報道によると従業員に対して食堂で食事を提供する場合の上限額を引き上げることが検討されているそうですが、これに浜田聡・前参議院議員の公設秘書を務めた村上ゆかり氏が「そもそもこんな複雑な支援するのやめませんか?」と問題提起しました。まったくの正論です。そして、冷静に考えたら、税法には他にも複雑な仕組み、非合理な仕組みがたくさんあることも間違いありません。
目次
課税は法律で定める必要があるのだが…
「すべての税金は説明責任を伴う」。
これは、著者自身の持論です。
日本国憲法第30条によれば、私たち国民は法律に定められている限りにおいて、納税する義務を負うとされていますが、これこそが「租税立法主義」と呼ばれる考え方とされます。
日本国憲法第30条
国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。
租税立法主義とは、もちろん、「税金を課すためには国会で法律を決めなければならない」とする考え方であり、ありとあらゆる税金は国民から選ばれた国会議員が国会で決めることが原則であるとされます。
実質的権力を握る財務省
ただ、普段から当ウェブサイトにて指摘している通り、日本の税金は、事実上、財務官僚などが主導しているフシがあります。財務省は国のサイフをがっちりと握っているからです。
財務省と「国のサイフ」
- 入口=国税庁(徴税)
- 出口=主計局(予算)
- 中身=財投特会(円貨財源)
- 中身=外為特会(外貨財源)
こうした「国家のサイフの入口、出口、円貨財源、外貨財源」を同時に支配しているというのは、とても重要な構造です。財務官僚が並の国会議員を遥かに上回る政治的権力を実質的に持ってしまっているからです。
私たち国民から選ばれていないにもかかわらず、です。
実際、国民から評判が悪い消費税を巡っても、財務官僚らはこれらが自分たちの実質的な成果だと誇示しているフシがあります。わかりやすい証拠のひとつが、財務省の平成17年度版の採用情報に掲載された、『一緒にやらないか』と題した記事です。
一緒にやらないか(平成17年度版財務省採用情報)
―――2012年11月3日付 国立国会図書館アーカイブより
消費税は財務官僚による政治への介入の結果だった
これは現役財務官僚が書いたものですが、それらのなかでもとりわけ強烈なくだりを抜粋しておくと、こんな具合です(原文ママ)。
「年金問題に見られるように、将来世代の利益が代議制を通じては代表され難いこともある。そこで、我々が客観的な分析に基づいて政策主張し、合意形成に向けて説得に努めなくてはならない場面が多々出てくる。そして、実は多くの場合、その方向で成就する。勿論、消費税のように10年かかることもあるが。」
意訳すれば、「消費税のように説得が難航し10年かかることもあるが、民主主義に任せるのではなく、我々財務省が政策を立案して政治家を説得しなければならないことが多く、実際、我々が主張した政策が実現する」、といったところでしょう。
傲慢不遜そのものですし、まさに官庁による政治介入そのものです。
この「国民が選んだわけではない者たちが実質的に大きな権力を持ってしまっている」という状況が妥当なのかどうかについては、国民的な課題として、よく考える必要があります。くどいようですが、わが国は民主主義国家であり、私たち国民の総意でクビにすることができない存在が大きな権力を持つ構造は危険だからです。
じっさい、2009年に私たち日本国民は政権交代を選び、自民党が下野して民主党政権が発足したのですが、消費税(+地方消費税)の合計税率が5%から8%、10%へと段階的に引き上げられることが決まったのはその民主党政権時代のことです。
これなど、「たとえ国民が望まない税制であっても、それをゴリ押しする力が財務省にはある」、という状況証拠のひとつでしょう。
社食の補助金は非常に複雑
ただ、こうした状況にも、ヒビが入り始めたようです。
ちょっと興味深いと思った話題のひとつが、これです。
社員食堂の実質値下げを支援 政府検討、企業補助増へ
―――2025/09/07 15:42付 Yahoo!ニュースより【共同通信配信】
共同通信が配信した記事によれば、政府が7日(※日曜日)、「社員食堂での食事代の実質的な値下げを後押しする税制改正を実施する検討に入った」のだそうです。
具体的な部署を明示せず、「~の検討に入った」とするこの手の報道は、日本のメディアの報道の透明性が低い証拠のひとつなのかもしれませんが(なぜそれが「日曜日に」行われているのか、わけがわかりませんが)、それ以上に興味深いのは、この「従業員の食事代補助」に関する制度です。
国税庁・タックスアンサー第2594番『食事を支給したとき』によると、会社が役員や使用人に食事を支給した場合、次の2つの要件をどちらも満たしていなければ、給与として課税されてしまう可能性がある、というのです。
