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中国脱却は「できるかどうか」ではなく「必要がある」

サプライチェーン「中国依存」は前提が大きく変わった

冷静に考えてみると、サプライチェーンにおける中国依存の重要な前提条件とは、「コストを度外視した物量、価格、納期」という前提で、物資が安定して供給されることにありました。また、これは著者の私見ですが、日本経済を停滞させてきたことと、中国発のデフレ圧力には、密接な関係があります。ただ、中国の対日輸出管理厳格化により、こうした前提条件が崩れたことを、私たち日本国民はしっかりと認識しなければなりません。

国産レアアースは切り札にならない?

片山さん、ありがとうございます

最初にちょっとした余談です。

中国が日本に対するレアアースの供給制限に乗り出す可能性があるなか、日本政府がいち早く国際社会を味方につけ、レアアース供給源の多角化に向けた取り組みを進めることで合意したとする話題は、先週の『中国の対日制裁発表からたった1週間で国際社会が団結』などでも取り上げました。

当ウェブサイトのこの記事、わりと注目を集めたらしく、とりわけ印象的だったのは片山さつき財務大臣が著者のXのアカウント@shinjukuaccをフォローしてくださったことです。

著者は片山氏については優れた政治家だと考えているものの、別に片山氏の「ファン」でもありませんし、あくまでも政治家は是々非々で評価すべきとするスタンスを維持しているつもりであり、べつにフォローして下さったからといってこのスタンスを変えるつもりはありません。

とくに減税の論点などに関しては、今後も厳しく議論していくつもりです。

ただ、ことレアアース調達の多極化努力合意に関しては、片山大臣の仕事が質、量、スピードのすべての面で、極めて優れたものであったことに関しては間違いありません。「中国vs日本」の構図を、「中国vs日米英欧独仏伊加豪印墨韓」という他国関係に塗り替えてしまったからです。

レアアース脱却は進まないのか?

これを逆に中国の立場からいえば、レアアース禁輸を匂わせた時点で対日制裁は大失敗も大失敗だと断じざるを得ないのです。

ただ、世の中的には「中国からのレアアース脱却はなかなか進まない」とする議論も多く、これに関連し、ウェブ評論サイト『ダイヤモンドオンライン』に日曜日、ちょっと気になる記事が掲載されていました。

残念ですが「国産レアアース」は切り札になりません…日本が脱中国を実現できない“身も蓋もない理由”

―――2026/01/18 06:30付 Yahoo!ニュースより【ダイヤモンドオンライン配信】

やや乱雑に要約すると、「南鳥島のレアアースは脱中国の切り札とならない」などと主張とするもので、その理由は①中国の妨害が予想されること、②6000メートルの深海からレアアース泥を採取するに際しての技術的課題、③南鳥島レアアースでは必要なすべてのレアアースが含まれていないこと―――、です。

そのうえで記事の中ではこんな記述も出て来ます。

南鳥島の資源の役割はあくまで中国への依存度を下げるための役目にとどまると考えるのが妥当なラインだ」。

これに対しては、「え?」「日本政府も最初からそのつもりだと思いますけど?」、という感想しか出て来ません。

記事のなかで指摘されている3要因のうち、①はともかく、②と③は当初から指摘されていたことですし、日本にとっても南鳥島レアアース開発はオプションのひとつに過ぎません。現実には後述する通り、レアアースの脱中国の動きは、さまざまな国・地域で同時並行で行われているのです。

デフレ不況と日中関係

失われた30年と中国発のデフレの関係

さて、冒頭の余談(?)については本稿の後半につながるものですが、その前に、そもそもなぜ日本がデフレに苦しんできたのか、ちょっとだけ私見を述べておきます。

著者自身の主観で恐縮ですが、俗に「失われた30年」などと呼ばれている日本経済の停滞期は、そのまま、日本の産業の中国依存が強まった時期と重なっていると思います。つまり、日本と中国との関わりが日本の停滞と強く関連しているのではないかとする仮説が出てくるゆえんです。

もちろん、日中関係の深化の明確な時期をいつに置くかは議論が別れる点かもしれませんし、また、「因果関係」―――「日本が中国との関係を深めたから日本経済が停滞した」のか、「日本経済が停滞し、中国との関係を深めざるを得ない状態に追い込まれた」のか、など―――については、合理的に確たる答えは容易に導き出せるものでもありません。

ただ、それでも日本経済の停滞期が1990年代から2020年代にかけて続いていたことと、その間、日本が中国と戦後最も深く経済的に結びついていたことは、おそらくは事実でしょう。

