中国で始まったノージャパンの影響、現時点では少なくともほとんど確認できません。日本政府観光局(JNTO)が昨日公表した『訪日外客統計』によれば、2025年11月に日本に入国した外国人は351万8000人と、11月としては過去最大を記録。1月からの11ヵ月間累計ではなんとf3906万5627人と、年間を通じた訪日客も過去最大となったからです。
目次
中国による対日対抗措置
中国が現在、日本に対しさまざまな「対抗措置」(?)を繰り出していることについては、当ウェブサイトでも最近、ほぼ連日のように取り上げているところです。『「パンダカード」切ってしまった中国に残されたカード』でも指摘したとおり、中国日本に「あの手この手」の措置を講じているのです。
中国が日本に対して講じた「対抗措置」の例
- 日本向けの団体旅行の自粛
- Xを使った日本人への脅し
- 日本製のアニメの上映延期
- よくわからない会合の中止
- ロックコンサート公演中止
- 自衛隊機FCレーダー照射
- パンダの貸与期限の不延長
(【出所】報道等をもとに作成)
中国政府がこれらの措置を講じている目的は、おそらく、高市早苗総理大臣に先月7日の台湾有事に関する国会答弁を撤回させることにあると思われますが、それだけではありません。
これは著者の仮説ですが、中国政府は日本の新聞、テレビ(いわゆるオールドメディア)や特定野党が常に政府攻撃のネタを探していることを知っており、彼らに政府攻撃のネタを提供することで、政権支持率を低下させ、困った日本政府が中国の要求を呑む、といった「報道による圧力」を利用しています。
過去の成功体験を引きずる人たち
このあたり、XなどSNS上では、「オールドメディア(よく「マスゴミ」とも呼ばれます)や特定野党が中国政府の事実上の代理人としてスパイ活動を行っている」、などと主張する人もいますが、著者はこの説にはくみしません。
単純に、オールドメディアと特定野党は常に政権与党の足を引っ張るネタを探しているだけに過ぎず、こうした態度が外国勢力に付け込まれてしまっているだけの話でしょう。
ただ、いずれにせよ中国政府(や韓国政府など)が、過去にはこの手法で政治家の「失言」を追及し、日本のメディアと特定野党が大騒ぎすることで、与党の政治家が失脚に追い込まれる、といった事態が良く発生していました。
彼らはその成功体験に基づき、同じことをしているだけなのだと思います。
そして、こうした成功体験は、オールドメディアと特定野党にとっては、あまりにも鮮烈なのでしょう。
社会のネット化によってその手法が通用しなくなったばかりか、同じことを繰り返した結果、国民の怒りが与党に対してではなく、むしろオールドメディアと特定野党に向けられている、といった単純な事実には気付かない程度には。
中国の対日制裁がセルフ制裁となっている理由
さて、それはともかくとして、当ウェブサイトでは中国政府がこれまでに日本に対して講じてきた「制裁措置」についてはどれも実効性がなく、それどころか、下手をしたら中国自身に跳ね返っていく「セルフ制裁状態」に陥っている、と指摘してきました。
たとえば『中国でセルフ経済制裁絶賛発動中』でも取り上げたとおり、先週金曜日、上海で開催中の『バンダイナムコフェスティバル2025』で日本人歌手の大槻マキさんがステージにて歌っていたところ、いきなり音声や照明が落ち、強制的に退場させられる、という「事件」が発生しました。
歌っている途中で強制退場させるというのは、「そのようなシーンを見せつければ中国共産党政権の怖さを見せつけられるだろう」、といった中国政府なりの浅知恵に基づくものなのかもしれませんが、先日も指摘したとおり、これ、完全に「逆効果」です。
おそらくSNSでこれを目撃したであろう、少なくない日本人(やその他の自由・民主主義諸国民)は、これを見て、今後、中国を侮蔑(ぶべつ)に満ちた表情で眺めることになるからです。
また、同じ文脈で、今月6日に発生した中国軍機による自衛隊機に対する火器管制(FC)レーダー照射事件についても、中国としては「その場では」自衛隊機にレーダーを照射して悦に入っているのかもしれませんが、これはハンドリングを間違えたら中国という国自体が今後、世界で相手にされなくなるリスクをはらんでいます。
というよりも、『おかしな国を相手にするなら国際社会巻き込むのが正解』でも指摘しましたが、本件は日中2国間の問題ではなく、すでにいくつかの国を巻き込んでいて、「中国はそういう国なんだ」、という目で見られる要因となっています。
その意味では、中国が日本に対する制裁のつもりで講じた措置が、結構な頻度で中国自身に跳ね返っていくのを見ていると、安易な経済制裁は日本経済に打撃を与えられないばかりか、中国自身を傷つけることがある、という点については注意が必要でしょう。
(ちなみに『経済制裁から考える日中関係…カードは日本の方が多い』などでも指摘したとおり、同じ理由で、著者としては日本が安易に中国に対し経済制裁措置を講じることには慎重であるべきと考えています。)
インバウンド抑制は経済的損害が指摘されるが…実際には?