- ①その役員や使用人が食事の価額の半分以上を負担していること
- ②下記金額が(消費税抜きで)1ヵ月3,500円以下であること
- (会社が提供した食事の価額)-(役員や使用人が負担している金額)
この①、②の要件をどちらも満たしていない場合、会社が支給した食事の価額から役員や使用人の負担している金額を控除した残額が、その役職員に対する給与として課税され、源泉徴収義務が発生します。
たとえば会社が従業員に対し、弁当を支給するなどした場合、業者に支払った弁当代から従業員本人負担分を引いた残額がその従業員に対する給与と認定されます。会社が従業員に1,500円の松花堂弁当を無償で提供したら、その1,500円が従業員に対する給与となってしまう、というわけです。
また、社食などで会社が作った食事を支給している場合には、「食事の材料費や調味料など食事を作るために直接かかった費用の合計額」がその給与の額として認定されます。
ちなみに「3,500円」は消費税抜きの金額で判定するのですが、8%なのか、10%なのかについては同じくタックスアンサーの『食事を支給したときの非課税限度額の判定』に従って判断する必要があり、正直、メチャクチャややこしいです。
村上ゆかり氏「こんな複雑な支援やめませんか?」
そして、共同通信の記事は、この「3,500円」という要件を緩和しようとするものですが、これについてはX(旧ツイッター)などでは、そもそも「こんな複雑な制度、やめませんか?」、という反応が生じているのです。
問題提起したのは、浜田聡・前参議院議員の公設秘書を務めた村上ゆかり氏です。
まったくの正論です。
そもそもこんな複雑な仕組みにすることの合理性がありません。シンプルに減税で良いのではないでしょうか。
あるいは、従業員に食事を提供したら給与になる、という仕組み自体を改め、たとえば会社が役職員に食事を提供したらそれを給与にするという扱いを改め、よっぽど非常識な額ではなく、社会通念上妥当な額であれば、基本的には通常の福利厚生費と認めるという扱いで良いのではないかと思います。
おかしな規定はまだまだある!
そして、こうした問題提起がなされるのは、大変に良いことです。
SNSの社会的影響力が高まっていることで、一般人の常識的な感覚において、税法の規定がおかしいという指摘の声が上がるようになった、ということでもあるからです。
あらゆる増税に反対する、といった声が上がっていることもさることながら、既存の「わけのわからない税法の規定」に対する違和感に、改めて焦点が当たることは、とても重要です。従業員の食費以外にも、著者自身が考える「おかしな規定」としては、たとえば次のようなものがあります。
- 株式配当金の益金不算入限度額(法人税)
- 一括償却資産の損金算入限度額(法人税)
- 交際費の損金算入上限制限規定(法人税)
- 一次所得と雑所得の控除額差異(所得税)
- 新聞に対する消費税の軽減税率(消費税)
- ガソリン税や酒税等の二重課税(消費税)
- 課税済み財産を相続で二重課税(相続税)
…。
ほかにもおかしな規定はたくさんあるのですが、いずれにせよ、まずは少しずつ、おかしな規定について声を揚げうことは重要です。そして、もっと重要なのが、それをSNSなどによって拡散することです。
結局のところ、財務省などを含めた官僚機構は、新聞、テレビを中心としたオールドメディアと非常に親和性が強かったのですが、こうした官僚機構の支配構造が、社会のSNS化によってオールドメディアごと粉砕されようとしているのです。
いずれにせよ、税(※社会保険料やNHK受信料、再エネ賦課金なども含む)は、憲法の規定上、法律で定めなければ課すことができないものであり、そして日本が民主主義国家である以上、ありとあらゆる税制は説明責任を伴います。
必要性ないし合理性が説明できない税法の規定はすべて廃止しなければなりません。
そして『減税必要性の挙証責任を転換せよ』でも指摘したとおり、減税が必要だと主張する側がその必要性を照明するのではなく、むしろ減税が必要ないと主張する側が、なぜ減税が必要ないのかを説明し、証明するのが筋でしょう。
社会のSNS化により、政治家は今まで以上に厳しく説明責任を問われます。
官僚の言うがままに増税を受け入れるような政治家は、有権者の票の力による制裁により議席と政治生命を失うべきですし、議席を得るのは有権者の負託に答えられるものに限られるべきであり、実際、近い将来にそうなると断じたいと思う次第です。
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1 2 次へ »国債の配当に対する所得税・住民税の課税。
お金を貸してくれた国民への返済のはずなのに、それに課税するって正気か?と思う。
日本は、80兆円アメリカに贈与することになリました。この原因は消費税の輸出還付金です。日本企業のアメリカへの輸出に対して日本政府から輸出企業に対して補助金が支払われています。これについてトランプが激怒なわけです。貿易赤字のアメリカに対して、日本は輸出補助金でアメリカの貿易赤字の拡大の原因を作っています。この結果、今回のトランプファンドへの80兆円の資金拠出を要求され、支払いに自民党が合意したという状況になってしまっています。
ちなみに、サラリーマンの場合、給与を会社から受け取りますが、会社が給与に10%を付加して、給与振り込み口座にお金を払うわけではないです。輸出企業がアメリカから消費税を払ってもらえないので、輸出還付金を受け取るように、サラリーマンも会社から消費税を払ってもらえないので、これまで支払った消費税を還付して欲しいところです。
年収の壁を、【物価スライド×1.5倍】くらいで各々改定すれば・・なんてね。
・・・・・
【隣の芝生は青い】
給与所得者だった頃は、「個人事業主は経費流用し放題!」だったのに、
個人事業主になったら、「給与所得控除には領収書不要!」と翻意した。
わけのわからない補助金を出せる程度には税金が余っているようですね。
勝手に一般財源にして、既成事実化したものを「守り抜く」とか言ってるし。
複雑であるほど設計者以外メンテしにくいのはプログラムと似てるかな、と思う。
ねじ曲がったプロ意識が一度作ったものの改変を拒む、というのも似てる。
否定されるのひどく嫌がるんだよね。
“しんぷるいずべすと” なんすけどねぇ
「細分化」することで『細かな利権』が氾濫しさらに縦割り細分化が捗るというスパイラル、煩雑になればなるほど官の権限も細分頭数が増えると
ソーシテ細分化した縦割り権限が現実の課題に対する官の責任分掌を現場レベルで曖昧にし無責任たらいまわし先送りの先例踏襲お役所仕事を連綿と…
ナンダカナア…
知らんけど
【格言】
役所は仕事に人を付けるー>仕事を複雑化すれば、人を増やせられる。
民間は人に仕事を付けるー>効率化すれば、仕事量を増やせられる。
現実的には、先例主義でしか動けないのでしょうが。
自動車税は廃止して固定資産税に一本化すべきでは?
現行自動車税は排気量基準ゆえ、「EVは排気量が不明で不公平だから、走行距離に応じた自動車税にしましょう」といったとんでも論が出てくるのです。
10万円で買った20年落ちの20万㌔走行の2000ccの車のオーナーは、300万円の軽自動車の新車をポン買いするオーナーよりもうーんと高い自動車税(割増を含む)を納付するって、何かおかしくないでしょうか。
昔は車体が大きいだけで排気量に関係なく自動車税が高かったんですよね。当時の輸入高級車狙い撃ち政策です。段階的になったとはいえ、未だに大排気量車の自動車税は高いまんまです。この贅沢税の考え方では、現在の小排気量+過給機で大出力の高級輸入車には贅沢税を課すことができません。
自動車税、いいかげん贅沢税の考え方は止めませんか。
排気量とは関係ない取得価額を基準として減価償却を認める固定資産税に一本化したほうが、EV車に対しても説得力があると思うのですが。
「(一緒に)やらないか」
匿名掲示板のゲイの有名なアスキーアートがありましたねw
”やらないか AA”でググると未だに閲覧できます。
ウホッ いい利権
税金の話で、昔ショックなニュースを読みました。
その人は町の中華屋さんで働いてました。
給料は高くありませんが店舗兼住宅の2階を無料で借りれたので生活は苦しくなかったのです。
店長も優しく働きやすく、ずっとここで働けたらと考えてました。
ある日、税務署から人がきて色々と話を聞かれました。
そこで、自分はとても良くしてもらってる事を嬉しそうに喋りました。
給料は安くとも2階をただで間借りさせて貰ってるので満足ですと。
しかし、税務署からするとこの無料の間借りが問題で 店が家賃を肩代わりしていると見做すとその給料の分これまでの税金を払ってくださいとの事。
店はギリギリのところで保ってたので、そんな税金を払えるはずもなく 店主は夜逃げして、その店は潰れて そのひとがうたうとき無職になり住むところを失いました。
税務署は法律通りにきっちり税金を取ろうとしました。
が、その結果店は潰れて失業者が増え、これまで貰えていた税金が入らなくなりました。
税金を取ろうとして税収が減る。
これって何が間違ってるのでしょうか?
その人がうたうとき
->その人は無職に
奥さんの家事労働をGDPにどうカウントするのか?みたいな話ですね。
専業主婦なら、ゼロ。
家政婦なら、主婦と同じ労働をしても対価発生。(GDPに算入)
事実婚なら、家政婦相当の対価が必要だ!と勝手にみなされて贈与税を課税されるのかな。
上空から宇宙人が観察していたとすれば、上記の三組の男女には何の差異もあらへんのですが。
(当たり前ですが法律の方がおかしいのですわ。)