あるいは「日本経済が中国発のデフレ圧力に直面していた」、と言い換えても良いかもしれません。

そして、日本企業の中国進出を煽ってきたのが新聞社を中心とするオールドメディア界隈であり、また、日本が国を挙げて中国進出しなければならないほどに停滞した状況を作り上げてきたのが大蔵省/財務省と日本銀行を中心とする日本の官僚機構だった、とする仮説を置くと、さまざまな辻褄が合って来るのです。

もちろん、あくまでも「説明上、辻褄が合っている」からといって、「その仮説の正しさが証明された」というわけではない点については注意が必要ですが。

とある新聞記者の思い出

こうしたなか、オールドメディアが中国デフレの責任者であるとする証拠はいくつかありますが、そのひとつがメディアの傲慢(ごうまん)さです。

先日の『任期も監査もない権力者が腐敗するのは当たり前のこと』でも取り上げた、著者が若かったころ(2000年代、小泉純一郎氏が首相だったころ)にとあるバーで某全国紙の新聞記者から話しかけられたエピソードを再掲しておきます。

著者がこの記者に対し、中国進出を煽る某紙を例に出して、「新聞がこんな話題を煽るのはいかがなものか」と問いかけたところ、次のように言い返されたのです。

わが社が発行している新聞が中国進出をわざと煽っているのは事実だが、それは本紙の責任ではない。騙されているのは経営者だから騙された側の責任だろう」。

これなど、メディアの傲慢さの一例だと思います。

メディアといえば、その少し後、2009年8月の衆院選で自民党が下野し、民主党政権が発足するに際して極めて重要な役割を演じたことについては、当ウェブサイトでは繰り返し指摘してきたところです(たとえば数年前の『先祖返りする立憲民主党、今度の標語は「変えよう。」』等参照)。

民主党への政権交代も、マスコミが国民に対して自分たちの意見を国民に押し付け、さんざん煽った結果として実現したものだという点もさることながら、今になって思えば、新聞社やテレビ局が自分たちの意見を国民に押し付けていたのは昔からのことだったのかもしれません。

余談ですが、著者がそれこそ石に噛り付いてでも当ウェブサイトを続けているのも、ウェブサイト運営などを通じ、日本を停滞させた犯人が官僚とマスコミだったという仮説の真相を見極めたいと思っているから、というのが要因のひとつでもあります(それができるかどうかは現時点ではよくわかりませんが)。

物量・価格・納期といったコストを度外視した供給

いずれにせよ、中国が経済発展したことは、日本の産業が中国をガッツリと垂直統合し、日本のサプライチェーンに組み込んできたことと密接な関係があることは間違いありませんが、それは同時に、非常に大事な前提条件を伴っていることも忘れてはなりません。

それが、中国が「人的リソースを豊富に投じた競争力」、すなわち「物量、価格、納期」といったコストを度外視したダンピング戦略で経済大国にのし上がってきたということを示唆しています。

こうした文脈で、「中国の強みはコストを度外視した物量、価格、納期にある」という仮説を置くと、日本がなぜ、ここまで短期間で中国との関係を強めたのかという疑問の答えも見えてきますし、また、今後の日本経済の大きな課題もまた浮かび上がってきます。

端的にいえば、「適正コストを負担せよ」、が答えです。

長引くデフレ時代のためでしょうか、日本では一時期、「コストカットをした経営者が偉い」、とでもいわんばかりの風潮が蔓延しており、そのコストカットの最大の標的が人件費でした。

現在でも一部の業態では経営者自身が「安い人件費で使い倒す」というデフレマインドから抜けきっておらず、しかし日本国内では生産年齢人口のピークアウトにより労働力不足が深刻化しているため、安易な外国人労働力という発想に流れがちです。

すでに前提条件が変わってしまった

ただ、これも発想が明らかにおかしくて、労働力人口が減少するならば、本来経済界がやるべきは▼人件費を引き上げること、▼省力化投資を積極的に行うこと、▼社会保険料や税金などの公租公課の引き下げを政府に要求すること―――などであったはずです。

団塊Jr世代からすれば、団塊世代前後の無能な経営者、無能な官僚らが後先考えずに国全体でコストカットを進めたことに恨み骨髄だったりするわけですが(著者私見)、就職氷河期世代がちょうど日本全体で中国進出を活発化させた時期と重なっているのは、単なる偶然ではないと思います。

