り切ったことからもわかるとおり、日本という国はピンチをチャンスに変えることが得意な国です。楽観は禁物ですが、たとえば深海資源開発や都市鉱山開発など、可能性がいくらでも広がっていることについては無視すべきではありません。高市総理は「持っている」人なのか高市早苗総理大臣が「持っている...
日本はピンチをチャンスに変える国…中国の制裁の結末 - 新宿会計士の政治経済評論

これについては株主説明責任の観点からも、日本企業にとってはすでに「脱中国」が既定路線となってしまった格好ですが、詳しくは該当する記事をご参照ください。

今回の鈴置論考は米中戦闘機の黄海上での対峙

さて、こうした流れで、どうしても紹介しておきたい論考があります。

米中の戦闘機が黄海上で対峙 「台湾侵攻なら北京空爆」と習近平を威嚇したトランプ 李在明は米国に八つ当たり

―――2026年03月02日付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より

「韓国観察者」と名乗る鈴置高史氏が昨日、米中戦闘機の黄海上での奇妙なニアミス事件について、非常に重要な論考を配信したのです。

(※余談ですが、鈴置氏のことを「韓国観察者」とカギカッコつきで紹介している理由は簡単で、鈴置論考を読めば韓国だけでなく、韓国という「鏡」に映り込んだ日本を間接的にウォッチすることにもなるからなのですが、この点において鈴置氏の正体は「日本観察者」ではないかという気がしてなりません。)

論考については原文をデイリー新潮ないし『Yahoo!ニュース』の配信記事でご確認いただきたいのですが(いつものごとく、読み始めるとぐいぐい引き込まれ、あっという間に読了してしまうことは間違いありません)、ここで注目しておきたい重要な記述がいくつかあります。

鈴置氏によるとこの事件は朝鮮半島の西側、すなわち中国沖合の黄海上で発生したもので、米空軍の10余機のF16が黄海上の中韓の防空識別圏の中間地点まで進入したところ、中国空軍機もスクランブル発進し、一時、米軍機と対峙した(ただし両軍機とも相手の防空識別圏に入りせず)、という事件です。

しかも、この事件が発生したのは2月18日であり、その10日後の28日には米軍がイスラエル軍との共同作戦でイランを空爆し、同国の最高指導者であるアヤトラ・アリー・ハメネイが死亡しています。

こうした状況に照らせば、今回の米軍機スクランブル事件も、「中国の台湾攻撃を許さない」という米国(や日本)による強いメッセージと見るべきでしょう。

「共通の敵を持たない同盟は脆弱」

ただ、鈴置氏の洞察の深いところは、韓国の反応を浮き彫りにしたところでしょう。李在明(り・ざいめい)政権がなんと米国と戦い始めた、と指摘するのです。その重要な点が、安圭伯(あん・けいはく)韓国国防相が米国のザビエル・ブランソン司令官に対し電話で抗議したとする指摘です。

李在明(イ・ジェミョン)政権はこの事件を機に、何と米国と戦い始めたのです。韓国各紙によると、2月19日、安圭伯(アン・ギュベク)国防部長官がブランソン司令官に対し、電話で抗議しました。『米中対峙の事態に陥るほどに在韓米軍機を中国の防空識別圏に接近させた』とまで明確に抗議したかは不明です。ただ、『演習内容を事前に知らせて欲しい』とは求めたようです」。

長年、鈴置論考を読んでいると見えてきますが、韓国は米国の同盟国という立場にありながらも、中国との対決を望まず、米中双方の間でバランス外交を展開してきたフシがあります。その韓国が今回の事件を受け、米国に対し、「自分の庭先で中国とケンカしないでくれ」と泣きついた格好です。

しかも鈴置氏によると、この電話抗議以降、韓国メディアは「ブランソン司令官は韓国に謝罪した」と報道し、さらに韓国国防部が「(謝罪報道は)一部事実と認識している」とコメントし、「米国が韓国に謝罪した」という形にしようとしたところ、在韓米軍司令部は2月24日深夜、これを完全に否定。

「有事への備えに謝罪などしない」などとする声明を出したことで、中国を最大の仮想敵に据える米国と、中国とは戦うつもりは一切ない韓国の間に「大きな亀裂が入った」(鈴置氏)というのです。

これについて、論考ではこう指摘します。

共通の敵を持たない同盟は脆弱」。

米韓同盟は寿命が尽きていました。それを何とか表面だけ繕ってきましたが、米中対立の激化で亀裂が一気に露呈したのです」。

「共通の敵を持たない」、というのは、「共通の利害がない」という意味だと置き換えると、先ほどの4類型でいうところの③か④の関係、ということです。

外交関係の4類型
  • ①基本的価値を共有して、かつ、付き合う必要がある相手国
  • ②基本的価値を共有せず、かつ、付き合う必要がある相手国
  • ③基本的価値を共有して、かつ、付き合う必要がない相手国
  • ④基本的価値を共有せず、かつ、付き合う必要がない相手国