さて、中国が講じたこれらの対抗措置のなかに、「日本向けの団体旅行の自粛」、という項目がありました。
これは、一連の対抗措置の中では、まだ日本経済に打撃を与える可能性があります。
現在の日本にとってインバウンド産業はそれなりに規模が大きく、国土交通省の推計(『訪日外国人の消費動向 2024年年次報告書』等参照)で2024年実績だと推定訪日外国人旅行消費額は8兆1257億円にも達しているからです。
しかも、中国人がインバウンド客全体に占める割合は(香港と合わせると)通年平均で30%前後であり、中国人旅行客の訪日が激減すれば旅行収支の黒字に影響が生じることは避けられません。2024年における中国人の支出額は1兆6901億円、香港人の支出額は6598億円と、決して小さくないからです。
ただ、それと同時に(季節変動はあるにせよ)近年では訪日外国人全体に占める中国人の割合が少しずつ減っていることも見逃せません。
こうしたなか、実際のところどうなのかという観点からは、興味深いデータが出て来ました。
日本政府観光局(JNTO)が昨日公表した『訪日外客統計』によると、2025年11月に日本に入国した外国人の総数は351万8000人【速報値】と、11月としては過去最大を記録。1月からの11ヵ月間累計で見ると3906万5627人【速報値】と、年間を通じた訪日客も過去最大となりました。
このペースでいけば、日本政府が長年目標にしていた「訪日外国人4000万人」は、おそらく今年、達成されることでしょう。
中国人観光客減少の影響は、まだほとんどない
ちなみに月次グラフにしてみると図表1のとおり、前月比では落ち込んでいるものの、訪日外国人数自体は11月で見たら過去最多であることがよくわかります。
図表1 日本を訪問した外国人合計
(【出所】『訪日外客統計』データをもとに作成)
これに対し、訪日中国人はたしかに減少しています(図表2)。
図表2 日本を訪問した中国人
(【出所】『訪日外客統計』データをもとに作成)
中国政府が訪日自粛を呼びかけ始めたのが11月中旬以降であることを踏まえると、本格的に落ち込むのは12月以降、という可能性はあります。とくに旧正月休暇で訪日者がどこまで落ち込むかはわかりません。
一方で香港については前年比で少し落ち込んでいますが(図表3)、香港人訪日者数は今回の件が出るよりも前から落ち込んでいたため、「旅行自粛呼びかけ」による影響なのかどうかは見極めが難しいところですが、クリスマス休暇のある12月の動向も気になるところです。
図表3 日本を訪問した香港人
(【出所】『訪日外客統計』データをもとに作成)
「割合」で見たら大きい…来年の訪日外国人は落ち込む可能性も
なお、年間で見たら中国人の訪日者数が訪日外国人に占める割合は20%を超えている(香港と合わせたら4分の1を超えている)点には注意が必要です(図表4)
図表4 訪日外国人・国籍別内訳(2025年1月~11月)
| 国 | 人数 | 構成割合 |
| 1位:中国 | 8,765,808 | 22.44% |
| 2位:韓国 | 8,485,344 | 21.72% |
| 3位:台湾 | 6,175,011 | 15.81% |
| 4位:米国 | 3,036,025 | 7.77% |
| 5位:香港 | 2,226,216 | 5.70% |
| 6位:タイ | 1,059,104 | 2.71% |
| 7位:豪州 | 937,078 | 2.40% |
| 8位:フィリピン | 769,505 | 1.97% |
| 9位:ベトナム | 634,810 | 1.62% |
| 10位:カナダ | 630,856 | 1.61% |
| その他 | 6,345,870 | 16.24% |
| 総数 | 39,065,627 | 100.00% |
(【出所】『訪日外客統計』データをもとに作成)
