「政治家の本職は法律を作ること」。「政治家にとっての資質は志(こころざし)と実務能力」。こうした考え方に立てば、議員としての地位、あるいは最大野党としての地位を守るための、ともすれば基本的な政策を丸ごと変更してでも新党に合流しようとする行動には、大いなる違和感を覚えるのではないでしょうか。SNSで観察される嫌悪感の正体とは、人々が抱くこうした違和感なのかもしれません。
目次
政治家の本職は法律を作ること
先日の『「立民+公明」の新党が政策に先立ち党名とロゴ公表か』では、「国会議員の本職とはなにか」という議論を展開しました。これは「国会議員は法律を作ることで自らの政策を実現することが本職である」とする著者自身の持論です。
改めて繰り返しておきますが、そもそも日本国憲法前文には、こう書かれています。
「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し<以下略>」。
つまり、国会議員の位置付けは、日本国民の代表として行動することであり、その本職は立法府の一員として法律を作ることに携わることです。また、日本は議院内閣制を採用しているため、行政府のトップである内閣総理大臣は国会議員でなければなりません。
したがって、国会議員は「数合わせ」なども重要ですが、やはり重要なのは、その議員が「国会議員」として、いったいいかなる法律を実現させようとしているか、いかなる政策を実現しようとしているかという「理念」ではないかと思うのです。
政治家に必要なのは志と実務能力
ということは、私たち国民が国会議員選挙でどの候補に投票しようかと判断する際、その候補者が政治家としての資質(とくに高度な実務能力を持っているかどうか)もさることながら、その候補者のビジョン、理想とする政策などの志(こころざし)が私たち有権者の求めるものと合致しているかどうかが大事です。
もちろん、100%合致する候補者はいないと考えられますが、それでも多くの有権者としては、「自身の考えと最も近い候補者」を選んでいるはずですし、その意味で、基本政策を大事にしない政治家は、少なくとも著者にとっては「信頼に値しない」と思います。
たとえば、「憲法をどうするのか」―――改憲を目指すのか、護憲を目指すのか―――などはその典型例でしょうし、ほかにも原発をどうするのか、財政政策をどうするのか、社会保障をどうするのか、といったテーマなども重要です。
「私は平和国家を目指したい」、「だから頑固に護憲派!」、といった主張を持っている有権者がいたとしたら、その有権者の主張に合致する政党や候補者を選ぶのが普通です。
これに対し、「そんなの、カビの生えたゴミのような主張だ」、などと考える人は、「頑固に平和」「ケンポー守れ!」などと主張している政治家には、間違っても投票しないでしょう。
このように、政治家にとってはたしかに実務能力も必要ではあるにせよ、「基本的な政策」、あるいは志(こころざし)は、その政治家や政党にとって、最も大切にすべきものであり、簡単に捨ててはならないものでもあるはずだ―――。
これが、本日の非常に大事な前提です。
衆院小選挙区は「最大政党総取り」の仕組み
今週金曜日に召集される通常国会の冒頭で、高市早苗総理大臣が衆議院を解散する件については、『「左翼新党」はSNSで不評?ますます読み辛い総選挙』などを含め、これまでに当ウェブサイトでも何度となく取り上げて来た点です。
これについて、読者の皆さまは、「衆議院議員総選挙とは政権選択選挙である」と思っていることでしょう。
世の中のメディア、あるいは政治家(高市総理その人も含む)も、常々、そのように述べているからです。
実際、現在の日本の衆院選挙制度は「小選挙区比例代表並立制」を採用しているため、とくに小選挙区では、比較第1党が圧倒的な議席を獲得しがちです。
実際、過去の選挙では、小選挙区における得票率は第1党がだいたい50%弱(自民党がズッコケた2024年を除く)、第2党が少ない時で20%少々、多い時だと40%前後で推移していました(図表1)。直感的に考えると、このくらいの得票差なら、議席数でも拮抗しそうなものです。
図表1 衆院選・獲得票数(選挙区)
| 選挙年 | 最大政党 | 第2政党 | 第3政党 |
| 2005 | 自民(32,518,390票・得票率47.77%) | 民主(24,804,787票・得票率36.44%) | 共産(4,937,375票・得票率7.25%) |
| 2009 | 民主(33,475,335票・得票率47.43%) | 自民(27,301,982票・得票率38.68%) | 共産(2,978,354票・得票率4.22%) |
| 2012 | 自民(25,643,309票・得票率43.01%) | 民主(13,598,774票・得票率22.81%) | 維新(6,942,354票・得票率11.64%) |
| 2014 | 自民(25,461,449票・得票率48.10%) | 民主(11,916,849票・得票率22.51%) | 共産(7,040,170票・得票率13.30%) |
| 2017 | 自民(26,500,777票・得票率47.82%) | 希望(11,437,602票・得票率20.64%) | 共産(4,998,932票・得票率9.02%) |