米国と韓国は(というか韓国にとっての米国は)、長らくこの4類型でいうところの②ないしは①でした。

韓国が1980年代に民主化して以降はとくに、米国と自由・民主主義などの基本的価値を共有しており(と人々が思い込んでおり)、かつ、北朝鮮などの共通の敵がいたため、米韓同盟は(とくに韓国にとって)不可欠だったのです。

ところが、昨今は台湾情勢を受け、日米両国が台湾海峡防衛の必要性で一致する一方、中国を敵に回したくない韓国が、日米韓三ヵ国連携という「利害関係でのお付き合い」に乗らなくなっており、その亀裂が目立ってきたのです。

日本は台湾と基本的価値を共有している

ちなみに少しだけ余談です。

「基本的価値」の方に関しては、少なくとも日本は韓国を「基本的価値を共有する相手国」とはみなしていません。

石破茂・前首相の時代に刊行された『外交青書2025』でも、こう記載されています。

隣国である中国との関係は、日本にとって最も重要な二国間関係の一つであり、両国は緊密な経済関係や人的・文化的交流を有している」(P38)。

台湾は、日本にとって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値や原則を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人である」(P46)。

韓国は、国際社会における様々な課題への対応にパートナーとして協力していくべき重要な隣国である」(P56)。

故・安倍晋三総理大臣の時代、菅義偉総理大臣の時代、あるいは岸田文雄・元首相の時代などを通じて、日本は韓国を「価値と利益を共有するパートナー」から引き下げる一方で、台湾については「価値と利益を共有する重要なパートナーであり大切な友人」に格上げしてきたのです。

米国の同盟国である日本がすでに韓国を「価値を共有するパートナー」とみなしていないなかで、高市早苗総理大臣が李在明大統領といくらドラムを叩いたところで、日韓両国が価値同盟を築けるわけでもありません。

ここにきて米韓両国関係が行き詰まれば、いったいどうなるか。

日本という補助線は韓国にとって危険

鈴置論考に戻ると、こんな記述が目につきます。

『日本』という補助線は韓国にとって危険です。日本は中国から圧力をかけられても――いや、かけられるほど米国と肩を並べて戦う決意を固めていく。一方、韓国は肩を並べるどころか、米国の対中圧迫をしきりに邪魔する。韓国の裏切りが明白になります」。

まさにこの記述こそ、鈴置氏が「日本観察者」と呼ぶにふさわしい功績者であることを示しています。

高市内閣に防衛相として参加し、めきめきと覚醒(!?)した小泉進次郎氏が、ピーター・ブライアン・ヘグセス米戦争庁長官と一緒にトレーニングする様子をSNSに投稿するなど、日米同盟の強固さが演出されるなかで、日米同盟が日々、強固さを増しているからです。

いずれにせよ、日米という「基本的価値と戦略的利益を共有する同盟」が強固になればなるほど、どちらも共有しない米韓間の同盟が弱体化することは間違いなく、その意味では日米の次の課題は韓国という「ウィークポイント」にどう対処するか、ではないかと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (4)

  •  とはいえ、日本も中国とは正直戦いたくないでしょう。例え勝利したとしても、5つや8つに分裂して、それぞれが敵として立ちはだかる面倒な未来か、ニート化してお前らには俺達を養う責任があるとかいいだす、より面倒な未来のどちらかしかないのだから。
     新天地として火星に移住してくれるなら、全地球人でカンパして盛大に見送りたいところなんだが。

  • 黄海行動はイラン空爆攻撃開始に先立って牽制球を投げ込む目的があったんですね。合点が行きました。将来もっと踏み込む意欲満天なところを見せた、韓国軍抜きで。

    大紀元系日本語動画がアメリカにイラン攻撃ができるはずがないと中国人が舐め切った発言をしている特集を視聴しました。イラン在住中国人が緊急帰国しようと殺到したが航空券が買えない。自分たちが標的になっていないのに血相を変える理由は、イラン政府とグルになって国民を苦しめて来た、それを十分わかっているからだそうです。イラン政府が崩壊したら恨みをためた現地人たちに自分たちがやられると。

  • 例の東を上にした極東地図で示す様に、米軍は対中戦略において在韓米軍基地の物理的位置の価値を認めているので米韓関係がどうなろうと撤退する事は無く、それ以外の「下駄に付く雪」対策と北朝鮮暴発防止という課題には強面対応するのだと推察します。

  • イランの核施設で韓国経由のフッ化水素が見つかったそうです。本当に岸田元総理はろくでもない事しかしなかった。