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レアアースカード手放した中国…残るはパンダカードか

中国のレアアース外交がここに来て盛大に行き詰まり始めています。日本が南鳥島海域でのレアアース泥採取システムの接続実験に成功した話題に加え、米国が4日に主催した国際会合で、重要鉱物に関する最低価格の取り決めなどが提案され、EU、日本、メキシコがこれに合意したとする話題も出て来たからです。最低価格制度は中国のダンピング戦略に対抗するもので、これにより脱中国がさらに加速していく可能性があります。

レアアースとレアメタル

中国といえばレアアース(希土類)、でしょう。

当ウェブサイトで連日のように取り上げているとおり、レアアース(希土類)については、中国が世界シェアの多くを握っていることが多いものの、中国が経済を政治利用する国であるという事実を踏まえると、レアアースの中国依存からの脱却は世界的な課題です。

一般にレアアースは17種類の元素(※1)を指し、磁石、発光材料、触媒などに使われます(【出所】元素の種類については経産省『レアーアース対策』など、希土類の使途については株式会社三和鍍金ウェブサイト『メッキライブラリ』等参照)。

一方で、レアメタルは一般にレアアースよりも広い概念で、レアアースに加えて「リチウムやコバルト、ニッケルなど、電子機器やエネルギー関連の技術に用いられる様々な非鉄金属」(※出所は『メッキライブラリ』等)から構成され、31種類(※2、うち1つはレアアース=希土類)から構成されているそうです。

※1 レアアース17種

スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム

※2 レアメタル31種

リチウム、ベリリウム、ホウ素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ゲルマニウム、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、パラジウム、インジウム、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、白金、タリウム、ビスマスの30種と上記レアアース

中国の対日措置の一覧

これらの素材、コスト競争力の観点から、一説によると最も多い時期には中国産が世界生産の9割以上のシェアを占めていたとのことですが、それと同時に過度な中国依存が主要国にとっての大きな課題であることも間違いありません。

とりわけ、高市早苗総理大臣が昨年11月7日、国会で台湾有事が日本にとっての存立危機事態となり得るとする趣旨の答弁を行ったことを受けて中国が激高し、さまざまな「対抗措置」を講じてきていることについては、読者の皆さまもご承知の通りでしょう。

中国が切ってきた対抗措置の「カード」
  • Xを使った日本人への脅し
  • 日本向けの団体旅行の自粛
  • 日本製のアニメの上映延期
  • よくわからない会合の中止
  • ロックコンサート公演中止
  • 日本人歌手の歌中断→退場
  • 自衛隊にFCレーダー照射
  • パンダの貸与期限の不延長
  • 北京の各国大使に日本批判
  • 日本に対する輸出管理強化
  • 総領事へのアグレマン遅延

(【出所】報道等をもとに作成)

これらが日本に対する脅しとなっているのかどうかは、とりあえず議論しません。

(どうでも良いですが「Xを使った日本人への脅し」に関しては、『中共プロパガンダジェネレーター』という便利なツールがあって、中国政府をおちょくる画像を作ることができてそこそこ楽しめますが、よい子は決してこんな風に中国政府高官のポストにリプライして遊んだりしないようお願いします。)

南鳥島レアアース泥にイチャモンを付ける人たち

ただ、これらの措置のうち、少なくともレアアースの輸出制限については、日本にとってはそこそこ困る措置であることは間違いありません。現実問題、中国産のレアアースがなければ作れない製品もあるからです。

だからこそ、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が先月から取り組んでいる、南鳥島EEZ水深約6000メートルからのレアアース泥採取の実証研究には、大変に大きな意義があると考えるのが妥当でしょう。

南鳥島EEZ海域でのレアアース泥採鉱システム接続試験の状況について(速報)

―――2026.02.02付 JAMSTECウェブサイトより

ただ、面白いもので、日本が自前資源開発を行うのが気に入らないのでしょうか、Xなどでは最近、こんな趣旨の「寝言」を述べる者も出現しているようです(発言者を晒す意図はないので、引用にあたって文言はわざと変えてあります)。

  • レアアース泥を深海から引き上げることに成功しても、コスト的には中国産にはかなわない
  • 中国といたずらに対立するのではなく、中国が日本へのレアアース輸出制限をし辛いような関係を構築していく方が現実的だ
  • そのような関係は日中2国間だけでなく、多国間の外交の中で築いていくべきだ

…。

なぜ中国がレアアースシェアを拡大してきたのか

正直、産業にあまりお詳しくないようなので申し上げておくと、レアアースはそもそも「レア」なものではありません。ただ採取・製錬するのにコストがかかるというだけの話であり、レアアース自体は地球上の多くの地点に存在しています。

中国がレアアースなどの輸出に強みを持っている理由は、中国がレアアースの採取・製錬に係る諸々のコスト(物量、価格、納期、環境、人権など)を無視あるいは度外視し、これらの品目の安定した供給源を演じて来たからです。

それに、南鳥島を含めた新たなレアアース資源の開発にコストがかかることは事実ですが、そもそもレアアースの多くは製品に使用される量自体が僅少であり、多少コストが上昇したところで、製品価格自体にはほとんど転嫁されません。