| 2021 | 自民(27,626,235票・得票率48.08%) | 立民(17,215,621票・得票率29.96%) | 維新(4,802,793票・得票率8.36%) |
| 2024 | 自民(20,867,762票・得票率38.46%) | 立民(15,740,860票・得票率29.01%) | 維新(6,048,104票・得票率11.15%) |
(【出所】総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査結果』データをもとに作成)
しかし、現実の獲得議席数を見てみると、(自民党が石破ショックでズッコケた2024年を除いて)第1党が小選挙区における全議席のざっと3分の2から、おおいときで8割近くを占めていたのです(図表2)。
図表2 衆院選・議席数(選挙区)
| 選挙年 | 最大政党 | 第2政党 | 第3政党 |
| 2005 | 自民(219議席・占有率73.00%) | 民主(52議席・占有率17.33%) | 無所(18議席・占有率6.00%) |
| 2009 | 民主(221議席・占有率73.67%) | 自民(64議席・占有率21.33%) | 無所(6議席・占有率2.00%) |
| 2012 | 自民(237議席・占有率79.00%) | 民主(27議席・占有率9.00%) | 維新(14議席・占有率4.67%) |
| 2014 | 自民(222議席・占有率75.25%) | 民主(38議席・占有率12.88%) | 維党(11議席・占有率3.73%) |
| 2017 | 自民(215議席・占有率74.39%) | 無所(26議席・占有率9.00%) | 希望(18議席・占有率6.23%) |
| 2021 | 自民(187議席・占有率64.71%) | 立民(57議席・占有率19.72%) | 維新(16議席・占有率5.54%) |
| 2024 | 自民(132議席・占有率45.67%) | 立民(104議席・占有率35.99%) | 維新(23議席・占有率7.96%) |
(【出所】総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査結果』データをもとに作成)
こうした結果を見ると、やはり衆院のとくに小選挙区は「最大政党総取り」の仕組みと考えざるを得ず、したがって、「衆院選は政権与党を決めるための選挙だ」という印象を強く持つかもしれませんし、実際そうだと思う次第です。
もうひとつの大事な役割は「最大野党選び」
ただ、著者としてもその考え方には基本的に賛成するものの、もうひとつ、異見を述べておきたいと思います。
それは、「衆院選は最大野党(≒第2党)を決めるための手続でもある」、という点です(※ただし、理論的には第1党と第2党が連立する場合もあり得るので、第2党が必ず最大野党になるというものでもありませんが…)。
図表2でもわかるとおり、2005年、2009年、2012年の各総選挙では、その時点の第1党と第2党がそれぞれ入れ替わっており、このことは、「最大野党」であれば、議席数が少なかったとしても、「風」が吹けば政権交代が生じ得る、ということです。
2012年以降は(2024年を除いて)第2党は小選挙区で毎回獲得議席数が100議席を割り込み、「泡沫政党」なみの議席に甘んじているときもあるのですが、それでも第2党は(2017年を除くと)全国各地の小選挙区で候補を立てられるだけの体制を維持し続けています。
逆にいえば、これこそが第3党以下との大きな違いでもあるのです。
最近だと国民民主党や参政党、れいわ新選組といった比較的規模の小さい政党がSNSなどで熱心な支持者に支えられ、少しずつ議席を伸ばしているのですが、これらの小規模政党が総選挙でいきなり多数の議席を獲得し、政権与党ないし最大野党に浮上する、といったことは考え辛い点です。
しかも、最大野党は、国会論戦において大きな影響力を及ぼすことが多いです。国会の慣例上、最大野党は野党全体に配分された質問時間を他の野党に配分する権限を持っているほか、最大野党が同意しなければ審議入りできないケースもあるからです。
極端な話、2012年~17年ごろの「泡沫ぶり」であっても、その政党が「最大野党である」というだけの理由があれば、下らない揚げ足取りを国会で大々的に展開することで、さまざまな国会審議を止めてしまうことだってできました(「下らない揚げ足取り」の典型例は「もりかけ」「さくら」「統一教会」などでしょう)。
だからこそ、著者などは衆院選の隠れたテーマは、何とかして最大野党を「揚げ足取り型の政党」からマトモな政策論議ができる政党に変えて行くことではないかと考えている次第です(それが困難であることは指摘するまでもありませんが…)。
最大野党としての地位を死守しようとする力学
もっとも、これを「最大野党」の側から見ると、やはり「最大野党の地位は何としても死守したい」という力学が働くこともまた容易に想像がつくところです。
少しうがった見方ですが、現在の最大野党である立憲民主党にとっての「最大の価値」とは、「自分たちが最大野党であること」であり、「政策の実現」ではないのかもしれない、といった仮説は成り立つところです。
