中国が大騒ぎした結果、何が起きているのか。おそらくその答えのひとつは、「産業が中国に過度に依存することのリスク」を日本国民と日本企業に改めて認識させたことです。国にとって大切な産業、資源、エネルギー、金融、投資といった分野で、中国に生命線を握られるような事態に陥ることを避けるべき、といった認識が広まってきたのです。こうしたなか、日本の医療現場を支える抗菌薬の安定供給に向け、製薬大手2社が脱中国の動きを急いでいるという話題が出て来ました。
中国の日本への対抗措置
先般の『中国政府の「単線的思考」の限界』などでも指摘してきたとおり、中国政府の日本に対する強い非難は、中国にとっては「セルフ制裁」となり、長い目で見たら逆効果をもたらすはずだと著者は考えています。
先月7日、高市早苗総理大臣は衆院で立憲民主党の岡田克也議員の質問に対し、台湾有事が日本にとっての(集団的自衛権発動要件のひとつである)「存立危機事態」に該当し得ると答弁したことで、中国側がしばらく日本に対して大騒ぎしていたのです。
中国が日本に対して講じた「対抗措置」の例を挙げると、これがなかなかに壮絶です。
中国が日本に対して講じた「対抗措置」の例
- Xを使った日本人への脅し
- 日本向けの団体旅行の自粛
- 日本製のアニメの上映延期
- よくわからない会合の中止
- ロックコンサート公演中止
- 日本人歌手の歌中断→退場
- 自衛隊にFCレーダー照射
- パンダの貸与期限の不延長
- 北京の各国大使に日本批判
(【出所】報道等をもとに作成)
効果は限定的、いや、逆効果のものも多数
端的にいえば、これらはどれも対抗措置としての効果が限定的であるばかりでなく、なかには逆効果のものも含まれているからです。
たとえば薛剣(せつけん)駐大阪総領事は11月8日、Xに「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟ができているのか」とポスト。該当するポストは批判殺到のために削除済みですが、これに留まらず、まさに非常識というレベルの対日非難が中国政府から日々発信されています。
ところが、これらに対しては、中国政府高官らがXで日本国民に対し日本語でさまざまな脅しをかけたものの、逆に日本国民はそれらのポストをおちょくるかのような内容を投稿し、Xが一時、中国政府高官らをバカにする大喜利会場と化したのです(『ネット大喜利でオモチャにされおちょくられる中国政府』等参照)。
想像するに、これは中国政府高官らにとっては恐怖だったのではないでしょうか。
なにせ、自国内では人民に対し、Xなどの西側諸国のSNSへのアクセスを事実上禁止しているため、閉じられた空間で高圧的な態度しか取って来なかった連中が、自由・民主主義国の国民から集中砲火を浴びたのですから。
ただ、話はそれだけではありません。
たとえば歌っている途中の日本人歌手の歌を強制的に止めて退場させた事件(『中国でセルフ経済制裁絶賛発動中』等参照)は、むしろ中国が文化の弾圧をする国であるという事実が世界中に広まったという効果をもたらしました。
また、自衛隊機に対する火器管制(FC)レーダー照射事件(『中国が自衛隊機にFCレーダー照射…しかも「2回」も』等参照)も、中国が「気に入らないことがあると軍事的挑発を仕掛けてくる大変℉危険な国である」という点を世界中の防衛当局者に改めて知らしめる効果がありました。
結局、これらは「セルフ制裁」の効果が抜群だった、というわけです。
団体旅行自粛からの脱中国意識
そして、中国が日本に対して講じた措置のひとつに、自国民に対する団体旅行の自粛があります。
もしも中国人が全員、日本旅行を自粛した場合は、最大で数兆円レベルの機会損失が生じる可能性があるわけですし、日本国内でも左派論客などを中心に、こうした経済損失を根拠に、高市総理に対し「台湾答弁」の撤回を求める声が上がったことも事実です。
(なお、現実には全国の観光地でオーバーツーリズム問題がある程度解消されたとして歓迎する声も出ているような気がしますが、この点についてはとりあえず脇に置きます。)
しかし、現実に生じた、もっとさらに大きな現象とは、「産業が中国に過度に依存することのリスク」を日本国民と日本企業に改めて認識させたことではないでしょうか。
つまり、国にとって大切な産業、資源、エネルギー、金融、投資といった分野で、中国に生命線を握られるような事態に陥ることを避けるべき、といった認識が広まってきたのです。
製薬大手2社の抗菌薬の中国依存脱却
その一例として本稿で取り上げておきたいのが、これです。
Meiji Seika ファルマ株式会社の公式Xアカウントが23日、産経ニュースのリンクに言及したのですが、そのリンク先の記事がこれです。
<独自>Meijiと塩野義、中国依存脱却へ抗菌薬と原薬を積み増し 国産化急ぐ
―――2025/12/23 15:43付 産経ニュースより
産経によると、Meiji Seikaファルマと塩野義製薬が一部製品や原薬の在庫を積み増すなど、「原薬の供給途絶に備え必要量の確保に動」いているのだそうです。
両社が積み増しているのは、「ベータラクタム系」と呼ばれる抗菌薬だそうです。
産経はまた、「抗菌薬は感染症治療や手術時の感染予防に不可欠」で「供給が途絶えれば国民の命に直結する」ため、経済安全保障法で航空機部品や半導体などとともに「特定重要物資」のひとつにも指定されている、とも指摘しています。
結局は財務省らの問題だが…
ただ、そんな重要な物資ですが、「抗菌薬の原薬はほぼ中国に依存し、日本国内だけで一から製剤化することは現状不可能」であるため、両社としては、当面は中国からの原薬輸入を増やして在庫の積み増しを図るとともに、国内での抗菌薬増産や原薬の国産化も進める方針だとしています。
では、なぜ「日本国内だけで一から製剤化することができない」のでしょうか。
恐らくその原因が、次の記述です。
「日本の抗菌薬は、薬価引き下げによる採算悪化を背景に中国での原料や原薬などの調達が常態化してきた。特にベータラクタム系抗菌薬の原薬依存率はほぼ100%に達しており、供給途絶時の医療現場への影響が懸念されている」。
なんのことはない、中国が技術優位を持っているからではなく、単純に財務省や厚生労働省といった日本政府の失策です。中国製品に価格優位があるというだけの話でしょう。
また、ここから先はあくまでも著者の想像ですが、おそらくMeiji Seika ファルマや塩野義製薬などの動きは氷山の一角で、実態は日本全体で似たような「脱中国依存」の動きが生じているのではないでしょうか?(一部そうではない企業もあるようですが。)
いずれにせよ、「高市答弁」を契機に、あらためて日本全体で中国リスクが強く意識されたのは大変良かったといえるでしょう。
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漢方薬や、健康食品、美容成分の原料になる生薬も量やコストの問題で中国依存が多いと聞きます。
こちらは直ちに生死に結びつきませんが、なくなると生活の質がかなり下がりますので、調達が困難になると、パンダより大きな問題かもしれません。
やっぱり原因を突き詰めると財務省かよ!
まー『価格競争力』で日本国内から駆逐された生産物もいろいろありますわな、知らんけど
国内に国内需要を充足しうるサプライチェーン網を喪失したモノと云へば…生活感溢るるモノは大概そうか…
“相応の対価”、難しおまんな
知らんけど
早めの撤退が吉
一連の事態で「存立危機事態」に陥った、C国当局・メディア・特定野党。
俎上に並んだのは、リスク増す契機(リスクマスケーキ)と揚足鶏(あげあしとり)
*メリクリですね。
夢想的な国際協調論者が始めた国際分業論は、武漢肺炎という世界疫病が現実化したことをきっかけに、吹き飛んでしまったと当方は結論します。高度化された世界社会は靭性(壊れにくさ)が足りていない。チェンマイ・イニシアティブ、ネガティブな意味であれは歴史的な出来事だったと考えます。時は森内閣、当時の大蔵大臣と言えば ... あぁ、あのかた ...
一般論でいけば、補助金を投入しまくっている中国製品は、関税(反ダンピング課税)の対象ですが、そんな話は、ほとんど聞きませんね。
官僚の皆さんは、国内産業の被害防止(保護ではなく、被害防止)に興味が無いのでしょうかね。
中国依存云々ですが、最近は中国の経済そのものが大丈夫かぁ?との声もたまに聞きます。
どうなっちゃうんですかねえ
WTOも脱退して良いかもね?正直者だけが損をしている
「中国依存度を下げる」求められるのは粛々と静かに。
NHKを契約されている方は、「紅白の原爆ダンサー歌手?」が写ったら、
その時間だけで良いので、テレビを消しませんか、静かな抵抗。
#その歌手はスイッチオフ運動。日本全国広まったら良いな。