高市早苗総理大臣が誕生する可能性が高まりました。昨日行われた自民党総裁選で、高市早苗氏が決選投票を制し、自民党の次期総裁に選ばれたからです。ただ、自公両党は衆参両院で過半数を持っておらず、土壇場で逆転される可能性もゼロではありませんし、総理に選ばれても政権運営は一筋縄ではいきません。とりあえず予算を通したければ野党との連携が必要になるからです。なにより現在の自民党は、「首の皮一枚つながっている」に過ぎません。

高市総裁が就任したが…

決選投票を制した高市総裁

当ウェブサイトの読者の皆さまならご存じでしょうが、昨日、石破茂首相（自民党前総裁）の退陣に伴う自民党の総裁選が行われ、高市早苗氏が決選投票を制して総裁に選ばれました。記録の意味も兼ねて投票結果を示しておくと、こんな具合です（図表１、図表２）。

図表１　第１回投票結果（敬称略、合計順）

候補者	議員票	党員票	合計
高市早苗	64	119	183
小泉進次郎	80	84	164
林芳正	72	62	134
小林鷹之	44	15	59
茂木敏充	34	15	49
合計	294	295	589

（【出所】自民党総裁選中継動画等）

図表２　第２回投票結果（敬称略、合計順）

候補者	議員票	都道府県連票	合計
高市早苗	149	36	185
小泉進次郎	145	11	156
合計	294	47	341

（【出所】自民党総裁選中継動画等）

これにより、高市早苗氏は昨日、晴れて自民党総裁に就任しました。

ただし、臨時国会が召集される15日までの間は、石破茂氏が引き続き首相を務め、首相と自民党総裁が別人という「総総分離」状態が続きます。

首の皮一枚の自民党

さて、高市総裁が選ばれたことで、とりあえず自民党は「禁忌肢」を回避した格好だとはいえます。

ただ、これについてはあえて語弊を恐れずに申し上げると、自民党は「首の皮一枚でつながった」、といったところでしょう。当ウェブサイトでは「党員票で圧倒的多数を占めた高市氏を、またしても国会議員票で逆転させて落選させようものなら、今度こそ本当に自民党は終わる」、などと申し上げてきたからです。

つまり、自民党は昨日、明らかな禁忌肢を落として高市総裁を選んだ格好ですが、図表２でもわかるとおり、小泉氏は議員票で145票を取っており、議員票に限定していえば結構際どい勝利だった格好です（都道府県連票では36票を獲得していますが…）。

この期に及んで高市氏に投票しなかった議員が145人もいたというのは、個人的には、素直に驚きます。昨年９月の総裁選で石破茂氏に投票した議員が189人もいたことを思い出します。

この点、自民党は総裁選が終われば「ノーサイド」となり、一丸となって新総裁を中心にまとまるのが特徴とされていますし、それはそれで自民党の伝統ですので、自民党の自由にしていただければ良いと思います。

しかし、岸田文雄・前首相の時代から、国民が望まない政策（たとえば厚年保険料の増税や子ども・子育て支援金制度の創設など）が続いていたこと、石破首相がそれらの政策を継続したことなどを踏まえると、やはり昨年石破氏に、今回小泉氏に投票した議員には、何らかの落とし前を付けていただきたいところです。

ただし、このＳＮＳ時代ですから、自民党が高市総裁を選んでお終い、、ということにはならないでしょう。

たとえば次の衆院選も、同じ自民党候補であっても、「岸田・石破・小泉系」の人たちなどを中心に、さまざまな不祥事が伝えられた人たちは、かなりの苦戦が予想されます（世襲議員など、よっぽどの地盤があるケースは別ですが）。

とりあえず自民党には高市総裁を中心にまとまり、一丸となってこの国難に当たっていただきたいとは思いますが、それと今回の混乱の原因を作った議員たちを今後も有権者が許すかどうかはまったく別の問題であると述べておきたいと思います。

自公両党は過半数に足りない

ただ、話はそれだけではありません。

高市総裁がすんなり総理に選ばれるとは限りませんし、総理に就任したとしても、彼女が考える政策がすべて実現する保証もありません。以前から繰り返し指摘している通り、そもそも論として、自民党とその友党である公明党は、衆参両院でともに過半数を割り込んでいるからです。

まず、参院側では自民100議席、公明21議席で合計121議席であり、過半数ラインである125議席には４議席足りません。

４議席くらいならばなんとかなる、という考え方もないではないのですが（たとえば夏の参院選で和歌山選挙区を制したにもかかわらず、自民党を除名された望月良男氏に対し謝罪したうえで自民党への復党を要請するなど）、それでもまだ３議席不足します。

また、議長は自民党が出しているため、議長票を期待するならば、124票でもなんとか法案を通せなくもないという考え方もあるのですが（日本国憲法第56条第２項に規定する、いわゆる「議長決裁」）、そうだとしてもまだ２議席不足しているのです。