こうしたなかで、こんな記事を目にすると、やはり不安になってしまいます。
立民の144人が新党「中道改革連合」に参加 1人は不参加、もう1人は意向を確認中
―――2026/01/20 12:58付 Yahoo!ニュースより【産経新聞配信】
産経が20日午後に配信した記事によれば、同党が公明党と設立した新党「中道改革連合」に入党意向の衆院議員は148人中144人(残りは次期衆院選への不出馬2名、不参加1名、未定1名)なのだそうです。
『情報のストック化で早速躓く新党』でも指摘しましたが、立憲民主党議員はさっそく原発政策を巡り、新党の基本政策が過去の同党の基本政策と異なっているという矛盾を突かれており、それがSNSで盛大に盛り上がっている状況にあります。
| 「情報はフローではなくストックに変わった」。これ、じつは大変に重要な社会の変化です。なぜならインターネットがなかった時代だとスルーされてしまいがちな政治家の過去の言動の矛盾が、情報のストック化によって顕在化したからです。とりわけ立憲民主党が過去に基本政策で「原子力発電所の新設・増設は行わず、すべての原子力発電所の速やかな停止と廃炉決定をめざします」と宣言したことが掘り起こされているみたいですよ。ネット化の本質は情報の民主化インターネットの出現は私たちの社会の在り方そのものを根底から変革しつつ... 情報のストック化で早速躓く新党 - 新宿会計士の政治経済評論 |
要するに、新党の綱領や基本政策が立憲民主党のそれらと比べ、普通の一般国民から見ても明らかにわかるくらいには矛盾しているにもかかわらず、そんな政党に所属議員の大部分が移籍するという時点で、やはり「国会議員の本職」論とはかなりの乖離があるのです。
保守色を取り入れたのは悪手中の悪手では?
そもそも、新党「中道改革連合」の綱領や基本政策は、これまでの立憲民主党のそれらと比べ、かなりの距離があります。
想像するに、これは党明にある「中道」に合わせて、「保守派」っぽい主張を無理やり盛り込もうとしたのかもしれませんが、これは正直、悪手です。
今まで立憲民主党の左派的な主張に共感していた有権者に対する盛大な裏切りでもあるからですが、それだけではありません。「保守派」的な主張を盛り込んだところで、本当の「保守派」の票が大々的に「中道~」に流れるということは、おそらくあり得ないからです。
その意味では、立憲民主党はこれまで同党を支持してくれていた、とりわけ「左派」的な有権者に対し、このたびの「変節」について、彼らにとって納得がいくだけの真摯な説明を尽くすのがスジではないでしょうか。
もちろん、『野党の動向次第では自民圧勝も自民大敗も両方あり得る』でも指摘したとおり、立憲民主党も公明党も、どちらもそれなりに組織票を持つ政党でもあるため、実際の選挙では思いのほか躍進するという可能性は否定できません。
ただ、「基本的な政策はその政治家や政党にとって、最も大切にすべきものであり、簡単に捨ててはならないものでもあるはずだ」、といった立場からすれば、やはり節操なくこれまでの政策をかなぐり捨てるかの行動が、「中道~」の先行きにどのような影響を与えるかは、大変気になるところです。
もっと言えば、「政治家として大切にすべき基本政策」が単なる看板に過ぎず、国会議員になるための単なる方便として使っていたのではないか、といった疑問が、一般国民の間でわきあがって来ても当然かもしれません。
同党を巡っては、すでにSNSでは嫌悪にも似た反応が多々見受けられるのですが、これももしかすると意外と多くの国民が「原理原則をかなぐり捨ててでも議員としての地位、そして最大野党としての地位を維持しようとする」という姿勢に拒否感を覚えている証拠なのかもしれない、などと思う次第です。
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1 2 次へ »サメだ、サメになるのだ。
立候補者はまるごとサメの海に放り込まれる予感がします。
>基本政策を簡単に変更して良いのか
根拠も言わずにコロコロ変えていたら、
それは、ポピュリズムもどきでしかないと思う。
>「政策の実現」ではないのかもしれない
批判しつづけること自体が彼らの既得権益であって、
日本がよくなる政策が実現してしまったら、逆に困るのではないか。
原発再稼働・新設も、非科学的なゼロリスク論を掲げて、結局は認めないつもりだと思うよ。
今日も、国民民主党の円より子衆院議員(78)が、中道改革連合から東京17区で立候補するというニュースがyahooニュースにありました。
国民民主も浅い組織だなぁ。
変わる前の政党(あるいは政治家)の志(あるいは基本政策)は支持していたが、変わった後は支持していないという有権者もいるので、変えるのなら新人のつもりで選挙に臨む覚悟がいるのでは。
蛇足ですが、有権者のなかには、志(あるいは基本政策)ではなくて、政党自身(あるいは政治家自身)を支持している人もいるのでは。
国会論戦では即効性がないだのレジの改修に時間がかかるだのと消費税減税に後向きだった与党の党首が、解散総選挙になると消費税減税を掲げて「私の悲願でした」とシレっと言ってたりするので、いいんじゃないですか。
あとはひとりひとりの有権者がどう判断するかだけの話で。
岸田元首相、石破前首相と高市現首相を混同してませんか?
