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ウェブ契約は新聞部数落ち込みをカバーできているのか

政府、与党、政治家などがダイレクトに情報発信を始めたことで、新聞業界がますます苦境に追い込まれていることは間違いありません。もともと新聞は紙面の制約上、情報を「早く、正確に、詳細に」伝えるという機能が弱かったのですが、この「速報性・正確性・詳報性」では、ネットに全く勝てなくなったのです。ただし、新聞社が活路を見出すとしたら、その取材力に基づく独自の分析です。紙媒体がなくなってもネットで勝負できる可能性は、どこまであるのでしょうか。

メディアは今後10年で経営破綻が相次ぐ?

著者は、新聞、テレビを中心とするオールドメディアを巡り、早ければ10年以内にも経営破綻する事例が数多く出てくると考えている人間のひとりです。

もちろん、企業によってはそれなりに財務体質も良く、メディア業という本業で多少の赤字が続いても、経営が揺らがないというケースもあります。とくに一部の企業は優良な不動産物件や子会社株式・関連会社株式などを資産として保有しており、潤沢な賃料・配当収入を得ているからです。

しかし、こうした優良資産をすべてのメディアが保有しているわけでもありません。

すでに一部の企業は減資して「税法上の中小企業」となり、税制優遇を受け始めていたりもしますし、なかには低収益にも関わらず純資産を上回る繰延税金資産を計上している事例もありますし、また、新聞印刷工場の更新資金として公的な低利融資を受けているなどの事例もあるようです。

新聞業界はとくに苦しい

ただ、とくに新聞業界の苦境は、いっそう明らかになってきました。

たとえば先日の『高市時代を象徴するメディア危機』でも取り上げたとおり、(公財)新聞通信調査会の最新の調査によると、直近(2025年)の新聞購読率は5割と調査が始まった2008年度(88.6%)以来の最低を記録しています。

また、当ウェブサイトでよく取り上げるとおり、(一社)日本新聞協会が公表する新聞部数のデータについても、最盛期と比べて半分以下に落ち込んでおり、とりわけコロナ禍以降は新聞部数が毎年数百万部というレベルで落ち込んでいます(図表1)。

図表1-1 新聞部数の推移(セット部数を1部とカウントした場合)

図表1-2 新聞部数の推移(セット部数を2部とカウントした場合)

(【出所】一般社団法人日本新聞協会データをもとに作成【※1999年以前に関しては『日本新聞年鑑2024年』、2000年以降に関しては『新聞の発行部数と世帯数の推移』】。「合計部数」は朝夕刊セット部数を1部とカウントした場合、2部とカウントした場合の両方のパターンで示している)

同協会のデータでは、朝夕刊セット部数を1部とカウントする方法と、セット部数は朝刊・夕刊1部ずつ、合計2部とカウントする方法がありますが、いずれの方法によったとしても、新聞部数が猛烈に落ち込んでいることに違いはありません。

紙媒体の限界:速報性、正確性、詳報性

これについては紙媒体としての新聞の限界だけでなく、人々が情報を得るのにインターネットを活用するようになった、という事情も大きいでしょう。そうなると、新聞には速報性も、正確性も、詳報性もないことがバレ始めてきたのです。

ちなみにこれは、新聞業界を腐して言っているわけではありません。

そもそも紙媒体だと、情報が紙に印刷されて物理的に各家庭に配られるため、記者が書いた情報が読者の目に入るまで何時間ものタイムラグがありますし、物理的に紙に収まる情報量としなければならないため、情報が要約され、不正確なものとなりがちです。

  • 速報性…紙媒体だとどうしても印刷・配達などで時間がかかる
  • 正確性…紙面の都合上、情報を端折らざるを得ないことがある
  • 詳報性…紙面の都合があり、詳しく伝えられないことがある

著者自身もかつて新聞からインターネットの書き込みを無断転用されたことが何度もありますが(※といっても、ネットに書き込んだ情報について、いちいち著作権侵害を申し立てるつもりなどありませんが)、これも文字数の制約から、紙面に情報源まで書き込めない、といった事情もあるのかもしれません。

ネットには速報性も正確性も詳報性もあり得る

こうした紙媒体の制約を踏まえると、ネットの利便性は、明らかでしょう。

まず、書いた記事が公開されてから読者に届くまでのリードタイムがほぼゼロ秒になりました。いちいち紙に印刷したり、それを配送したり、といったまどろっこしいプロセスを経ないからです。しかもネットの場合は紙面と異なり文字数の制限が緩いため、詳細かつ正確に報じることができるのです。