日本国憲法第56条第２項

両議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。

いずれにせよ、２～４議席程度であれば、何とかならなくもないものの、話はそれだけではありません。もっと困った状況にあるのが、衆院だからです。衆院側では自民196議席、公明24議席で合計220議席であり、過半数ラインである233議席には13議席届きません。

衆院の13議席不足は深刻な状況

13議席といえば、「何とかなる」という甘い見通しを立てられる水準ではありません。

しかも、野党が非常に強く、そもそも（会派ベースで）立憲民主党が148議席、日本維新の会が35議席、国民民主党が27議席で、この有力３野党だけで合計210議席と自公に迫る勢力を持っていることは見過ごせません。

有力３野党の側も（過半数には23議席足りないとはいえ）勢力としては自公と遜色ありませんので、もしこの３党が連携すれば自公政権を脅かす存在となり得ますし、３党連合に他の野党が加われば、自公が反対しても法案が通ってしまう可能性すらあります。

いちおう、すでに行われた３党の協議で、少なくとも日本維新の会と国民民主党の両党が首班指名選挙で立憲民主党に協力することはない（らしい）ということがほぼ確実視されていますが、それでも首班指名選挙で確実に総理に指名されるというものでもありません。

この点、自然に考えて現在の立憲民主党を中心に他の有力政党がまとまるという可能性は非常に低いとも考えられるため、現時点では高市総裁が石破首相の次の総理に指名されることはほぼ確実だとはいえます（よって、本稿では以下「高市総理（仮）」とでも呼びたいと思います）。

それでも過半数に13議席も足りないわけですから、高市総理（仮）が就任したとしても、高市内閣が提出する予算案がそのまますんなり通ると考えない方が良いでしょう。

もちろん、高市総理（仮）にとっては「衆院を解散する」という選択肢もないわけではないですが、自民党が確実に勝てるという保証はありませんし、スケジュール的にも困難です（まさに、石破首相が辞めずに２ヵ月以上居座ったことの弊害そのものです）。

だからこそ、高市総理（仮）が衆院解散という選択肢を取らない場合は、予算や各種法案を通すためには、過半数に足りない衆院13議席、参院４議席を埋めるために、野党と連携しなければなりません。

国民民主との連携ができるか

衆院の13議席を踏まえたら選択肢は２つに絞られる

では、どこの政党と連携すべきでしょうか。

図表３　衆院13議席、参院４議席を埋められる相手は？

政党・会派	衆院	参院
立憲民主党	148	42
日本維新の会	35	19
国民民主党	27	25
れいわ新選組	９	６
日本共産党	８	７
参政党	３	15
日本保守党	２	２
有志の会	４	―
改革の会	３	―
沖縄の風	―	２

（【出所】衆院『会派名及び会派別所属議員数　令和７年９月29日現在』および参院『会派別所属議員数一覧　令和７年10月３日現在』をもとに作成）

図表３に示した野党は主要政党のみであり、また、無所属は含んでいません。

結論的にいえば、連携すべき対象は、上位３政党に限られます。

参院側の３～４議席程度であれば、参政党や保守党など、いくつか候補はあるのですが（これに加えて無所属議員、たとえば安野貴博氏や先ほど挙げた無所属の望月氏などと連携しても良いかもしれませんが）、衆院側ではそういうわけにはいきません。

足りない13議席を手当てするためには、現実的には、小規模政党と組んでもあまり意味がないからです。

たとえば、参政党は先の参院選で大きく躍進し、勢力を15議席に増やしましたが、これは参院側の話であり、衆院側では３議席しか持っていません。ですので、自民党が参政党と組んだとしても、衆院側では依然、10議席足りないのです（同じ理由で、日本保守党も連携対象候補とはなりません）。

また、立憲民主党、れいわ新選組、日本共産党は思想的に見て（とくに高市「総理」が率いる）自民党とは相容れないと考えられるため、連携対象から除外されますので、結論的には、自民党が連携を模索すべき相手は、日本維新の会か国民民主党のどちらかしかあり得ません。

実際、石破内閣も、今年度予算案については維新と組んで通していましたし、これに加えて昨年末ごろからは国民民主党と政策協議をしていました（言い換えれば、自民党は維新、国民を両天秤にかけた、ということでもあります）。