このため、たとえば来年、中国人観光客が半分に減れば、中国以外の国からの訪問者が今年並みだったとしても、訪日外国人総数は日本政府が目標としている4000万人を割り込んで3500~3800万人程度に留まる可能性が高いです。
ただ、当ウェブサイトでは何度も強調している通り、現在の日本では働き手不足が深刻化しつつあり、受入可能な水準を超えて外国人観光客が日本に押し寄せているフシがあります。
こうした状況を踏まえると、一部メディア、あるいは一部左派言論人らがしきりに喧伝する「2~3兆円の被害」とやらの実情も、怪しいものです。受入可能なキャパシティを超えて観光客が押し寄せても、そのような産業の売上高の伸びは持続しないからです。
安全保障は経済利益に優先する
いずれにせよ、中国人の「ノージャパン」が日本経済にどれほどの打撃を与えるのか(あるいはさほどの打撃を与えるものではないのか)について、現時点で正確に読むことは難しいのですが、少なくとも2025年11月の数値だけで見れば、日本経済全体に与える打撃は極めて小さいと断じて良いでしょう。
そして、なにより大事な点は、安全保障は常に経済的利益に優先する、という事実です。
高市総理の発言を撤回したら台湾海峡危機のリスクがさらに高まるという点を考慮すれば、高市総理が発言を撤回するというのは「あり得ない」話であり、中国人観光客が減ったり、パンダが国内からいなくなったりすることとは、防衛コストとして考えるならば安い話です。
この点については何度強調してもし過ぎではないと思うのですが、いかがでしょうか?
View Comments (10)
毎度、ばかばかしいお話を。
オールドメディア:「訪日外国人が増えても、訪日中国人が減ったということの方が視聴率になる」
まさか。
毎度、ばかばかしいお話を。
オールドメディアのオジサン社員:「俺が現役中は、過去の成功例は成功しなければならない」
まあ、オールドメディアだけとは限りませんが。
毎度、ばかばかしいお話を。
○○(好きな言葉をいれてください):「我々の過去の成功例を無視されては困る」
無視した高市総理の責任なんでしょうか。
「俺が調子に乗って琉球・沖縄の歴史を語るブログ」
(http://www.ayirom-uji-2016.com/)
「二紙から二死へ」「オールドメディアの呼称と沖縄二紙」
の記事にて、
(引用)「ネット上で「沖縄メディアはちうごくの味方」云々の文言が飛び交ってますが、(こここまで)・・」
のくだりは印象に残りました。
興味があればご一読を。
中国人観光客は華僑系に金を使うし美味しくないんですよねえ。
Xでレポートされた、羽田空港で発生したC国民の台湾国民への暴言事件。文明とはかなり遠い。https://x.com/bxieus/status/2001404027800576117?s=20
少し前の記事で、ある自動車整備工場が値段を上げたら利益が増えた というのがありました。
客数は減ったけど、悪い客が減っていい客が残ったのが原因。
薄利多売が、悪い客を呼び効率を悪くするのはよくある話。
観光客の人数を目標にせず、質と金額を見るべきと この騒動が気づかせてくれたかも。
毎度、ばかばかしいお話を。
日本リベラルメディア:「中国のノージャパンで、日本経済に打撃を与えたことにしなければ、ならない」
まさか。
本日も有価証券報告書をチェックする必要があり、ある企業の有報を見ていたのですが、その際にサステナ開示規制を思い出し、人権のところを思わずチェックしてしまいました。この会社もサプライチェーン全体について、人権の状況について配慮するとあり、日本企業の人権重視は、習近平さんにとっては脅威になっていますね。今の習近平さんの政策を前提にすれば、日本企業は中国から撤退せざるを得ない状況です。中国は人権侵害を止めるしかないのでは。
有価証券報告書への虚偽記載は刑事罰です。確か。嘘は書けない。