こうした仮説が正しければ、日中関係が悪化していくなかで、いまだに一部企業の経営者が中国での生産に拘っている理由の一端も見えてきます。「コストを度外視した物量、価格、納期」は、デフレマインドに染まり切った一部の経営者にとっては魅力的に映るからです。

ただ、こうした「中国依存」については、すでに前提が変わったと考えておくべきでしょう。中国が日本に対する輸出管理を厳格化すると発表し、中国からの円滑な物流が保証されなくなったからです。

中国の対日制裁は内容が漠然としており、日本企業にとっては重要物資(たとえばレアアース類)が輸出制限の対象に加えられているのかどうかがわかりません。よって、『おそらく日本は国を挙げて中国に消極的制裁を実施する』でも指摘したとおり、「マトモな経営者なら」中国との関係清算を考えるところです。

ただ、これはあくまでも、その経営者が「マトモな」経営センスを持っている、という前提があって成り立つ論点であり、コスト競争力に目がくらんで正常な判断ができない経営者が中国からの脱出に遅れたとしても、それはそれで自己責任であり、仕方がない話と考えるべきでしょう。

日本企業はどうするべきか

制裁合戦をした場合は日本が勝つかもしれないが…

さて、輸出管理強化など、中国の対日制裁措置が中国自身にもたらすマイナス効果自体はこれまでもさんざん論じてきたとおりですし、これに加えて『日本企業はレジストの対中輸出を大幅制限し始めたのか』では、半導体材料としても使用されるレジスト類の対中輸出がストップしたとする一部メディアの報道も紹介しました。

何が言いたいのかといえば、もしも日中双方が本格的な貿易制裁合戦に陥った場合、日中双方に経済的打撃が生じ得るものの、最終的に競り勝つのは日本の側である、という予想です。

ただ、同記事でも強調したとおり、制裁合戦に陥ることは、極力、避けねばなりません。

日本経済にも影響が大きすぎるからです。

当ウェブサイトの常連読者の皆さまであれば、この点はよくご理解いただけているものと思います。

たしかに制裁合戦で日本が勝てば、私たち日本国民としては気持ちが良いですし、また、実際に制裁合戦となれば日本が勝つ可能性は非常に高いです。ですが、「日本が制裁合戦に勝利した」という精神的満足を得ることと引き換えに、国民生活は大混乱に陥ることでしょう。

こうしたリスクを避けるためには、中国を過度に刺激せず、かといって中国に阿(おもね)るでもなく、ただひたすら、淡々と脱中国を進めていくのが正解です。

要するに、サプライチェーンの大混乱を防ぐために、日本は今後、中国から少しずつ足抜けしていくべきですし、その過程で多少のコスト上昇も我慢する必要がある、という論点です。その方が中・長期的には日本のためになることは間違いありません。

伝家の宝刀は発動しなくても十分に効果を持つ

ただ、Xなどを眺めていると、圧倒的多数のユーザーは日本が中国を過度に刺激することなしに少しずつ「足抜け」していくことの重要性に同意して下さっているようですが、やはりごく稀に、「日中双方が経済制裁合戦に陥れば良い」、といった発言もないわけではありません。

残念ながら、こうした発想は正しくありません。

中国政府高官らの日本に対する発言は、良識ある多くの日本人にとってはたしかに不快ではありますが、だからといって「中国なにするものぞ」といった発想は生産的ではありませんし、中国を無駄に挑発するのも本来ならば控えるべきです。

もちろん、『ネット大喜利でオモチャにされおちょくられる中国政府』で触れたように、中国政府高官らが日本国民を脅してきたときには、日本国民はそれをむしろ盛大におちょくり、オモチャにして楽しんでいたフシがありますが、これはあくまでも中国が挑発してきた場合にとどめておくべき話です。

このため、当ウェブサイトでは「中国が日本に対して持っているカードよりも、日本が中国に対して持っているカードの方が、質的にも量的にも上位である」という点については今後も事実として指摘し続けるつもりですが、それらを「発動せよ」と述べたことはないつもりですし、今後も述べることはないでしょう。

重要な事実は、日本が伝家の宝刀を持っているということと、それは持っているだけで中国を牽制し、脱中国が達成されたあかつきには日本の産業をさらに強くしていくことに役立つということであり、いわば、伝家の宝刀というものは発動しなくても良い、ということです。

