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中国要因で高市長期政権の可能性も…懸念すべき点は?

FCレーダー照射事件で立場を悪くしたためでしょうか、中国政府が告げ口外交に邁進しているフシがあります。ただ、欧米などのメディアの反応を眺めている限り、事態が国際化することで困った立場に追い込まれるのは中国の側です。ちょうど2018年の韓国がそうだったのを思い出します。こうしたなか、本稿で考えておきたい仮説は、安倍内閣の高支持率と韓国の異常な行動の関係です。中国の行動次第では高市内閣が長期政権となるかもしれません。もっとも、高支持率だと懸念も生じてきます。

安倍政権の「引き立て役」としての韓国

本稿ではちょっと不謹慎なことを申し上げます。

高市早苗総理大臣は故・安倍晋三総理大臣と同様、長期政権への道に突入しつつあるのかもしれません。

なぜ、そんなことが言えるのか―――。

あくまでも著者の主観ですが、安倍総理のころは、「わかりやすい引き立て役」がいたからです。

その「わかりやすい引き立て役」のひとつが、韓国です。

日韓諸懸案を「一度に包括的解決」することはできない』などを含め、以前からたびたび言及している通り、韓国が日本に対して仕掛けてきていた不法行為は、限度を越えていました。当時取りまとめた「韓国の対日不法行為一覧」などを見ていただければ明らかでしょう(図表)。

図表 韓国の日本に対する不法行為の一覧

©新宿会計士の政治経済評論/改変しない限り引用・転載自由

朴槿恵・文在寅両政権時代の対日不法行為

図表は大きく6つの区分に分かれており、①竹島、②自称元慰安婦、③自称元徴用工という特に大きな3つの問題を独立に扱っているほか、④で李明博(り・めいはく)、⑤で朴槿恵(ぼく・きんけい)、⑥で文在寅(ぶん・ざいいん)の各大統領の時代に韓国が起こした不法行為の例を列挙しています。

なお、最近になって、韓国の対日不法行為は(懸案が解決したわけではないにせよ)ある程度、鳴りを潜めています。

これについては『鈴置論考で読む…韓国が脇の堅い高市総理を嫌がる理由』などでも取り上げたとおり、現在の李在明(り・ざいめい)政権が高市総理を嫌がっていることは間違いないにせよ、韓国側にも日本に逆らえない状況が生じてしまっている、といった背景があることは間違いありません。

ただ、この図表に示した韓国の対日不法行為、とりわけ朴槿恵政権以降のものは安倍総理の時代に発生したものが多い、という点に注意してください。第二次安倍政権は2012年12月26日から2020年9月16日まで2822日間続いたからです。

当時、著者も含めた多くの日本人は、日本政府の「弱腰」に苛立ちを覚えないではなかったものの、それでも度重なる韓国の不法行為に対し、韓国と同じ土俵で戦わず、あくまでも国際社会のルールに従ってオープンベースでトラブルを処理しようとしていた安倍総理を支持していたのではないでしょうか。

持病再発がなければ長期政権になっていた可能性も!

韓国が発生させた不法行為の多くは結局、安倍総理の時代には解決せず、安倍総理の下で官房長官を務めていた菅義偉総理大臣に引き継がれるも、菅総理も2021年10月4日までの384日で退陣。

あとを引き継いだ「脇の甘い政治家」である岸田文雄首相(当時)が自称元徴用工問題でいわゆる「岸田ディール」という中途半端な解決策で韓国と妥結したのです(※ちなみに自称元徴用工問題は解決していません)。

ただし、当時の尹錫悦(いん・しゃくえつ)大統領は任期を全うせず、今年4月に罷免されており、日本の側も岸田元首相が退陣し、石破茂・前首相が就任したものの1年あまりで退陣し、現在の高市総理に至っている、といった経緯については、読者の皆さまも良くご存じのことでしょう。

この点、安倍総理が退陣した理由は、持病の潰瘍性大腸炎の悪化によるものですが、(歴史にIFはないものの)仮に安倍総理の持病が再発しなかったとしたら、どうでしょうか。

おそらく、安倍総理は自民党総裁としての3期9年の任期を全うしていたに違いありません。

当然、岸田元首相や石破前首相が政権を握るような事態も生じていなかった可能性も高いですし(※これは著者の私見です)、場合によっては安倍総理から直接、高市総理に政権が移行していたという可能性すらあると思う次第です。

そして、安倍総理が強かったのも、(中途半端ながらも)「アベノミクス」で雇用を回復させ、日本経済を再生に導いたこともさることながら、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」に裏打ちされた価値外交を展開したことに加え、さらには「韓国」という引き立て役がいたためではないか、などと思うのです。

くどいようですが、著者などは当時、安倍総理の「国際ルールに従った日韓諸懸案の解決」というアプローチに、むしろもどかしさを覚えていたクチですが、当時の安倍総理の「国際社会を巻き込む」、「韓国と同じ土俵には立たない」という大原則、後になって振り返ってみれば、日本にとっては正解だったと考えているのです。

順調に高市内閣の引き立て役になりつつある中国

そして、安倍総理にとっての韓国が、高市総理にとっての中国、という仮説が成り立つのではないでしょうか。

相手国が日本の自衛隊機に対し、火器管制(FC)レーダー照射を行うという非常識極まりない事件が発生したことも共通しているならば、その後の相手国の常軌を逸した行動もまた共通しているからです。