高市首相は、新しい政策を実行する環境を整えるため選挙の実施を決断したと思いますが。
高市さんはいいけど、自民党には期待していないから、今回は参政党の一択ではないでしょうか。百歩譲って、国民民主かな。裏金議員の重複立候補を認めるなんて、いつものことだけど、反省は全くしてないし、また再発するでしょう。
裏金議員なら立憲民主や公明党にもいますが?
左翼のお手本とも言える見事なブーメランですねw
政治家が主張を変えるのは構わないと思うのです♪
政策ってのは望ましいと思う社会を実現するための手段であって、目的じゃないと思うのです♪
ただ、今までの主張をなかったことにするんじゃなくて、何故いまその政策を主張するのかをちゃんと説明すべきだと思うのです♪
野党だから反対、与党になったら賛成というのも有りだと思うのです♪ただ、それは反対意見が代案の提示とか問題点の指摘になってなきゃいけないと思うのです♪
ただ、立場だけを理由にコロコロ変節するんじゃ、なんのために選挙で政権を選択するのかわかんなくなると思うのです♪
中革連は反高市勢力を結集する意図があると思っているので、掲げるのは非現実的な左翼政策では駄目だった。中道を前面に押し出し、忌避感を持たれるような極端な政策(多様性と聞くだけで忌避感を覚えるのはさておき)を避けて日本人ファーストに対抗するように生活者ファーストと言い出した。
当然、そこには信念なんて感じられようがない。
それでも選挙は人気投票というより陣取り合戦だから、両党の選挙基盤をそのまま有効活用できるならやはり弱くはないだろう。
それにしても「生活者」に「ファースト」と付ける意味はさっぱりわからない。新しいこと言っているような気分になりたいだけじゃなかろうかと思う。
野田氏いわく「生活者ファースト」の対義語が「日本ファースト、国家ファースト」だそうです。十分に極端な政策だど想像できます。
https://www.instagram.com/reel/DTpyIr6knyt/
石破の自爆解散の結果、タナボタで転がり込んだ衆議院148議席。その呪縛なんでしょうね。
政策立案能力にせよ、国民からの支持にせよ、おおよそそんな政治的ポジションを占める実力などないことは、立民の議員自身よく分かっているはず。だから今、と言うか、この先もズッと、解散を打たれたら議席数激減は必至なんだが、それをあるべき状態とは腹を括れない。どれだけ減らすのかという恐怖心にとらわれ、パニックに陥っているとしか思えない。
結果、あろうことか、自民党と袂を分かったら小選挙区で勝つことなど夢のまた夢、せめて比例区での減少を最小限にと、こちらはまだしも現実を認識できている公明党の罠にはまって、恥も外聞もなく只々小選挙区での創価学会票が欲しいという浅ましい根性で、政策丸呑み、比例区議席とのバーターに応じた。
バッカじゃなかろか。ディープな左巻き労組の組合員、上から言いなりの学会信者以外の支持票なんか、離れてしまうと分からないのかね。まあ、貧すれば鈍すると言うことかな。
野田「公約を実現しようと思ったことはない、どうせ実現しないし、これにブレはないのだ」
{烏合の衆}+{烏合の衆}={烏合の衆}
カントール