労働力不足に対処するためには年収の壁引上げやIT投資、AI投資、自動運転の実現、電力不足に対処するためにはメガソーラー規制や原発再稼働・新増設の推進が必要ですが、こうした努力を続ければ、日本社会も中国を必要としなくなります。こうしたなか、ちょっと気になる「小ネタ」があるとしたら、中国から外資が日本に逃げ込んでいるとする仮説です。証券投資の話なのか、直接投資の話なのかはわかり辛いところですが、条件さえ整えたら中国から日本への資本の大きな逆流が生じる可能性はありそうです。
あれ?それって「カード」なのか…!?
本稿は、ちょっと気になる「小ネタ」を紹介するコーナーです。
高市早苗総理大臣が先月7日、国会で立憲民主党の岡田克也議員(※民主党政権時代の副首相・外相経験者)の質問に対し、台湾有事が日本にとっての「存立危機事態となり得る」と答えたあたりから、中国が明らかに日本を非難し始めました。
口火を切ったのが薛剣(せつけん)駐大阪総領事で、8日、Xに「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟ができているのか」とポスト。該当するポストは批判殺到のために削除済みですが、中国政府の外交官や高官らもその後、相次ぎ、日本を強い調子で批判しています。
こうした批判もさることながら、中国は日本に対し、この1ヵ月あまりでさまざまな「対抗措置」(?)を相次いで講じてきました。
中国が日本に対して講じた「対抗措置」の例
- 日本向けの団体旅行の自粛
- 日本製のアニメの上映延期
- 日本の水産物輸入を再停止
- パンダの貸与期限の不延長
- よくわからない会合の中止
- ロックコンサート公演中止
- 自衛隊機FCレーダー照射
(【出所】報道等をもとに作成)
とくに最後の火器管制(FC)レーダー照射は対抗措置となっているのか疑問でもありますが、それだけではありません。中国はほかにも、日本人に対するビザ免除措置の改廃やレアアースの輸出制限、あるいは邦人拘束、通関遅延、軍事的威嚇などの「カード」を持っている、といった報道もあります。
いったいどこまで日中関係がエスカレートしていくのか気になるところであり、これについてはちょっとした考察を現在準備しているところで、早ければ一両日中にも当ウェブサイトで公表できると思います。
「外資が中国から日本に逃げている」とする指摘
さて、それはともかく、これに先立って本稿で紹介しておきたいのは、集英社オンラインが12日付で配信した、こんな話題です。
中国経済「日本のバブル崩壊時より深刻」国際的投資家が警告……焦る習近平、外資が逃げた先は「東京市場」だった!
―――2025/12/12 07:00付 Yahoo!ニュースより【集英社オンライン配信】
木戸次郎さんという方が執筆した記事ですが、これがなかなかに興味深いのです。
中国が日本に対し、激しく反発している理由が「自国の経済があまりにもボロボロだから」であり、高市早苗総理大臣が「国内の不満をガス抜きする外敵」として利用されているフシがある、などとするものですが、それだけではありません。
最近の東京市場に、中国から外資が逃げ出している、などと述べるのです。
木戸氏が例に挙げるのが、日本企業であるキヤノンが広東省の工場を閉鎖したという話題です。メディアの扱いの軽さと裏腹に、「中国という巨大経済の深部で何が起きているのかを無言のまま知らせる最初の音である」と指摘。
そのうえでバブル期の日本が「不動産と製造業」という2本の骨格で国家を支えて来たのに対し、中国が不動産の「一本足」で国家を支えており、その一本が折れることで国家が傾くのは「当然の帰結である」と言い放つのです(「中国という国家が傾いている」根拠も記事では示されていますので気になる方はご参照ください)。
ちなみに外資が中国から撤退を始めたというのは、木戸氏にいわせれば、「技術吸収の初期段階を終え、中国が外資を必要としなくなったという逆向きの構造で理解すべき局面」だそうです。
そして、それらの外資の逃げ先は「消去法で最も安全そうに見える国」としての日本なのだとか。
「インドはすでに高値圏で深追いできず、ASEANは市場が小さく、中東は国家ファンド主導で短期マネーが定着しづらく、米国は金利負担が重い」。
これに対し円安が進み相対的に割安に見える日本が選ばれている、というもので、昨今の株高も日本企業の実力を反映したものと見るべきではない、とするのが木戸氏の説くところです。
証券投資の話なのか、直接投資の話なのか
著者は株式アナリストではありませんので、木戸氏のこの見解が正しいのかどうかはわかりません。また、日本の株高が「日本企業の実力を正当に評価したものではなく脱中国マネーにより押し上げられたものである」とする見解に無条件で同意するつもりもありません。
とくに、投資には短期性のもの(とくに証券投資)と長期性のもの(とくに直接投資)という違いがあり、木戸氏の記事ではそのどちらの話をしているのか、いまひとつ見え辛いところでもあります。
ただ、中国から脱出した外資の逃避先が日本である、とする考え方自体は、産業構造などに照らし、決しておかしな考え方ではありません。
現実問題として、産業構造的に日本は中国の「上位互換」の関係にあるからです。
もう少し正確にいえば、日本の「失われた30年」とは「労働集約産業を中国に移転してきた歴史」だ、というのが著者の私見ですが、逆に、日本の側で供給制約(労働力不足や電力不足など)が解消されてくれば、日本が中国を必要としなくなるのは当然のことでもあります。
現在はたまたま高市総理の台湾発言で日中関係がギクシャクし始めているようにも見えますが、それでも日本の供給力を強化する戦略が功を奏してくれば、日本企業としてもわざわざ地政学的リスクが高すぎる中国で生産活動を続ける必要などなくなってきます。
条件を整えることは必要だが…
ただし、それらのためには、メガソーラー制限や原発再稼働・新増設で電力不足問題に対処すること、年収の壁引上げやAI導入、自動運転、IT投資などを通じて労働力不足問題に対処することが必要であることはいうまでもありません。
あるいは、条件さえ整えたら、中国から日本への大規模な資本の逆流も生じるかもしれません。
その意味では産業政策と脱中国は車の両輪なのではないか、などと思う次第です。
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知識不足・勉強不足で物わかりの悪い国内銀行の相手に時間を使うのはもう止めて、生成 AI どのにアシストしてもらって作ったシビレるパワポ資料を片手に、胸を張ってどうどう外資系投資グループにアプローチするのが賢明なのかも知れません。今こそ対日投資の絶好機会だからです。当方も知り合いのインド人に日本に会社を作れと呼びかけたところです。
フィジカルAIということで、日本で製造業の試行錯誤が必要なのとサステナ開示規制の影響で人権侵害の国、企業をサプライチェーンに含められないということで、少なくとも日本企業は、製造業のメインを日本に戻す流れが一気に進みそうです。今回の習近平さんの大騒ぎは、関係ありません。
中国自体は、金融恐慌とも言える状況になりつつあるようです。中国の金融機関の貸借対照表の左側が誰も住まないゴーストタウンになっていることが、預金者にバレれば、取り付け騒ぎになります。習近平さんとしては、巨額の不良債権を抱え、戦争で需要を作りたいというニーズなのかも。
不良債権を処理するのに大量の元を発行する必要がありますね。大量の元の発行で、円高元安になりますが、まだ不良債権処理をしていないようですね。普通は、バッドバンクとグッドバンクに分けて、経済活動を正常化させるのですが。正常化させないと、このまま金融恐慌になっちゃうよね。
中国の銀行が破綻して、中国人の預金が引き出せないとなったら、中国人が怒るよね。習近平さんは、これを恐れています。戦争で誤魔化し、すべて日本のせいにしたい。
総務省が機能していない。日本の不良債権は、テレビ局に使わせている電波。全く本来の目的のために機能していない。電波オークションで、電波資産を不良債権から優良債権に変えましょう。誰の資産だと思っているの。NHKも同じです。
中国バンクの預金引出し不可の話は漏れ伝わってますね。
一党独裁というか、皇帝独裁国家は皇帝の実権が衰えはじめると社会変化は非常に非情に早く進むと思っています。来年がそういう年になるのでしょうか。
自分の土地勘のある業界で言えば、脱中国は進みつつありますが残念ですがあまり日本回帰とはなっていない様子ですね。
とは言っても、タイ洪水による被害の経験もあり移転先探しも中々難しい様子。結局廻り廻って日本に還るのかも知れませんが、今後来るであろう大震災も怖い。どうなる事やら。
まあ日本企業含めた外資が中国から撤退し中国国内の企業の製品が残る。これはよく見る光景で悪くない結果。
考え無しの日本企業を除き、生産工程のすべてを技術を抜き取られるとわかっている中国に持っていくわけもなく、会社として維持したいコア技術を使った生産は中国外でおこなう。その結果、取引が不利になるなど悪条件があるようだ。
また、今の中国の状況では安かろう悪かろう製品が売れ、結果的に技術的には高くなくても中国純国産品がシェアの大部分を占めるようになる。そして、外資は将来性が全く見込まれずリスクだけが増大し予定された終焉を迎える。
現状は国際的なサプライチェーンからは外れつつあり、国産化した製品では国内企業同士で熾烈な競争が繰り広げられている。しかし、内需が細いため蟲毒のような様相……。
かと言って重要分野はリソースを集中して市場を荒らすし技術は違法に入手するしで、他国と仲良くできるものではない。このような経済圏は隔離して放置した方がよい。
いつも楽しみに拝読しております。
中国から日本企業を含む外資が脱出しているのはその通りですが、サプライチェーンなど産業面での直接投資のことかと思います。そもそも中国にはまともな資本市場がないので、機関投資家は最初から証券投資など資本的な投資はしていなかったように思います。木戸氏が言うように世界のマクロファンドの資金が東京に還流しているのであれば、為替相場はもう少し円高になっているのではないでしょうか。
また、産業面で木戸氏の言う「技術吸収の初期段階を終え、中国が外資を必要としなくなったという逆向きの構造で理解すべき局面」とは、逆向きでなかったら「初期的な技術を盗用されコアな技術も盗まれそうになったところで労働集約的な生産の魅力が薄れ、信用収縮など金融リスクと弾圧など政治リスクが高まった局面」ということでもあります。製造業のサプライチェーン構築は手間と時間がかかりますので、一旦方針を決めたら後戻りすることは殆どありませんし、各社横並びに動くことが多い事象です。そうゆう意味で、キャノンの工場撤退は「巨大経済の深部で何が起きているのかを無言のまま知らせる最初の音」だというのはその通りだと思いました。