したがって、高市総理（仮）にとっても、連携相手の筆頭候補は維新、国民両党ということでしょう。

玉木氏「約束守らぬ石破政権とは協力できない」

ただ、著者としては、その最も有力な連携候補のひとつが国民民主党だと考えています。

ここで参考になり得る情報が２つあるとしたら、ひとつはこれです。

国民・玉木代表「約束守らない政権とは協力できない」石破首相の続投を疑問視「参院でもノー」「与党内で政局が起きてくる」

―――2025年7月21日 13:03付　ＦＮＮプライムオンラインより

「約束守らない石破政権とは協力できない」国民・玉木代表が立場表明

―――2025年8月4日 10時15分付　朝日新聞デジタル日本語版より

国民民主の玉木代表、「石破政権とは協力できず」　続投を疑問視

―――2025年7月20日22:56 GMT+9付　ロイターより

今年７月の参院選の直後、国民民主党の玉木雄一郎代表は複数のメディアなどを通じ、石破政権との協力を巡っては所得税等の「年収の壁」やガソリン税などに関し、「約束を守らなかった」などとしたうえで「協力はできない」と複数回述べています。

これについては玉木氏、あるいは榛葉賀津也・国民民主党幹事長らが何度も繰り返していますので、石破政権の「次の政権」も同じ態度を取るならば、少なくとも国民民主党が自民党に協力してくれるという可能性はありません。

（余談ですが、これが『石破首相が居座りたければ自公維連立くらいしかない？』でも述べた、「石破首相居座りからの自公維連立」という発想です。）

高市氏は三党合意の履行を名言

一方で、もうひとつ重要な手がかりがあるとしたら、これでしょう。

今回も高市早苗氏立候補演説を全文文字起こししてみた

―――2025/09/20 05:00付　新宿会計士の政治経済評論より

高市氏が総裁選に立候補を表明したときの演説の原文を読むと、こんな記述があります。

「私が一番実現したいこと、申し上げましたけれども、第一にいま最も急がなくてはならないのは、生活の安全保障です。これは物価高から暮らしと職場を守ることです。ガソリンと軽油の暫定税率を廃止していく、この取り組みとともに、地方財源も確保いたします」。

「また人手不足の中でも就労時間調整の一因となっている年収の壁を引き上げます。これは三党合意がございますから、しっかりとやります。働く意欲を阻害しない、そういう制度へと変えてまいります」。

高市氏は自身が総裁に就任した場合、自民党が公明党、国民民主党の各党と交わした約束（三党合意）を履行すると明言したのです。

「地方財源も確保いたします」のくだりが若干気になりますが（まさか減税の財源と称して増税したりはしないでしょうか？）、もしシンプルな減税をしてくれるのであれば、国民民主党としてもかなりやりやすくなるはずですし、自民党に協力しようという機運が生じてくるのではないでしょうか。

一筋縄ではいかない

これについてはもちろん、国民民主党が直ちに自公の連立に加わるというものではないでしょう。また、（これも想像ですが）国民民主サイドにも、自民党と連立を組むと取り込まれるという危機感はあるはずですし、高市総裁が総理に就任したら直ちに連立入りするというほどに政策協力は甘いものではありません。

それに、高市氏の党内基盤の弱さも気になります。

一部では、高市総理が就任すれば問題がすべて解決する式の期待感を表明する人もいますが、現実問題、図表１や図表２などでも見たとおり、高市氏は自民党議員から絶大な支持を受けたわけではありません。高市氏が自民党内をしっかり把握できるかどうかは別問題です。

これに加えて自民党の組織が弱体化したままという現象も気になります。

繰り返しですが、自民党は昨日の総裁選で「最悪の禁忌肢」を選ばなかっただけであり、首の皮一枚でつながっているだけです。もしかしたら近いうちに行われる（かもしれない）衆院選でも、自民党が勢力を回復できるという保証もありません（とくに自民党左派はＳＮＳで落選運動に晒されます）。

この点、自民党内の岸破路線を嫌い、国民民主党や参政党、日本保守党の「保守３党」（※）に流れた有権者が、高市総理（仮）の効果でいくぶんか自民党に戻ってくる可能性はありますが、少なくとも故・安倍晋三総理大臣の時代ほど自民党が勢力を回復するとは思わない方が良いでしょう。

（※なお、ここで国民、参政、保守の３党を「保守３党」と呼んだのは、あくまでも便宜上です。著者自身はこれら３党、特に後者の２つについては「保守政党」とは呼べないと考えているのですが、本稿の範囲からは逸脱しますので、論点としては割愛します。）

自民党を待つ平坦でない道

いずれにせよ、あくまでも個人的には、高市総理（仮）が長く在任してくれるかどうかではなく、日本の国益を真に考えてくれる政治家が、この国のさまざまな仕組みを改革してくれることを期待していますし、似たように考えている有権者も多いでしょう。

高市総理（仮）がその期待に沿った働きをしてくれるならば支持したいと思いますが、著者のスタンスは今までもこれからも「是々非々」です。高市早苗氏が総理だからという「だけ」で自民党政権を支持することはありませんし、賛同できない政策については当ウェブサイトでもしっかりと批判させていただきます。

首の皮一枚つながった自民党を待つ道は平坦なものではありません。

高市総理（仮）と自民党の今後には要注目です。