昨今のテクノロジーの進化により、写真や音声、動画などを同時配信することができるようになりました。読者にとっては記事の文章を読み、補足説明するための動画を同じページで確認したりできるのです。

  • 速報性…ネットだと印刷・配達の必要がないため情報が速い
  • 正確性…紙面の都合がなく、動画などとあわせて正確に発信できる
  • 詳報性…紙面の都合がなく、文字起こしした全文が収録できる

これを実践しているケースとしては、最近の自民党広報の事例があります。たとえば自民党広報は最近、政調会長などの要人の会見について、動画に加えて文字起こししたものを公開しています。

<blockquote class=”twitter-tweet”><p lang=”ja” dir=”ltr”>小林鷹之政調会長ぶら下がり <br>日米首脳会談をうけて<br> ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ <br>【冒頭発言】2025年10月28日(火)<br><br>高市総理とトランプ大統領による対面としては初めての日米首脳会談が行われました。… <a href=”https://t.co/Irw0DjMF9Z”>pic.twitter.com/Irw0DjMF9Z</a></p>&mdash; 自民党広報 (@jimin_koho) <a href=”https://twitter.com/jimin_koho/status/1983129936610373646?ref_src=twsrc%5Etfw”>October 28, 2025</a></blockquote> <script async src=”https://platform.twitter.com/widgets.js” charset=”utf-8″></script>

動画で視聴しながら書かれている文字を読む、といった、新聞(やテレビ、ラジオ)にはない情報の取り方ができる、ということです。

こうした動画、ポッドキャストなどを併用した情報発信は、新聞、テレビを含めたオールドメディアの相対的な優位性を大きく引き下げるだけではありません。与党や官庁、高市総理を含めた政治家などがわかりやすく情報を発信することで、情報の中間業者としてのメディアの役割が落ちていくのです。

主観的意見の解説に活路を見出すしかない

このように考えたら、オールドメディア各社が今後、付加価値をアピールするのも、なかなかに大変です。

普段から指摘しているとおり、報道には「客観的事実」と「主観的意見」という二面性がありますが、与党、官庁、政治家などが直接に正確で詳細な一次情報を迅速に出し始めたことで、このうち「客観的事実」の部分では、オールドメディアが勝てる余地がほぼなくなりつつあります。

ということは、「主観的意見」、つまり時事情報の解説などに活路を見出すしかありません。

この点、著者に言わせれば、オールドメディアが評論の世界で勝負する余地は十分にあると思います。

たとえば国内政治に関していえば、自民党を含めた主要政党の派閥の相関関係や主要政治家の票田、衆参両院における選挙の仕組みといった基本的な知識を持ち、政治家の動きを丹念に追いかけていくことで、政界の動向を早読みすることができるかもしれません。

また、経済全般に関していえば、マクロ経済学の基礎知識(とくに金利、貨幣供給、インフレ率など)を持ちつつ、現在の日銀の金融政策や政府の財政政策、国家予算やGDPなどに関する統計をもとにして、政策動向についてコメントすることも可能です。

なにより、面白い記事であれば読者から喜ばれると思いますし、あくまでも個人的な感想ですが、一見、どこにでも落ちているような素材でも、着眼点が素晴らしければ、目からウロコが落ちるような面白い記事ができることもあります。

『日刊SPA!』が27日付で配信したこんな記事などは、その典型例でしょう(敢えて中身については触れませんが、内容は大変おもしろいので、ぜひ読んでみてください)。

「東京駅発」の新幹線、「品川駅」で降りる人は一体なぜ?8人に直撃してみたら、いろんな人生があった

―――2025年10月27日 08:54付 日刊SPA!より

世の中がどんなにAI化したとしても、こうした「ちょっとした素材」をうまく発展させるような記事は貴重であり、その意味で、紙媒体の新聞(や雑誌)がなくなったとしても、面白い記事を書ける人、専門的な知識に基づく正確な分析ができる人などへの需要がなくなることは絶対にない…はずなのです。

最新部数データ…朝日新聞の場合

このように考えると、「紙媒体」自体は消滅する方向にある、という点はほぼ間違いないと思う反面、新聞社(や雑誌社など)の社会的機能自体が同様に消滅するとまで断言するのは、少し言い過ぎです。