国際ジャーナリストの山田氏は日本企業への実害を指摘

こうした前提を踏まえ、本稿で取り上げておきたいのは、こんな記事です。

中国が切った「レアアース」というカード 日本企業への影響を読む

―――2026/01/16 07:10付 Yahoo!ニュースより【ITmedia ビジネスオンライン配信】

記事を執筆したのは国際ジャーナリストの山田敏弘氏で、最近のテレビ番組などにありがちな「レアアース規制悲観論」などと比べると、非常にバランスの取れた良い論考であるといえます(こうした良い論考が私たちの目に留まるのも、社会のネット化の効果といえると思う次第です)。

それはともかくとして、この論考で気になる記述が、これです。

実際、すでに影響は出始めている。筆者が知る、レアアース関連の輸入に携わる事業者によると、中国からの輸出には早くも規制が行われているようだ」。

サプライチェーンでの調達が滞ることで特に影響を受けるのが、自動車や半導体など日本にとって重要な産業分野である。規制強化が続けば続くほど、日本企業がネガティブな影響を受けることは間違いない」。

もっとも、中国による対日レアアース規制は初めてではない。2010年、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件を受け、中国は日本向けレアアース輸出を事実上制限した。このとき、日本企業は深刻な影響を受けた。<中略>今回の規制も長引けば、同様の事態が再び起きかねない」。

このあたりは、山田氏のように直接に取材するジャーナリストの強みが出ている部分ではないでしょうか。

すなわち、中国の対日措置は単なる牽制ではなく、すでに(一部分には)実害を及ぼし始めている(可能性がある)、ということだからです。

すべての日本企業関係者に熟読してほしい指摘

ただ、そのことが中国にとっての切り札となるかどうかは別問題です。

山田氏はこう続けます。

日本企業と政府は、レアアースの中国依存度を下げる取り組みを継続してきた。南鳥島沖に眠る大規模なレアアース泥の開発や、オーストラリア企業のライナス・レアアースとの提携がその一例だ。総合商社の双日は2025年10月、オーストラリアで採掘されたレアアースの輸入を開始したと発表している」。

この点、南鳥島のレアアース泥商業採掘まではまだ1年ほどの期間が必要とみられるなど、日本企業が取り得る選択肢は限られているのが実情ですが、日本企業が手をこまねいているわけではないことだけは間違いありません。

そのうえで、山田氏はこう指摘するのです。

米国や欧州などと手を組み、別の供給源の確保などを進めて対抗していくしかない。とにかく中国依存から脱却できなければ、日本企業は安定した事業計画を描けなくなる」。

正直、この指摘は、すべての日本企業関係者に熟読していただきたい部分でもあります。

いまこの瞬間、日中貿易が停滞してしまうと、日本企業および日本経済にもさまざまな面で甚大な影響が生じまうことは間違いありませんが、長い目で見たら中国への依存から脱却すべきですし、また、その非常に良いチャンスが訪れているのだともいえるでしょう。

前提条件が変わったことを認識せよ

いずれにせよ、サプライチェーンにおける中国依存は、その前提である「物量、価格、納期などのコストを度外視した安定供給」という重要な前提条件が崩れてしまった以上、もはや成り立ちません。

そのうえで、国家の安全保障はあらゆる経済的利益に優先します。

いい加減、「中国が怒るから高市総理は(昨年11月の台湾有事に関する)答弁を撤回せよ」、といった主張が絵空事に過ぎないことを、強く認識すべきではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

新宿会計士:

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  • 今記事の内容とずれますが、ブログ主が
    >「物量、価格、納期などのコストを度外視した安定供給」という重要な前提条件が崩れてしまった  ことを認識せよ、
    とおっしゃっておりますので。
    かつてヤワラちゃんが、勝負にこだわり「負けても金」と言ったように、銀は目にも入らない地味な存在でした。
    それが
    ・米国が銀をクリティカルミネラルに指定した
    ・中国が本年1月1日から銀の輸出管理を始めた(特定会社しか輸出を認めない)
    ようですが、これに呼応するようにアメリカ造幣局が販売するイーグル銀貨の価格を本年82?パーセント値上げしたことや、サムスンが銀産出鉱山の銀を2年分確保しようとしたが、テスラがより以上の好条件を提示して元から抑えてしまったなどの話も聞こえてきます。
    銀は、導電率や熱伝導率が他の金属より高いため、全個体電池やサーバー、太陽光発電パネル製造に欠かせず争奪戦となっている状況下、我が国の動きが全く見えない(ワシだけ?、オールドメディアが報じない?)ことが気がかりです。