また、コスト削減や使用量削減、資源リサイクルなどは日本のお家芸のようなものであり、(過度な楽観は禁物であるにせよ)現時点で中国のレアアース規制は、日本の産業を崩壊させるというレベルのインパクトをもたらすものでは到底ありません。

(というか、日本の産業など、数種類の品目が手に入らなくなったくらいで崩壊するほどヤワなレベルではありません。レアアース制限くらいで日本が崩壊するとかおっしゃっている方は、ちょっと日本を見くびり過ぎでしょう。)

いずれにせよ、日本も今まで通り、中国から安価に製品の輸入が続けられるのが一番良いのかもしれませんが、残念ながらさまざまな前提条件が変わってしまっているため、ものごとはそこまで単純でもありません。中国製品がなければないで問題ないサプライチェーンを再構築する好機でもあるからです。

中国への依存品目をひとつ、またひとつと減らしていくことで、経済安全保障が着実に強化されますし、また、どの品目を中国に依存しているかという棚卸を、日本が国を挙げて取り組む機会ともなります。

その意味では、中国の対日制裁が本当に「制裁」の体をなしていたのかは疑問でもあるのです。

米国が最低価格制度を提案:日欧墨などが同意

ただ、今回の中国の対日制裁措置が悪手中の悪手だったというのは、この論点に限りません。

ブルームバーグの報道によれば、ドナルド・J・トランプ米政権は4日、55ヵ国を招いた「重要鉱物に関する会議」を主宰し、最低価格の設定と米国の民間資本の流入促進を提案。これに欧州連合(EU)、日本、メキシコが合意したほか、各国は重要鉱物に関する拘束力のある多国間協定締結に取り組むとしています。

米国、重要鉱物の最低価格設定に向け日本やEUと合意-55カ国招き会議

―――2026年2月5日 at 3:23 JST付 Bloombergより

「最低価格」といわれてもピンとこない人も多いかもしれませんが、これはおそらく、重要鉱物に最低価格を設定することで中国のダンピングを排除する狙いがあるのでしょう。

先ほどから指摘している通り、中国は諸々のコスト(物量、価格、納期、環境、人権など)を無視し、破格の安値で世界にこれらを供給することで世界シェアを握ってきたという側面があるため、これらに最低価格を設けることによってこうした中国のダンピング戦略を封殺する効果が期待できます。

記事ではほかにも、米国と欧州連合(EU)が「重要鉱物のサプライチェーンの安全性を高めることを目的とした覚書」を30日以内に交わす予定だと紹介しているほか、米政府が米企業を支援する取り組みとして、公的融資などを含めた総額約120億ドル規模の「重要鉱物備蓄計画」も発表した、などとあります。

中国はレアアースカードを自分で投げ捨てた!

ただ、それ以上に興味深いのが、こんなくだりでしょう。

鉱物資源分野での中国依存からの脱却は、米国の長年の目標だったが、中国政府が昨年、レアアース(希土類)の輸出規制を発表したことで、その緊急性は高まっている」。

要するに、米国も脱中国が国家的課題、ということであり、いわば中国がレアアースの輸出規制の強化を打ち出したことで、世界はむしろ一致団結して脱中国に向けて動き始めてしまった、というわけです。

これ、面白いと思いませんか?

外交カードだと思ってそれを切ったつもりが、じつはそれが外交カードでも何でもなく、結果的にそれをドブに捨てたのとまったく同じだからです。あるいは、中国がみずから進んで貴重な手札を捨てて行っている、という言い方の方が正確でしょうか?

もちろん、くどいようですが、中国の輸出制限措置がもし発動された場合、日本を筆頭に、サプライチェーンの短期的な混乱は避けられませんが、ただ、こうしたサプライチェーンの混乱を懸念する諸国が団結し、一致して最低価格制度などの対策を打ち、脱中国に向けて取り組み始めたわけです。

その意味では、中国の経済制裁は、まさに「セルフ経済制裁」のようなものであり、また、結果的に日本の脱中国を加速させることになるだけでなく、日本が主導して米国、EU、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、インド、豪州、メキシコなど広範囲な諸国が団結する契機を作ってしまった格好です。

そうなると、いま中国に残されている外交カードは、レアアース以外にはせいぜいパンダくらいでしょうか。

手詰まりになった中国が暴発し、台湾海峡危機が思っていたよりも早く訪れるリスクについては警戒が必要ですが、ただ、中国という共通の敵の前に日台両国の結束は強まっていますし、また、高市早苗政権の誕生とともに、日米同盟のさらなる強化が期待されることは間違いありません。

その意味では、レアアースカードを捨ててパンダカードだけで中国がどうやって外交を展開していくのかについては興味深いところです(そのパンダカードですら、日本に対してはすでに切ってしまったのですが…)。

新宿会計士:

View Comments (3)

  • パンダに会いたければ台北行きの飛行機に乗れ。
    台湾は堂々パンダツアーリズムで商売せよ。と、商売っけ満点の皮肉が飛びそうです。

  • レアアース禁輸がカードにならないというのは 先端半導体の対中輸出禁止と同じで かえって中国を半導体開発能力強化に向かわせるのと同じような気がする。

    • それは織り込み済みなんじゃないですかね。
      千日手ってちゅうくらいで一手差せば相手がまた何かやるのは明白。一番腹立たしいのは蝙蝠戦術常習犯な某国がいっちょがみをしてくることでしょう。それも織り込み済みかと。