それなりに高付加価値な情報へのニーズがなくなることはないはずですし、何なら紙媒体の新聞がなくなるのをカバーできるだけの有料版のウェブ契約が増えれば、新聞業界がなくなることもないはずだからです。

こうした観点から個人的に注目している材料がいくつかあるのですが、そのひとつが、株式会社朝日新聞社が公表している『朝日新聞メディア指標』です。同社はこれを半年に1度公表しており、これを見れば、朝刊部数に加えデジタル版有料会員数を知ることができます(図表2)。

図表2 朝日新聞朝刊部数とデジタル版有料会員数
時点 朝刊部数 有料会員数 合計
2022年12月末 383.8万 30.5万 414.3万
2023年3月末 376.1万(▲7.7万) 30.5万(±0.0万) 406.6万(▲7.7万)
2023年9月末 357.3万(▲18.8万) 30.3万(▲0.2万) 387.6万(▲19.0万)
2024年3月末 343.7万(▲13.6万) 30.6万(+0.3万) 374.3万(▲13.3万)
2024年9月末 334.9万(▲8.8万) 30.3万(▲0.3万) 365.2万(▲9.1万)
2025年3月末 326.7万(▲8.2万) 30.2万(▲0.1万) 356.2万(▲9.0万)
2025年9月末 320.0万(▲6.7万) 30.8万(+0.6万) 350.8万(▲5.4万)

(【出所】株式会社朝日新聞社ウェブサイト『「朝日新聞メディア指標」を更新』および同社の過年度発表値をもとに作成)

図表2は、株式会社朝日新聞社が昨日までに公表した直近のメディア指標のうち、朝刊部数、有料会員数を拾ったもので、あわせて同社のウェブサイトから、この指標の公表が始まった2022年12月以降のものを示しています。

これによると、2025年9月末時点における紙媒体の新聞の部数(ABC部数)についてはちょうど320万部で、半年前の3月末時点と比べ、さらに6.7万部落ち込みました。減少のペースは緩やかになっているとはいえ、落ち込みが続いていることは間違いありません。

朝デジ有料会員は増えたが…30万人台を行ったり来たり

ただ、もうひとつ着目すべきは、朝デジの有料会員数です。

2025年9月末の会員数は30.8万人と、3月末の30.2万人と比べざっと6,000人ほど増えた計算ですが、それだけではありません。朝デジ有料会員数は2022年12月時点で30.5万人、これまで最大だった2024年3月末で30.6万人でしたので、公表されている数値に関しては過去最大です。

朝デジ有料会員数がこのまま順調に増えて行けば、新聞社が紙媒体の新聞発行をやめても円滑にウェブ契約に移行できる、という、日経新聞などと並ぶひとつのモデルケースとなり得るかもしれません。

ただ、懸念点もいくつかあります。

たとえば朝デジ有料会員数については、指標の公表が始まって以来、30万人台で行ったり来たりしています。今回は前回比で増えていますが、過去のデータは増えたり減ったりを繰り返しながらも30万人台でほぼ安定しており、今後、これが急増する(たとえば2倍に増えたりする)可能性はなかなか見えません。

これに加えて、図表2の「合計」欄にも注目が必要かもしれません。

新聞の部数の落ち込みは、少しずつ緩やかになっているとはいえ、それでも2025年9月時点では半年前と比べて6.7万部減っており、朝デジ有料会員数が0.6万人増えたとはいえ、合計したら350.8万件と、3月末の356.2万件と比べて5.4万件減っているのです。

中小・地域紙はどうなるのか?

しかも、これは読売新聞や日経新聞などと並ぶ大手である朝日新聞の事例であり、その朝日新聞でさえ紙媒体の部数の落ち込みをデジタル版でカバーできていないという状況を見るに、デジタル版契約数自体を公開していない中小・地域紙などはいったいどういう状況になっているのか、気になるところです。

ただ、朝日、日経などの大手を除き、こうしたウェブ契約数が「ほとんど公表されていない」という事実を見るに、現在の新聞業界の状況は「推して知るべし」、といった状況なのかもしれませんが。

新宿会計士:

View Comments (11)