本稿で取り上げておきたい話題がいくつかあるとしたら、そのひとつがこれです。

いくつかのメディアが同じ話題を取り上げていますが、ここでは産経の記事を紹介しておきます。

産経は、中国の王毅(おう・き)外交部長官(外相に相当)が8日、北京でドイツのヨハン・ヴァーデフール外相と会談した際、「日本の指導者」(高市総理のことでしょうか?)が「でたらめな発言をした」などとして一方的に非難した、などと伝えています。

これ、まさに安倍総理の時代に韓国が米国や欧州諸国に対し、「日本ってこんなひどい国だ!」、などと宣伝して回っていたころを思い出し、ひとり苦笑してしまいます。

欧米メディアは中国に対し冷ややか

しかも、そのドイツといえば、今年7月に紅海で欧州連合(EU)の作戦に参加していた同国軍機が中国軍官からレーザー照射を受けたとする苦情を申し立てた、まさにその当事国でもあります。

ドイツ、軍用機が「中国軍艦からレーザー照射受けた」 中国は否定

―――2025年7月10日付 BBC NEWS JAPANより

王毅氏からの「告げ口外交」にヴァーデフール外相がどんな反応を示したのかについてはよくわかりませんが、少なくともドイツが「はい、わかりました、日本が悪いですね!」と同意するとも思えません。

実際、現時点ではまだ報道ベースではあるものの、いくつかのメディアを眺めていると、中国海軍が今月6日に起こしたとされる海自機に対するFCレーダー照射事件は、おおむね中国の行動を非難する意見が広まっているのだそうです。

たとえば日経電子版は9日、独仏両国で「安全保障政策の有識者」にインタビューを行ったとする記事を掲載。この問題について「中国の覇権主義を警戒する欧州の安全保障にとっても無縁ではない」、などと指摘しています。

また、英紙『ガーディアン』も月曜日、この件について取り上げています。

Japan PM vows ‘resolute’ response after Chinese aircraft accused of locking radar on to Japanese fighter jets

―――2025/12/08 04:14 GMT付 The Guardianより

『ガーディアン』は記事の中で、FCレーダー照射が実質的な攻撃の可能性であり、標的となった航空機はこれを回避する行動を取らなければならなくなるなど、大変に危険な行為だと指摘しています(原文は以下の通りです)。

A fire-control radar lock is one of the most threatening acts a military aircraft can take because it signals a potential attack, forcing the targeted aircraft to take evasive action.

少なくともFCレーダー照射の件で、明示的に中国政府を擁護している西側メディアは(著者が見たところは)まともな主要メディアにはほとんど見当たりません(※といっても、西側諸国にはさまざまなメディアがあるため、おかしなメディアならば中国を擁護するという可能性はありますが…)。

ちなみに、日本でも(著者自身が)「限界左翼」と呼んでいる人たちを中心に、Xなどで「中国を怒らせるな」だの、「日本が中国と交戦すれば日本など数日で陥落する(から中国を刺激するな)」だの、「事態を悪化させた高市(総理)は辞めろ」だのといった情報発信が相次いでいます。

このあたりも、安倍総理の時代に日本国内で一部のメディア、あるいは一部の限界左翼などから「日本は韓国に譲歩しろ」などとする主張が出てきていたのと事情はよく似ています(要するに、日本を貶めるネタであれば何でも良い、ということでしょうか?)。

いずれにせよ、高市総理は安倍総理のころと同じく、国際法に則り、粛々と手続きを進めて行けば良い話であり、また、その過程で密室ベースを避け、交渉過程などについても可能な限り国民に対しオープンな姿勢を取るべきです。正直、それだけで、内閣支持率は当面高止まりするのではないでしょうか。

懸念は高支持率にかまけて変な政策が罷り通ること

もっとも、本稿の締めに、現状への懸念点についても指摘しておきます。安倍総理のころもそうだったのですが、外交面で支持率が高止まりしやすい時期は、内政、とりわけ経済政策が疎かになる、あるいは官僚のずさんな政策が通りやすくなることにも警戒が必要です。

なにせ、あの科学的根拠を欠き、悪名高いレジ袋有料化政策がゴリ押し的に施行されたのは、2020年のことでしたし、安倍政権時代には消費税が2度にわたって増税されていますし、社会保険料も毎年のように引き上げられていたことを忘れてはなりません。

当ウェブサイトでは何度も申しあげていますが、著者としてはアベノミクスは金融政策ではそこそこの成功を収めたものの、財政政策で初志貫徹できなかったと考えており、高市総理が「責任ある積極財政」を掲げたのはこの反省に立ったものであると理解しています。

しかし、肝心の「中身」については、やはり心もとないところです。

当ウェブサイトでは高市内閣発足の少し前からしばしば指摘してきたとおり、高市総理自身、減税に対してはあまり積極的姿勢が見られず、この点については不安材料として残るところでもあります。

つまり、中国の対日不法行為などを要因に内閣支持率が高止まりすることは、高市総理と高市内閣に対し、「減税に後ろ向きであっても国民は許してくれる」、という誤解を与えることにもつながりかねません。

したがって、やはり私たち国民としては、良い政策には「良い」、悪い政策には「悪い」と、是々非々でハッキリと意思表明していく姿勢が大事ではないでしょうか。

幸いにも私たちが生きるこの社会、ネットの影響力は日増しに高まっています。

自由・民主主義社会とは、自由な言論と民主的な投票によって社会をより良くしていく仕組みのことであり、言論と投票は私たち一般国民が担って行くべきものであって、決して官僚やマスコミ、あるいは政治家に丸投げして良い話ではないことを、改めてお伝えしておきたいと思う次第です。

新宿会計士: