高市早苗総理大臣が先月、国会答弁で台湾有事が日本にとっての存立危機事態となり得ると答えたことを巡り、中国側からは、発言を撤回するよう強く求められています。しかし、少なくとも現時点に至るまで、日本側は発言を撤回しておらず、それどころか報道によると、萩生田光一・自民党幹事長代行ら30人近くの国会議員が21日から台湾を訪問するとの話題が出て来ました。中国外交の敗北、でしょうか。
中国の対日制裁措置
先月7日の高市早苗総理大臣による「台湾答弁」を受けて、中国側がヒートアップしているのは、読者の皆さまもご存じのとおりかと思います。
口火を切ったのが薛剣(せつけん)駐大阪総領事で、8日、Xに「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟ができているのか」とポスト。該当するポストは批判殺到のために削除済みですが、これに留まらず、まさに非常識というレベルの対日非難が中国政府から日々発信されています。
また、中国当局者から日々発せられる対日非難だけでは飽き足らず、日本旅行の自粛を筆頭に、それこそさまざまな「対抗措置」を仕掛けてきています。
中国が日本に対して講じた「対抗措置」の例
- 日本向けの団体旅行の自粛
- Xを使った日本人への脅し
- 日本製のアニメの上映延期
- よくわからない会合の中止
- ロックコンサート公演中止
- 日本人歌手の歌中断→退場
- 自衛隊にFCレーダー照射
- パンダの貸与期限の不延長
- 北京の各国大使に日本批判
(【出所】報道等をもとに作成)
まったく効かないどころかセルフ制裁になっている項目も!
これらの対抗措置の目的は、もちろん、高市総理に台湾答弁を撤回させることにあるのだと思いますが、ただ、これらの努力は無駄に終わりそうです。残念ながらせっかくの対抗措置、日本にほとんど効いていないからです。
そもそもXを使った一般国民に対する脅しにしたって、ネット・リテラシーでは日本国民の方が圧倒的に勝っているためなのか、むしろ中国政府高官らがSNS上で日本国民の手によって「ネットリンチ」されている状況にありますし、ジャイアントパンダ回収も(一部左派を除いて)日本国民にはあまり刺さっていません。
それどころか、項目によってはむしろ中国へのダメージとなっているものもあります。
たとえば歌っている途中の日本人歌手を強制的に降壇させた件は、中国という国の独善性と危険さをこれでもかというほど世界に見せつけましたし、さらに自衛隊機に対する火器管制(FC)レーダー照射は西側諸国などにおいて中国への不信感が募る原因となっています。
これらはまさに、中国が日本に対して取り得る実効的な措置は限られているという証左でしょう。
プランBがない中国にさらなる追い打ち:萩生田氏ら訪台
唯一日本経済に対して直接的な打撃を与え得る措置は訪日旅行制限くらいなものですが、これにしたって、影響は限定的です。それどころか、すでにオーバーツーリズム状態に悩む日本にとっては、特定国からの入国者が減った方が、むしろインバウンド全体の質が向上する可能性すらあります。
いちおう、最新のデータを見る限りでは、現在のところ影響はほとんど出ていません(『中国「ノージャパン」なのに訪日外国人は過去最多水準』参照)が、そもそも中国以外からの入国者数が増えているなかで、これが日本経済に壊滅的打撃を与えるとも思えないのです。
このため、当ウェブサイトでは中国には「プランB」、つまり「日本が台湾関係の答弁を撤回してくれなかった場合に中国としてどうするか」の方針がないのではないか、などと指摘してきた次第です(『日本側に「選択権」を握られてしまった中国外交の失敗』等参照)。
ただ、中国にとってはさらに困ったことが発生したようです。
報道によると自民党の萩生田光一幹事長代理が21日から台湾を訪問し、頼清德(らい・せいとくお)台湾総統と会談することを調整していることが判明したのです(ここでは産経の記事を紹介しておきます)。
自民・萩生田氏が21日から訪台 頼清徳総統と会談調整 日中関係悪化の中
―――2025/12/18 20:16付 Yahoo!ニュースより【産経ニュース配信】
これは、大変良い兆候です。
中国が日本に対してさんざん圧力を掛けたものの(また、日本の特定野党や特定メディアの政権攻撃に期待していたフシもあるものの)、結局は「台湾答弁の撤回」という成果を得ることができなかったばかりか、それ以上のことをされてしまったからです。
要するに、中国の対日カードが限定的であるということが露呈したことで、中国は外交上の失点をさらに重ねた格好です。
「力で押す外交」の敗北
ちなみに産経の記事によると、今回台湾を訪問するのは萩生田氏に加えて鈴木馨祐前法相、長島昭久前首相補佐官ら「日本の国会議員30人近く」だそうであり、この訪問団とは別に、河野太郎元外相も今月24日から26日にかけて台湾を訪問するとのことです。
なんというか、言いたいことはいろいろとあるのですが、やはり「力で押す外交」の敗北、という表現がピッタリではないでしょうか。
その一方で、著者自身としては高市早苗総理大臣、あるいは高市内閣については「是々非々で評価したい」という立場であり、良い政策には「良い」、悪い政策には「悪い」と素直に表明することが重要だとも考えています(一例を挙げると、「年収の壁」への対応については、著者としてはまったく評価していません)。
こうした観点からすれば、少なくとも台湾答弁に始まる一連の対中外交に関していえば、現在のところ、かなり高い評価を下すのが適切ではないでしょうか。
いずれにせよ、政権の評価は「是々非々」だと思う次第です。
なお、余談ですが、XなどSNSを眺めていると、中国共産党政権と日本の特定野党、特定メディアが「結託している」とする趣旨の指摘が散見されるのですが、これについては著者自身としては少し違う考え方を持っていたりします。
これについては機会を見ながら、できるだけ早いうちに、別稿で別途議論したいと思っています。
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