  • 毒まんじゅうを売り方を変えたからと言って売れるわけがない。
    売りたいなら商品自体の改善が必要ですが、、、まぁ出来ないでしょうね。

  • ネットメディア興亡史にあっては 2023 年5月に起きた Vice Media の Chapt 11(事実上の倒産)を想起します。
    Vice Media による表向ききらびやかな経営規模の連続拡大は、アメリカビジネスに特徴的な行き過ぎた買収ゲームの結果であり、Vice Media 社の経営実態にはリバレッジ(将来を楽観視した見込み経営)を利かせ過ぎた華燭体質がありました。
    以下はググる英文検索が返して来た作文を DeepL 邦訳したものです。
    - 過剰債務:Viceは積極的に外部資金を調達し、2023年5月までに8億3400万ドル以上の負債を積み上げた。ケーブルチャンネル「Viceland」の立ち上げを含む同社の拡大は収益成長を上回り、過大な負債を抱える結果となった。
    - 失敗した取引:共同創業者シェーン・スミスは、安定した財務基盤の構築よりも、ブランドのイメージや「雰囲気」を売り込んで巨額の投資を確保することに注力することが多かった。特筆すべき失敗として、同社は2016年、企業価値がピークに達する1年前にディズニーからの35億ドルの買収提案を拒否したと報じられている。
    - 上場失敗:バイスは2021年、特別目的買収会社(SPAC)を通じた上場を試みたが、こうした取引の市場が冷え込んだため計画は断念された。

    致命傷になったのは、武漢肺炎世界疫病の流行により米国社会で WFH(自宅ネット勤務)が広まる一方、売り上げ減少の衝撃に備えるため産業横断的に企業が不要不急の経費支出打ち切りに走った。ネット広告こそその最たるものであった。よって Vice Media 傘下のオンラインネット出版サイトが揃って営業不振に陥ったらしいのです。ネットのお客は一瞬で逃げて行く。身につまされる逸話です。

  • 長男は結婚してからも新聞を購読してません。

    小学生の孫が学校から社会見学として○○新聞社工場見学に行きました。
    これから消える産業の社会見学かな?
    いい思い出になるではと思った次第です。

    因みに長女も次男も新聞を購読してません。

  • 左翼が何を考えているのかを推し量るうえで、新聞が「何を報道しなかったか」と「報道にどのような角度を付けたか」はとても参考になる重要な情報だと思います。

  • 日本経済新聞社は、売り上げを伸ばす一方で利益が減少した報じています。構造転換を意図して積極的な支出を行っている企業で起きる会計パターンに外見上似ています。安定経営できようになれるかは紙のみぞ知る。

  • 一つ前の投稿コメントで書きましたが、当面は記者会見などの生映像を通してマスコミメディア記者を監視、笑い飛ばすのが一般人のエンターテイメントになる予感がします。でも、呆れ諦め飽きてそのうちマスコミメディア全体への興味がなくなり完全に見捨てられる予感がします。
    インターネット配信を必須業務とした上で契約者以外の配信を閉ざしたNHK。朝日新聞と同様、オンライン契約者の契約者数の低位頭打ちとなるのか。
    興味津々です。情報公開しなければそう言う事でしょう。

  • 当面は不動産事業で息をつき、AIのテキストデータベースに全力で取り組むことになるのではと、楽観的に考えています。経営陣に理解する能力と行動力があればですが。LLMは、ハルシネーションが問題とされていますが、RAGと知識グラフで解決できるかどうか。RAG、知識グラフともに大量のテキストデータが必要であり、正しい日本語で文章を書くのが得意な新聞社の記者の方々の新しい仕事になります。一番わかり易いのが、カタログのAI化です。どの業界、企業でも必要になり、この人手不足の時代、新聞記者の方々が引く手あまたになるのではと考えています。

    • 「良い記者とは辞めた新聞記者のことだ」
      魔法で豚の姿に変わってしまった元エース記者談

    • あの業界、AIに膨大な偽情報テキストデータを流し込むのを狙っているのでは。未来永劫、日本と日本国民を腐し貶めるために。

    • Wiki 記事の内容は左へ向かって傾いており、生成 AI が偏向捏造文章をもとに偽情報をネットに拡大しているとして、マスクがアンチ Wiki を始めたのだそうです。
      一般に母国語の Wiki は充実していますが、多国語とくに英語版が貧弱だったり、また逆だったりします。ですから、国際的な事象・事件・史実の Wiki は少なくとも英語版を表示させてみて、日本語とどれだけ一致しているか確認すべきです。当方が知っている日英 Wiki 齟齬のひとつは、ドバイに関してインド人が作った世界一清潔な町と呼ばれているとの記述が(当方が比較確認をとった時には)英語版には見当たりませんでした。